毎年夏の終わり、スタジアムモードのさいたまスーパーアリーナを舞台に、3日間で8万1000人の観客を動員する世界最大のアニソンフェスが「Animelo Summer Live」(アニサマ)だ。2005年にスタートしたアニサマは今年で14回目を迎え、レーベルの垣根を越えてアーティストが集うアニソンの祭典として開催され続けている。
このモンスターイベントの裏側や、「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」のセットリスト、演出にこめた意図について、アニサマのゼネラルプロデューサーであり、総合演出でもある齋藤Pこと齋藤光二さんにたっぷりと語ってもらった。なお、アキバ総研では客席から見た演出に対する考察を今夏のアニサマレポートで行なっているので、時間がある方は答え合わせの感覚で読み比べてみてほしい。
⇒【プレイ・バック・アニサマ2018 その1】還る場所、敬意とともに見送る場所としてのアニサマ。「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」初日レポート
⇒【プレイ・バック・アニサマ2018 その2】声優だから歌える歌、アニソンアーティストだから歌える歌――「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」2日目レポート
⇒【プレイ・バック・アニサマ2018 その3】ありがとうとさよならを伝えられるのはきっと幸せなこと――「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」3日目レポート
──まずは入り口として、齋藤Pがアニサマのゼネラルプロデューサーとしてどういった役割を担っているのか、から教えてください。
齋藤 チケッティングや契約や運営などの足回りをやっているプロデューサーはほかにいて、自分はアニサマのクリエイティブを全て見るのが仕事です。セットリストはアーティストサイドのチームと一緒に考えながら決めていくのですが、それをどうライブ全体の大きな流れにしていくか、音楽の方向性をどうしていくかといったことを考えます。細かいことで言えばグッズやパンフレット、ライブBlu-rayの映像のディレクションも行ないます。本当にクリエイティブ周りは全部です。
──現場でアイデアを出しながら直接指揮を取るわけですね。
齋藤 そうですね。だから統括プロデューサーという肩書なのですが、ディレクター的な仕事も多くなります。演出は秒単位で制御されているのでリハーサルにももちろん全て立ち会います。こちらで全部考えるというよりは、アーティストサイドがやりたいことを吸い上げて、一緒に考えて調整しながら、全体でひとつのライブに仕上げていく工程になります。
──齋藤Pはアニサマ前後に限らず、年間通してアーティストの活動をチェックしたり、番組情報などアニサマにまつわる諸々を発信し続けている印象です。
齋藤 夏のアニサマにアーティストをブッキングするにあたって、タイミングが合うタイアップ作品があるかどうか、今後そのアーティストがどういった展開をしていくのか、といった情報を把握しておく必要がありますし、当然毎年登場する新しい作品やアーティストもチェックしなければいけません。トレンドをつかむためにアーティストを研究するし、アニメ作品も研究するとなると当然年間通しての仕事になります。
ブラスサウンドが今年のアニサマのトレンド
──ありがとうございます。それでは早速、2018年のアニサマについてうかがっていきます。2018年のアニサマの新たな要素といえば、FIRE HORNSの参加によるホーンセクションの生音の厚みが加わったことだと思います。
齋藤 まずきっかけは2017年に伊藤美来さんが出した「Shocking Blue」で、ブラスがバリバリ入っていてかっこよかったんですね。それで、もしも伊藤さんがソロでアニサマに出る機会があったら「Shocking Blue」を生バンドでやりたいなと思っていたんです。その後、たまたまGRANRODEOさんのライブで見かけたFIRE HORNSがあまりにもかっこよかったので、ひとめぼれでオファーしました。で、FIRE HORNSについて改めて調べてみたら「ジョジョの奇妙な冒険」の曲で吹いていたり、そもそも発端の「Shocking Blue」のCDのブラスはFIRE HORNSだったんですよ。いいホンセクを見つけたと思ったら、元々オリジナルの音源で吹いている楽器隊だったというお話です。2018年のアニサマの音のトレンドはブラスだと思っていて、それこそTRUEさんの「響け!ユーフォニアム」や初日オープニングコラボの「DISCOTHEQUE」など。以前はよくストリングスを配していましたが、今年はそれがブラスだなと思いました。大活躍でした、FIRE HORNS。腕も確かだし、人間的にも最高のミュージシャンたちなので、一緒に仕事ができて本当に楽しかったです。
