当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。2021年5月号では、個性豊かな“声優ユニット”を切り口に、4枚のシングル作品を紹介していきたい。
◆芹澤優 with DJ KOO & MOTSU シングル「EVERYBODY! EVERYBODY!/YOU YOU YOU」(5月19日発売)
今月号で特に紹介したかったのが、業界屈指の“陽キャ”たちが新たに結成したスペシャルユニットによるTVアニメ「異世界魔王と召喚少女と奴隷魔術Ω」オープニング/エンディングテーマだ。
楽曲に込められた「リスナー全員を“ブチ上げる”」という強靭な意志は、もはや社風といえるのか。芹澤優さんらの所属レーベルにからめて、“avexの新たな社歌”と謳われても遜色がない楽曲が「EVERYBODY! EVERYBODY!」だ。往年の”avex”サウンドを彷彿させるゴージャスなシンセループに心が躍動する、明度の高いダンスチューンだ。楽曲構成を見ても、サビのように軽快な歌い出しのAメロに始まり、ラップパートを挟みつつ、穏やかなテンポ感のBメロから一気にサビへと運ぶなど、まさにavexが長年にわたり築き上げてきた楽曲のマナーを感じられる。
それでいて、Bメロではトラックの細部や、MOTSUさんのラップのフロウを近年の流行であるトラップ調にするなど、“懐かしいけど新しい”という印象を与える技術がまた巧み。何より、芹澤さんの屈託なくキャロっとした歌声の質感は、アニソンが普及した現在だからこそ味わえる代替不可なパーツといえる。ベテランの才能に物怖じすることなく、伸び伸びと表現を楽しむアーティストとしての姿勢も、さすがは“セリコイズナンバーワン”を自称するだけはある。
また「YOU YOU YOU」は、恋心ゆえに嫉妬してしまう男の子と、そんな姿を見て愛らしく思う女の子の想いを描いたエレクトロポップチューンだ。芹澤さん自身が愛してやまないという、田村ゆかりさんとMOTSUさんによる名曲「You & Me」へのアンサーソングとも受け取れるような内容に仕上がっている。
◆DiverDiva 2ndシングル「THE SECRET NiGHT」
続いては「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」より、“ユニット内ユニット”の楽曲を紹介したい。
朝香果林(CV:久保田未夢さん)と宮下愛(CV:村上奈津実さん)によるDiverDivaは、これまでに「Love Triangle」などの名曲を生み出している期待の2人組。新曲「THE SECRET NiGHT」も、バブリーなサウンドは前作までの力強いK-POP調を基軸に、彼女たちらしい少し高飛車目線な歌詞が重なった1曲に。もはや定番となった宮下愛のラップと、朝香果林の恍惚を誘う大人びた歌声が魅惑的な雰囲気を醸し出しており、そのサウンドに「ラブライブ!」に登場したユニット・A-RISEの影を感じるのは筆者だけだろうか。
カップリング曲「Fly into the sky」は、ドリーミーな雰囲気のある小洒落たフューチャーポップ。作編曲を務めたEm.me氏は、TVアニメ劇中歌「Butterfly」にて、鬼頭明里さん(近江彼方役)とフューチャーベースの間にある無限の可能性を引き出し、一躍話題となったクリエイターだ。その素性はまだ明かされぬままだが、今回の楽曲を聴いてますますただ者でないことをうかがい知ることができる。
◆Photon Maiden 2ndシングル「Be with the world」(5月19日発売)
「D4DJ」からは、Photon Maidenの新作をピックアップ。表題曲は、彼女たちの作品ではおなじみとなった佐高陵平氏がプロデュースしている。
Photon Maidenといえば、かねてよりフューチャーベースを開拓してきたユニットという印象があるが、今回は2010年代に流行したビッグルーム~プログレッシブハウスに挑戦。ノイズを含んだ重厚感あるシンセリードを特徴とした、EDMと聞いてまずイメージされる類のサウンドだ。
そのうえで、カントリータッチなアコースティックギターの旋律を交えたりして、1stシングル収録曲「A lot of life」に通ずる、The Chainsmokersに接近するような感性を抱いている。”宇宙”をテーマに、アッパーながらもどこか神秘的な楽曲を制作し続けてきた彼女たちにとって、この楽曲のようなサウンドとの遭遇は必然だったのかもしれない。
そして、あのラスマス・フェイバー氏がついに「D4DJ」にも降臨! 中島愛さん「TRY UNITE!」や内田真礼さん「aventure bleu」などを手がけたことで知られるスウェーデン出身の音楽プロデューサーだが、そんな彼が参加した今回の楽曲「Wonder Wonder Trip」は、“世界旅行”をテーマにした楽曲となっている。Photon Maidenがガールズトークを楽しむような、キュートであどけなさのあるコーラスなども披露しているほか、まるで水面をそっとなでるように清涼感あるシンセサイザーや、そこに重なるドラムンベースのビートなど、ラスマス氏らしさを存分に堪能できる名曲となっている。
「D4DJ」も来るところまで来たな……。
◆Run Girls, Run! 8thシングル「ドリーミング☆チャンネル!」(5月19日発売)
表題曲は、TVアニメ「キラッとプリ☆チャン」オープニングテーマに起用。同アニメでは、Run Girls, Run!が過去3年間にわたりオープニングテーマを歌唱してきたが、2021年5月30日をもって最終話を迎えることに。そんなシリーズ集大成の1曲として、今回の「ドリーミング☆チャンネル!」は、彼女たちと同作の出会いの曲「キラッとスタート」への原点回帰を目指した、王道アイドルソングといえるギターロックに仕上がっている。
歌詞の面では特に、〈やってみたら? 夢は終わらない!〉というワンフレーズに、物語のフィナーレを迎える今だからこそ帯びるような、エモーショナル性を感じてしまう。それはまるで、“ゴールは新たなスタートラインに立つ瞬間”であると聴く人を強く鼓舞するように、明るい未来への希望を掲げるようだ。
そして、Wake Up, Girls!の妹分として結成されたRun Girls, Run!だが、まだ3人の経験値は上昇中であると、楽曲が彼女たち自身に対してもエールを送っているように思える。どれほど涙を誘えば気が済むのだろうか。
カップリング曲「無限大ランナー」については、下記インタビューを参照してほしいが、メンバーの林鼓子さんは同曲について、「私たちの最初の曲でもある『カケル×カケル』で、〈追いかけたいんだ〉と歌っていた私たちが、追いかけて、追いついて、ようやく立ち向かうところまで来たような感じがして」とさえ語っていた(参照:3年間の「プリ☆チャン」曲の集大成!「キラッとプリ☆チャン」新OPテーマ「ドリーミング☆チャンネル!」CDリリース記念、Run Girls, Run!インタビュー)。シングル全体を通して、これからも成長を重ねるために、大切な過去を振り返ろうとする……そんな記念碑的な1枚である。
(文/一条皓太)