2018年も非常に多くのTVアニメ、劇場アニメが放送されました。今回は、アキバ総研でアニメを担当するライター陣に集まってもらい、座談会形式で今年のアニメを振り返ってみたいと思います。
【座談会参加者】
清水耕司 ベテランのフリー編集・ライター。漫画・アニメ・音楽・アイドルといったエンタメ中心に、テクノロジーやアカデミックな業界からエロまで、あらゆる書籍・記事制作を請け負う。
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塚越淳一 フリー編集・ライター・撮影。アニメ誌、声優誌で、取材やインタビュー記事を執筆。
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タナカシノブ フリーライター。映画、アニメ、ファッション、コスメに関するイベント取材やインタビュー記事をWebや誌面にて執筆。さまざまなジャンルを手がけるため、サブカルチャーとのコラボものに興味あり。
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中里キリ フリーライター・撮影。アニメ誌、声優誌などでイベント取材やインタビュー記事、コラムを執筆。専門はアイドル物など、声優自身がライブや舞台にも立つ2.5次元コンテンツ。
2018年アキバ総研・本人的イチオシ記事:【舞台少女たちは実は◯◯◯していた!? 第7話で衝撃展開の「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」小泉萌香(大場なな役)×中村彼方(作詞家)最速対談インタビュー 】
編集A アニメ担当編集。時々取材・ライティングも担当。富野アニメと国府田マリ子で人生を踏み外して数十年、今日もジャンルレスにアニメを楽しんでいます。
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2018年のアニメ作品、ライターたちの印象に残ったのは?
編集A 今回は2018年に制作されたTVアニメ作品や劇場アニメ作品、声優さんや出来事なども含めた2018年のアニメ業界について、ライターの皆さんに振り返ってもらうスペシャル企画です。リストを作ってきたんですが、把握しているTVアニメ作品だけで239タイトルあります。
タナカ にひゃく、さんじゅうきゅう? そんなにあるんですか!?
編集A 網羅する目的の企画ではありませんので、皆さんの印象に残った作品を振り返ってもらえれば大丈夫です! ではそれぞれ、今年の注目作品、一押し作品をあげてもらえますか?
中里 僕は今年はやっぱり「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」ですね。
清水 へー、意外。
中里 清水さんには、僕はアイドルアニメをあげると思われていたと思うんですが、今年は僕の守備範囲のアイドル作品は「アイドルマスター シンデレラガールズ劇場 3rd SEASON」「アイドルマスター SideM 理由あってMini!」などのミニアニメのターンが多かったんです。
清水 「BanG Dream! ガルパ☆ピコ」もそうですね。
中里 ですです。ソーシャルゲームアプリ、CD、ライブを含めた長期展開を前提にしたショートアニメというのは間違いなく今年の流れのひとつだと思うのですが、単体の作品として、個人的に作品の世界にがっちり入りこんで追いかけたのは「スタァライト」でした。
編集A うちの記事的にも「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はかなりの反響がありました。
中里 「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はミュージカルとアニメで同じキャストが演じる“二層展開式”作品なんです。
清水 「スタァライト」は監督さんも脚本さんもていねいな仕事をされていたので面白くなりますよね。
中里 古川知宏監督は幾原邦彦監督の直弟子なんですけど、御本人はアニメに関しては90年代、「新世紀エヴァンゲリオン」以降の作品のエッセンスを吸収してきた方で。その古川監督の創作衝動やあふれるアイデアを、シリーズ構成の樋口達人さんがうまく翻訳してチーム全体で共有している感じなんです。今の時代は、2期制作やアプリ展開を考えて、TVアニメのラストは比較的ふわっとさせる終わらせ方が主流だと思うんですが、「スタァライト」は1クールのアニメとしてしっかり構成して、彼女たちの物語にひとつの決着をつけました。こういう骨太で完成度の高いオリジナル作品は応援しないといけないなと思います。
塚越 僕は「ひそねとまそたん」と「ダーリン・イン・ザ・フランキス」ですね。
編集A ボンズとTRIGGERですね。