──少し脱線しますが、弦をぜいたくに使う路線といえば茅原実里さんのイメージがあって、ライブ終盤の「Paradise Lost」で壮大な世界を作り上げて火柱ドーンみたいな。だから今年の「Remained dream」から「みちしるべ」というソロ2曲で描いた雄大で広がりのある、そしてやさしい世界がとても新鮮でした。
齋藤 「Remained dream」は冷たい雨に打たれるイメージだし、「みちしるべ」もしっとりとした感じですからね。茅原さんのステージがこの2曲で終わるというよりも、「みちしるべ」を歌い終えた茅原さんがポップアップ転換でTRUEさんと秘かにハイタッチをかわして、TRUEさんの「Sincerely」へとつなげる、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」楽曲を繋ぐ対になった構成なんです。茅原さんのロックパフォーマンスでぶち上がりたい人は、今回はMimorin×Minorin(三森すずこ×茅原実里)コラボの「JOINT」で爆発!という趣向でした。
──ステージの仕掛けで印象的だったのが、6枚の左右に可動するスクリーンを使った映像演出です。スクリーンを動かすことで1面の大型スクリーンにしたり、2面、3面、6面とアーティストによって使い方を変えていました。Aqoursの時は3面のスクリーンで3人ずつのフォーメーションを見せてソロライブ並の完成度の演出でしたし、i☆Risではメンバー全員のアップを6面のスクリーンで抜いたり。
齋藤 i☆Risの「Changing point」の時は、澁谷さんに「(6人ユニットの)i☆Risのためのスクリーンですよ」と言いました(笑)。あれはすごくハマりましたよね。2分割のスクリーンにすると、「ポプテピピック」のAパートとBパートを同時に表示する画面になりますし、3分割がハマったのはTrySailの「WANTED GIRL」。長い1面は「シュタインズ・ゲート」楽曲でパノラマっぽく使って空間の広がりを出す使い方などがありました。ライブは途切れなく続くので、スクリーン分割の転換を考え、ライブの流れに沿ってシームレスに動かすのに苦労しました。
──映像やレーザーを使った見せ方では、レン名義で出演した楠木ともりさんの「To see the future」での乱舞するレーザー光をバレットラインに見立てる演出は発明だったと思います。
齋藤 最初に藍井エイルさんが歌った「ガンゲイル・ オンライン」オープニングの「流星」では、1本のバレットラインが飛んだ先のセンターステージに藍井さんがサプライズで登場しました。バレットラインが乱れ飛んでエンディングの「To see the future」が来るのはそれと対になる演出ですね。実は今まで、アニサマにソロのキャラ名義で出演するケースってあまりなかったんですよ。楠木さんも大会場で歌う経験はほとんどなかったようなので、アニサマのお客さんは絶対ピンクのサイリウム振ってくれるよとか、曲調的にサイリウムをワイパーっぽく振ってもらうノリがいいと思うとか、最後ピーちゃん(レンの愛銃)を持ちましょうとか、いろいろご提案しました。
──AC部によるヘルシェイク矢野の紙芝居演出も、アニメ「ポプテピピック」が話題になった2018年ならではでした。
齋藤 実は最初は、(「ポプテピピック」に登場するネタの)ボブネミミッミでマナー動画を作っていただきたい、という企画がありまして。それをお会いしてご提案した際、逆にAC部さんから生で紙芝居でやりませんかというお返事をいただいたんです。面白いと思ったんですが、マナー動画の場合3日間やることになるので……。
──出オチ企画を繰り返すのはちょっと難しそうです。
齋藤 それでとっさに、ヘルシェイク矢野さんに出演を申し込みました。そして、彼らは芸術家ですから、中身についてはお任せしました。ご提案したのは東京ビッグ武道館という舞台をアニサマにしましょう、ぐらいかな。制作してもらってる間、スタッフたちに口頭で説明してもまったく伝わらなかったんですが、実際にリハでヘルシェイクを見たらみんなものすごく面白いとなって、特効やステージせり上がりなどの演出のアイデアがいろいろ出てきました。
歴史に残るユニットたちのアニサマラストラン
