アニメライターによる2020年春アニメ中間レビュー【アニメコラム】

2020年春にスタートした新作TVアニメの中から注目タイトルを中間レビュー。日曜朝のサンリオアニメ「ミュークルドリーミー」、女子高生4人の釣りコメディ「放課後ていぼう日誌」、ヤマザキマリの最新作をアニメ化「別冊オリンピア・キュクロス」、創元推理文庫のミステリー小説が原作の「啄木鳥探偵處」、タツノコプロと日本アニメーションが共同制作で送る「ハクション大魔王2020」、の5本をラインアップしました。

ミュークルドリーミー

空から落ちてきたぬいぐるみ・みゅーと明るく元気な中学1年生・日向ゆめが、みんなの夢の世界に入って悩みを解決していくストーリー。という概要だけ聞くと正統派女児向けアニメのように思えるが、そこは「おねがいマイメロディ」や「ジュエルペット」などカオスな作品を送り出してきたサンリオアニメ。本作にもその血脈が連綿と受け継がれており、本編でまず映し出されるのが、どんより曇って雨が降る街景色という女児向けアニメらしからぬ描写の時点で、我々のボルテージは高まっていく。
第1話はゆめのお母さんが重労働に疲れ果てて会社を早引き。ブランド品を買い漁り、暴飲暴食の限りを尽くすという展開だ。ストレスフリーになって眠りについたゆめママの夢をのぞいてみると、そこにはハードワークに翻弄される人々の姿が……。1927年公開のディストピア映画「メトロポリス」の強制労働シーンにオマージュを捧げながらも、コミカルに描かれる夢の場面はインパクト絶大。番組スポンサーに人材派遣会社が名を連ねているのにも関わらず、忖度なしのアグレッシブな姿勢に感服してしまう。これからも予想がつかない物語を楽しめそうだ。

放課後ていぼう日誌

高校進学を機に海沿いの田舎町へ引っ越した主人公・鶴木陽渚(つるぎひな)が、とあるきっかけから釣りを始める部活アニメ。第1話では手芸部に入りたかった陽渚が、高校の先輩・黒岩悠希の策略によって「ていぼう部」に引きずり込まれる様子が描かれており、人形作りから魚釣りという糸を用いた趣味の転身が印象的な幕開けとなった。
さらに釣果であるはずのタコが、陽渚の足にからみつくことによって、糸のモチーフはどこか緊縛めいた妖しい雰囲気まで漂わせてくる。このシーンのエロティックさを目の当たりにした我々は、原作の掲載誌が「まんがタイムきらら」ではなく、袋とじグラビアもある「ヤングチャンピオン烈」だという事実に気付く。アニメ化にあたってはタコの中身や内臓がきちんと描写され、そのグロテスクな美しさも作品を引き立てている。

別冊オリンピア・キュクロス

古代ギリシャの青年・デメトリオスが、オリンピックに沸く1964年の東京にタイムスリップ。古代ギリシャと日本の文化を比べながら知見を深めていくショートアニメだ。「テルマエ・ロマエ」の実写映画では、顔の濃い俳優をキャスティングすることで古代ローマ人らしさを演出していたが、本作は石膏風のクレイアニメで古代ギリシア人を表現。紙に描かれたペラペラの日本人と好対照をなしており、映像面でも興味がそそられる。
主演の小野大輔は石膏の胸像がアイドル活動に挑む「石膏ボーイズ」でローマ神話の軍神・マルスを演じた経験がある。本作では類いまれな身体能力を持ちながらも気弱な草食系男子を好演。石膏キャラ声優の第一人者として、その実力を遺憾なく発揮した。タイトルに「別冊」と冠しているように原作以上にコミカルなテイストでの映像化でありながら、知的な雰囲気が漂っているのは、作品のイデアがきちんと存在しているからだろう。とよくわからないギリシア語を使いたくなってしまう一作。

啄木鳥探偵處

明治期の歌人・石川啄木と言語学者・金田一京助が、探偵と助手になって事件を解決するミステリー小説をアニメ化。今ではなくなってしまった物が愛おしく描かれているのは、26歳で夭折した啄木を主人公としているためだろうか。のちの関東大震災によって崩壊する浅草凌雲閣、京助が啄木に差し出すカメリヤのタバコ、文士たちが集まって議論を交わすミルクホールなど、いずれもていねいな考証を経たうえで描かれていることがわかる仕上がりだ。
その中でも2人の下宿先である蓋平館(がいへいかん)は、三畳一間という啄木の部屋の狭さも相まって忘れられない印象を残す。空になった本棚の視点から部屋を映すという、初回の結末で見せた光景にも郷愁を誘われる。

ハクション大魔王2020

タツノコプロを代表するギャグアニメが50年の時を経て復活。リメイクではなく正当な続編で、今回は大魔王の娘・アクビちゃんが前作の主人公・カンちゃんの孫の家にやってきて女王修行にチャレンジする。半世紀ぶりに人間の世界にやってきた大魔王とアクビちゃんはジェネレーションギャップにビックリ。初回から大魔王が不審者として逮捕されるという世知辛い(せちがらい)目に遭いながらもがんばる姿が涙を誘う。
各話のアバンでは大魔王たちが等身の高いリアルタッチで登場して、50年前と今の常識の違いをわかりやすく解説。人間界での二頭身のアクビちゃんもかわいいが、大人の女性として描かれるこちらも魅力的だ。大魔王役には山寺宏一をキャスティング。「オロローン」という泣き声でも何だか悲しそうに聞こえてしまうのは見事のひと言。第6話ではカンちゃんのお母さん役の日高のり子が昭和アイドルを演じるなど、豪華な声優陣の芝居も楽しめる。

(文・高橋克則)

(C) 2017,2019 SANRIO CO., LTD. 著作株式会社サンリオ ミュークルドリーミー製作委員会
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(C) ヤマザキマリ・集英社/「別冊オリンピア・キュクロス」製作委員会
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(C) タツノコプロ・読売テレビ