四季折々、この時期にこそ楽しめるアニメがある! 季節の話題にまつわる新旧の良作品をアニメライターが紹介します。
漫画やアニメもいいけど、アートもね! 美術、クラシック音楽、演劇といった、「美」を創造し表現する活動や作品への入り口が、アニメにはたくさんあります。芸術の秋、多様な価値観を知ることができるアートな世界に触れてみませんか?
かつて日本で焼失したとされているゴッホの名画「ひまわり」がオークションで落札され、世界に現存する7枚の「ひまわり」を集めた初の展覧会が、日本で開催されることになります。しかし落札直後から、「ひまわり」を狙って怪盗キッドが出没。鉄壁のセキュリティを誇る美術館に集められた「ひまわり」をめぐって、大スペクタクルの争奪戦が繰り広げられることに……。
「見た目は子ども、頭脳は大人」の「名探偵コナン」シリーズの映画19作目は、巨匠ゴッホが残した、人類の至宝といわれる名画「ひまわり」を題材にしたアートミステリー。美術のウンチクたっぷり、謎解きの楽しみもたっぷり、もちろん映画ならではのアクションも満載。頭から終わりまで時間いっぱい楽しめるエンターテインメントに仕上がっています。
クールでミステリアスな怪盗キッドは、変装やマジックを得意とするお茶目な怪盗で、宝石しか狙わないシリーズきっての人気キャラクター。その彼が、この作品では「ひまわり」を狙い、目的のために人を傷つけることもいとわない荒っぽい所業におよびます。一体彼がなぜそんなことを?……という謎解きも、お楽しみのひとつです。
東京のウォーターフロントに店を構える「ギャラリーフェイク」は、その名のとおり、贋作・複製の美術品専門のアートギャラリーです。オーナーの藤田玲司は、元ニューヨークメトロポリタン美術館(通称「MET」)のキュレーターですが、裏ではいわくつきの美術品を売りさばき裏社会にも通じている、美術界では悪名高い存在。審美眼鋭く美術の知識・造詣の深い藤田が、世界を舞台にさまざまな「美」に関わる事件と向き合っていきます。
藤田は、いわば美術界の「ブラック・ジャック」。物語は、藤田と助手の少女サラ、高田美術館の三田村小夜子館長を中心に、さまざまな登場人物をからめて展開していきます。美術がテーマなだけに、古今東西の美術品、工芸品が登場し、ウンチクもふんだんに語られ、その奥深さも楽しめます。
ちなみに、サラが登場するエピソードは、戦時中に行方不明となったゴッホの「ひまわり」にからむ謎を藤田が解くというもので、上の劇場版「名探偵コナン 業火の向日葵」と同じ題材です。同じ名画が元になった物語を、見比べてみるのもおもしろいでしょう。
彩井高等学校の芸術科アートデザインクラス「GA」に通う5人の女の子たちは、それぞれがマイペースな個性派揃い、そしてみんな美術が大好き。彼女たちにかかれば、何気ない学校生活の中、授業から遊びまでのすべてが、おもしろ楽しい作品や表現になっちゃいます!
4コマ漫画が原作の、ほのぼのにぎやかなハートフルコメディ。まるで自分も芸術科の生徒になった気分で、なごんでいるうちに絵画やデザインの専門知識も身につきます。
メインの女の子5人は、天然ボケの頑張りやにおしゃれなムードメーカー、暴走娘に不思議系、常識人のツッコミ担当と個性いろいろ。特別な事件がなくても、毎日が楽しい彼女たちを見て癒されるだけでも十分楽しめます。
葛飾北斎の娘・お栄は、彼女自身も父親と同じ稼業の浮世絵師。女ながらに絵の腕は高く評価されていますが、恋に不器用なためか、「絵に色気がない」と言われて落ち込むことも。父娘を中心に、喜怒哀楽に満ちた江戸の町の日常と、浮世絵師の暮らしぶり、そして家族愛が、四季折々の色彩豊かに描かれます。
杉浦日向子の原作コミックをアニメ化した映画。庶民の活気にあふれた江戸時代の空気を感じられるのが何よりの魅力です。時には日常の中に潜む怪異が、ふとしたはずみにあらわになることも。それを逃さず、紙の上にしっかりととらまえて残すのが「絵師」の技だということが語られます。