──今年のアニサマでは、ユニットとしての活動終了が決まっているWake Up, Girls!、ミルキィホームズ、DearDreamという声優ユニットのラストランの中にあるアニサマ、が注目されました。個人的な感覚では2013年~2014年頃、声優ユニットとしてのWake Up, Girls!にどこよりも早くメジャーなフィールドから注目して光を当ててくれたのがアニサマであり、齋藤さんだった印象なので、最後のアニサマは感慨深かったです。
齋藤 Wake Up, Girls!はアニメの企画書と待田堂子さんの脚本を読んで、アニサマ出演を賭けてみようと思いました。アニメの「Wake Up, Girls!」にはI-1アリーナという会場が登場しますが、あれは脚本の初期稿ではI-1ホールだったと思います。それをI-1アリーナにしましょう、動員数もSSAのスタジアムモードに揃えましょうということで、TVシリーズ1期のクライマックスのアイドルの祭典と、アニサマをリンクさせていったんです。アニメの中のWUGにとってはアウェイ、敵地であるI-1アリーナが、赤からWUGのイメージカラーである緑に変わっていく流れをアニメで描いて、それを現実のアニサマでもやりましょうと提案したんです。だから作品をよく見てもらえれば、アイドルの祭典のポスターのロゴは「2014 -ONENESS-」を模していますし、ステージのデザインは「2013 -FLAG NINE-」の要素が入っています。
──さいたまスーパーアリーナの舞台裏をある程度知っていると、「Wake Up, Girls!」のTV版、続劇場版などでのI-1アリーナの内部の背景がそのまますぎて面白かったです。
齋藤 会場許可をとって作画スタッフに内部を取材してもらってますし、ステージのCGデータなどもお渡ししているんです。
──それでエンディングのスタッフロールに協力として齋藤Pとさいたまスーパーアリーナのクレジットが入っていたんですね。2018年のアニサマ期間中は、さいたま新都心駅の改札脇一等地のポスターが、アニサマのセンターステージに立っているイメージのWUGの新章イラストでした。
齋藤 WUGの7人もアニサマは聖地として意識してくれていたと思います。去年の「2017 -THE CARD-」で田中さんが「WUG最高~!」と叫んでセンターステージへ駆け出すシーンでは、続劇場版「Wake Up, Girls! Beyond the Bottom」のシーンとカメラアングルを合わせました。今年のアニサマでは、アニメ「Wake Up, Girls! 新章」最終話で、全国でライブを行なっているアイドルユニットたちと衛星回線でつながって中継をした展開と、WUGを応援する「アイドル」たちから「OK!」のメッセージ映像が届くステージ演出を繋ごうと思いました。
──WUGはアニサマ2018については、最初はラストイヤーのアニサマ出演の予定はなかったのが各方面の尽力で実現した、と聞きました。
齋藤 出演が最後の最後に決まったのは事実です。だから実は「2018 “OK!” 」は、WUGが後から入った分、金曜日だけセトリが少し長いんです。アニサマバンドのまっしょいさん(ドラム)とイマジュンさん(キーボード)はWUGのライブでも演奏しているので、ほかのメンバーには申し訳ないけどあと1曲だけ追加で覚えてほしいと頼んで、「Polaris」は生バンドでやることにしました。レーベルさんとお話する中では、WUGの今年の出演は見送ろう、ということになっていました。私も一緒にやってきたWUGに対する思い入れはあるし、応援もしているけれど、最後だから、というウェットな理由だけで出演するのは違うだろうと思っていたんです。さまざまな要素をふまえて、プロデューサーとしてそう判断しました。でも実際に解散の事実が発表されてからのファンの声やさまざまな反応を見て、アニサマという場と、アニサマのファンもワグナーと一緒にWUGを後押しして、育ててきた面もあるんじゃないかと思ったんです。私を含めたアニサマも、ファンも、7人を見てきた育ての親は7人を見捨てないし、最後まで応援するぞという姿勢を示してもいいんじゃないかと思い立ち、こちらから改めて出演オファーを致しました。アニサマ出演発表を「Wake Up, Girls! FINAL TOUR」の開幕公演で(作中I-1クラブ支配人の)白木さんの口からサプライズで発表することも合わせてご提案させていただきました。
──では同じく解散時期が決まっていて、アニサマラスト出演となるミルキィホームズやDearDreamが同じ年に出演したことは、事前に意図したわけではなかった?
