最終話、アバンの密度がぐーっと減ったように感じました(調べてみたら前回第11話、カノン回のアバンの半分の長さでした)。
ソナタも、カノンも、フィナも、セレナも、キャロもいないアバン。それは大切な友達が心を閉ざして結晶化したことで、ソナタやキャロたち4人が元気をなくし、そのことでパーレル村から光が消えてしまったという空白をあらわしているようでした。村の子供・カプリたちがカノンの不在を強く嘆いているのも、カノンがやってきて4人が5人になってから、パーレル村が少し明るく、少し元気になったことを敏感に感じ取っているのではないでしょうか。映画館に代表される、新しい何かを外から運んできたのがカノンという存在なのです。
さて、最後なのでオープニングテーマにも少しふれておきたいと思います。本作のオープニングテーマ「Wonderland Girl」を歌っているのは、「バンドリ!」シリーズに登場するガールズバンド、Pastel*Palettesです。彼女たちは人間で、芸能活動を行なう高校生ですが、その歌声と音楽の世界は「バミューダトライアングル~カラフル・パストラーレ~」の世界を美しく彩っています。というか、番組を見ていて「バンドリ!」の子たちだな、と意識することはあまりなく、パステルな色彩と音の世界が、人魚たちのやさしく元気な日常を描く作品にぴったりだな、という印象を受けていました。
第7話には人魚界のスーパーアイドル・チェルが登場したものの、「バミューダトライアングル~カラフル・パストラーレ~」という作品は、中盤までアイドル要素はそんなに濃くありません。アイドルオタのコーダさんがいろんな発明品でソナタたちを助ける話ではあります。ですが、やがては作品として大きなテーマになるはずのアイドルという存在、歌が持つ力を毎週体現していたのが、Pastel*Palettesだったのではないでしょうか。(Pastel*Palettesはガールズバンドですが、芸能事務所の意向によって生まれたバンドであり、ボーカルの丸山彩さんはアイドルでもあります)。ありがとうPastel*Palettes。
閑話休題。カノンの結晶化以降、キャロがやさぐれてちょっとやな感じになってしまいました。セレナも言葉は冷静ですが、中身は全力で後ろ向きです。主にその風を受けるフィナが気の毒になってしまいました。そんな停滞した空気のパーレル村に、新たな来訪者がやってきます。村の首長アルディさんの貝殻姉妹であり、都会でカノンの面倒を見ていたヴェラータさんです。前回、第11話の記事で「あー! この声ヴェラータさんね! いたいた!」と書いてしまいましたが、軽く見返した感じ序盤にヴェラータさんの登場は確認できませんでした。アルディさんにならって謝ります、ごめんなさい。
しかしなんで「あー! ヴェラータさんね! いたいた!」と思ったかを考えると、「アイドルのマネジメントをしていて、本人には厳しい言葉をかけるけど実はアイドルのことを深く想っていて、経験豊富で、ちょっと魔女っぽい人」みたいに想定される人物像と、平野文さんの声があまりにドハマりなのです。そのイメージが直結したからこそ、「あー! ヴェラータさんね! いたいた! 平野文さんの!」となったのだと思います。
アルディさんは久しぶりに村に来た貝殻姉妹・ヴェラータさんの案内をするようにソナタたちに頼みます。カノンが眠って光が消えたようになってしまったパーレル村のよさが伝わるのだろうか、と見ていて心配になったのですが、そこにヴェラータさんに対して誰よりも気持ちが届くであろう人からの手紙が届きました。誰あろう、今は心因性の結晶化現象で眠りについているカノンからの手紙です。
ずいぶんゆっくりまとめて手紙を持ってきたアザラシ郵便のキャッチフレーズは、「いつか、でも必ず届くアザラシ郵便」。西村監督や島村プロデューサーがアニメの放送前に印象的なワードとして使っていた言葉ですが、まさか最終話のカギとして持ってくるとは思いませんでした。パーレル村には、電話の電波がなかなか届きません。ですが、アトランティアの高級店の美食はパーレルのつまらないひじきサンドより疑いなく素晴らしいと信じていたヴェラータに、電話で、あるいは直接会って、カノンの言葉は素直に届いたでしょうか。カノンが、たとえ返事がなくても何通も綴った手紙だからこそ、ヴェラータに、そしてキャロたちの心に届いたのだと思います。
カノンが眠った後、なぜキャロが一番荒れていたのでしょうか。自分たちの態度が、カノンを追いつめてしまったという負い目があったのかもしれません。ですがカノンがやってきてから、一緒にケーキを食べて、映画館を立て直して、そうやって過ごしたキラキラした時間の全てに対して、実はカノンは村を出ていきたい、都会に行きたいと思っていたのではないか……と考えたことで、それまで宝物のように感じていた時間と場所が色あせて感じられてしまったのではないでしょうか。そしてその感情を自分の中でかみ砕いて消化するには、キャロは感受性豊かで、未熟で、やっぱり一番子供だったのではないか、と思いました。ひょっとしたら、そうやって心をすり減らしながら都会に出て行って、その場所に新しい価値を見つけて大人になったのがヴェラータだったのかもしれません。
今までソナタたちは、
1.「村でみんなで楽しく過ごす」
2.「村を出て行って大好きな歌を歌う」
