1997年2月28日に発売された、プレイステーションを代表するカルトアドベンチャーゲーム「クーロンズ・ゲート」が、2022年2月28日にリリース25周年を迎えた。
これを記念して、特設サイトが2022年2月26日にオープン。「クーロンズ・ゲート」続編新作として制作が進んでいる「クーロンズリゾーム」用に、作曲家・蓜島邦明氏が書き下ろした新曲2曲の、スタジオライブが公開された。
今回のライブのテーマは「変化と進化」。このテーマに基づく新曲「鳴力(ミンリー)」と、「シンクロス~輻輳(ふくそう)~」を、蓜島氏は披露した。
アジアンゴシック、オリエンタルな世界観を反映した前作「クーロンズ・ゲート」とは一線を画し、時代、文化、世界観がより複雑に絡み合った2曲は、「クーロンズリゾーム」というゲームが、よりディープでカオスな世界観を描く作品になっていることを、容易に想像させるものとなっている。
スタジオライブの模様は、動画のリンクからご覧いただくとして、本稿では、収録が行われたプライベートスタジオの写真とあわせて、ライブ終了後の蓜島邦明氏(音楽担当)、木村央志氏(「クーロンズリゾーム」監督)の対談をお楽しみいただきたい。
全貌の見えない「クーロンズリゾーム」を、音楽を通じて垣間見る
──今回披露された曲について解説をお願いいたします。
蓜島 今日やった曲は僕が勝手に、曲の内容も知らせずに木村さんに送った曲で、木村さんはちゃんとタイトルまでつけてくれました。その後、真髄まで書いた批評をいただいたんですが、これが素晴らしくて、その通りだと納得しました。というわけで曲の解説は木村さんからやっていただけると嬉しいんですが。
木村 (笑)。最初の「鳴力(ミンリー)」という曲ですが、イントロが神秘的で、時空を超えてやってくる龍脈の感じをすごく受けたんです。「鳴力」って前作「クーロンズ・ゲート」の設定で、龍脈が来るときに双子が響き合う現象のことです。「クーロンズリゾーム」でもその設定は出てきて、今回、「宿命の双子」というキャラクターが存在するんですが、そこに龍脈がやってくるという感じを曲から受けました。
盛り上がりのある曲で、ゲーム後半に「いよいよ鳴力が来るぜ!」ってところで使いたいと思っています。
蓜島 作っている最中は鳴力とかのイメージは浮かべずに、とにかく儀式の曲を作ろうとしていたんです。最初は巫女の楽しい踊りみたいな感じで始まりつつ、徐々に異なる世界に入っていって、ついにオーケストラが出てきてすごく重たくなってくる。何かが来た、それは恐れ多いものだ。というのが後半の盛り上がりになっている、というものを作ってみたら、きちんとイメージを受け止めてくださいました。
木村 「クーロンズ・ゲート」の時もそうだったんですが、今回も特に打ち合わせはしてないんですよね。クリエイターに対しては何も言わないほうがいいかなと思っていまして、だからリテイクとかもなく。「あっ、こう来たか」というやりとりが楽しいですね。
蓜島 だから、きっとどこかでシンクロしてるんですよね。鳴力です。今日のライブではやらなかったんですが、「クーロンズリゾーム」では、ゲーム中にナチスドイツ軍も出てくるんですよね。それを知らないで、ヨーロッパの奥深い暗いところをイメージした曲を作ったんですが、その曲もナチスドイツ軍のシーンに合わせてくださっています。不思議です。思い立ったものがシンクロしているのです。
木村 今回はそもそも、「1701年プロイセン王立錬金術アカデミー設立」というヨーロッパ的な世界観から物語が始まっているんです。
蓜島 それに長野県も出てくるんですよね。すごいですよね。一体どんな内容になっているのか、自分にもまったく情報がないんですよ。
──「クーロンズリゾーム」というタイトルを聞くと、前作同様のアジアンゴシックなイメージが浮かぶんですが……。
木村 今回は邪悪な思念が世界中に蔓延するという感じで、それならなんでも行けるかなと思って、現在の形になりました。
──そして2曲目「シンクロス~輻輳(ふくそう)~」はいかがでしょうか?