齋藤 意図していませんでした。ミルキィさんに関してはアニサマにずっと出続けて、三森さんも(ミルキィホームズのアニサマデビュー年から)アニサマ皆勤賞という縁もあって3組の中で最初に出演が決まりましたが、DearDreamは純粋に人気や実力でブッキングして、そのあとで解散の話を聞きましたから。ただ、実際にWUGとミルキィホームズの演出は鏡合わせになっています。WUGのメンバーたちがみずから詞を紡いだ「Polaris」は「Wake Up, Girls! 新章」の最終話を飾る楽曲で、「雨上がりのミライ」はミルキィホームズにとって始まりの楽曲です。WUGもミルキィも今年のテーマソング「Stand by…MUSIC!!!」作曲をお願いした神前暁さんに縁があるユニットなので、メッセージMCのバックに神前さんの曲をピアノで演奏するという送り出しをしました。
──初日と3日目のリンクは全く気づきませんでした。歴代のアニサマ出演時の映像を見せていく演出は、会場はもちろんステージ上のメンバーのみなさんの心にも響いている様子でした。
齋藤 WUGに贈るほかのユニットからのメッセージVTRや、アニサマ出演時の過去映像をメモリアルで流すことはメンバーに対しても本当にサプライズにしたかったので、本番用とゲネプロ(通しリハ)用にわざわざ2種類の映像を作っているんですよ。こういうの、映像が抜けたり、予想できないトラブルが起こりうるので、本当に怖いんです(笑)。ゲネで違うことをやってるわけですから。みんな感動してくれたので、やってよかったなと思いました。もちろん、映像の後のロングソロも、今のまゆしい(吉岡茉祐さん)ならうるっときても歌いきってくれるだろうという信頼がありました。
──ミルキィホームズの映像やメッセージの演出も齋藤さんからの提案だったんですか?
齋藤 そうですね。ミルキィの岡田プロデューサーに電話して、ピアノで「雨上がりのミライ」のフレーズを弾きながら、こういう感じのピアノに乗せてMCをやったあとで、生バンドで歌いましょうって提案したんです。話しながら電話の向こうで岡田さんが泣いてたのを覚えてます。それでミルキィはi☆Ris、ごらく部とかともコラボしてますから、そういう映像もプレイバックしましょう、先方もぜひぜひ、という流れでした。
──ミルキィといえば3日目のオープニング、 ミルキィホームズ&i☆Ris&上坂すみれ&東山奈央による「ANISAM A GO GO」には度肝を抜かれました。衣装も見るからに手と予算がかかっていそうで。
齋藤 お金かかってます(笑)。最初はミルキィホームズとi☆Risのコラボの予定だったんですが、東山さんご本人から「ぜひアニサマでコラボをやりたい」という希望があったんです。東山さんとi☆Risが仲がいいという話は聞いていたので、ここに入ってもらおうかなと。すみぺは今回、「ポプテピピック」の世界観を前面に出して1曲勝負をしたいという話になっていたのですが、やっぱりファンはもっと上坂さんを見たいじゃないですか。そこで、仲良し繋がりで芹澤さんに歌詞に合わせてこの2人を呼びこんでもらう形にしました。で、どうせやるなら全員にミルキィの元祖探偵服を着てもらおうと。実はこれには裏話があって、東山奈央さんが2010年の「エリーを探せ! ミルキィホームズ 声優オーディションツアー」に応募していたそうなんです。選考の日と大事な試験が重なってオーディションには参加できなかったそうなんですが、東山さんの探偵服を緑(※エリーの色が緑)指定にしたことをとても喜んでくれていました。アニサマのコラボに関してはこのユニットとユニット、この人とこの人がからめば面白い、という決め打ちで作っていくのが基本なんですが、東山さんの話のように予期せぬリクエストでピースがハマることもよくあるんです。
──Poppin’Partyの大塚紗英さんと西本りみさんがギターとベースとして黒崎真音さん、春奈るなさんとコラボしたのは新しいコラボの可能性を感じました。
