毎年、数多くのアニメが発表されると同時に、各作品を盛り上げるアニメソングも続々と世に放たれている。星の数ほど生まれるアニメソングから、ミュージシャン・DJの出口博之と、芸人にしてアニソンDJの鮫島一六三(BANBANBAN)が、その年、特に印象に残ったのアニメソングを好き勝手に語り合う恒例の企画が今回もやってきました!
今回は2023年に発表された放送・配信されたTVアニメの中から、お2人が特に語りたいアニメソングを3曲ずつ。さらに劇場公開作品から1曲ずつ選んでいただき、全6回にわたってじっくりたっぷりと掘り下げていきます!
これを読めば、今聴くべきアニソンがわかる……はず!
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それでは「しゃべる!アニソン特別編 2023年BESTアニソン語り」第3回スタート!
「ソングオブザデッド」(「ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~」OP)/KANA-BOON
鮫島 BANBANBAN鮫島が選ぶ2023年のアニソン、最後の1曲はこちらです。「ソングオブザデッド」KANA-BOON!
出口 鮫さん好きですよね(笑)。この曲は、鮫さんの2023年の1曲だなという感じがする。先に私から申し上げますと、やはり2023年の一番大きなできごとって8月に上野で開催された「ウエノデ.ビアフェスタ2023」で、アニソンディスコをやられたことだと思うんです。自分もDJとして出させていただいたんですが、この「ソングオブザデッド」でものすごい大団円感というか、ようやく俺たちの祭りが帰ってきたという感じがしたんです。あの瞬間は、自分の中でも今年のハイライトだった。すごい光景だった。フェスだったなって。会場の後ろのほうまで5000人近い人たちがいて、あの曲で手を上げているというのは、コロナに始まったここ数年の流れからようやく俺たちの祭りが帰ってきた感があった。その中に、鮫さんの姿があったなっていう曲でした。
鮫島 ありがとうございます(笑)。自分はこの曲を聴いた瞬間から振り付けを作ろうと思ったし、絶対いっぱいかけてやるっていう気持ちにもなりました。「ゾン100」自体もNetflixで実写版が配信されたりしてしっかり盛り上がってたし、アニメの放送が9話で何も言わずに終わっちゃったと思ったら、残りはクリスマスにまとめて放送したし。それに向けて、KANA-BOON本家が振りを付けてきて、それがTikTokではやったりしたんですよ。どんな事情があったのかわからないんですが、この曲で最後まで行くんだっていう気概も感じましたし、まだまだ盛り上げていくぞという感じもありますし。夏から冬にかけて盛り上がった、息の長いゾンビみたいな曲だなと思いました(笑)。ノリもいいしね。
出口 変則的な放送スケジュールでもファンが期待して待っているというのは、作品の力があるのかもしれないし、曲の力もあるんじゃないかなと思います。2023年らしいといえばらしい曲なのかもしれない。さっきのアニソンディスコの話じゃないけど、ようやく俺たちの曲が出てきたっていうね。
鮫島 フィジカルで楽しめる曲だと思います。「【推しの子】」も「オイオイ」とみんなでかけ声を上げられる個所があったし「ソングオブザデッド」もフェスで「映える」っていうのもあったし、コロナ5類になってから楽しめるようになった曲なんじゃないですかね。
「アイコトバ」(「薬屋のひとりごと」ED)/アイナ・ジ・エンド
出口 2023年、出口が選ぶ3曲目のアニソンは「薬屋のひとりごと」EDの「アイコトバ」!
鮫島 OPじゃなくてEDですか!
