「ポプテピピック」で凱旋? 秦佐和子がSKE48時代から秘めていた、声優に対する熱い想い!!【アイドルからの声優道 第2回】

「アイドル」という似て非なる世界から飛び込んできた人々に話を聞き、別側面から「声優」という職業を切り取る本連載企画。
第2回には「SKE48」出身の秦佐和子さんに登場いただいた。

SKE所属時には、総選挙で次代を担う「アンダーガールズ」に山本彩さんや島崎遥香さんと並んで選出もされたが、声優を目指して卒業。これまで、アニメ「バトルスピリッツ ダブルドライブ」「このはな綺譚」、ゲーム「ガールズバンドパーティ!」などに出演を果たしている。国民的アイドルグループの中で感じた違和感や、あこがれの職業についた今感じる声優への思いを教えてもらった。

自信のない自分以外になれる楽しさ

 

――声優という道を選んだそもそものきっかけから教えていただけますか?

 

 小学校の時からお芝居をやりたいと思っていて、結局受からなかったんですけど女優さんのオーディションを受けたこともありました。それでお芝居に関していろいろと調べていたら、アニメのキャラクターは誰かがしゃべっていることを知ったんですね。
声優さんなら何にでもなれるから面白いと思ったのと、親が働いていて、家にいる時間はアニメをよく見ていたので、小学校6年生の卒業文集には「声優になりたい」って書きました。

 

――ではSKE48に入ったのも声優になるためのステップという考えだったんですか?

 

 そうです。SKEに入る前は日ナレ(日本ナレーション演技研究所)さんに通っていましたけど、1年目では事務所に入れなかったので2年目に「チャンスを見つけなきゃ」と「声優アワード」《新人発掘オーディション》とかいろいろ受けてみようとしていたんです。48グループはアキバ色が強かったのでアニメ系のサイトにもオーディションの情報が載っていたのと、声優をやりたいと公言していた松下唯さんがゲームに出演できたり「ケロロ軍曹」のゲスト声優をやったりしていたので、「入ったら声優のお仕事ができるんだ!」と思ったんですね。

私は出身が大阪だったのでSKEのことをよく知らなくて、入ってから「歌ったり踊ったりしなきゃいけないんだ」って思いました(笑)。だから、入って半年経ったくらいの4月に、「私が目指してるところと違う気がするんです」ってマネージャーに話したりもしました。お仕事で養成所に通えなくなっていたのもあって、「辞めてもう1回ちゃんと養成所に通おうかな」って。でもちょうど、SKEの子がラジオ「神田朱未のわたしのすきなこと。」に出演する機会をもらっていたので「もうちょっとがんばってみたら?」と言われて、そしたらずるずると3年間(笑)。

 

――声優のアイドル的な面ではなく、あくまで芝居に惹かれていたんですね。

 

 そうですね、「アニメに出たい!」という気持ちでした。田村ゆかりさんも好きでしたし、アイドルではハロプロさんも好きだったんですけど、自分が歌ったり踊ったりしたいかと言われると、むしろ見られることに抵抗があって。女優さんになりたいというのも、人に誇れるような、自分のアイデンティティーを確立したかったんだと思います。

女優さんって特別な存在ですし、自信のない自分以外になれるというのが魅力的だったんですね。保育園の時、お遊戯会のような場でやったお芝居がすごく楽しかったですし、小学校の時には自分で10人集めて演劇部を作りました。でも、SKE時代にドラマをやらせてもらった時は、見た目とか女性であることとか、「自分」という制約をすごく大きく感じて。見られることに抵抗を感じるので集中できなくて、「人前に立つのは根本的に得意じゃないんだな」と思いました。声の仕事は没頭できるのがすごく楽しいです。「自分」を見られることはないので。

 

――人前に立つのが苦手だということは、演劇部の時には気付かなかったんですね。

 

