大ヒットアニメ「ゾンビランドサガ」の歌唱曲をコンプリートしたアルバム「ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best」が、2019年11月27日に発売された。
今回、アキバ総研ではライターによるディスクレビューと、アルバム収録の中からクリエイターが特に印象に残っている楽曲をピックアップしセルフレビューを掲載!
すでにゲットした方はCDを聴きながら、これから購入しようという方はこの記事を通してCDへの期待を高めていただきたい。
「ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best」ディスクレビュー
MAPPA×エイベックス・ピクチャーズ×Cygamesの3社によるオリジナルアニメーション「ゾンビランドサガ」。主人公が開始1分で車に轢かれて死ぬという衝撃の展開から、ゾンビになった主人公・源さくらがアイドルグループを組み、佐賀を救うという奇想天外なストーリーが爆発的なヒットにつながったのだが、この作品を勢いづかせた要因のひとつは、どう考えても音楽だ。
特に1話のヘヴィメタルから2話のヒップホップ、そして3話のアイドルへの流れは見事だった。今回、そんな「ゾンビランドサガ」の歌を1枚に詰め込み、さらに新曲まで追加したというアルバム「ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best」がリリースされるというのだから、こんなに喜ばしいことはない。ここではフランシュシュの楽曲を中心にレビューしたいのだが、あらかじめフランシュシュのメンバーを紹介すると、1号・源さくら(CV.本渡楓)、2号・二階堂サキ(CV.田野アサミ)、3号・水野愛(CV.種田梨沙)、4号・紺野純子(CV.河瀬茉希)、5号・ゆうぎり(CV.衣川里佳)6号・星川リリィ(CV.田中美海)、0号・山田たえ(CV.三石琴乃)の7人となる。これまでアニメBlu-rayの特典でしか聴くことができなかった劇中歌をたっぷりと楽しんでもほしい。アニメを知らなくても、音楽的に十分楽しめるクオリティだし、聴いたらアニメを見たくなるはずだ。
アルバムは「ようこそ佐賀へ」から幕を開ける。まだフランシュシュとなる前、「デス娘(仮)」としてライブハウス「GEILS」のステージに立ったゾンビ7人。このとき、さくら以外ゾンビから自我が目覚めてなかったのだが、このライブの衝撃で、たえ以外が自我に目覚めることになる。そんな強烈な刺激を与える曲はデスメタルだろう、ということで多分作られた曲。デスメタルファン(デスおじ)が「マジか、がばい本格的なのきたやん!」と感激するほどの説得力がある楽曲は、ヘヴィメタルバンド・ANTHEMのギタリストである清水昭男が作・編曲をしている。聴きどころは、サキとたえ(おそらくこの曲だけ歌唱に参加)、そしてさくらの雄叫びだろう、ひたすらヘドバンをしながら聴ける曲に仕上がっている。
続いてオープニングテーマの「徒花ネクロマンシー」。アルバムバージョンということで、シングルには入っていなかった口上を収録。これを望んでいた人は多いのではないだろうか。「死んでも夢を叶えたい いいえ、死んでも夢は叶えられる」という、この作品のテーマともいえるフレーズをさくらが言っているところがまず熱いのだ。メロディは歌謡曲なのだが、作・編曲が加藤裕介で、クラシックにも精通していることもあって、管楽器や弦楽器などが荒れ狂っていてサウンドが超豪華。しかもOP映像が戦隊モノ風だったので、戦隊ソングにしか聴こえなくなっていった。個人的には間奏やアウトロの終わり方が絶妙で好きだが、徐々に熱くなるボーカルも最高にエモい。一番素晴らしかったのは6人の声の個性だ。そこまで作ってない声のはずなのに、ここまで声に個性が出ていて、容易に聞き分けができるのは実はすごいことだと思う。
「DEAD or RAP!!!」は、2話でさくらとサキがやったラップバトルでの曲。体にリズムを取り込んで、しっかり韻を踏んでラップをしている。田野アサミのセンスはもちろん素晴らしいのだが、この曲の大半を歌っているさくら役の本渡楓も負けてない。ライムを刻みながら、そこに感情(ニュアンス)を入れることをやってのけているし、「特攻隊長ォォォ」のところで声がかすれるところもリアリティがある。そして、この曲の途中から加わる本格的なビートボックスを担当したのはビートボクサーのDaichi。いわゆる1~2話の音楽はこの作品の主流ではなく、ある意味つかみだったわけだが、そこで雰囲気だけの音楽を持ってきても、きっと視聴者には響かなかっただろう。そこをとことん本気でやる。そういう意味でもこの曲は重要な曲だったと思う。
「目覚めRETURNER」は3、4、7話と、作中で一番流れた曲。1~2話で「何だこのアニメ?」と思わせておいてのアイドル曲だ。しかもひと筋縄ではいかないのが「ゾンビランドサガ」なので、1曲の中の展開が激しく、何曲分も楽しめる構成になっている。こういうプログレ感はほかの曲(「アツクナレ」)などにも見られるのだが、それは単純にフランシュシュの音楽プロデューサーでもある巽幸太郎の趣味ということにして、勝手に納得してしまった。この曲は、声がケロっている(Electric Returner)バージョンも収録。楽曲・制作プロデュース 佐藤宏次のインタビューでは、もともと落雷後に流すことを想定して(Electric Returner)を先に作っていたと語っていたが、サビのキャッチーさなどを考えると、路上でアイドルが歌っているという状況にマッチして(3話)、ノーマルのバージョンが先に流れたのかもしれない。
⇒フランシュシュの楽曲はこうして生まれた──「ゾンビランドサガ」をサウンド面で支えた佐藤宏次(楽曲制作・プロデュース)インタビュー!
