2015年10月にオムニバス枠「ウルトラスーパーアニメタイム」で突如スタートした新感覚サスペンスアニメ「影鰐-KAGEWANI-」。奇獣と呼ばれるUMAに人々が襲われる容赦のないストーリーや奇獣を調査する生物学者・番場宗介を巡るミステリー、そして「紙芝居アニメーション」と呼ばれる唯一無二の映像で、多くの視聴者に衝撃を与えた。
監督は2013年に「闇芝居」(第一期)を手がけた高嶋友也。アニメーションでJホラーを表現した新進気鋭のクリエイターが、なぜモンスターパニックものを送り出したのか。UMAのような魅力でファンを虜にする「影鰐」の秘密に迫った。
「影鰐」と「うーさー」の邂逅
──まず「影鰐-KAGEWANI-」の企画の成り立ちについて教えてください。
高嶋 フリーランスだった2011年の頃に一度企画書を作りました。そのときは実現にはいたりませんでしたが、2014年に「Tomovies」(トムービーズ)という制作会社を立ち上げて、オリジナル作品第1弾としてプロジェクトを再始動したのがきっかけです。
──モンスターパニックを題材にすることは最初から決まっていたのでしょうか?
高嶋 はい。僕は3歳の頃から映画が大好きで、「ジョーズ」や「トワイライトゾーン/超次元の体験」といった作品を親に見せられていたんです。物心が付いたときには、漁師がサメに喰われる絵を描くような子どもに育っていました(笑)。あと学研まんがの「ひみつシリーズ」に「いる?いない?のひみつ」というUMAを紹介する児童書がありまして、それが今でもトラウマになっています。いつかモンスターが出てくる映像を作りたいと思い続けていて、「影鰐」では自分がやりたかったことを詰め込みました。
──「ウルトラスーパーアニメタイム」(USAT)でのオンエアはどのように決まったのでしょうか?
高嶋 「うーさーのその日暮らし」の宇佐(義大)さんと映画の打ち上げでお話しする機会があったんです。そこで「影鰐」の企画を出したら気に入ってもらえて「今度USATというオムニバスアニメ枠がはじまるから是非やってみましょう」と提案していただけたんです。USATでの放送時期は違いますが、「影鰐」と「うーさー」は裏で繋がっているんですよ。
──宇佐さんがアソシエイツプロデューサーなのはそういった経緯だったんですね。USATで放送されると聞いていかがでした?
高嶋 すごく面白い試みだなと。USATでは「ハッカドール」さん、「ミス・モノクローム」さんとご一緒していますが、「影鰐」はジャンルも違えば手法も違う。ファン層だってまったく被りませんよね。でもあまりにカラーが違いすぎるので、オンエアが始まっても「これで大丈夫なんだろうか……」と内心ドキドキしていました(笑)。
絵コンテはポスト・イット
──監督はご自身の作品を「紙芝居アニメーション」と名付けていますね。
高嶋 アナログの要素を残すために、フラッシュアニメと3DCGのエフェクトを足すイメージで作っています。これも子どもの頃の話になりますが、親から人形劇の「サンダーバード」や、特撮とアニメを合わせた円谷プロの「恐竜探険隊ボーンフリー」などを見せられていたせいで、いわゆるセルアニメだけがアニメーションではないという考えが根付いていたんです。
──普通のアニメのように絵コンテは描かれるのですか?
高嶋 描きますが、コンテ用紙はポスト・イットなんです。メモ帳ぐらいの小さなサイズのものに1カットずつ描いて、机にどんどん貼っていきます。「影鰐」は1話当たり約70カットありますが、最初はどうしても120カットぐらいにふくらんでしまう。そこから7分50秒の尺に合わせてとにかく削りに削っていく。ポスト・イットならカットを入れ替えるのは剥がすだけですし、欠番は捨てればよいので効率的なんです。コンテの内容はアニメに起こすときや編集段階でもフレキシブルに変えていきます。あまりない手法のせいか作業風景を見たプロデューサーはビックリしていましたね。
コンテがひとまず完成したら、僕と制作進行でカットに合わせた写真を撮ります。その後でイラストレーションの方に写真を送って人物の顔や手をキャラクターのものに差し替えてもらう。その素材をアニメーションの人たちがまとめて動きをつけていきます。
──ということは番場の体はスタッフなのでしょうか?
高嶋 そうなんです。動きをつけるときはイラストがまだできていなくて、スタッフの顔のまま動かしています(笑)。「闇芝居」ではキャラクターの全身を描いていましたが「もっと効率よくできるんじゃないか」と思ったんです。それに情報量を増やすことで、より実写のようなアニメに近づけ演出に生かしたかった。「影鰐」は大きなチャレンジでしたが、ほかの作品では見ることができない面白い絵になったと満足しています。