 そうですね。人前でお芝居することがあまりなかったので(笑)。言い出しっぺなので部長をやっていたんですけど、1年に1回、体育館で生徒を前に劇をやらせてもらえる機会では、「ふしぎの国のアリス」のアリスにオーディションで落ちてスペードの5役でした。大きいトランプを着て、台詞もみんなでワーワー言うか、「女王様も困ったものだ」くらい。ほかの劇でも「ピポパポピポパポ」しか言わない宇宙人役とか。

 

――では、SKEに入るまでは演じたくてもなかなか恵まれず。

 

 恵まれず、でしたね。SKEに入ったとき、「夢が、かなう場所」ってCMが流れていたんですけど。

 

――「サンシャイン栄!!」の。

 

 そうそう。実際、そういうグループだと思います。自分が「やりたい」って発信すれば歌とか舞台とかを試させてくれるので。SKEの中にいながら私もゲームやアニメの声をやらせてもらえたし、やってみて夢が変わった子もいっぱいいるんですね。「モデルやりたい」って子が女優にシフトするとか。なので「入ってよかったな」って本当に思います。

 

 

声優さんの現場で「世界が違うな」と感じました

 

――改めて卒業を決意したきっかけというのは?

 

 ずっと考えてはいたんですよ。年齢も24になって、アイドルとしても辞めないといけない時期ですから。新陳代謝がないグループは続かないという考えもありました。ありがたいことに選抜に入れてもらったんですけど、そうすると私が抜けないと新しい人が入ってこれないので。

あと、アニメ「AKB0048」でプロの方々とお仕事をした時、もう一度ちゃんと勉強しないとダメだと思ったんですよね。なので、あのタイミング(「AKB0048 next stage」が2013年3月に放映終了、卒業は2013年3月7日の公演)で。8月くらいには辞めようと思っていたんですけど、湯浅洋(SKE48劇場)支配人に「俺がどっか紹介してあげるから」って言われたんですよ。どこかの事務所に所属できたらと思ってがんばってはいたので期待したんですけど、半年くらい何の音沙汰もなくて、「この人はダメだ!」と思いました(笑)。

 

――(笑)。それで卒業に踏み切って。

 

 仲谷(明香)さんが辞めたのも大きかったですね。事務所やグループ辞めて別の事務所に入り直すと聞いた時、「このグループにいても声優の事務所にはつながらないんだな」って思ったんです。私は女優願望がなかったので(タレント事務所に)入ることになっても困るし(笑)。

 

――「0048」で声優と共演したときに危機感を感じたところというのは?

 

 まず技術ですよね。こう演じたい、という自分のイメージがあっても、伝え方が分からないんです。皆さんの演技を聞いたら、声だけで感情がちゃんと伝わってくるのに。私はまだまだ未熟なので、このキャラクターは今一番何を言いたいのか、どういう状況でこの発言をするのか、といった根本的なところで勉強不足だとは思います。発想力というか、国語力みたいな。

あと、普段の会話にもあると思うんですけど、言いたいこととそうでもないことの差し引きの加減ですね。特にセリフが少ないとそうなってしまうんですけど、どうしても自分の台詞のときに力が入っちゃうとか。でも、単純に「世界が違うな」「このままじゃダメだ」とも思いました。「0048」の頃に戻ったら私を叱り飛ばしたいです(笑)。

 

――48グループ内だと、「蝶よ花よ」という扱いを受けますよね。

 

 特にSKEはものすごく守られた場所だったということは辞めてすごく感じました。制約はいろいろとありましたけど、私たちのことを考えてくれたうえでマネージャーさんたちが気遣ってくれて、商品としてすごく大事にされるので。でも、勘違いにもつながってしまいがちで、当時のことはすごく反省しています。だから、声優さんの現場とくっついた時、自分の中で違和感を感じましたし、甘えていることに気付いたんですね。声優って基本は個人事業主なので、自分でなんでもしなきゃいけないし。

 

――卒業を決めたあと、声優学校も自分で選んだんですか?