齋藤 彼女たちは「バンドリ!」の楽曲演奏もあるわけだから本当に大変だったと思うのですが、最高のステージを見せてくれましたね。Poppin’Partyに「God knows…」を演ってもらったのは、やはり「涼宮ハルヒの憂鬱」の「God knows…」があって、「けいおん!」があっての流れの先に「バンドリ!」があると思ったので。大塚さんがあのギターのソロプレイをやりきってくれたのは本当に嬉しかったです。
──現地映像が超絶ギターソロパートで大塚さんの手元をアップで抜いていたのには、信頼を感じました。
齋藤 Poppin’Partyには前回出演して頂いた際に、さいたまスーパーアリーナのような大会場で映える演奏の見せ方についてアドバイスをしていたんです。そんな彼女たちが単独の日本武道館ライブを成功させて、武道館アーティストとしてアニサマに戻ってきてくれたのは嬉しかったし、信頼はありますよ。演奏も素晴らしいし、魅せ方もちゃんとわかっていますから。
──アニメやユニットの歴史をふまえたカバー選曲という意味では、スタァライト九九組の「檄!帝国華撃団」も近い位置づけだったのでは。
齋藤 ミュージカル仕立てで本人たちがステージで歌う、華やかで宝塚歌劇っぽいテイスト……というのは、間違いなく「サクラ大戦」の系譜ですよね(※サクラ大戦スーパー歌謡ショウのこと)。個人的には「少女革命ウテナ」のテイストも感じました(※「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の古川知宏監督は「少女革命ウテナ」の幾原邦彦監督のもとで制作していた経験がある)。「檄!帝国華撃団」はオケから自前で準備しました。アニサマ視点では、武器を持って歌うのがそもそも面白いと思いました。楽器を持つ人はいても、武器を振り回して歌うスタイルが今までなかったので、ぜひやってほしかった。「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は企画が立ち上がったときから、三森すずこさんをはじめとした実力派が揃っているので注目はしていました。実際に見てみないとわからないので舞台を見に行ったんですが、非常に可能性を感じると同時に、舞台のミュージカルの限られた尺だけで物語を全部伝えるのは難しいかもしれないと思いました。ブッキングの時点ではまだアニメはティザームービーしかなかったんですが、すごく光るもの、ポテンシャルを感じたので期待も込みでオファーしました。結果としてアニメが作画も物語も素晴らしいものだったのでヒットしたんだと思います。
“声優×アーティスト”だからこその表現
──「アイドルマスター ミリオンライブ!」に関連した構成についてうかがいたいのですが、まず、昨年の「ミリオンライブ!」のライブのクライマックス、おいしいところだけ抜き出したようなメドレー構成に比べると、今年は全体曲→属性曲メドレー→全体曲という王道構成になった印象です。
齋藤 ランティスのえいちP(保坂拓也氏)とは個人的にかなりつきあいが長いので、2017年に「ミリオンライブ!」が出演することが決まった時点で、アイマスのライブ演出のJUNGOさんを交えていろいろ相談していました。参考にするために2017年3月に日本武道館であったライブ「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!」を見に行ったんですが、アニサマPの視点で見ると田所あずささん、Machicoさん、伊藤美来さん、駒形友梨さん、山崎はるかさん、愛美さんなどなど、とにかくソロアーティストとしても実力ある人が並んでいる印象だったんです。ただ、2017年の時点では、アニサマの場で初めて「ミリオンライブ!」のステージを見る人も多いと思ったんです。それで、えいちPと話していたコンセプトが、プロデューサーさんを殺しに行くセトリ。楽曲的にもメンバー的にも強い楽曲をこれでもかと並べて、武道館で見せたミリオンスターズのライブを凝縮したものをアニサマに持ってこようとしたんです。イメージのベースには、2016年に「アイドルマスター シンデレラガールズ」でやった「ミツボシ☆☆★」「ØωØver!!」「Tulip」「Trancing Pulse」「S(mile)ING!」のメドレーがありました。あれも、強いセットリストだったでしょう? あとは個人的には、愛美さんのギターを見たかった。Poppin’PartyでESPを弾く彼女を見ていたので、ジュリアとしての愛美さんがレスポールジュニアを弾く姿をアニサマで見たかったんです。