木村 ネットワークが混乱して、クーロネットなどインターネット的なものをいろいろとつないでしまいます。そこに悪い奴が乗っかってくるという感じで、「シンクロス」というタイトルをつけました。これは造語です。「輻輳」というサブタイトルがついているのですが、これは楽曲に電子的な印象があるところからつけました。すごく調律的なんだけど、どこかに不安感がある。
蓜島 今回の収録では、木村さんが感じた不安感をどこに持っていくか考えました。今回のバージョンは、以前木村さんに渡した音源とは違うところに不安感を置いているんです。もしかすると、今回のバージョンのほうがゲームで使ったら面白いかもしれない。
この曲を作った時は電子的なものっていう考えはなく、やっぱこういう曲もないとなと思って作ったんです。入ってくる旋律は中華風なんです。そこが、「クーロンズ・ゲート」から音楽が逃れていないところだと言えます。
木村 伸びやかな感じがあるんだけど、どこかに危うさがあるところがすごくいいですね。ネットワークの世界もそうじゃないですか。安心して使っていると、いつの間にか誹謗中傷されてたり、不安と紙一重になっている。
プラットホームはSteamで、世界中のゲームファンに届けたい
──ライブの解説ありがとうございました。ここから、ゲーム本編についてうかがっていきたいのですが、「クーロンズリゾーム」の進捗は今、どんな感じでしょうか?
木村 ありがたいことに、一昨年のクラウドファンディングで多くの方に支援していただき、ひとまず試作版を制作いたしました。
──今回はリアルタイムで街を歩き回るスタイルになっていて、驚いたファンもいたかと思います。
木村 今どき、あの(「クーロンズ・ゲート」のような)ムービーダンジョンって逆に難しいんですよね。当時、プレイステーションのゲーム開発にあたり、ムービー、音声、ポリゴンという3つのお題が会社から与えられていたんです。ソニーグループとしてはプレイステーションらしいゲームにしなきゃいけないという縛りがあったので、それでムービーでダンジョンを歩き回るものにしたんです。対して今回はアセット(3DCGを制作する際に使用する素材データ集)を使って少人数で作っています。たまたまた九龍城のアセットを見つけて、これすげえやって今回それを取り入れています。
グラフィックは、前の会社で一緒だった中国人のスタッフにお願いしています。肩書きはテクニカルアーティストと言いますか。今回使っているゲームエンジンのUnityって、エンジニアだけじゃだめだし、アーティストでもだめで、どちらもできないといけない。なかなかそういう立ち位置の人っていないんですけど、ちょうどいい人材に出会えました。
──シナリオはもう完成しているのでしょうか?
木村 シナリオは一昨年に初稿を上げて、そこから仕様を切り出していっています。その後、ランサーズでマッチングした開発会社さんにお願いしてシステムを作ってもらっているところです。システム開発は6~7割ほど完成しています。
キャラクターの顔グラフィックも、AIが写真や顔パーツの素材を組み合わせて顔を作れるというオンラインのサービスがありまして、これがまた面白いんです。どんどんいじって顔を作っていくと、いい感じの路人ができてくるんです。
──ランサーズやアセット、オンラインサービスの使用など、非常に今っぽいと言えば今っぽい作り方ですね。「クーロンズ・ゲート」は、まさに1990年代半ばのネット世界の未来図を描いていたのですが、「クーロンズリゾーム」は2022年のネットワークのサービスと未来図を取り入れている。扱っている技術や表現は変わっているけど、本質的なものは前作も今作も変わっていないと思います。
木村 自分の機能が、ネット上でどんどん拡張されていく感じがあります。ゲームの中身の話をすると、今回のネットワーク描写はメタバース的なものになっていますが、ゲームが出るころにはまた新しいものがネットから生まれているかもしれないですね。
──プラットホームは何になりますか?
木村 プラットホームはSteamを考えています。思ったよりもPS5が売れてないとか、Switchのスペックだとゲームが動かないという事情もあって、Steamから出そうと。
──Steamだと世界中にユーザーがいるので、これまで「クーロンズ・ゲート」に接したことのない人も「クーロンズリゾーム」にアクセスしやすくなると思います。
木村 ただ翻訳が大変なんですけどね(笑)。「クーロンズ・ゲート」の時も英語に翻訳したものを作ったことがあるんです。宗じいさんっていたでしょ。そのキャラが「弟のわしじゃ!」というセリフを言うんですが、それを英語で言ったら「I’m brother!」って言って兄か弟がよくわからないみたいな感じになって、あのニュアンスを翻訳で再現するのは難しいなと感じています。
蓜島 今回の「クーロンズリゾーム」もそうなんですが、「クーロンズ」の世界観やキャラクターって、ほかのゲームにはない魅力ですよ。今、世界的にはやってるゲームって殺し合いのゲームばっかりじゃないですか。やることはだいたい決まっちゃってる中で、「クーロンズ」って独特なニュアンスがある。それが今度は世界中で遊んでもらえるようにあるなるのは、すごくいいことですね。
──リリース時期はいつ頃になりそうでしょうか?