塚越 僕は(「ひそねとまそたん」制作の)ボンズアニメが昔から大好きですし、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」はTRIGGERとA-1 Pictures(現CloverWorks)の共同制作の作品で、どちらの会社の作品も好きなんです。「ひそねとまそたん」はすごくよくできていて、あのかわいい絵で、あそこまで大作感があるものを作ってくれたのが素晴らしいです。樋口真嗣総監督の采配の妙というか。ギャップの作り方がうまいし、その生かし方のバランス感覚がすぐれているなと思いました。青木俊直さんの絵に、岡田麿里さんの脚本をぶつけようとは誰も思わないですからね。
中里 「ダリフラ」は矢吹健太朗さんのコミック版もいいですよね。あの作家さんに、この作品を持っていくセンス。
塚越 「ダリフラ」に感しては、錦織敦史監督の作家性がすごく出ていた作品だと思いますし、それをすごく豪華なスタッフで再現したところが面白いです。アニメーターとしても超一流である錦織さんが監督で、これまた超一流の田中将賀さんがキャラデザとして総作監をする。お2人の原画集を眺めるだけで興奮する僕からすると、これだけでも胸熱なのに、絵コンテを担当している人がみんな監督クラスですから。スタッフについてだけでもひと晩語れる気がします。
中里 僕はガイナックス作品育ちなので、駆け出しだった頃に制作会見を取材した「天元突破グレンラガン」(錦織監督がキャラクターデザインほかを担当)がすごく印象的なんですよね。錦織さんは僕的には「THE IDOLM@STER」のTVアニメと劇場版を素晴らしい作品にしてくれた恩人だと思っているので、あげていただいてありがとうございます。
編集A TRIGGERというと、「SSSS.GRIDMAN」も大きな話題を呼びましたね。同スタジオのルーツともいえる特撮演出を取り込んだセカイ系、という「エヴァ」以降ありそうであまりなかったアプローチが若い世代に当たった印象です。最終話の実写パートは、まさに「エヴァ」旧劇場版じゃないかと(笑)。
塚越 あとは「よりもい」(「宇宙よりも遠い場所」)ですね。
編集A ニューヨーク・タイムズにも絶賛された作品ですからね。まさか世界に羽ばたくとは。
清水 当然の評価です。
塚越 今年はその3本が大きかったと思います。冬のアニメは最終話を見てないので、あげてませんけど。
編集A 「よりもい」が放送された2018年1月期は、ほかにも「ゆるキャン△」「ポプテピピック」などがあって、今思えば豊作でしたよね。
中里 1月新番組では事前注目度はそこまで大きくなかった「ゆるキャン△」が大ブレイクしたのが大きいと思っていて、注目作品を自分で見つけだして広く共有したい、という感覚は「けものフレンズ」とかにもつながる流れなのではないかと思うのですが、どうでしょう?
塚越 「ゆるキャン△」はその流れとは違う気がしますけど。
清水 「まんがタイムきらら」作品ですからね。きらら作品は打率が高いので、ある程度の評価が得られるのは固いと思ってた人が多いんじゃないでしょうか。
中里 まさに打率が高い作品で、こんなホームランになると思っていた人はあまりいなかったと思うんです。
清水 作りとしては手堅い原作の手堅いアニメだと思います。きらら系で本当に衝撃的だった「けいおん!」は、ゆるい日常アニメの4コマ漫画をああいうストーリーのあるアニメ作品に作り上げた点が新しかったので。その意味では「ゆるキャン△」はきらららしいスタンダードな作品で、求められているものを正しく把握して供給したと思います。
中里 きらら系の王道を行く「ゆるキャン△」があって、百合系だと「citrus」とか、ちょっとニッチなジャンル系だと「りゅうおうのおしごと」や「ラーメン大好き小泉さん」のような良作もあって、バラエティに富んでましたね。
清水 今はニッチなジャンルを攻めるのが大手ジャンルみたいなところもありますね。
中里 僕はネットで将棋の対局中継をよく見るんですが、普段あまりアニメと接点のない将棋プロの方々が「そういえば、『りゅうおうのおしごと』が話題です」みたいに話しているのが新鮮でした。「りゅうおうのおしごと」は将棋の中でもさらに小学生は最高だぜ!系のニッチなので、将棋プロの方が将棋普及の観点から紹介するなら「3月のライオン」とかのほうが間口が広いのでは、とは思うのですが……(笑)。
清水 まぁそうですね。「3月のライオン」も将棋漫画か、といえばちょっと疑問がありますが(笑)。
塚越 途中から、かなり人間ドラマに振りましたからね。
中里 家庭問題とかいじめとかの流れが結構ありましたね。将棋というよりは棋士の生き様漫画だと思います。羽海野チカ先生のようなやさしくて善良を絵に描いたような人から、ああいう苛烈なキャラやヘビーな物語が生まれるのは面白いです。
