2021年に放送されたTVアニメ「オッドタクシー」が、「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」として、2022年4月1日より全国劇場公開される。
本作は、2021年4月より放送され、かわいらしく擬人化された動物キャラたちによるミステリアスなドラマが話題となった「オッドタクシー」TVシリーズ全13話を再構成したうえ、TVシリーズでは描かれなかった衝撃のラストシーン以降を描く映画だ。
作中に数多く散りばめられた謎の考察がSNS上で盛り上がった本作だが、事件にかかわった人物たちによる証言という切り口で描かれる映画版は、果たしてどんな内容になっているのだろうか……?
気になることは山ほどあるが、今回は本作における重要人物たちである地下アイドルグループ「ミステリーキッス」のメンバーを演じる三森すずこさん(二階堂ルイ役)、小泉萌香さん(市村しほ役)、村上まなつさん(三矢ユキ役)の3名に、TVシリーズの思い出とともに映画版の魅力を語っていただいた。
ファンとほぼ同タイミングで知った映画版の発表
──「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」の制作を聞いた時の感想を教えてください。皆さんにはいつ頃伝えられたんでしょうか。
三森すずこ(以下、三森) 私は映画の制作が発表される(2021年末)ギリギリに聞きました。
小泉萌香(以下、小泉) いつだろう?
村上まなつ(以下、村上) Twitterの公式アカウントでカウントダウンがあったんですけど、一体なんのカウントダウンなんだろうと思いながら見ていました。
──ファンの人たちと近いタイミングで知ったんですね。
小泉 カウントダウンがはじまった頃ぐらいじゃないかな。
三森 たまたま現場で伊藤さん(ボニーキャニオンの伊藤裕史プロデューサー)に会ったときに「映画やるんでお願いしますね!」って言われて「ええっ!?」みたいな感じでした(笑)。
小泉 TVアニメは、2期を作るような構成じゃなかったじゃないですか。だから続きは難しいかな、でもその後が気になるなぁ……と思っていたら、まさか映画館で見られるということで。尺的にもTVシリーズの内容をぎゅっと凝縮した感じになっているので、一気に考察しながら見るのも楽しいだろうなと思いました。
三森すずこさん
──映画の中身については後程改めてうかがいたいと思います。まずTVシリーズやYouTubeのオーディオドラマを通じて、思い出に残っているシーン、印象的なポイントなどがあれば教えていただけますか?
小泉 オーディオドラマで存在が明かされている「幸せのボールペン」なんですけど、実はアニメの本編映像の中にも映りこんでいるんですよ。
三森 そうなんだよね。
小泉 オーディオドラマで今誰の手元にあるのとか、どう動いたのかを聴くと、本編でもペンのありかがわかるようになってるんですよ。アニメだけを見たときには私も全部見過ごしてるんです。オーディオドラマを見ると別の注目ポイントが生まれて、またアニメを見返してしまうのがすごい仕掛けだと思いました。
三森 私は各キャラクターの物語が、アニメの各話で解き明かされていくのがすごく面白いなと思っていて、その中でも斉藤壮馬くんが演じている田中がすごく印象的です。田中が「ズーデン」というアプリゲームのガチャにハマっていて、ドードーというレアキャラをどうしても引きたいと思うまでの生い立ちとかが、劇中で全部描かれているんですが、それを斉藤くんが全部ひとり語りで演じるのがすごく斬新だと思いました。私もルイちゃんとしてひとりで長く話す回があったんですけど、そうやってバックボーンがどんどん明らかになっていくのは面白かったです。
小泉萌香さん
──なかなかアニメで“ガチャの闇”とか描かれませんよね。
三森 そうなんですよ! それでやっとドードーのキャラクターを引いた瞬間に、小戸川のタクシーに驚いてスマホが飛んでいくという……ここで小戸川と物語が交わるのか! という感じが人生を見ているようでした。小戸川の側は何も気づいていない心のすれ違いとかも印象に残っています。
村上 私はオーディオドラマ第2.5話の「絶対絶対秘密だよ♡」がすごく印象に残ってます。ミステリーキッスが仲良くなろうと秘密の共有ゲームをするんです。(それぞれ誰が書いたかわからないように秘密と嘘を書いて共有するゲーム)
三森 面白かったよね。
小泉 うん。
村上 実は私たちの台本を読むと、誰がなんの嘘をついているか全部書いてあるんです。でもこの音源がYouTubeに出た時って、まだ物語の謎や情報が全然公開されてない時期だったんですね。それでファンの皆さんが嘘をついているのは一体誰なんだろうとか、考察で盛り上がってくれていたのがすごく印象に残ってます。そしてそれが物語が進むにつれて、これは誰が書いたカードで本当で……というのが確定していくんですね。物語が進むにつれて、元のオーディオドラマに深みが出てくるのがすごく面白かったです。
村上まなつさん
夢は、いつか3人でライブ歌唱を……
──ミステリーキッスのメンバーは、華やかな裏に重たい設定や秘密を抱えたキャラクターたちです。それは当初から明かされていたんですか?