木村 来年度ですね。2023年3月までにはSteam版の早期アクセス版をリリースしたいと思っています。
──正直、「クーロンズ・ゲート」を楽しみに待っていた自分としては、多少待たされても全然平気だったりします(笑)。
木村 すでに25万字のテキストを書いちゃって、それをどうやって載っけようかと頭を悩ませています(笑)。
最終的に「クーロンズリゾーム」はクリエイティブコモンズ(著作物の適正な再利用を可能にするライセンス)にしようと思ってるんです。アニメにするなり漫画にするゲームにするなり小説にするなり、皆さんに自由にしてもらおうと思っています。
──「クトゥルフ神話」のような展開ですね。
木村 そうです。
ただ傍観するのではなく、ファンにも一枚かんでもらいたい
──「クーロンズ・ゲート」は今年で25周年。リリースから四半世紀経ちました。
蓜島 おじいちゃんになっちゃったね。
木村(笑)。
蓜島 25年保ったというのがすごいですよね。「クーロンズ・ゲート」って歴史に残るゲームだと思います。独創性だけなら世界でトップレベルですよね。そのDNAを引き継いで、木村さんは「クーロンズリゾーム」という全く新しいものを作り始めているじゃないですか。これはまた楽しみですよね。
木村 世界三大奇ゲーのひとつと言われていますよね。「クーロンズ」と「バロック」と「ガラージュ」。
──3DCGで新しいゲーム表現を模索した時代の象徴ですね。
蓜島 コンピューターの性能が上がって、すごいものが作れるようになったから一挙に才能が爆発したんですよ。あの時代はまさにゲームのルネッサンスだったんです。その頃のゲームが今も続いて、みんな楽しんでるんだからね。「リゾーム」も楽しみですね。
今年は発売25周年だから、「クーロンズ・ゲート」と「リゾーム」を繋ぐイベントをやれたらいいですよね。
──今回、クラウドファンディングでファンの出資を募ったり、進捗を支援者に報告しながらという、可視化された制作スタイルをとっています。
木村 ファンの皆さんに、共犯者になってもらうということです。ただ傍観するのではなく、あなたも一枚かんでるんですよというほうが、ファンのマインドを醸成できると考えています。前作から25年も経っていますから、いろんな方がいるとは思うのですが、2014年にお台場で「みんなでおはじめ式」という初のファンイベントをやった時に、発売された後からハマったという方がけっこう来てくれたんです。ただ「クーロンズ・ゲート」発売当時、僕はそういう人たちにリーチする術を持っていなかった。リーチもしてなかったわけで、そこにどう届けるか考えた時に、共犯者になってもらおうと思ったのです。もう少し能動的に「クーロンズ」に参加したいという方もいたので、そういうことがあっていいのかなと。
もうひとつ、クラウドファンディングの返礼品を発送する時にわかったんですが、東京・首都圏のファンの比率が全体の半分以下だったんです。23区に限ると10%台しかいない。日本の地方にファンが散らばっていることがわかったんです。
だから東京で何かイベントをやろうと思っても、なかなか彼らが参加するのが難しい。逆にツイッターなどのSNSやネット上のほうがアクセスしやすい気がしたんです。
──ネットワークで時間も距離も超えてつながっているのも、非常に「クーロンズ」らしいですよね。最後に、木村さんとしては25周年イヤーをどういう1年にしたいと思いますか?
木村 2022年2月28日に「クーロンズ・ゲート」は25周年を迎えます。25年間、僕はずっとゲームデザイン、シナリオの仕事をしているので進化はしているんですが、ユーザーから見たら変化かもしれないですね。ということで、いろんなギャップはあるかもしれないので、そこをうまいこと埋めていく、次につなげていける1年になればいいなと思っています。
──楽しみにしています!
なお特設サイトでは、木村央志氏による楽曲解説のほか、25年の「変化と進化」をテーマに据えた木村氏と蓜島氏の対談インタビューも掲載されている。
こちらもお見逃しなく!