 

 自分で選んで、オーディションを受けにいって(笑)。ただ、辞めようと決めたのが2月の半ばくらいだったので、すでに締め切ってるところが多くて大変でした。あわてて写真を撮りに行ったり。懐かしい(笑)。

 

――あらためて入所した養成所時代はいかがでしたか?

 

 それまでの3、4年は男の子と接触がなかったので、どういう距離感で接したらいいのかわかりませんでした。連絡先も交換せず、女の子経由での連絡だったのでめんどくさい子だったと思います(笑)。ただ、早瀬莉花ちゃんと尼子絢那ちゃんという友達に恵まれたのは一番の財産ですね。本科時代、3人でカラオケに行って、台本を読み合ってダメ出しあうとかしました。

最初の事務所に所属してからも週に1回、勉強会みたいなのがあって、自主的に公園で練習したりしてたんですけど、すごく楽しかったですね、同じ夢を追いかけてる者同士なので。虫に刺されながらでしたけど(笑)。私、それまでは居酒屋さんに飲みに行ったこともなかったし、最初は飲み会もとまどって参加できなかったんですよ。「行っちゃいけないんじゃないか」と思って。

 

――そこは元SKEというのがあって?

 

 そうですね。でも養成所の最後には、所属の結果が出る前の週にみんなで旅行にも行きました。夜9時にレッスンが終わってから電車に乗って、千葉の房総半島で1泊して。ホント、楽しかったです。

 

――養成所を卒業して声優として活動し始めるときはどんな気持ちでしたか? 48グループ時代とはまた違う形で社会に出ていくわけですが。

 

 特に変わったことはなかったですけど、養成所生のときは所属先が決まるか不安だったので、最初の事務所に決まったときはホッとしました。自分から(収録後などの)飲み会に顔を出して営業もするようにしたんですけど、自分がどこに所属しているのかを言えるようになりましたし。

 

使いやすいけど個性のあるツールになれれば

 

――先日、「ポプテピピック」第3話で元AKB48の佐藤亜美菜さんと共演されましたが、その際は何か話されましたか?

 

 私が普段から現場では全然人と話さない、っていうのもあるんですけど……。

 

――(笑)。では挨拶くらい?

 

 そうですね、帰る時にエレベーターで一緒になって「おひさしぶりですー」とか「まさかこんな形でお会いすることになるとは」ってくらいで。ゲーム「天華百剣-斬-」で(小夜左文字と江雪左文字の)姉妹役になったこともあったんですけどお会いはできなくて。でも、やっぱり嬉しかったですね。

ただ「ポプテピピック」って神風動画さんが制作していて、アニメ化が発表されたときのポスターが(神風動画制作の)「COCOLORS」って作品のパロディだったんです。で、「COCOLORS」に私はフユという役で出ていたので、同じマウスでアキ役だった高田憂希ちゃんと「2人で出られるんじゃないか」って話していたんですよ。でも、待てど暮らせどそんな話はなく。そしたらある日、スケジュールに「ポプテピピック」って入っていて。台本をもらったらひと言だったんですけど、亜美菜さんはいるし、ストーリー的にも……。

 

――よく知った業界だし(笑)。

 

 制作は(AKB48のレーベル会社である)キングレコードだし、「完全な悪ふざけだな(笑)」って感覚でした。でも、まあ、楽しかったです(笑)。ああいうアニメは初めてでしたし、いろいろなお芝居を見れましたし。上坂すみれさんとご一緒したんですけど、とまどいながらもすごく自由にされていました。

 

――声優になってから、声優という仕事について気付いたところはありますか?

 

 最近すごく感じるのは、「声優っていうのはツールのひとつでしかないんだな」ってことですね。作っている方たちが目指す作品を描くための、その絵の具のようなもので。女優さんを目指すところから入ったので、「私が演じるんだ!」みたいな「個」のイメージが強かったんですけど、そうじゃないとはすごく思いました。

ただ、最初はディレクションというか、作られた「形」の中に入るだけなんですけど、「そっか、このキャラクターはこう動くのか」というのがわかってくると秦佐和子じゃなくなる感覚を持てるんです。VRみたいというか(笑)。それが楽しいですね。たとえば、普段も仲がいい子と絆の強いキャラクター同士を演じるとして、役の時だけ生まれる慈しみというのもあって。まだまだ未熟な私なんですけど、今までなかった感情が自分の中にあることを教えてもらえますね。

 

――「未熟」と仰いましたが、スキルアップのために何かされていることはありますか?