三森 初回の収録までにシナリオを全部いただいていたので、大体のところは把握した状態で演じています。
村上 実は全部知ってました(笑)。
──ミステリーキッスはとても生々しい感じの地下アイドルユニットでもありました。皆さんは声優としてアイドルを演じたり、ユニットとして活動する経験も豊富だと思いますが、ミステリーキッスをどう見ていますか?
三森 闇が深い(笑)。
小泉 深いよね。
村上 タクシーで迎えに行くときにひとりずつ時間をずらして別々に行くのが衝撃でした。
三森 不仲説出ちゃうよね。
小泉 でもすごくがんばって仲良くしようとはしていて……。
三森 ビジネスライクな付き合いの中でね。ひとりひとりがコミュニケーション下手なんだと思います。かと思えば芸人さんとつきあっちゃったり。
小泉 こんなにドロドロしてるんだと思いましたが、女の子が集まるといろいろあるんでしょうね。みんなひとりで生きてきてるし。
村上 たしかに!
三森 生い立ちも違うし、わかりあえないんだろうなってことは薄々感じているんだと思います。
──ルイは芸人の馬場とつきあっていますが、声優としても本物の芸人さんの出演が多い作品です。馬場役のダイアン・津田さんと一緒に収録したのですか?
三森 それが収録は別だったんですよ。一緒に収録したことある?
村上 ないですね~。
三森 この前廊下ですれ違って初めて挨拶しました。私たちが先の収録だったので、津田さんこう来るかな?とか考えながら演じました。オーディオドラマのルイたんとババにゃんとかも、スタジオでひとり孤独に「バ~バにゃん」って言ってました(笑)。
村上 それは悲しい!
小泉 返ってこないのに(笑)。
──ミキ、ダイアンといった芸人さんたちの声の演技をどうご覧になっていますか?
三森 芸人の皆さんのお芝居が、いい感じのリアリティにつながっている気がします。
小泉 皆さんコントとか漫才とかの経験があるからかな。
村上 そうなんですよ、すごくお上手ですよね。
三森 間のとり方とかが絶妙な気がする。
小泉 なのにあんまり作ってない感じがするんだよね。
──グループの歌唱曲についてもうかがっていきます。「超常恋現象」や「波間にKISS」の楽曲やレコーディングの思い出、エピソードがあればお願いします。
三森 「超常恋現象」はなんかハモリがめちゃ高かったよね。
村上 そうなんです!
小泉 めっちゃ高かった! 飛んでいくかと思った。
三森 私、キーが出なくて、自分の声が出る音域を超えてて。
村上 裏声のさらに裏を出してる感じでした。
三森 ハモリとかも含めると、意外に複雑で深い構成になってるんですよ。
──そういう構成なんだけどボーカル自体は淡々と歌う感じで。
三森 そうなんですけど、淡々と歌いすぎるとのっぺりしちゃって、楽しい曲なのにもったいないので。メリハリをつけながら歌うことを意識しました。
村上 めちゃくちゃ中毒性高い曲なんですよね。作品で公開されるまでは、当然外に出しちゃいけないじゃないですか。だから気を抜いたときに鼻歌で歌ってしまわないようにすごく気をつけました。
小泉 我慢してたのね(笑)。
三森 私「波間にKISS」もめっちゃ好きで。
小泉 めっちゃいいですよね。
村上 (キメ気味に)──キッス。
小泉 キッス。
村上 実は私あの「キッス」の言い方は、三森さんが先に歌った音源をお手本に聴いてから歌いました。
小泉 私も!
三森 恥ずかしー。やめてよー。私が最初だったね。懐かしアイドルな感じでMVもいいよね。
小泉 あの映像はなんて言ったらいいんだろう。80年代風?
村上 ネオンがね。あの映像の中にも作品につながるヒントがあったりしてね。
三森 いろいろと細かいこだわりがあります。
──この3人で、三森さんの「シュガーレス・キッス」のミュージックビデオにも出演していますよね。収録の思い出はありますか?
村上 撮影は結構前ですよね。
三森 去年。もう1年以上はたったのかな? ただ「オッドタクシー」はTVアニメのプレスコ(※編注…先に声を収録して、その演技に絵を当てていくアニメーションの制作スタイル)自体がすごく早かったんですよ。だからアニメのプレスコからは1年ぐらいたっての撮影だったと思います。
小泉 アニメのアフレコの後半はコロナの影響が出はじめて別収録になったりした、それぐらいの時期ですね。
三森 だから久しぶりに3人で集まっての撮影でした。楽しかったよね、タクシーの中で適当にわちゃわちゃして。
小泉 私が一番面白かったのは、自分でスローモーションしたところ。
村上 あー!