出口 めちゃくちゃいい曲です。2023年を振り返った時に、歌っているアイナ・ジ・エンドさんはアーティストとしてかなり躍進した年だったのかなと思いました。「機動戦士ガンダム 水星の魔女」(第2シーズン)のED「Red:birthmark」も歌われていたし、「薬屋のひとりごと」が始まる前にも主演映画「キリエのうた」が公開されましたし、世間一般にアイナ・ジ・エンドの歌が届いた1年なのかなと思いました。歌声としてはハスキーで、表現力というところがかなり広くなったのかな。今までとは違う次元にあるのかなと思いました。やさしく歌うところとか、かなり切羽詰まった感じで歌うとか、歌声から見える表情がすごく深いということを「アイコトバ」で感じたので、2023年の1曲だと思いました。
鮫島 いいエンディングの効果を感じますね。「薬屋のひとりごと」も歴史ものにしては主人公の生き方がポップじゃないですか。現代にいそうな女の子が主人公で、お話をかき混ぜまくってエンディングでしっとりとクールダウンさせてくれる、いいエンディングだと思いますね。でもこれが来るとは思わなかった。
出口 2023年の大きな話題としてはAI問題もあると思うんですよ。今のAIって、いわゆる集合知みたいなことじゃないですか。イラストにしても音楽にしても、こういう命令を出してこういうのを作ってくれっていったらそれっぽいのができる。技術としてはすごいし驚いたけど、冷静に見るとすごくつまらない。どれも同じというか、紋切り型というか。「そうだよね」って面白くないあるあるネタをいるような退屈さがある。技術としては素晴らしいんだけど、そうなってくると、やっぱり人間の方がいいよねってところに立ち返ってくると思うし、その中で絶対真似できない要素がアイナ・ジ・エンドさんの声や、さっきあげた女王蜂のバンドとしての個性の部分みたいなところだと思う。人の声とか、心に訴える何かというのは絶対にAIじゃできないことだと思う。
鮫島 AIで何か書いてもらっても、こちらが面白がっているのってハプニングだったりするじゃないですか。肘が変な方向に曲がっているとか、文章がおかしいとか。結局間違いとか失敗とか、情けなさみたいなところが作品の魅力じゃないですか。失敗がぬくもりにつながるかわからないですけど、結局我々が見たいのは完璧で超うまいものではなく、ほころびを見たいんですよね。
出口 我々もそこに共感するし、心が動くところ。(AIの出現で)仕事がなくなるとか言われてるけど、仕事はなくならないと思う。AIは脅威ではあるけど結局は補助ツールであって、作品の中心に求められるのは「君は何なんだい?」「私はこういう人間なんです」というものだと思います。そういう人間力が出ていたなというところで、アイナ・ジ・エンドさんの「アイコトバ」を選出しました。
出口 というわけで、お互いに3曲ずつ主題歌を振り返りましたが、なかなか面白い結果になりましたね。でも順当だというか。
鮫島 「【推しの子】」を軸に何を並べるかという感じですよね。
出口 そのほか、選外の曲、挿入歌など語っておきたい曲はありますか?
鮫島 劇中歌の中ではど真ん中だと思うんですが、「【推しの子】」の「サインはB」。やっぱりこれを入れなきゃいけないかなと。作ってるのがオーイシマサヨシさんで、主題歌クラスに強い曲でいた。印象に残りやすいし振り付けもいいし、ネットでもバズってるし、これは劇中歌の中でも外せない曲だと思います。すばらしいアイドルソングでした。
あとは「呪術廻戦」の「最高潮☆JUMPING!」。東堂というゴリゴリのマッチョなキャラがいるんですが、そいつがすごいアイドル好きなんですよ。推してるアイドルが、高田ちゃんって言って180センチの長身なんですが、その子の曲が「最高潮ジャンピング」。ゴリゴリのアイドルソングなんですが、この曲がどこで使われたかと言うと、東堂が命がけで戦っているシーン。東堂のロケット(ペンダント)がコロンと落ちて、ふたが開くとそこに高田ちゃんの写真が入ってたんですが、それを見た瞬間に東堂がパワーアップして、その曲をバックに戦ったんです。
「呪術廻戦」ってすごく面白くて明るくて楽しいシーンの後に誰かが死ぬっていうパターンが多くて、僕はこのシーンを見た瞬間「東堂死ぬのかな」と予感しちゃいました。実際は死んではないんですけど、大重傷でした。いい使われ方してました。
そしてもう一曲いいですか?
出口 いいですよ!
鮫島 「川越ボーイズシング」の「松ぼっくり」。これは男性の合唱部のアニメで、曲にも力を入れているんですけど、「松ぼっくり」はライバル校が歌っていた歌です。めっちゃ変な歌で……あんまり芸人としては使いたくない言葉なんですけど(笑)、歌詞の癖がすごい。曲調もニセ長渕みたいなノリなんですよ。これがライバル校の歌う曲?って思っていたら、作曲がマキタスポーツさんで、だからか!と思いましたね。
出口 長渕感という印象は間違ってなかったんですね。それをライバル校が歌ってるんだ。劇中では特にツッコまれてはいないの?
