全国1千万人のアニメファンの皆様こんにちは。ベーシスト、アニメソング・特撮楽曲特化型DJの出口博之です。
季節ごとに新しいアニメ作品が放送された頃、どこからともなくやってくる主観がすぎるコラムでおなじみ「いいから黙ってアニソンを聴け!」の時間がもやってまりました。今回は2020年秋号、今年最後の更新となります。
初めて読まれる方もいらっしゃると思いますので改めて当コラムの簡単な説明をば。
毎クール放送されるアニメ作品のオープニング曲、エンディング曲をすべて聴き、私出口の大いなる主観で10曲選び、それぞれの楽曲の超かっこいいポイントなどを完全なる主観で解説する、といった内容になります。
「あの曲がない!」「この曲を入れてない!やり直し!」とのご意見もあるとは思いますが、私の主観、好みで選んでいますので多少の偏りには笑っていただいて気軽に読んでいただけたら幸いです。
今年はアニメ業界に限らず、社会全体、世界全体が新型コロナウイルスで大打撃を受けた一年でした。今も混乱した状況の渦中にあり、終息の兆しはまだ見えておりません。
春から夏にかけては社会全体が大混乱の時期であり、テレビアニメも例年の半分ほどの作品数しか放送されない異常事態でしたが、制作体制の立て直しが行われたのか、今クールはほぼ例年通りの作品数が放送されています。とはいえ、状況が好転したわけではなく、冬が近づくにつれ再び感染者数が急増し始めている……という具合に、非常に不安な状況は続いています。
こんな大変な時期にアニメかよ!と思われる方もいっらっしゃるかもしれませんが、逆にこんな状況だからアニメを見て、アニソン聴いて気持ちが荒まないようにするんです。病は気からとはよくいったもので、心に余裕がなくなると心身ともに疲弊してしまいます。そうなる前に、アニメを見たりアニソンを聴いたり、普段と変わりないことをして心健やかに過ごせればと思います。
というわけで、2020年秋のアニメというよりは2020年全体の所感を述べたところで今期アニメ作品から10曲選びます!
今期はいい曲揃いだったので結構悩みました! そんな事情も含めて「悩んどるわー(笑)」と思いつつ読んでいただければ幸いです!
今期10曲はこちら!
・アクダマドライブ
OP「STEAL!!/SPARK!!SOUND!!SHOW!!」
・犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい
ED「にゃんだーわんだーデイズ/大橋彩香」
・神達に拾われた男
ED「BLUE ROSE knows/MindaRyn」
・呪術廻戦
OP「廻廻奇譚/Eve」
・それだけがネック
ED「それだけがネック/打首獄門同好会」
・ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII
ED「Evergreen/sajou no hana」
・トニカクカワイイ
OP「恋のうた(feat. 由崎司)/由崎司(CV.鬼頭明里)」
・半妖の夜叉姫
ED「Break/Uru」
・ふしぎ駄菓子屋 銭天堂
OP「奇想天外ふしぎをどうぞ/野田愛実」
・無能なナナ
ED「バケモノと呼ばれて/藤川千愛」
今回はOP曲、ED曲の割合がほぼ半々。どの曲もグッとくるポイントがあり、あるがゆえに「これだ!」と即決するのが難しく結構悩んだ2020秋。選出テーマもほぼ決めずに選出した割に、全体的に楽器の音数が少ないスッキリしたアレンジの楽曲が揃ったように思います。
それでは、各楽曲の解説に入りましょう。
ED「Evergreen/sajou no hana」
今のアニメ、アニソンシーンを第一線でけん引しているといっても過言ではないsajou no hana。この曲も「今現在の最新のアニメソング」といえる洗練されたメロディライン、アレンジとなっています。ここ最近のアニソン(に限らずおしなべて音楽全般)は、音が壁のように迫る音像からの脱却というか、音を可能な限り間引いて最小限の楽器で奥行きのある音像を構築しています。壁のような音像もアレンジの手法としては大正解だし決して悪いアレンジではないですが、聴き味が似たような印象なることもあり最近は食傷気味な気が(少なくとも私は)しているので、間引くアレンジに耳がいくのはものすごく納得ができます。「Evergreen」には、そのあたりを計算してアレンジしている印象を強く受けます。
最先端のアニメソングであり、同時に最先端の邦楽だと私は思います。
OP「STEAL!!/SPARK!!SOUND!!SHOW!!」
耳の早い音楽好きの方はすでに大注目しているであろうバンド「スサシ」こと「SPARK!!SOUND!!SHOW!!」。
圧倒的なエネルギーとテンションがさく裂するサウンドは一聴して百戦錬磨のライブバンドであることがわかる痛快さ。高いテンションが持ち味ではありますが、このバンドの真価はそういった勢いで押し切るといったところとは真逆の、高度なサウンドデザインにあります。注意して聴くと冷静に音色を厳選し、音を間引いて立体的なアレンジを構築しているのがわかります。効果音の使い方や入れ方においても、あきらかに強い意図を感じる。偶発的に奇跡みたいなアンサンブルが生まれるのがバンドのマジックですが、意図をもってアンサンブルを構築し狙って奇跡を生み出すのもバンドのマジック。
