少し肌寒さが残る春の訪れとともに、新生活を始めた読者もいるだろうか。「月刊声優アーティスト速報」2021年4月号では、ちょうど今月にデビューを果たす、あるいはデビューからまだ間もない期待のアーティスト全5組をピックアップ。“はじまりの季節”にぴったりな音楽をまといながら、ゴールデンウイークの時間を少しでも豊かにしていただきたい。
◆愛美 シングル「ReSTARTING!!」(4月7日発売)
2011年春に声優アーティストとしてデビューを果たし、これまでにシングル5枚とアルバム1枚を発表している愛美さん。新シングル「ReSTARTING!!」は、前作から約8年の時を経てリリースされた、彼女の音楽が“再び”鳴り始める宣誓の1枚である。
そんな愛美さんは、本作で全収録曲の作詞を担当。自身の音楽が誰かの支えになってほしいとの願いから、ネガティブで弱気に思える心の奥底の感情までをありのままに綴ったという。 過去には冠番組「愛美のPerfect Woman」で、“闇ポエム”と称したシニカルでダークな一面を披露したり、佐々木未来さん・伊藤彩沙さんとの親友YouTuberユニット「チームY」の活動内でも、その視野の広さから他人に気を配ったりする場面が多いため、このメンバーで過ごす時間くらいは気を張らず、自分たちを頼ってほしいと説かれていた。たしかに以前より、ひとりの人間として等身大で、変にタレントらしくない彼女を見る機会も多くなった気がする。
そうした方向性が特に表れたのが、孤独な夜に“救難信号”を鳴らすシリアスなピアノロック「MAYDAY」や、センチメンタルなサウンドのロックチューンで、大切な人に強がった末の失恋を歌う「ラブレター」のカップリング曲。そして、それらと同質ではないにせよ、愛美さんが自身の胸にある不安や迷いを乗り越えていく楽曲こそ、表題曲「ReSTARTING!!」だ。〈ねぇやっぱり わからずやでいいやもう またはじめよう〉というサビ直前のワンフレーズからは、彼女の音楽を愛する強いキモチが衝動的に奮い立つ様子を明確に想像させられる。その想いに呼応するように、サビ以降のトラックがドライブ感を増していくのも爽快だ。
また「ReSTARTING!!」のボーカル面では、基本的に地声に近い凛々しいタッチで歌唱しており、途中にはハスキーなアプローチを交え、陰を感じる印象を与える場面も(この歌唱法はチームYとしてYOASOBI「夜に駆ける」をカバーした際にも取り入れていた)。また、以前の音楽活動から時間を置き、声優としても経験を重ねたことで、自身の中で歌声の特徴を相対化・分析したのかもしれない。デビュー当時こそ、彼女のストイックな一面が歌声に表れていたが、現在はそれがいい意味で落ち着き、歌詞により説得力を持たせ、時に歌詞以上の雄弁さを備えていると思う。
以上のような歌詞・歌声の特徴をまとめるに、今回のシングルは愛美さんが“自己認識”に長けた人物だと改めて考えさせられる1枚だった。余談だが、チームYの動画では、“愛美評論家”の「愛美さん」が表題曲の制作背景やMV撮影の裏側を語るシーンも。彼女は愛美さんとはまた別人とのことだが、本人以外は知り得ないだろう細かな情報も語られているため、こちらも要チェックだ。
◆Liella! デビューシングル「始まりは君の空」(4月7日発売)
メディアミックスコンテンツ「ラブライブ!スーパースター!!」より、2020年春に結成された5人組ユニット「Liella!」。ユニット名は、学校名の“結ヶ丘”を意味する“lier”(=繋ぐ・結ぶ)と、“brillante”(=内面的な輝き)からなる造語であり、メンバーが内に秘めた輝きを星のように結びあわせ、スーパースターになってほしいという願いから名付けられたという。表題曲の2コーラス目で登場する〈星の光よりも小さな輝きだけど/いつか大きくなる気がして〉というフレーズは、その象徴と言えるだろう。
また、サビの躍動感あふれるドラムは、本楽曲を語るうえで大切なポイントだ。普通であれば、2ループ目同様に8ビートを刻めばいいところを、あえて始まりの数字である“1”コーラス目の“1”ループのみをドラムロールにすることで、“始まり”への期待感を盛り立てるように演出したのかもしれない。ただ、やたらと心に引っかかるフレーズである。
そこから2コーラス目を終えた後、そんな引っかかりを伏線として回収するかのように、落ちサビで同様のフレーズを再び挿入。ここでは壮麗なサウンドが、彼女たちがいつか見る満天の星空や、大サビへの流れを通して、挫けそうな夜を“手を繋いで”乗り越えていく未来を描いたのか。
さらに、1コーラス目ではギターが前面に出ていたいっぽう、落ちサビではピアノ・ストリングス・ドラムに音数を絞っており、前者をこれまでの「ラブライブ!」楽曲らしいロックサウンドととらえれば、後者はそこからオリジナル性をもって羽ばたくような意志を示すフレーズにも感じられる。ドラムひとつを取っても、非常に想像に奥行きの余地を持たせた楽曲だ(ちなみに演奏は、トリッキーでテクニカルな星野源さん「創造」の演奏も担当している玉田豊夢さんによるものである)。