「アツクナレ」ができた経緯もインタビューで語ってくれていたが、あらためて聴くと、イントロがボクシング映画などで流れてそうなくらい壮大で面白い。冒頭の愛から純子へ、歌のバトンをつなぐところは、歌詞の内容がストーリーに合っている。普通の曲でいうところのDメロが最初に来ている感じだ。サビでひたすらたたみかけるところも熱いので、7話の、作品的なひとつのクライマックスのシーンで流れるのにふさわしい曲だった。ちなみにギターソロも聴きどころ。
愛、純子がメインの曲の次は、リリィがメインとなる「To my Dearest」。最初の語り口調がさだまさしさん風ということだが、某名ミュージカル曲っぽさもある。フランシュシュの中では、一番声を作っているのが田中美海だと思うが、この声がこの曲にとてつもなくマッチしていた。声で子供の純真さを出せるというのはすごい才能だと思うし、その語りも素晴らしかった。ラスサビをずっとメインで歌ってるところも泣けるし、最後をビブラートなしで歌うことによる余韻も鳥肌モノだった。
衝撃の新曲は、待っていたゆうぎり曲「佐賀事変」。衣川里佳の歌がうますぎる! Aメロは中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」や「TATTOO」を彷彿させるが、歌謡曲と今っぽいグルーヴィーなアプローチというのは椎名林檎っぽいと言ったらわかりやすいかもしれない。ただやはりこの曲は衣川里佳のボーカルに尽きる。スキャット的なところを、こんなカッコよく決められる人って声優さんでいるのだろうか……。これまで歌ではあまり目立たないところにいたと思うが、前に出てきたらとんでもない逸材だったと思い知った。 またMVの力の入れようすさまじく、これは続篇にあたる「ゾンビランドサガ リベンジ」を楽しみにしてろ!というスタッフのアピールなのだろう。
そしてサキの「特攻DANCE ~DAWN OF THE BAD~」。田野アサミがもうサキそのもので、(本人はヤンキーではないが)あまりにも自然なヤンキー歌唱が素晴らしい(※褒めてます)。最後の“あっfuー”の“あっ”の入れ方とか、本物です……。そして心のこもった「命なんて 儚い」のベタな名言。これも一度死んでるからこそ、実感して語っている感じが出ている。曲自体は、あのバンドのあの曲を連想させるし、あの曲のインパクトって基本的にイントロのギターだと思っているのだが、この曲も最初のギターのフレーズがキャッチーで、そこで完全に持っていかれる。
第12話での挿入歌「ヨミガエレ」は、とにかく熱い。この曲は全員全力の熱唱なのだが、緩急の付け方が絶妙だ。1番のサビに入る前に一度ゆったりとして、2番は1サビの最後から落ちて、ゆったりとした新たなメロディが出てくる。そこから間奏を挟みながらサビを3回連続でたたみかけるという構成が本当に激エモ。作品のクライマックスにふさわしかった。
アニメの最後に流れたのは「FLAGをはためかせろ!」。この曲が一番普通というか、作品的にも特にこの曲で何かを伝えるんだ!というのではなかったと思うが、それだけに尊い。フランシュシュがライブで数曲歌うにしても、アニメでは流れていない曲が何曲かあるはずで、そういう「いつもの曲感」がある。それでいて、いつもライブの最後で歌ってそうな、みんなでひとつになれる大団円的な曲調がいい。
そして「輝いて」。「カレーメシ」とのコラボ、「カレーメシver.」を聴いた人はわかっていると思うが、間違いのない名曲だ。そこによくぞカレーメシの歌詞を付けたな、と……。でも安心してください! こちらのver.は、涙なしでは聴けないはず。ゾンビになっても生きている、まさに“Still alive”な歌で、彼女たちの生き様を歌った力強さがある。ライブでは観客全員でWow wow wowと歌って拳を突き上げたいし、その声をバックにフランシュシュがサビを歌っている光景が目に浮かんだ。
アルバムのフランシュシュ最後の曲は、EDテーマの「光ヘ」。すべてを浄化してくれる合唱曲。アニメでは、誰かと再会しても、自分だと言いたくても言えない、そんなゾンビであるがゆえの切なさが何度か描かれていた。この曲は卒業ソングっぽく見えるし、実際卒業ソングにもできるけど、フランシュシュのメンバーはだいたい10代で死んでいるので、“さよなら またね”の“またね”はないんだと思うと、急激に切なさがこみ上げてくる。しかも最後が“さよなら みんな 大切なDiary”というのもなかなかヘビーだ。この作品で、多くの曲の作詞をしているメインライター古屋真の歌詞は、生きることについて考えさせられるし、心に刺さる言葉が必ずあるので、そこを探しながら聴いてほしい。
そのほか、アイアンフリルの新旧の曲や、パイロットフィルムにのみ使用されていた、源さくらが歌うアイドル曲「宣誓!ALIVEセンセーション」などを収録。「ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best」は、ジャンルの枠を飛び越えた昨今のアニソンのごった煮感がありつつ、J-POPの中に連綿と受け継がれ続けている歌謡曲へのリスペクトを忘れていない、本物の音楽が詰まったアルバムだ。この超濃厚でボリューミーなアルバムを聴きまくって、じっくり続篇を待ちたい。
(文/塚越淳一)
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