──「プラリネ」から「アイル」という、普通フェスでは考えられない切り札を投入した理由がわかりました。2018年は、それぞれがアニサマに出てもおかしくない、そして実際に出演しているミリオンスターズの個が束になった、チームとしての強さにフォーカスして流れを作った感じでしょうか。
齋藤 日本武道館、さいたまスーパーアリーナで単独ライブをやったこと、そして前年一度アニサマのステージに立ったことで、「ミリオンライブ!」の圧倒的なパフォーマンスはある程度認知されたかなと思ったんです。なので今回見せたかったのはユニオンとして、全体での強さですね。
──3日目の「ミリオンライブ!」の出番と同日、TrySailとは別日に麻倉ももさん、雨宮天さん、夏川椎菜さんのソロをサプライズで持ってきたのも、全体の中の個を光らせる狙い?
齋藤 あの3人が「ミリオンライブ!」の中に内包されているのはものすごくぜいたくな話だと思うんですよ。その感覚や驚きも同時に伝えたかったというのはあるかもしれません。TrySailとしての明るく楽しいステージと、3人それぞれのソロステージ、そして「ミリオンライブ!」のアイドルをまとったステージでは全く表現や見せ方が違うという、声優アーティストのすごさを見せたかったんです。TrySailの3人には、パンフレットの撮影の時にソロでやりたいことを聞いてギリギリまで詰めました。雨宮天さんのすごいドレスは先方からの提案で、スカートだけで25メートルぐらいあったんですよ。
──“声優アーティストの表現の多様性”という意味では、まさにそれを体現していたのが2日目の悠木碧さんだったと思います。
齋藤 悠木さんこそ、(レーベルの垣根を越える意味での)ひとりアニサマだと思うんです(笑)。悠木さんソロ名義の2曲は日本コロムビア、「幼女戦記」のターニャ・デグレチャフはKADOKAWA(メディアファクトリー)、petit miladyならZERO Aなので。それぞれのスタッフがレーベルを超えて彼女をサポートしているんですよね。あれだけの表現を可能にしているのは、悠木さんの歌のベースに演技がある、役者が歌っていることだと思います。彼女が菊池亮太さんのピアノ演奏で歌う姿の向こうには森が見えたし、ターニャ・デグレチャフとしてあの演説をして、サプライズのpetit miladyではヘッドバンギングをする。
──fhánaのステージで竹達さんがただお肉を食べるコラボも、違うベクトルでインパクト抜群でした。
齋藤 お城を抜け出したカロリーQueenがCafe de fhánaに来店して、お付きのTKT29(竹達29)が探しに来る趣向です。あれは、ステージサイドで本当にA5ランクの肉を焼いて、本当に食べてるんですよ。めちゃくちゃおいしいお肉ですよ。
──そんな裏話があったんですね。しかし、アニサマはご飯がおいしいってみんな言いますね。たしかアイマスが、アニサマのご飯がおいしかったから、ライブで力を出してもらうためにホットミールを用意するようになったという話だったと思います。
齋藤 アニサマのご飯は本当においしいですよ。アニサマきっかけでホットミールを用意しようと思ったって話はほかのアーティストからも結構聞きます。アイマスの話はたぶん、石原章弘さんがアイマスにいた頃のことですよね。石原さんと僕はわりとノウハウを盗みあってると思います(笑)。
アニサマの“MONSTER”
