女性のみで構成される「紅華歌劇団」に入団するため、紅華歌劇音楽学校で歌とお芝居を勉強する少女たち。未来のスターを夢見る、厳しくも華やかな青春を描いて話題の「かげきしょうじょ!!」から、劇中音楽(劇伴)や挿入歌などを収録した2枚組の音楽集がリリースされる。
作詞・作曲・編曲を手がけるのは、宝塚歌劇団宙組公演「激情」などを手がけてきた作曲家・斉藤恒芳。アニメ作品の劇伴も多く担当しており、舞台とアニメ両方をよく知る、これ以上ない人選だ。
また、音楽集に先駆けて、2021年8月25日にはエンディングテーマ集が発売された。今回のインタビューでは、まず先行したエンディングテーマ集について、そして、本題の音楽集について、たっぷりと語ってもらった!
エンディングテーマは、歌劇団のスターになったイメージで歌ってもらいました
── 「かげきしょうじょ!!」は王道の青春アニメでありつつ、普通に生きていたらなかなか体験できないことが描かれている作品ですね。
斉藤 たしかに特殊な世界観ではありますが、登場人物たちが感じることや考えたりすることが等身大で、普通の10代と同じように生きているので、視聴者の方も共感できる作品になっていると思います。
── この作品の音楽を担当されることになった経緯を、まずは教えていただけますか?
斉藤 キングレコードさんのアニメ作品は今までもいくつか音楽を担当させていただいていて、さらに僕の仕事の半分が宝塚歌劇団などの舞台の音楽なんですね。アニメと舞台の両方を知っている作曲家として、声をかけていただいたんだと思います。
── アニメのライターとして、「蒼穹のファフナー」シリーズを筆頭に斉藤さんのお名前は存じ上げていたのですが、改めて経歴を拝見すると、宝塚歌劇団のお仕事をこんなにたくさん手がけられていたんだと思いました。
斉藤 宝塚で僕の曲を好きになってくれる方も多くて、そういう方は逆にアニメの僕の仕事は知らないんです。それほど接点がない世界だったんですけど、「かげきしょうじょ!!」では初めて両者がつながりました。宝塚のファンの方が「かげきしょうじょ!!」を見たとき、音楽に違和感がないようにすることと、アニメーションの音楽としてしっかり成立することをどう両立させるか、そのさじ加減が今回の音楽でもっとも気を配ったところです。たとえば「星の旅人」に代表される各話のエンディングテーマは、そこまで宝塚らしさを意識した曲ではないんですけど、女性声優さんが高い声と低い声に分かれて歌うことで、男役・娘役という雰囲気が伝わるようになっています。
── さらさと愛を筆頭に、どの組み合わせも2人の声の違いが、よくわかります。
斉藤 低い声のほうの声優さんには、男性的な声を無理に出していただいているわけではないんです。女性が男性らしい声を出そうとすると、声帯を意識して開かなくてはいけなくて、感情を乗せるのが難しくなるんですね。でも、もうひとりが高い声で歌っていることで相対的な効果が生まれて、自然に男役の声に聞こえてくるというか、視聴者のみなさんの想像力で補完していただけるようになっているんじゃないかと思います。
── たしかに僕らファンが、登場人物たちが男役・娘役としてデュエットしている姿を想像しながら、エンディングテーマを聴いているという部分はあると思います。しかも、どの声優さんも、キャラクターの普段の声ではなく芝居をしているときの声で歌っているんですよね。まさに歌劇団というボーカルで、すごいなと思いました。
斉藤 みなさん上手ですよね。レコーディングブースは狭いんですけど、「あなたは今、2000人の観客を前にして、スポットライトに当たっています」と言葉を投げかけると役になりきってくれましたし、目の前のマイクではなく、その先にいる見えない観客に向けて歌ってほしいと言うと声の響かせ方も変わってくるんです。逆に「影コーラス」という、ステージの裏で歌っていて、姿は見えないけれども舞台の空気感を支配しているのはあなた、というようなイメージを伝えると、欲しかった歌声が出てきて、さすが声優さん、と思いました。アフレコの限られた時間の中で音響監督の要求にすぐに応えるという仕事を、毎日のようにしている人たちだからこそできるのだと思いました。