清水 それは「ハチミツとクローバー」の時から思ってました。羽海野先生の同人誌とか読むとすごくセンチメンタルでダウナーな感じなので、そこが本質の人で、コミカルな部分はかなりがんばって生み出しているんじゃないかと思います。
編集A 羽海野先生談義になっているので、そろそろ清水さんの今年のアニメをお願いします(笑)。
清水 今年のアニメで言えば、ダントツで「よりもい」です。追随を許さない作品です。放映前は「南極探検? すごくいい!」という個人的な好みだけで気にはしていましたが、さっきの話じゃないけどヒットは難しいかと思っていました。ニッチなうえに、ちょっと日常から距離感がある題材じゃないですか。将棋よりもさらに遠い。でもそれを制作者の力量で人気と評価をたぐりよせたのが「宇宙よりも遠い場所」だったと思います。ただただひたすらにストーリーと演出がいい作品です。
編集A 南極に着くのがゴールではなくて、その続きがある二段構成がいいですね。監督はいしづかあつこさんですね、「さくら荘のペットな彼女」とかの。
清水 「ノーゲーム・ノーライフ」でブレイクしましたね。
中里 個人的には「ハナヤマタ」がすごく好きです。
塚越 「ハナヤマタ」は自分も好きですね。「よりもい」でこんなに面白い作品を作る方だったんだと改めて再評価した感じです。とにかく「よりもい」は演出のよさが際立ちました。
清水 いしづか監督やシリーズ構成の花田十輝さんたち、クリエイターが本当に作りたいものを作りきった作品だと思います。
中里 やっぱりクリエイターの作家性と完成度が両立した作品は、見ていても取材しても面白いですね。
編集A 続いて、タナカさんの注目作品も教えてください。
タナカ みなさんが見てきたアニメの数や幅の広さに、すごいなーと思いながらすっかり聞き役になっていました(笑)。夏に取材していた「Back Street Girls -ゴクドルズ-」は楽しく見てました。私はダークな世界が大好きで、その中で役者さんの声が聴きたい人間なので、「デビルズライン」とかすごく楽しんでました。「デビルズライン」は漫画のメインストーリーに入る前に終わってしまったので、2期とか見たいんですが、どうなんでしょう? 女性が好きそうな作品なのに、もっと人気が出ないのが不思議です。
中里 タナカさん的に今年、声の面でよかった人っていますか?
タナカ 私は声優さんというより、役とセットでこの役の声が好き、という見方です。小野大輔さんは今まではいい声の人だな思ってたんですが、「ゴクドルズ」で山本健太郎役の小野さんのドスが効いた声を聞いてすごくいいなと思いました。情報収集も兼ねてなるべく多くのアニメを見るようにしているのですが、え、そこで終わっちゃうのって作品が多いんですよね。
編集A そこはさっき中里さんが話していた、2期や劇場版、スマホアプリなどの展開を見据えた含みを残す終わり方ですね。
タナカ だから自分的には最後まで見た!という実感がある作品があんまりないんですよね。今期は「BANANA FISH」にどっぷりとハマっています。私は漫画やアニメにあまり触れずに育ったため歴が浅いので、「何かオススメはありますか?」と聞くことが多いんです。すると男性にすごく勧められるのが「BANANA FISH」だったんです。少女漫画原作で、男性がおすすめする? 本当かなあと思っていたんですが、アニメ第1話で見事にハマりました。今はもうサントラのイントロを聴くだけで泣けます。
塚越 原作コミック好きからすると、アニメはかなり女性向けのテイストにしたのかな、と思いました。
清水 そもそも吉田秋生さんの原作コミックがすごくいいですから。予備知識のない人でも引き込まれる物語ではあると思います。
名作アニメのリメイクブーム、作品のテーマ性について
編集A 「BANANA FISH」に限らず、最近は過去の名作を掘り起こすタイトルがものすごく多いですね。
タナカ 私はみんなが見てきた名作に関する知識がないので、そういうムーブメントはすごくありがたいです。当時はこういう風に盛り上がっていたんだな、と思いながら見ています。
塚越 個人的にはリメイク前の最初のアニメやコミックも見てほしいです。今年の大作リメイクに「銀河英雄伝説」がありますが、新旧どちらのよさもあるので、どうせならどちらも見てほしい。
中里 OVAの「銀河英雄伝説」第1期スタートが確か30年前ですよ。10年以上かけて百何十話のエピソードをリリースするスケール感や、今や神々という感じのキャスト陣の重厚さはやはり真似できないものがありますが、新作も梅原裕一郎さんのような新世代がすごくハマっています。
タナカ 今、個人的にそういう名作の歴史を遡っているところなので、おすすめの作品があったら教えてください。
中里 このタイミングだと、実写映画化された「ママレード・ボーイ」でしょうか。
清水 今言おうと思ったところです(笑)。あとはやっぱり「フルーツバスケット」でしょう。新旧見比べたくなる作品です。
タナカ すごく興味があります!