小泉 観てるみんなには伝わってるのかな、映像加工じゃなくて私たちが自分でゆっくり動いてるんですよ。
村上 声も出してるから、声もゆっくり出しました(笑)。
三森 面白かったよね。
──ところで、現実で3人揃ってのライブ歌唱はないんですよね。
三森 私たち2人(三森さんと小泉さん)は「みもパ!」(2021年8月14日に開催されたイベント「みもパ!~夏休みだよ、全員集合!~」)で歌ったんですけど。
小泉 りっぴー(白川役の飯田里穂さん)と一緒にね。
村上 作品の中でもいろいろあって、せっかくミステリーキッスのメンバーの座を勝ち取ったのに!
小泉 なぜかイベントでは白川さんが歌ってるんだよね(笑)。
村上 あとでライブ映像だけ拝見して、あれ!?ってなりました(笑)。私はまだあきらめてないので、いつか一緒に歌えることを楽しみにしています!
──三森さんと小泉さんは「超常恋現象」のライブでの歌唱はいかがでしたか?
小泉 忙しい曲でしたね。
三森 忙しかったね~! お客さんはすごくノッてくれる曲なんですけど、私たちのボーカルはわりと単調に流れていくんですよ。同じ音の繰り返しで。ひたすら歌詞を読んでいくのに近い感じがあります。
小泉 リズミカルなお経を読んでいるような感じ。
三森 愉快なお経を噛まないように気をつけました。
──村上さんも次は一緒に歌いたいですね。
村上 歌いたいです!
小泉 しかもCDには普通のバージョンとライブバージョンがあって、ライブバージョンは100%(観客の)声出しありになっているので。声が出せるようになったら。
三森 みんなで一緒に歌いたいよね。
映画はエンドロールまでしっかり観てほしい
──「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」のアフレコを終えて、感想や印象をうかがえますか?
小泉 ええと、コンセプトは出てるんですよね。17人の証言があるという。
三森 だから結構みんなひとりずつ語っているシーンが多いんですよね。
小泉 なので、ほかの人がどういう風に演じているかあまり知らないんですよ。
村上 早く全体が見たいです。
三森 私達も通してみたらこういうことだったのかという気付きがあるかもしれないです。台本を見ると修正の数がすごくて、監督たちが最後の最後まで粘ったことが伝わってきました。
村上 たしかに。いろいろ変わってましたよね。
小泉 キャラクターたちの証言で構成していくつくりは、なかなかアニメでなかったんじゃないかなと思います。
村上 これは言っていいのかわからないんですけど……映画の最後の最後まで観てほしいです!
三森 そうだね!
村上 エンドロールまでちゃんと観てください。
小泉 観てほしい。エンドロールまで観てほしい!
──早めに席を立つと後悔するかもしれない。
小泉 エンドロールはじまったら映画館出る人いますよね、あれ「なんで」ってなります(笑)。
三森 電車が間に合わないのかなぁ。最後まで観てほしい。
村上 きっと最後まで観るかどうかで映画の印象が変わると思います。
小泉 TVシリーズのあとの展開も描かれるんだけど、これはね。
村上 劇場で楽しみにしてくださいということで。
三森 あとは小戸川さんと白川さんの関係がどうなるのかとかも気になりますね。
──最後に、映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
三森 アニメを観てくれた友達、それも普段あまりアニメを観ない人も含めた、会う人会う人に「オッドタクシー」見たよ、って言っていただけたのが嬉しかったです。しかもみんな、面白いから見てって周りにも広めてくれてたんです。きっとそうやって口コミで広がってきた作品で、これからもそうやって広がっていけばいいなと思います。まだTVシリーズを観れていない人も、この映画から観ても面白い作品になっていると思います。
最初、映画をやると聞いたときはどうやるんだろう、スピンオフとかやるのかなとかいろいろ考えたんですが、TVアニメを含めた「オッドタクシー」の世界をより掘り下げる映画になっているんじゃないかと思います。ぜひいろんな人に観てもらえたらなと思います。
小泉 TVアニメが始まった頃はたぶんまだそんなにたくさんの人が観ているわけではなかったのが、SNSとかで「『オッドタクシー』ヤバい」みたいな反応が広がっていって、途中から参加してくれた方も多い作品だと思うんです。Blu-ray Boxもたくさん買っていただけたんですよね。私たちの想像を超えるぐらい注目してくれた皆さんのおかげで、映画で「オッドタクシー」が公開されることになりました。本当に感謝しています。今回もたくさん考察しながら楽しんでほしいと思いますし、TVアニメを観ていなかった人がここから観ても楽しめる内容になっています。きっと映画も何回も観たくなっちゃうと思います! いろんな注目ポイントを探しながら観てください。
村上 この映画で“証言”がついたことで、アニメではさらっと描かれていたキャラクターたちの行動の理由や心理がわかったりして、より深く作品を知ってもらえると思います。逆に、映画を観てからTVシリーズを見返すと、「なるほど。この行動や描写はこういう意味だったんだ」とわかってすごく楽しめるんじゃないかなと思います。ぜひぜひどちらも繰り返して観ていただければと思います。ひとつのアニメの、その後の可能性が形になっていると思うので、ぜひ楽しみにしてください!
(取材・文:中里キリ)
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