映画「フリクリ プログレ」公開記念、水瀬いのりインタビュー! 林原めぐみ、井上喜久子ら偉大な先輩たちの背中に学んだアフレコ現場

2018年9月28日公開のアニメ映画「フリクリ プログレ」は、シリーズを通して登場するキャラクター・ハル子が2人に分裂するという世界観の作品となる。

シリーズ原点であるOVA「フリクリ」ではアニメーターによって絵が大きく変わることすら許容していたが、今回は6つの話にそれぞれ別の監督がいるということで、絵柄から何から、かなりの振り幅がある作品に仕上がっている。そんな「フリクリ プログレ」のヒロイン・雲雀弄ヒドミを演じたのは水瀬いのりさん。あらゆる方面でマルチに活躍する彼女だが、本作ではそのお芝居のすごみを存分に感じることができた。ヒドミを演じた感想をたっぷりと話してもらった。
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――もともとの「フリクリ」はご存知でしたか?

 

水瀬いのり(以下、水瀬) 2000年の「フリクリ」は見ていなかったので、調べたりはしたんですけど、映像を見てもなお正解がわからない作品というか……。でも、わからない自分が変なわけではなく、わからなくていい作品なんだなっていうのは、今回の「プログレ」を演じてみてよりわかりました。

 

――「プログレ」もなかなかにわからない作品でしたからね(笑)。

 

水瀬 私も演じながらもわからないことだらけで、疑問とか不思議に思っていたことを直接芝居にぶつけていくことで、自分の演じているキャラクターとよりシンクロするというか。(台本を)読めば読むほどわからなくなる作品だったので、深く考えるのはやめようと思いながら、その場で思った気持ちを正直に表現する感じでアフレコに挑みました。

 

――「考えるな、感じろ!」と。

 

水瀬 アフレコの際に私が思っていたように、みなさんも疑問に思ったり、ここはどういう意味なんだろうというのを持ち合わせていたんです。それを監督に投げかけた際に、考えるより感じてくださいということだったので、「なるほど!」と。これは悩んでいることすらぶつけるというのがちょうどいいのかなって思いました。でもそれを、スタッフの方から提示されるというのがすごく新しかったです。 

私の演じる雲雀弄ヒドミは二面性のあるキャラクターだと思ってたんですけど、ふたを開けてみたら二面どころではないキャラクターで、それも含めて色の違いを明確に表現するべきだなと思いました。だからオーディションのときよりもくっきりヒドミのキャラクター性を分けていったんです。周りに先輩方がたくさんいらっしゃったので、その中で、ヒドミをどれだけ大きなものにできるかというのは、現場で生まれた思いでした。

 

 

――劇場版でひとつのフィルムとはいえ、話は6話に分かれていますが、2話の冒頭などは、かなり突き抜けた演技をされてますよね? あれはどうやって生まれたんですか?

 

水瀬 1話で、林原めぐみさんが演じるラハルのお芝居を聞いたときに、まず思ったんです。これは自分が思っているよりももっと出さなきゃ、この先生に殺される!って(笑)。ヒドミはこの個性に真っ向からぶつかっていかなければいけないキャラクターだったので、ちょっとやそっとの違いやギャップでは埋もれてしまうと。だから自分が思っているよりはっちゃける必要があるんだなっていうのを、1話で先輩の背中から受け取ったというか……ある意味、自分の中にはない引き出しが開いた瞬間だったと思います。

 

――やっぱり林原さんの演技はすごかったですか?

 

水瀬 林原さんに関しては、もはやどこまでが台本?みたいな感覚なんです。基本的にマイク前で演技される方がいるときって、台本を目で追っているんですけど、その目が止まるんです。唖然というか、今どこを読んでいるのかとかではなく、視覚がもったいないんです。今この瞬間を全身で噛み締めなきゃ!っていう思いから、台本を追うのをやめて、視聴者ではないですけど、林原さんが演じるラハルにのめり込んでしまうんですね。それは初めての感覚に近くて……。もはや林原さんがしゃべれば何でも成立しているみたいな。それは林原さんの声と芝居の力なんですよね。芝居をしてるのに芝居と感じないのもすごいし、本当に無理のないぶっ飛び方をしているんです。それはなかなか辿り着ける場所ではないなと、すごく思いました。

 

――すごくレベルの低いことを聞くと、早口でも噛まないんですか?