編集A オタクの会話だとやっぱり本田透役は堀江由衣さんがよかったとか、そういう話になりますよね。
中里 透のイメージと堀江さんの新人時代のイメージが強固にからみ合っているので、なかなか難しいですね。主題歌は岡崎律子さん以外考えられないとか、ファンのこだわりの深いところに刺さっている作品だと思います。
清水 ただ、「すべて新しいメンバーで作ってください」が原作者・高屋奈月さんの意向でしたからね。
中里 リメイク前のキャストの関智一さんが、新作の島﨑信長さんに暖かい言葉をかけていたやりとりが印象深いです。
編集A ほかにも「キャプテン翼」「封神演義」などなど、過去作のリブート、リメイク作品をあげればキリがありません。「からくりサーカス」も10年以上前に完結した作品を、今アニメ化するということで近い立ち位置ではないかと。
中里 単純にリブートして作り直すだけじゃなく、最近のエイベックスの「おそ松さん」や「深夜!天才バカボン」のように作風やターゲットを変えてくるパターンもありますね。
塚越 それだけアニメ化できるタイトルの弾が少なくなっているということだと思います。いや、アニメの本数が多すぎるのか。
清水 ちなみに編集Aさんの印象に残ったアニメはなんですか?
編集A かぶって恐縮ですが「宇宙よりも遠い場所」です。あとは「ゾンビランドサガ」。出オチ系のバカアニメかと思いきや、笑いあり、涙あり、シリアス展開ありの幕の内的なエンタメ大作でしたね。Cygamesが企画発起人となってスタートした作品なんですが、今後はこういう資金力のある別業種の企業がきちんと予算と時間と手間をかけて面白いアニメを作るという流れもあるのかなあ……と思いました。
中里 元々エイベックスにいた田中宏幸プロデューサーが、サイバーエージェントに移籍というか、転職したんですよね。なので田中さんが古巣のエイベックスの音楽プロデューサーの村上貴志さんたちと一緒にアニメを作っているというのが、個人的にはなんだか不思議な感じがして面白い座組です。出オチというのは言い得て妙で、一話の冒頭で車にハネられて警官に撃たれての時はなんじゃこりゃと思ったんですが、どんどん正統派アイドルアニメの文脈に突き進んでいって、引きこまれました。宮野真守さんの怪演に代表されるギャグとアイドルと佐賀の配分が絶妙でした。
編集A もう一つ外せないのは「HUGっと!プリキュア」ですね。15周年というアニバーサリーなこともあって。
清水 「プリキュア」はテーマ的にものすごく攻めていますよね。
編集A 主人公のはなちゃんが子育てをするというストーリーなんです。
清水 「ママは小学四年生」を思い出しますが(笑)、「HUGっと!プリキュア」はサブテーマとして育児、ブラック企業、LGBTとかも入ってきます。ホント、攻めてますよ。
タナカ 子供向けアニメじゃないんですか?