スサシのサウンドにはバンドのワンダーが詰まっています。
ED「バケモノと呼ばれて/藤川千愛」
ロックバンドらしい重心の低いソリッドなバンドサウンドが、他のアニメソングとは違った印象を与えていて素晴らしくカッコいい。そのバンドサウンドの、楽曲の核となっているが間違いなく藤川千愛のボーカルの存在感でしょう。抜けるような高い音域のボーカルが多い中、低音がしっかりと響く声を持っているのは圧倒的なアドバンテージだと思います。高い声というのは、訓練すれば誰でも出ます。筋トレと一緒で、少しづつ上の音域が出るようになるんです。が、低い声というのは高い音域に比べて訓練して出すのが非常に難しい。体、特にのどの性質によるところが大きく影響するため、きれいに響く低い声はそれだけで才能の塊、ともいえるのです。
抑制するところはグッと沈み、ピークになるところは突き抜けるように高くなる。楽曲アレンジにおいては基本中の基本だけど、それを完璧に実践するのはなかなか難しい。ほぼ完璧にその方法論を踏襲できているのがこの曲なのではないでしょうか。
ED「それだけがネック/打首獄門同好会」
毎シーズン、最も注目するべきアニソンが起用されている、といっても過言ではないショートアニメ。今期はロックファンにはおなじみの打ち首獄門同好会が登場です。彼ららしいワードチョイスに思わずに、ニヤッとしたファンの方も多かったのではないでしょうか。
基本的にアニメソング(に限らずおおよその映像作品の主題歌)は90秒に収まるように作られています。いわゆる一番、ワンコーラスにアニメ作品とリンクするような楽曲の起承転結を盛り込んでいますが、ショートアニメでは放送尺の短さから30秒程度しか楽曲に時間が与えられていません。しかし、この短さがデメリットではなく、「聴いたら一発で覚えてしまうインパクト」という最大の武器になっているのが非常に今っぽい感覚で面白い。
抑制を利かせた導入からビルドアップして爆発させるアレンジは、30秒でもバンドのダイナミクスを感じることができるし、バンドの演奏力の高さもビシビシ伝わってくる。ネタ的な面白さは確かにありますが、この面白さは圧倒的なスキルに裏打ちされた「オモシロ」なのです。
ED「BLUE ROSE knows/MindaRyn」
今期もバンドサウンドが特徴のアニメソングがありましたが、その中でも「BLUE ROSE knows」は特にストレートで、それぞれの楽器がそれぞれのパートと相互に影響しあいながら気持ちの良いアンサンブルを作っています。楽器の数が多くなる傾向になるのが昨今の主流ですが、鳴っている音が全部きちんとわかるすっきりとしたアレンジはやっぱり強い。楽器初心者、バンド初心者の方はこの曲をお手本にするのもよいかもしれません。
リズムの根幹になるドラム、コードワークとアルペジオでアンサンブルを豊かにするギター、そしてこの曲でアンサンブルの主役となるドライブするベース。それぞれパートのお手本になるプレイだし、特にベースはソロもあるのでベーシストは絶対に聴いたほうがいいです。
よく見たらこの曲のベーシストの方、知り合いでした! なんかうれしい!
OP「奇想天外ふしぎをどうぞ/野田愛実」
ジャズ、キャバレー、昭和歌謡ど真ん中の、いかにも私が好きな曲です。当コラムではこのタイプの曲調のアニソンは必ず選出しているので、今回ももちろん迷わず選びました。
いい。素晴らしくいい曲だぞ!と、好きすぎて油断すると単なる感想文になってしまう。セクション毎に拍のとり方が変わる、ジャズ由来の複雑なコードワークなど音楽的に高度なアレンジが施されていながら難解な印象はまったくなく、むしろ大衆性を強く感じます。とても難しいことを難しく思わせずに聴きやすくまとめる職人的なバランス感が素晴らしい。こういった部分がジャズやキャバレー音楽、昭和歌謡を取り入れた楽曲に共通しているので、いつも選出してしまうのです。改めていい曲!
ED「にゃんだーわんだーデイズ/大橋彩香」
私事で大変恐縮なのですが、私は猫を二匹飼っておりまして(つくねちゃんとおいもくん)、犬は飼っておりませんがこの作品と、この曲はどこか他人事ではない気がして非常になんといいますか、かわいいよな!猫(犬も)!というわけで、選出しました。以上!
というのはあまりにもアレなので、もう少し。もちろん楽曲のすばらしさ、よさがあっての選出です(当たり前だ)。
ファンク・ソウルをベースにアニメソングらしいキラキラした音色のパートが楽曲を彩っています。最近のアニメソングらしいテイストで、よく聴くと最新のEDMの文脈をしっかり意識して入れているのが聴きどころ。Future Bassを発展させた「Kawaii Future Bass」というジャンルを踏襲したキラキラした世界観。ガーリーなだけではなくきちんとグルーヴが沈むセクションもあり、こういった部分からEDMマナーにのっとった楽曲構成をとっているのがうかがえます。
まあいろいろ書きましたが、とにかく猫はいいよな!(もちろん犬も)