 

水瀬 噛まないです! 噛まないし、何なら足してません?って思うくらい完璧なんです! 今回はハル子が分裂しているという設定なんですけど、でもハル子はハル子なんだって感じる部分もあったので、そこは林原さんも(OVAの)「フリクリ」をご覧になってから演じていたと思うので、そこの安心感もすごくありました。

 

 

――個人的に2話冒頭を見て、水瀬さんが選ばれた意味がわかった気がしたんですが、それが林原さんに導かれた部分もあったと知って、さらに驚きでした。

 

水瀬 でもホントに壊れたヒドミを演じるのは楽しかったです。自分とかけ離れたところにいるキャラクターでもあるので、この子ではないとできない芝居があるなというのをあのシーンで感じたので、自分も汗だくになりながら「フリクリ プログレ」の世界に染まれるな!と思って演じていました。

 

――感じろと言われたことも、いい意味でリミッターを解除するきっかけになったんですね。

 

水瀬 そうですね。言われてすごく安心しました。感じてくださいと言われると、感じ方は人それぞれなので、正解がきっといくつもあるんだろうという気持ちになるんです。自分が感じた「プログレ」という作品にアプローチしていくというのは、みんなで作ってはいるんですけど、自分のオリジナルを見てもらうような感覚というか。同じ作品を作っているけど、それぞれの演技のタイプは一緒ではないみたいな、オールスターな感じがより出るのかなと思って、個人的にはその言葉に安心しました。

 

――言われたときは、周りの人も安心した感じでしたか?

 

水瀬 その瞬間に皆さんがどう思ったかは聞いてないんですけど、空気がやわらかくなった気はしました。そもそも林原さんが作ってくださる現場の雰囲気もすごく温かったんですよ。毎回差し入れを持ってきてくれて、朝が早い収録だったので、お腹が鳴らないようにってご自身でおむすびを作ってくださったり。だからラハルが現場にもいた感じで、先輩たちが作ってくださる温かい空気の中でお芝居ができたので、伸び伸びとできました。本来なら緊張するし、貴重な場所なんですけど、それを楽しめたのは、いい先輩方がいたからだなとすごく思います。

 

 

――なごやかな現場なんですね。アフレコのエピソードで何か印象的なことはありますか?

 

水瀬 アフレコの最後の日に、メインメンバー全員で近くのハンバーガー屋さんに行って、みんなでハンバーガーを食べたんです。ヒドミのお母さん役の井上喜久子さんに「一緒にお芝居ができて嬉しかったよ~」って言っていただいたり、みんなでご飯を食べるからこそ見えてくるパーソナルな部分もあったりして楽しかったです。「先輩たち、食べ方きれいだなー」って思ったり(笑)、私はがっつくタイプなので、こぼしながら食べていたら、喜久子さんがペーパータオルを持ってきてくださいました(笑)。

 

――(笑)。そんな井上喜久子さんとの親子関係もよかったですよ。喜久子さんも素晴らしい役者さんですよね。

 

水瀬 喜久子さんは、私のことを唯一“いのりんりん”と、りんがひとつ多いチャイナスタイルで呼ぶんです。本当にみんなのお母さん的な存在なんです。……年下ではあるんですけど(笑)。

先日別現場でお会いしたときにも「本当にいのりんりんのヒドミはすごかった!」って言ってくれたんです。喜久子さんって、ご自身が思われているより周りの方を癒やしてくれる存在なんです。だから母親役で、本当にお母さんとしゃべっている気分になれるし、リアルなやり取りができたかなって思っています。一度喜久子さんが別現場があって遅れるときがあったんですけど、喜久子さんの到着を待ってから一緒にアフレコさせていただけたのがすごく嬉しい配慮でした。やはり親子のシーンを一緒に録ることに意味があるというのは、すごく感じました。

 

 

――ちなみに、お気に入りシーンと言うと?