そのほか、ブラスがスウィングするカップリング曲「Dreaming Energy」など、全体的にバンドサウンドで統一されていた本シングル。過去の「ラブライブ!」と比較しても、ここまでバンドサウンドだけをピュアに押し出した例は初めてだろう。スクールアイドルらしい若さあふれる快活さや、ユニット名に関する星座や夜空などのトピックと相性がよいロマンチックさなど、Liella!が今後、どのような表情を見せてくれるのか非常に楽しみだ。
◆近藤玲奈 デビューシングル「桜舞い散る夜に」(4月14日)
TVアニメ「スロウスタート」一之瀬花名役や、「ホリミヤ」河野桜役などで知られる近藤玲奈さん。デビューシングル「桜舞い散る夜に」は、彼女のシンガー/声優としての両側面における高い素質を担保するような1枚だった。
表題曲は、TVアニメ「バトルアスリーテス大運動会 ReSTART!」エンディングテーマに起用。“夜桜”をテーマにしたポップスナンバーで、大切な人を失った寂しさと、それでも前を向いて歩こうとする意志を歌った1曲だ。歌唱面については、近藤さんの歌声がまるでシルクのように継ぎ目のないスムーズな印象で、トラックの上でのびのびと広がる様子に、シンガーとしての今後の期待感を高められる。
カップリング曲「Listen~真夜中の虹」は、オーケストラ調のミュージカル楽曲に。ストーリーテリング的な楽曲構成を取り入れており、サビに向けてグラデーション的に歌声の勇ましさが増していく。おそらく、ディズニー好きで知られる彼女だからこそ、こうした楽曲の歌唱術を高い解像度で解釈できたのだろう。声優としての“演じ分け”によって、「桜舞い散る夜に」から大きく逆サイドに振るような、まったく異なる歌声を放っている。
◆諏訪ななか 1stシングル「コバルトの鼓動」(4月21日発売)
表題曲は、TVアニメ「バトルアスリーテス大運動会 ReSTART!」オープニングテーマに起用。プロデュースはOSTER projectさんによるもので、本人いわく「スゴヤバソング」ができあがったという(参考:OSTER project 公式Twitter)。たしかに、近年はaikoさんのアレンジャーを務め、「ストロー」「あたしの向こう」などを手掛けるOSTER projectさんらしく、ジャズテイストのピアノが軽快に旋律を奏でる、ハツラツとしたギターポップに仕上がっていた。
ちなみに、諏訪さん自身は過去の提供曲と比較して「「コバルトの鼓動」のような曲調のほうが、むしろOSTER projectさんらしさが出ていると教えていただきました」と驚いていたようだ(参考:【インタビュー】諏訪ななかが、初のアニメ主題歌を担当。スタートラインに立つ気持ちを爽やかに歌った「コバルトの鼓動」)。
実際に、1番の間奏から2番Aメロまでは、変則的なドラムを中心とするアレンジの手数の多さにうならされ、大サビの部分ではボーカルとギターが同じメロディ進行を辿り、瞬発的に楽曲の盛り上がりを最頂点へと運んでいく。やたらと存在感の強いトラックだが、そこに諏訪さんの明度に秀でた歌声が重ねても、楽曲としてうまくまとまるサウンド構成力に驚かされるばかりである。
カップリング曲「突風スパークル」は、miccoさん、菊池達也さんというmarbleの2人がプロデュース。marbleといえば、諏訪さんが声優を志すきっかけとなった「ひだまりスケッチ」シリーズの楽曲を手がけたことで有名なオーガニックポップユニットだ。今回の楽曲も、彼ららしいノスタルジックなギターポップとなっており、諏訪さんは前述インタビューにおいて「2番のサビが終わってすぐにDメロが来るのがmarbleさんらしいし、歌詞もいいなと思いました」と、本楽曲にコメントを残している。
また、歌詞の内容は、諏訪さんの学生時代から現在までを振り返るものに。そのうえで、今後ますます大きな夢をかなえていく未来予想図を広げながら、どんなに歩みを進めても〈触れられない〉〈大切なもの〉があると歌われる。これはおそらく、自身の原動力である“あの日”の夢や憧れを抽象的に表しているのだが、それらにいつまでも〈触れられない〉という描写は、逆説的に自身の旅路に終わりがないのだというメッセージとして聞こえるし、非常にエモーショナルな響きを帯びている。まさに、彼女のアーティスト活動を振り返るうえでこれ以上ない楽曲だ。
そのほか、熊田茜音さんが4月21日に発売した2ndシングル「Brand new diary / まほうのかぜ」や、楠木ともりさんが同月28日に発売した2nd EP「Forced Shutdown」など、今月リリースの作品だけを拾っても、まだまだ新たな才能が後に控えている。特に、楠木さんの作品については「月刊声優アーティスト速報 特別編」として別途紹介するので、あわせてご覧いただきたい。
(文/一条皓太)