中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている10月の新作アニメ作品の人気、話題作や、10月の新作に関する中国のオタク界隈独自の反応などを紹介させていただきます。
続編、定番の強かった10月
前回のコラムで飛び抜けた話題作が出ないシーズンは、前作の人気が高かった続編系作品や、中国のオタクの間でもわかりやすい定番要素のある作品、そして安定したコミュニティのある女性向け作品が強いといった傾向が見受けられるなどと書かせていただきましたが、10月の新作アニメに関してもこの傾向に沿って推移しているようです。
そういった事から10月の新作アニメの中で高い人気、再生数を獲得している作品としては、
「終わりのセラフ」
「DIABOLIK LOVERS MORE,BLOOD」
「K RETURN OF KINGS」
「ノラガミ ARAGOTO」
といった中国では女性のオタクを中心に人気が高いとされている作品がまずあげられます。
またこの中で「K」や「終わりのセラフ」、「ノラガミ ARAGOTO」は女性のファンが強い作品であると同時に男性のファンもキッチリ付いている作品と言われており、広い範囲での人気を維持したまま、話数を重ねていくこととなった模様です。
「お約束」「お色気」で強いライトノベル原作系アニメ
続編系の作品のほかに人気の目立つ作品にはライトノベル原作系のアニメがあります。なかでも
「落第騎士の英雄譚」
「俺がお嬢様学校に『庶民サンプル』としてゲッツされた件」
「学戦都市アスタリスク」
などは好調のようですね。
「落第騎士の英雄譚」と「学戦都市アスタリスク」はキャラの設定やデザインの方向性、お約束的な展開まで重なっている所があるということで中国のオタク界隈でも話題になりましたし、そういった部分にワイワイとツッコミを入れつつ楽しんでいる人たちも少なくないようです。
また「落第騎士の英雄譚」に関してはライトな層を中心に特に評価が高いようで、中国でもツッコミが入るようなお約束、テンプレ的な展開であっても、それを高いクオリティでアニメにすれば中国のオタクな人たちも歓迎するということなのかもしれません。
それから「俺がお嬢様学校に『庶民サンプル』としてゲッツされた件」は現在配信されている複数の動画サイトのどこでも好調な再生数となっているようですが、これに関してはお色気要素もプラスとなっているとのことです。
中国のオタク界隈では日本と比べてお色気要素に関して話題にされることは少ないのですが、動画サイトの再生数を見ていくと中国の好みに合う(と思われる)お色気要素のある作品は黙々と再生数を稼いでいく傾向があるのも確かです。
そんなわけで、中国の規制のラインに引っかからなければラノベ系原作でお色気要素、サービスシーンのあるアニメはかなり「手堅い」コンテンツとなるという話も聞きます。
もっとも、日本のアニメのお色気要素に関しては「中国の一般的な好みに合わない」「逆に引かれる」ケースも珍しくないという話です。それに加えて過激すぎたり注目を集めすぎたりするような場合は規制や社会的な批判の対象になってしまいますし、最悪3月末の規制の時のようにブラックリスト入りとされてしまう可能性も十分に考えられるのが難しいところです。
ちなみに10月の新作に限らず、中国ではラノベ原作系の新作アニメは安定した人気を獲得しやすいといった傾向があります。
中国のオタク界隈ではラノベの存在感が比較的強いことや、ラノベ読みの動きが活発なこともあってか、ラノベ原作系のアニメは放映開始前にそれなりの量の「中国語に翻訳された」情報が拡散される作品が少なくありません。そして放映開始直後から作品に関する考察などのやりとりが活発に行われるケースも多く、ほかのジャンルの原作系アニメに比べて、話題性や作品情報の拡散といった面で有利になりやすいという話です。
中国においては日常的に接するメディアや、書店やアニメショップといったオタク関係の環境が日本とは異なることもあり、「原作の影響」に関しては日本のようにはいきません。
ラノベ原作系のアニメは新作アニメに対する原作の後押しが弱い中国において、原作による後押しの効果が比較的高く、ファンの間でも原作を踏まえてのやり取りが活発なことから、安定した人気を獲得しやすい手堅いジャンルとなっている模様です。
日本とは異なる反応、状態になっている作品
最後に、10月新作アニメで明らかに日本と異なる反応になっている作品やこれまでとは少々異なる状態になって来ている作品を紹介させていただきます。
「おそ松さん」
日本では女性人気なども含めて人気となっている「おそ松さん」ですが、中国のオタク界隈では第1話のパロディの嵐が話題になった程度で、その後は男性女性問わずそれほど話題になっていないようです。
元々コメディ系の作品は面白さが伝わり難いといった事情もありますが、中国のオタクな方々から聞いた話やネットの反応などから考えると、日本との違いがハッキリと出たのは
「中国ではハードルが高過ぎた」
からなのではないかと思われます。
中国では女性向け的な要素があるとされる作品に関して、日本よりもビジュアル面の影響、具体的にはカッコいいキャラクターがいるかどうかという点による影響がハッキリと出ますし、「おそ松さん」のキャラクターデザインが中国のオタク界隈におけるハードルのひとつになっているのは間違いありません。
また声優に関しても動画サイトの主な視聴者層となるライトな層へのアピールはそれほど強いものではありません。中国では女性のオタクは日本語能力が高いという傾向もありますが、声優関係が守備範囲で、日本語音声で視聴できるレベルの人というのはやはり少数派になりますし、ほとんどの人は字幕ベースでの視聴になります。
そんなわけで中国では「おそ松さん」に関して、六つ子のビジュアルの違いやキャラの違いを見分けられるようになるほど作品を見る前に脱落する人が多く、各キャラの特徴や関係性といった情報やそれに関する話題も広まらない、共有されない……といったことになっている模様です。
「ワンパンマン」
「ワンパンマン」は7月の新作の「うしおととら」と同じく、中国の動画サイト「土豆」で有料会員限定での配信となっています。「ワンパンマン」は中国でも知名度が高く、原作のweb漫画時代から追いかけていたという人も少なくないそうで、高い前評判とともに10月新作の目玉とされていました。
そして配信開始後は順調に再生数を伸ばしているようですが、それに対して作品に関するやり取り、中国のネットなどで飛び交う話題の勢いはおとなしいものになっている印象を受けます。
「うしおととら」にも似たような傾向が見受けられましたので、人気や再生数と比べると話題の勢いがおとなしいという状況については、有料会員限定での配信が影響している部分もあるのではないかと思われます。
現在の中国では日本のアニメに触れる場所は基本的にネット上となっていますから、その中で有料会員向けの独占配信を行った場合、ネットにおける話題性、作品に関する話題の拡散の影響が日本と比べて大きくなる可能性も考えられます。
もっとも再生数自体は悪くないようですし、動画サイト側のビジネスモデルとしての利点も存在しますから、これが良いのか悪いのか現時点では何とも言えません。作品自体の人気に加えて、この有料会員向けの限定配信という形態が今後どのように影響していくのかというのも気になるところですね。
(文/百元籠羊)