 

水瀬 途中でヒドミが突然元気になっちゃうんですけど、そこからのシーンは、キャラクターの資料で表情集ももらっていて、目の中がキラキラしてたり、本当にこれはヒドミなのか?というくらいの絵だったんです。次の話数はこういう状態のヒドミになりますと言われて、原稿では見ていたけど、色が付いて動くヒドミをもう一度見てみたら、本当に同じ人だと思わなかったというか。自分自身もここまで幅広いキャラは挑戦したことがなかったからすごく衝撃的でした。あとはthe pillowsさんの楽曲がアフレコ前にもらう映像にも入っていたんですけど、完成した映像にはさらに音楽が乗っていて、中二感じゃないですけど、これ、カッコいいだろ!っていうのが詰まった映像になっていたので、「はい、カッコいいです!」となりました(笑)。

 

――最初のシーンとかゾンビのところは、なかなかグロい映像でしたね?

 

水瀬 ゾンビのシーンは、アフレコ時に線画はできあがっていたんですけど、色と音が入るとよりエグいというか。結構もしゃもしゃ食べてましたよね(笑)。あれを大画面で見ていただけるんですもんね。私も一生懸命演じているので、ポップコーンを食べる手が止まるくらい、うっ!とくるような衝撃的なシーンになっているとは思います。

 

――ちなみにお気に入りのキャラクターというのはいるんですか?

 

水瀬 森(吾郎)くんが結構好きですね。すごく不憫というか。

 

――アイコちゃんからの扱いが……。

 

水瀬 アイコちゃんもまた素敵なキャラクターなんですけど、森くんの底のないやさしさで、怒れなかったり、助けちゃったりする人間味が好きだなって思いました。あとは思春期の男の子たちというか、私は男の子の友達っていなかったので、こういう形の友情があるのかはわからないんですけど、森くんとマルコ(野方)と井出(交)くんの3人を見ていると、お互いがまったく違うのに大事なところではシンクロしているというか、すごく3人の連携ができているなと思いました。

 

 

――「フリクリ」と言えばthe pillowsなのですが、水瀬さんはこのサウンドを聴いて、どんなことを感じましたか?

 

水瀬 来年で結成30周年なんですよね……自分の年齢的に、まだ細胞にすらなってない頃から活動されているなんて……(笑)。すごくロックなんだけど、「フリクリ」の伝えようとしていることが音楽にも入っていると思いました。若者の反骨精神じゃないですけど、自分の中にある形にできないいろんな感情をぶちまけた!みたいなものが、ボーカルや楽器からも感じられるというか。美しいものだけではなく、泥臭かったり、よそおってない部分を全部吐き出すような感じが、ヒドミや井出くんにも近いのかなって思いました。思春期や青春時代のもやもやを乗り越えた先の、今私たちめっちゃ大人なんじゃね?みたいな、新しい自分に出会えるみたいなのが音楽を聴いているだけで浮かんできて、今にも走り出せそう!っていう感じがしました。

 

――初期衝動じゃないけど、走り出せそうな気がするんですよね! まさに「フリクリ」なんですよ!

 

水瀬 頭で考えるのではない感じがします。

 

――では最後に、「プログレ」をご覧になる方にメッセージをお願いします。

 

水瀬 私が演じるヒドミも、褒め言葉として言わせていただくと、ヘンテコでだいぶはっちゃけてぶっ飛んだキャラクターなんです。ただ、この作品の中にいるとそうでもなく見える不思議というか。それが「フリクリ」のカラーなんだなって。おかしいや変を受け入れてしまう世界。人と違うってカッコいいんだなとか、人と違うことを貫くとこういうふうになれるのかなっていう気持ちになれる作品だと思うので、今まさに学生生活を過ごしている方にも見ていただきたいし、OVAの発売された当時から応援してくれているファンの方にも、当時の素敵なところも受け継ぎながら、この時代だからこそ描けることが詰まっていますので、ぜひ見てほしいです。たぶん一度では気持ちの整理がつかないまま終わってしまうので、何度も見てほしいと心から言いたいです。私たちが言われたように、考えるのではなく感じるんだというのをスクリーンで体感していただければと思います。

 

(取材・文・撮影/塚越淳一)