編集A 現代社会を織りこんで、佐藤順一監督の作家性を前面に出しながら、エンターテインメント性と両立しているのがいいんです。
中里 個人的には、ちょっとそのテーマ性が大上段すぎまいか、という感覚があって。すごく好きな作品だしいいテーマだけど、たとえば朝日新聞にそこだけ抽出してプリキュアとLGBTを結びつけた記事が載ったりすると微妙に違和感があります。
清水 大手メディアが取り上げる時って微妙にタイミングがズレてしまうよね。作品自体でいえば、子供向け作品だからといって控えめにするのは違う気もするし、難しいテーマだったと思います。でも、今回振り切ったことで、次シリーズ以降、王道をやりやすい空気にもなっているんじゃないですか。
編集A でも僕らが小さい頃から見てきたアニメも結構そういう面があって、「無敵超人ザンボット3」なんて人間爆弾が爆散してたじゃないですか。「新世紀エヴァンゲリオン」だって、今考えればよく18時から放送できたなって思います。もともとアニメって子供に向けた作品作りをしながらも、そのいっぽうで尖った表現や作家性を忍び込ませることでハイブリッドな魅力を生み出すという豊かなものだったはずなんです。深夜アニメには深夜帯ならではのエッジな表現があると思うんですが、今でもニチアサみたいな子供向けアニメにもそれだけ尖った部分があることに、アニメもまだまだ捨てたもんじゃないぜと思います。
清水 キャラクター造形に関しては、深夜アニメのほうが保守的な面はあるかもしれません。
編集A 男の子がプリキュアになったりして、にわかにLGBT問題と繋げて話している方もいますが、もともと「プリキュア」シリーズって男装系のキャラクターは多いんですよね。
中里 「美少女戦士セーラームーン」には、セーラーウラヌスとかセーラースターライツとか、性別周りがミステリアスなキャラクターがうじゃうじゃいるんですよ。だからそのあたりの感覚は東映ヒロインアニメに脈々と受け継がれているものなのかもしれません。
編集A 通常運行の東映アニメとも言えますね。先入観がない子供相手だからこそ、冒険できるんだと思います。
注目の劇場アニメは?
編集A 続いて2018年のアニメ映画はどうですか?
清水 今年はやっぱり「若おかみは小学生!」になるんじゃないですか?
編集A やっぱりそうなりますか。「この世界の片隅に」のヒットにも通じるものがあると思ったんですが。
清水 「よりもい」もそうですが、いいものを作ればちゃんとヒットするという流れができてきたのかなと思います。
中里 劇場アニメについては、よくできた作品がクチコミで広がってロングランになる形ができてきたのかもしれませんね。「若おかみは小学生!」はジブリ作品に数多く参加している高坂希太郎監督で、実際最初に出たポスタービジュアルはすごくジブリっぽいんですが。でも公開タイミングで出した新ビジュアルは、原作の児童小説の表紙に寄せた感じの、児童向けアニメのテイストなんですね。正直、小さな子供連れの家族以外にわかりやすくアピールするビジュアルではなかったと思うので、欲がないというか、それもある意味戦略なのかもと思いました。
清水 よくあの作品を映画にしたと思いますよ。自分は原作小説から見ていて、これはいいと思っていたんですが、公開前にそう話すと意外な顔をされることが多かったです。人気声優がたくさん参加して豪華とか、そういうキャッチーな要素以外でもヒットの道が開ける土壌になってきたのはありがたいことだと思います。
編集A 個人的に印象に残った劇場アニメは「さよならの朝に約束の花をかざろう」ですね。岡田麿里さんの家族や母親に対する、エゴイスティックでどろどろした愛憎をストレートにつめこんだ作品だと思います。
タナカ それらも男性編集さんにオススメされることが多かった作品ですね。
編集A 見る側もすごく体力を使うんですが、最終的に見てよかったなと思える作品でした。
塚越 岡田麿里さんのリアルな人間描写とかが大好きで、特に感情の動き方とかが本当にうまいなぁって思うんですが、岡田さんファンタジーも好きなんですね!って思うくらいのファンタジー大作だったので驚きました。初監督作品ですごいものを作るなぁって思ったし、面白かったです。個人的に劇場アニメをあげるなら、「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」がよかったです。「マクロス」シリーズの定番であるTVシリーズから劇場アニメ化の流れが「マクロスΔ」では今までなくて、ワルキューレのメンバーもライブのMCでそのことを話していたんです。ようやくそれが形になり、次には完全新作の劇場版を制作するまでに至った。これはやはりワルキューレというユニットの力が大きいと思っていて、完全にワルキューレの勝利だなと思います。そういう現実のドラマを含めて、とても思い入れが強いです。