──初日のセットリストには華やかな女性アーティストが並ぶ中、トリのOLDCODEXのTa_2さんが自らアウェイな環境を強調して、アニメとアニソンに対して持っていた複雑な想いを吐露した一連のMCはハラハラしましたし、そこからパフォーマンスの熱さとパワーで会場を自分たちのホームにしてしまった姿には驚かされました。
齋藤 一瞬ハラハラしましたよね。でもあの流れで観客の心をつかんだ。そういうTa_2さんの想いもあって、今回のアニサマのOLDCODEXは全ての楽曲でアニメの映像やタイトルをスクリーンに出して、作品を背負ったパフォーマンスを見せてくれました。当日のゲネリハでTa_2さんは出演者全員で会場に挨拶に行く時の動き方を提案してくれたり、全体を自然に仕切ってくれていたんですね。そういうフェスのトリにふさわしい姿勢や振る舞いは前回から大きくなった部分だと思います。昔のOLDCODEXは自分たちのロックさを貫いて、観客と対決するようなイメージがあったんです。でもリスアニでOLDCODEXを観た時に、客席とのやりとりを楽しんでいて、MCからも観客に対する感謝をすごく感じたんですね。それで「あ、OLDCODEXにアニサマのトリを任せたい」と思ったんです。
──そして最終日、JAM Projectがアニサマに還ってきました。
齋藤 ご存知のようにJAMさんはアニサマからの卒業を発表していたんです。ただ、2014年の「ONENESS」にはコンセプト的に(アニサマ立ち上げメンバーである)奥井さんや影山さん、JAMの存在が不可欠だったので、僕から頼みこんで出演いただきました。そこから4年はあいていますが、実は毎年今年はどうでしょう?という「光線」は出しているんです。JAMに限らずどのアーティストにしても、こちらがどんなに出てほしい!と思っても先方のポリシーやスケジュールがあるものなので、毎年断られることを前提に儀式のようにオファーをかけ続けているアーティストもいるんです。今回は女性アーティストの比率が高いと感じたこともあって、ここにJAMの力強いアニソンが欲しい!と思ったので、誠意をもってお願いしてご出演いただきました。今回まずJAMにお願いしたのは、ライブテーマがOKなので、アニメ「ワンパンマン」の「THE HERO !! ~怒れる拳に火をつけろ~」でサイタマをKOしてほしいということでした(笑)(※ワンパンマンの主人公は最強のヒーロー・サイタマ)。
──曲冒頭から、福山さんの魂のこもったボーカルでKOされました。JAMの皆さんから要望や、やりたいことというのはあったんですか?
齋藤 今の若い人たちにがんばっているところを見せたい、今のJAMがここまでやるんだというところを見せたいという熱を感じました。それで登場したのが、JAMの皆さんにそっくりなメンバーによる伝説のバンド「THE MONSTERS」だったんです。もう出落ちでもいいからバンドとして出て、演りきりたいと。楽器で「Snow halation」の猛練習をしていました。ゲネプロの時点でほかの出演者にはネタバレしてしまったので、ステージが見える位置まで来た三森すずこさんと徳井青空さんが感激で泣いたとも聞きました。THE MONSTERSにμ’sのメンバーだった2人が感激した話と、三森さんが昔ブログに「モンスターになった日」というタイトルで書いた記事を合わせて読むとストーリーが繋がると思うので、知らない人は検索して読んでみてください。
――それでは最後に、改めて2018年を振り返ってのひと言と、2019年のアニサマに向けての意気込みをお願いします。
齋藤 OK!というシンプルでポップなテーマと思いきや、エモサマと言われるくらい感動的なステージも多く、アニサマ2018も素晴らしいコンサートになったと思います。それぞれの日に集まるアーティストさんもお客さんも一期一会の関係で、音楽は一瞬ですがその感動や記憶がずっと続くようなステキなイベントになるよう来年もスタッフ一同がんばりたいと思います。
──本日は長い時間、本当にありがとうございました。
(取材・文/中里キリ)