娘や弟子たちと長屋で暮らす鉄蔵(北斎)にとって、興味があるのは絵を描くことだけ。父親としては足りないことばかりですが、そんな鉄蔵を妻も娘たちも受け入れています。常人と異なる天才の人となり、そして絵師の業を感じる物語。これを見ると今の世に残る浮世絵が、とても人間くさく魅力的なものに見えてくるかもしれません。
若きイケメン書道家の半田清舟は、書道界の重鎮を殴ってしまい、父親のはからいで書道と向きあい人間として成長するために、自然豊かな日本西端の島「五島」でひとり暮らしを始めます。都会育ちで神経質な半田にとって、自由奔放な島の住人や不便な生活はかなりのカルチャーショック。でも田舎暮らしの洗礼を受けながら、半田は少しずつ変わっていきます。
「ばらかもん」は、五島列島の方言で「元気者」の意味。半田につきまとい振り回す元気いっぱいの子ども、琴石なるの姿をほうふつとさせるタイトルです。アニメでは琴石なるを始めとするちびっ子たちを、年の近い子どもの声優が演じていて、その自然な子どもらしさ、存在感が素晴らしいと大評判でした。長崎弁のセリフも耳に心地よく響きます。
きゃーきゃー叫び回る子どもたちに、半田といっしょに振り回されているうちに、自分の中の「ばらかもん」も目覚めてきて、いっしょに笑いたくなってきます。心が解放され、人として成長するとともに書も変わっていく半田が感動的。芸術が生き生きとした人間性に根ざしていることを感じさせてくれます。
指揮者を目指すエリート音大生・千秋真一は、ゴミ部屋で美しいピアノソナタを奏でるのだめ(野田恵)と知り合います。同じ音大のエリートと変人である2人は、互いの才能を認める不思議なデコボココンビに。千秋に才能を引き出されて、のだめはピアニストとして次第に成長。千秋も変人の知り合いを増やしつつ、目指す指揮者の道を歩んでいきます。
ドラマ化もあって、ブームとなった音大ラブコメのアニメ化。クラシック音楽がふんだんに使われており、若い人にクラシック音楽ファンを増やすきっかけにもなりました。音大でのドタバタを中心に描いた第1期に続き、パリでの留学の日々を描く第2期「のだめカンタービレ 巴里編」(2008年放送)、指揮者・演奏者としての成長とふたりの決着を描く第3期「のだめカンタービレ フィナーレ」(2010年放送)に続きます。
変人ラブコメとしてスタートした本作ですが、千秋とのだめの成長にともない、物語は音楽家の生き方に絡んでいきます。人生で音楽を本気で追究することは果たして幸せなのか? 楽しいだけではダメなのか? 困難に直面するとき、恋愛は人に力を与えるのか、それともダメにするのか? 千秋とのだめの出会いがどこまで行き着くのか、未見の人にはぜひ見届けてほしいと思います。
貧しい暮らしに苦しむ平凡な13歳の少女・北島マヤは、往年の名女優・月影千草に見いだされて、女優としての才能を開花させていきます。月影はマヤを、幻の名作「紅天女」の主役候補として認め、もう1人の若き天才女優・姫川亜弓と競わせることで、成長をうながします。
言わずとしれた美内すずえの名作のアニメ化。原作はまだ連載が続いていますが、このアニメは全51話で、独自の解釈によるひとつの決着がつけられています。ちなみに先立ってアニメ化された「ガラスの仮面」(1984年放送)は、全23話で、マヤと亜弓が「奇跡の人」のヘレン・ケラー役で競い合うまでとなっています。
改めて感じるのは、「演じる」ことの狂気のようなものです。神がかって演じることのできるマヤの才能は、天才と言うしかありません。エリートで秀才型のライバル・亜弓としのぎを削る演劇対決は、やはり引き込まれます。マヤが演じる劇中舞台劇のストーリーで多層的な物語を楽しめるのも、楽しみのひとつでしょう。
以上、芸術の魅力に触れられるアートなアニメ7作品をご紹介しました。
「芸術ってなんだ? 美ってなんだ?」と思いますが、つきつめれば芸術とは人間であり、人生であり、時代を越えた普遍的な価値と言えそうです。その極みに挑むものは自身が成長しながら、すべてをかけて己をさらけ出していかなくてはなりません。厳しくて崇高で、でもとても人間くさい世界。アニメを見ながらそんなことに思いをはせるのも、「芸術の秋」にふさわしい過ごし方かもしれませんね。
(文/やまゆー)