タナカ 私は「ペンギン・ハイウェイ」が面白かったです。「ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-」も見に行ったんですが、私が入った劇場で、エンドロール後に「なんじゃこら!」って叫んでいるおじさんがいたのが印象的でした。その回で見ていたのはほとんどが年配の方で、子供向けの作品だと思っていたので意外でした。
編集A 「ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-」は短編集で、元々高畑勲監督にも1本作ってもらう予定だったそうです。でももう、ヒット作=スタジオジブリという幻影はそろそろ忘れたほうがいい気がします。
塚越 宮崎駿監督は神だから、真似できるものじゃないですよ。「若おかみ」の高坂監督のように外に出た人のほうが成功している気がします。
編集A 業界全体として、ポスト宮崎を作らねば、という空気は一時期ありましたよね。
塚越 それは細田守さんであり、新海誠さんになるのかなぁ。
清水 新海さんは「映像」の人で、「君の名は」のヒットはプロデューサーの川村元気さんに由来すると言っていいんじゃないかと思っています。
中里 フェティッシュで癖が強いクリエイターに、マスに届くものを作ってもらうプロデューサーの存在が大事なのかもしれません。
編集A 乱暴な言い方ですけど、宮崎さんも鈴木敏夫さんがいなかったら飛行機と美少女ばっかり描いてたかもしれないですよね。
塚越 僕は、飛行機と美少女だけの作品が大好きですけど。
中里 作品性としての宮崎駿さんの後継者は庵野秀明さんかもとも思います。
2Dと3DCGアニメーションのこれから
清水 2018年のアニメ全体を振り返るという意味だと、アイドルアニメというジャンルはそろそろ飽和しつつある気がするんですが、中里さん的にはいかがですか。
中里 まず前提として、画面の中に多人数の美少女が登場して、歌って踊るという作品は見る側が思っている以上に作画カロリーが高いんです。「ウマ娘」もそれに近い大変さがありますね。界隈でミニアニメが増えているのも制作カロリーの高さの裏返しだと思います。だからそういう、ある意味ぜいたくな作品は、スマホアプリとセットで長期的に展開して、資金力と物量でサポートしないとなかなか戦えないんですね。ジャンルとして飽和しているとすればアイドルのアニメではなく、アイドルをテーマにしたアプリとリアルライブの世界で、「アイドルマスター」と「ラブライブ!」、それに続く「Tokyo 7th シスターズ」あたりがあまりにも強すぎるんです。
清水 プロモーションや設定を作ったり、実制作までに積み上げる作業を考えると、ミニアニメはむしろ効率が悪いという人もいます。
中里 コストに関してはスマホゲームや楽曲コンテンツ、ライブ等のトータルで吸収する感じだと思います。実はミニアニメが多いのにはアイドルゲームならではの理由があって、1クール、2クールのアニメで、ストーリーの本線で描ける人数って限界があるんですね。「アイドルマスター シンデレラガールズ」の1期はシンデレラプロジェクトの14人をメインに置きましたが、ゲームには200人近いアイドルが登場するんです。そのそれぞれにプロデューサー、ファンがいるけど、全員を出すわけにはいかない。ミニアニメなら重厚なドラマや起伏はあまり必要ないですから、短い尺にたくさんのアイドルを出せるというメリットがあります。ストーリーアニメで描ききれなかったアイドルたちとプロデューサーをミニアニメですくいあげている面があるんですね。
清水 リアルイベントやゲームの入口の要素としてのアニメになってるんですかね。
塚越 むしろそっちがメインというか。
中里 アニメがゴールではなくなっているのはあると思います。そういう状況はあるんですが、3Dアニメーションの進化で効率化が進めばアイドルアニメに類する作品はもっとやりやすくなるんじゃないでしょうか。バンダイナムコグループやCygamesといったメジャーなアイドルコンテンツを持っているチーム内に、3DCGのノウハウがたっぷり蓄積していますから。加えて東映やサンジゲン、ポリゴン・ピクチュアズのような3Dに強いところがどんどん3Dアニメで美少女描いてほしいなと思っていたので、サンジゲンが「バンドリ!」の制作になったのは個人的には快挙です。
塚越 コストダウンになるのかなぁ。3Dモデルを作るのも大変だし、3Dならではの難しさも当然ありますよね。