 

 基本的なことを別にすると、最近は前以上にアニメを見ています。特に、自分が進みたい方向にいる方のお芝居をずっと流しながら、追いかけてなぞるようにセリフを言ってみる、というのはやっていますね。とにかく真似するところから自分のものにできればと思って。最初は、真似をすることがいいことなのか、自分の個性がなくなるんじゃないか、不安に思ったこともあったんですけど、マネージャーに「自分が自分である以上、どれだけ人の真似をしても個性はなくならないよ」と言われて、ホッとしたというか……。なので今は真似するようにしています。

 

――秦さんが目指す方向というのは?

 

 おこがましいんですけど、井上喜久子さんみたいなやさしいお母さん役ができたらいいなぁ、って。お人柄もよくて、前に少しだけお仕事をご一緒させてもらったんですけど本当に女神のような人なので。

 

 

――まさに「(「ああっ女神さまっ」の)ベルダンディ」という方ですよね。

 

 声優さんとしても素晴らしいんですけど、多分お人柄でもお仕事がつながっているんだな、と思えたんですね。なので、そんな風になれたらいいなとは考えています。

 

――井上喜久子さんのこのキャラを見て、という役はあったんでしょうか?

 

 というわけではないです。ただ、「『らんま1/2』だったら私はかすみお姉ちゃんだろうな」みたいな(笑)。お母さん役やお姉さん役って少ないので狭き門だとは思うんですけど、ずっとかわいらしい少女役ができるわけではないので、というところも考えて。

 

――最近だと大原さやかさんも多いですね。あとはイメージとしては島本須美さんとか。

 

 島本さんの授業を週に1回、半年間最初の事務所の時代に受けたことがあるんですけどすごくチャーミングなんです。不思議な方でした(笑)。そこで「結婚したら仕事が減るよ、女性は」っておっしゃっていたんです。「島本さんでも!?」って衝撃を受けたことで、より私にしかできないことを模索しないといけないと考えるようになりました。さっきもお話ししたように、声優ってパーツというかツールだと思うんですけど、思いがけずに味のある絵が描ける筆のようなというか、ほかにはないツールにならないといけないので。監督さんが使いやすいというのもそうですし。その意味では技術だけではなく人柄も含めて、個性が大事だとは思っています。

 

――秦さんの目指す路線としてはジブリ作品などが近いかとも思いますが、声優としては本職ではない方をそういった作品で起用する理由はそのあたりかもしれませんね。

 

 芸能人の方に声優をやっていただくのは、どうしても興行的なこともあるかと思いますけど、俳優さんがひとりいて、その周りに声優さんを固めると、特に主人公なんかはすごく際立ちますよね。自然な感じの主人公になるというか。芸能人の方には芸能人の方にしかできないお芝居というのはあると思います。

 

――今後やってみたいお仕事はありますか?

 

 声のお仕事なら何でも、とは思っています。マウスに来てからやらせてもらっている外画も楽しくて。でも、朗読を何度かやらせてもらったとき、アニメとはまた違った時間が流れているというか、ゆったりと声に耳を傾けてもらえるのはいいですね。なので、読み聞かせはもっとやってみたいですし、朗読CDも出せるといいな、と思っています。

 

 

(取材・文/清水耕司)

 

<プロフィール>

秦 佐和子(はた さわこ)

 

1988年9月14日生。大阪府出身。マウスプロモーション所属。日本ナレーション演技研究所出身。2009年に「SKE48第三期メンバーオーディション」合格、2010年から2013年まではSKE48のメンバーとして活躍。卒業後は、着実に声優としてのキャリアを積み上げている。