【懐かしアニメ回顧録第6回】「警察+ロボット」ものの元祖!? 朝1回のみ上映された「テクノポリス21C」の発する“色気”の正体!!

ベテランライター・廣田恵介氏が、懐かしいアニメ作品を回顧する「懐かしアニメ回顧録」。その作品を知っている世代、知らない世代ともに、作品を通して時代の空気を感じてみよう。5月1日から実写映画「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」が公開されている。今回は、「警察+ロボット」の組み合わせでは「機動警察パトレイバー」より早かった「テクノポリス21C」(1982年公開)を回顧する。

1982年といえば、春に「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」が公開、「超時空要塞マクロス」が秋から放送スタートし、ロボットアニメ・ブームが“2周目”に入った年である。「めぐりあい宇宙」ではセイラさんのヌードが新作画で見られたし、「マクロス」では、ヒロインがアイドル歌手だし……もうなんか、いろいろ我慢しなくていいんじゃね? かわいいヒロインとハードなロボットさえ出てれば、それでよくね? そんなムードがアニメファンの間に漂いはじめていた。バブルである。平和ボケである。

 

もちろん、「かわいい女の子とカッコいいメカさえ出てれば、テーマ性などどうでもいい」という自堕落な態度に反発する人たちもいて、僕はどちらかというと、そっちの“硬派なアニメファン”のつもりだった。「テクノポリス21C」は、まず最初にアニメ誌(「月刊OUT」だったと記憶する)で、スタジオぬえによる緻密なメカデザインが公開された。関節が人間と同じようにリアルに動く等身大ロボット……これは新しい。新時代到来の予感がする。だが、驚くのは早い。そのデザイン画には「実写化を前提」と注記されていたのだ。もうアニメどころではない。いきなり実写。「ロボコップ」は1987年公開なので、まだ陰も形もない。時代を先どりしすぎている!

 

「等身大ロボット」といえば、1980年に「鉄腕アトム」のリメイク版がテレビ放送されていた。だが、「テクノポリス21C」のロボットたちは「アトム」のように擬人化されていない。あくまで、人間サイズのハイテクメカ、人型の精密機器という趣きだ。しかも、材質は軽金属や特殊プラスチック。頭部を含むコアユニットは、ボディがダメージを受けた際に脱出可能。それら、ディテールのアイデアも素晴らしかった。“テクロイド”という総称もカッコいい。男性型テクロイドのブレーダー、女性型テクロイドのスキャニー、巨漢型テクロイドのビゴラス……というキャラクター分けは、ややアニメっぽい。それにしても、スキャニーの顔面に目も口もなく、おさげのような髪型とプロポーションで“女っぽさ”を感じさせるセンスには舌を巻いた。

 

……が、いつまで待っても実写の企画なんて出てこない。「お、ひさびさに『テクノポリス21C』の情報がアニメ誌に載ったぞ?」と思ったら、結局はアニメ映画として公開されるらしい。キャラデザは天野喜孝さんなので文句を言ったらバチが当たるけど、一気にタツノコっぽくなってしまった。「テクノポリス21C」は“今風”(80年代初期風)ではない、どちらかというと70年代っぽい……そんな雰囲気が、誌面から漂っていたのは確か。しかも、モーニングショーのみで公開? 映画館で朝1回のみの上映? 「ああ、興行的に期待されてないんだなあ」「ちょっと失敗なんじゃないの、この企画?」と、中学生だった僕にも、なんとなく裏事情が察せられるような気がした。

 

だが、企画そのものを応援したい気持ちもあって、モーニングショーへ並んでみた。映画は、もともとはテレビスペシャルとして制作されたものらしく、作画のクオリティは今ひとつだった。それでも、アメリカの刑事ドラマのような乾いたテイストが全編に漂い(劇中の文字はすべて英語)、「テロリストにジャックされたハイテク戦車が街で暴れる」メカが主役のプロットも好印象。そして、ブレーダーの声が大林隆介さん(のちに「機動警察パトレイバー」で後藤隊長を演じる)、スキャニーの声が島津冴子さんなのに驚いた。テクロイドたちは語彙が少なく、キャラクター性が薄いにも関わらず、ちゃんと有名声優がキャスティングされている! というより、当時は「うる星やつら」でしのぶを演じていた島津さんの色っぽい声にクラクラしていたので、その島津さんが、無機質な声でロボットの声を演じるというギャップ、倒錯感にしびれた。「これじゃ、スキャニーがヒロインじゃん!」

 

おそらく、スタジオぬえは、スキャニーを魅力的な“女性キャラ”としてデザインしたのだろう。しかも、おさげ髪を探査用プローブと設定し、いかにも知性と理詰めでデザインしました、というポーズを装って。あからさまに「オタクに受けよう」と媚びるのではなく、一見、“硬派”を気取っていたほうが、むしろ色気や生々しさが強烈に伝わるので、何かとお得なのだ……と学んだ。

  

(文/廣田恵介)