という2つの選択肢のどちらが眠っているカノンのためか、という観点で騒いでいました。そして、その言葉はカノンの心に届きませんでした。ここで第1話、結晶化現象を起こしたカノンの心に届いた言葉を思い出したいと思います。覚えてますか? ソナタの言葉がきっかけだったと思っていませんか? 僕はその場面を見直して確認して、ちょっとゾッとして、そのあとニヤニヤしてしまいました。文章で説明します。
【~アニメ「バミューダトライアングル~カラフル・パストラーレ~」第1話より~】
キャロ「えっ、(カノンは)パーレル村に住むの?」
アルディ「まぁ、そうしたければねぇ。本人の考えを聞かないといけないけど」
ここで、結晶化していたカノンの心にひびが入ります。彼女が心を開いたきっかけは、自分の前に現れた新しい選択肢と、どう進むのか、道はカノン自身が選んでいいし、選ぶべきだ、というアルディの言葉だったのです。アルディさんのスタンスはずっと一貫していたんですね。そのあとにソナタの言葉が続きます。
ソナタ「(茫然と)きれいな女の子……あっ」
カノンが目を覚まします。
ソナタ「カノン、って言うんだ……」
ここでゆっくりとカノンがソナタを見つめて、目が合うと、結晶はぴしぴしっと音を立てて砕けました。次の瞬間、カノンはソナタに全身で抱きついていました。あれ、ここまでリプレイしても、ソナタは別にいいことは何も言ってません。カノンはアルディにここにいてもいいんだ、自分で選んでいいんだと告げられたことで心を開き始め、次に村の素朴だけど美しい、金髪碧眼の美少女人魚が「きれいな女の子」「カノンって言うんだ……」と自分を呼んだことで、元気いっぱいになって結晶から飛び出してきたのです。
このシーンの解釈は、人によると思います。僕は、映画館でカノンがさりげなくソナタの手を握ったシーンを思い出しました。全12話を見守ってきた僕らは、カノンはすごくいい子だと思いこんでいますが、初登場の頃のカノンは、心配の言葉をかけてきたほぼ初対面の相手に「何もないんですね、ここ。なんか(携帯電話が)圏外みたいだし」と言い放つ、ちょっと空気の読めない子だったのです。
「この村で、5人で(あとソナタと)ずっと一緒にいたい」「都会で大好きな歌を歌いたい」という、矛盾する願いにカノンが引き裂かれていたとすれば、それが解消されない限り、今まで目覚めなかったのは当然です。本来完全に手詰まりの局面ですが、それを打開したのがヴェラータさんでした。さすがはカノンをずっと見つめてきた人物ですし、だてに魔女っぽい声をしていません。カノンが望んだはずの、ヴェラータが提示した第3の選択肢は、
3.「大好きなみんなとステージに立って、大好きな歌を歌いたい」
だったのです。ここで、歌を歌いたいカノンの希望が、仲間5人の選択肢として拡張されました。その「可能性」に(カノンがそう望んで口にしたわけではないことは、このお話では考慮すべきでしょう)、ソナタたちは真剣に向き合います。ソナタとセレナが尻込みする中、キャロとフィナはとっても前向きです。そんなことを話しながらカノンを抱えた4人が村の中を泳いでいる時、最初に笑顔で歌い始めたのはキャロでした。その途端、ソナタが、フィナが、セレナが、笑顔になって歌い始めます。その歌声が、村中を明るくしていきます。ここで、映画撮影回でプロのカメラマンに見いだされた、「キャロがいるだけで周囲が明るくなる不思議な空気感」の設定が生きてくるんですね。まいりました。
次のシーンはみんなで作った映画館。修復したボロボロのキネオーブが奏でる音に合わせて、カノンが歌いたかった、大好きな「シャボン」の歌を4人が一緒に歌います。そうする内に、キネオーブは砕けてしまいました。小さな紫色のキネオーブはカノンの心の象徴であり、同時に彼女が閉ざした心を覆う結晶の象徴でもあったのでしょう。
音楽が途絶えます。コンサートでトラブルなどがあって、音楽が途絶えた時、アーティストが、観客が一緒にアカペラで歌い出した時の感動に、覚えはありませんか? 覚えがない人は、「バミューダトライアングル~カラフル・パストラーレ~」第7話を見るとよいと思います。
やがて村に響き渡る4人のアカペラの歌声に応えるように、カノンは目を覚ましました。その歌声の元に、5人が復活させた映画館に憧れた子供たちが飛びこんできます。大人たちが見守り、ソナタたちが作り出したものを、今度はカプリたち子供たちが受け継いでいくのでしょう。
時が移り。パーレル村でいつもの日常を過ごすフェルマとアルディ(1話と同じBGM!)の元に、アザラシ郵便で手紙が届きます。中身はライブのお知らせですが、ライブの日付はなんと今日。またもや「いつか必ず届く」が身上のアザラシ郵便です。現地に向かうにはとても間に合わないですし、パーレル村には携帯の電波も、テレビの放送もまともに入らないのが、かつては当たり前でした。
でも、今のパーレル村には、ソナタたちに憧れた子供だった若者たちがいます。カプリ、アデル、ナチュラが、そして天才発明家コーダが準備をしたのは、パーレル村初のライブビューイング、ライブの同時中継でした。
画面の向こうのキラキラしたステージに立っているのは、5人の人魚と1匹のマスコットです。
「それでは私たち、カラフル・パストラーレの思い出のデビュー曲、『シャボン』を聴いてください」
耳なじんだイントロとともにエンディングロールが始まると、5人が歌う「シャボン」(カラフル・パストラーレver.)が初公開で流れ始めました。
そうか、ユニット名だったんですね。ようやく最初の謎と伏線が、回収されました。
結論としては、誰がなんと言おうと、これは大傑作だと思います。
ご清聴、ありがとうございました。
(文/中里キリ)