── 「かげきしょうじょ!!」にはたくさんの見どころがあるんですけど、エンディングテーマでの声優さんの歌声にはまっ先に驚かされました。紅華歌劇音楽学校で学んだ成果が出ているというか、第2話からエンディングテーマだけは先の時間を行っているような気がしました。
斉藤 実は今も同席している諏訪プロデューサー(キングレコード・諏訪豊氏)から、「物語の現時点でのさらさたちが歌っているのではなく、学校を卒業して紅華の舞台に立っている彼女たちの完成形をエンディングテーマでは出してほしい」という指示が最初にあったんです。「舞台上でスポットが当たっているイメージで」というのもそこから来ていて、エンディングテーマのみんなはスターになっているという設定です。
── それでなおさら堂々とした歌声になっているんですね。今のお話はすごく納得できました。
斉藤 「かげきしょうじょ!!」の世界観が音楽で一番強く出ているのは、劇伴よりもエンディングテーマという気がします。渡辺さらさ役の千本木(彩花)さんと奈良田愛役の花守(ゆみり)さんが最初に歌ってくれた「星の旅人」が本当によくて、あの曲だけで「かげきしょうじょ!!」の世界が表現できたと思いました。最後に歌劇団らしいエンディングテーマが流れることで、本編で辛い思いをしていたとしても、未来には必ず舞台に行き着くことができる子たちなんだなと感じていただけると思います。
── たしかに、エンディングテーマでホッとさせられたような気がしました。今はいろいろあるけれども、みんな大成するんだって。
斉藤 僕も自分で音楽を作っていながら、オンエアを見ていてエンディングが来ると、ホッとするんです(笑)。
諏訪 実はエンディングテーマは、一度完成してから斉藤さんにイントロを追加していただいたという経緯があります。
斉藤 オンエアに1.5秒足りないと言われて(笑)。それで頭にドゥルルルルという駆け上がりの音を入れたんです。そのおかげでドラマチックさが増した気がしました。
── エンディングテーマは、「星の旅人」「シナヤカナミライ」「薔薇と私」と同じメロディで歌詞が違う3曲なんですよね。しかもすべて斉藤さんの作詞です。なぜ、こういう形になったのでしょうか?
斉藤 エンディングテーマを作曲した段階で誰が歌詞を書くんだろうと思っていたら、諏訪プロデューサーから僕だと指名されて、驚きました(笑)。しかも歌うキャラクターに合わせて、歌詞を変えてほしいと。それで3つの組み合わせで歌詞を書いていたら、1曲ごとに世界観が変わるので、タイトルも変えざるを得なくなって。今までにない発想のエンディングテーマになったと思います。
── さらさと愛の「星の旅人」、杉本紗和(CV:上坂すみれ)と山田彩子(CV:佐々木李子)の「シナヤカナミライ」、そして星野薫(CV:大地葉)、沢田千夏(CV:松田利冴)、千秋(CV:松田颯水)の「薔薇と私」と、それぞれのキャラクター性が表現された歌詞になっていると思いました。同じメロディでも、これだけ雰囲気が変わるんだなと。
斉藤 役者さんのボーカルも、もちろん大きく関わっています。本当に個性あふれる歌い方をしてくれたので。YouTubeにそれぞれのノンテロップエンディングがアップされているんですけど、ファンのみなさんの書き込みが面白かったですね。
── 上坂さんはキングレコードでアーティスト活動もされていますが、そのときの歌い方と全然違って、すごいなと思いました。
斉藤 僕も彼女の今までの音源を聴いて、どういうふうに「シナヤカナミライ」を歌ってくれるのかイメージしたんですけど、男役らしくいい意味で野蛮な声で歌ってくれて、レコーディング現場でうならされました。
── デュエット相手の佐々木さんも、予科生の中でも歌が上手い山田さんの歌声を見事に表現されていましたし、どの方も素晴らしかったです。
斉藤 みなさん、モチベーションが高くて熱いレコーディングになりました。アニソンやキャラソンはほかにもやらせていただいているんですけど、あれほど強い感じで歌に臨む役者さんの姿は、今まで見たことはなかったのでびっくりしましたし、同じメロディの3曲にまったく違う世界観を持たせてくれたので、すごく助かりましたね。