中里 たとえばキャラクターが衣装を着替える描写とかは、3Dが苦手にしがちなポイントみたいですね。ただ、制作現場の労働環境の改善が叫ばれている時代に2D作画のコストは上がることはあっても下がることはないと思うんですね。3Dアニメーションに関してはこれからまだ技術的ブレイクスルーがあるでしょうから、コストは下がる……というか下がってもらわないと困る、という感じですね。
清水 最初に3Dモデルを作るのにコストはかかりますが、長いクールや2期以降はコストがぐっと下がりますからね。ただキャラの動きや表現も随分再現できるようになりましたが、まだまだ表現は作画には届かないという感覚はあります。
中里 でも、「バンドリ!」だと、サンジゲンがMVを作り始めた2018年前半と今を比べても表情の自然さは進化しています。来年末にアニメ2期と3期が終わった頃にはさらに向上していると思いますよ。アイドルアニメに限らず、それこそ「プリキュア」あたりは近い将来、全編セルルックのフル3D作画に移行していくんじゃないかと思います。
塚越 従来の作画でダンスが多いライブシーンをやるのは、もうちょっと厳しい感覚はあります。でも、「バンドリ!」の1話Aパートを見ましたけど、これはすごいと驚きました。ちゃんと機微まで表現できている。ものすごく感動している自分がいました。
清水 今は過渡期なんでしょうね。「蒼き鋼のアルペジオ」なんかはSF物で戦艦で、というジャンルだからこそできたものだと思うので。でも、「ハイスコアガール」のような、CGとの相性がよい作品を見つけられると大きいですね。素晴らしい「アニメ化」だったので。
塚越 ちなみに僕はダンスのCGは「キラッとプリ☆チャン」が圧倒的だと思ってます(笑)。
中里 女児向けに関しては「アイカツ!」と並んで、プリティーシリーズのタカラトミーがもうひとつの雄ですね。あちらはアーケードゲーム筐体と玩具が主体のビジネスモデルだから、ちょっとジャンルが変わってきます。でもCGの作画水準が上がっても、キャストががんばる姿や成長、感情を見せるライブの価値は変わらないと思います。
塚越 キャストががんばる姿って大事なんですか?
清水&中里 大事だと思います!
中里 リアルサイドの話で言えば、たとえば「ラブライブ!」は当時では考えられないくらいレベルの高いライブに、さまざまなルーツを持ったキャスト自身が挑戦して、やり遂げた姿が見る側の胸を打った面が大きいと思います。
編集A μ’sの物語の強さは、何もないところからステージを作り上げたことだと思うんですよね。
中里 誰もやらなかったことをやるのって、すごくエネルギーがいると感じるんです。アイマスでもそうですが、最初に道を拓いた存在がいるから、その道を追いかけていく後輩たちは最初からトップスピードで、より高い場所を目指せる。もちろん、後輩たちもそれを自覚しているからこそのプレッシャーや重みを感じながらがんばっている部分もあると思います。
塚越 がんばってるのって、どの作品も同じだと思うんです。僕は二次元の場合、そのがんばるストーリーをアニメが補完していると思ってるんです。リアルなアイドルならば、どうやったら人気が上がるのかをずっと考えないといけないけど、キャラクターの場合は、キャストもずっとそれだけをやってるわけではないですよね。だからリアルなアイドルよりもそこは弱いから、アニメのストーリーがある。僕はどちらかというと、ライブを見ると、この子にこんな過去があったなってアニメのほうを思い描いちゃうタイプなんです。だから僕は二次元アイドルに関してはキャストだけではなく、チーム全体でがんばってるのかなと。
中里 それこそが2.5次元の概念なので大枠で同意なんですけど、リアルなアイドルよりも弱いかというと、ステージ上でキャスト自身とキャラクターの物語の両方を背負って立つ強さがあると思います。キャストとキャラクターが一緒に歩んでがんばっていることをどう届けるか、可視化して、共感して応援してもらうことにつなげるのがコンテンツに関わる大人の仕事であり、媒体として関わる僕らの仕事でもあるんじゃないでしょうか。
清水 「ラブライブ!」アニメ1期はやはり素晴らしかったです。アイドルや現場を知っている者からしても、花田十輝さんの脚本はずば抜けていて、台詞ひとつひとつの重みが違いました。
中里 それは本当にそう思います。各キャラのお当番回という形ではなく、ユニットの中のキャラクター同士の関係性を重層的に描いていく手法はとてもよかったし、ワンクールアニメのひとつのモデルとして後の作品にも影響を与えていると思います。
編集A ……と、ほどよく脱線してきたところで、2018年の振り返りはこのあたりにしたいと思います。続きは居酒屋で! アキバ総研アニメでは来年も楽しい記事を作っていければと思いますので、よろしくお願いします!