鮫島 特にそういうシーンはないんですが、見てる人はみんな「どういう気持ちで(キャラは)歌ってるの」て違和感を覚えてました。
出口 ものを作る時の面白がり方として正しいよね。完全なオリジナルってなかなかできないし、完全なオリジナルがあったとしても面白さが世の中に伝わらない。そうではなく翻案したり、これが好きな人は寄ってきてみたいなニュアンスを入れるのが、今のものを作る姿勢としてある。それを意図的に隠したり踏み台にしようとすると、パクリになる。きちんと好きだと公言して、愛があるエッセンスの入れ方は正解。……これは、まんまでしたけど(笑)。長渕あるあるみたいな曲だけど、本当に好きじゃないとこのあるあるは得られない。
鮫島 私も曲を買ったんですけど、DJでかける勇気がない(笑)。いつかかけたいんですけど、かける現場がわからない。
出口 さて、ワタクシですけど、先ほどあげた年間ベスト3と被ってるんですけど、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」最終回に流れた「宝石の日々」、アイナ・ジ・エンドさんの歌です。
出口 アイナ・ジ・エンドさんはSeason2のエンディング「Red:birthmark」も歌っていましたね。物語については音楽の話とは関係ないので割愛しますが、大団円で終わるというのが「水星の魔女」の一番盛り上がったところかなと思うんだけど、そこにバラードの「宝石の日々」が流れて、「うわ~、ガンダムなのにめちゃくちゃちゃんと終わった~」っていう感じがしました。それまで流れていた「Red:birthmark」は切羽詰まった、ささくれだった感じの曲だったんだけど、そこと対照的なすごいやさしい曲で、「うわー、こんな表現もできるんだ、すごいな」って思いましたね。やっぱりそれは、そこまでの24話があって、最後の最後にこの曲がきたからで、特別すぎました。
そしてもう一曲、この「宝石の日々」のあとに本当の最後のエンドロールが流れるんですが、そこで流れるのが1期のOP。YOASOBIの「祝福」。物語が終わりました。で「祝福」が流れて、ど頭のサビが終わってドンって音が厚くなるところで、第24話のサブタイトルが初めて出てくるんです。
鮫島 あっ、オタクが好きな奴だ! それはいい使い方ですね。
出口 で、その24話のサブタイトルが「祝福」の最後の歌詞なんですよ。「目一杯の祝福を君に」。この流れはもうね、オタクが好きな奴だろうと(笑)。「水星の魔女」は2022年の秋アニメからだからちょっとズルい気はするんだけど、盛り上がり方、作品への熱や期待感というものが、2023年を象徴する感じはありますね。ガンダムのみならず、昨今、息の長い作品は多くて、そういう作品ってだいたい50年近く続いてるじゃないですか。往々にしてすごく年上の方たちが作って、支えてきたものだと思うんだけど、そこで命題になってくるのが新規のファンをどうやって獲得するか。きちんと若い人たちが楽しめるものを、というのがテーマになってくると思うんですが、「水星の魔女」はそこがすごく成功していた印象があります。前評判はけっこう分かれていた気がするし、作品自体もオールドファンへの目配せを感じさせつつも、やっていることは完全に新しい人に向けて「ガンダム面白いですよ」とアピールしている感じがあったし、そこがばちっとはまっていた。悲しい物語とかいかんともしがたい展開はあるにせよ、最後の着地がこれだったから見てて嬉しかったよね。
ロックバンド・モノブライトのベーシストとして、2007年7月メジャーデビュー。ベーシストとして多数のアーティストのライブ・レコーディングに参加するほか、作編曲、DJ、ライター、番組MCなど媒体を選ばず幅広く活動中。
お笑いコンビBAN BAN BANの「フリーザじゃない方」。2010年、アニソンDJイベント「アニソンディスコ」をコンビで立ち上げ国内外、会場の大小問わずさまざまな場所でアニソンを鳴らす。吉本興業所属。