作曲家・藤澤慶昌 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第20回)

アニメやゲームの登場人物にドラマがあるように、クリエイターにも劇的な人生がある。「アニメ・ゲームの“中の人”」インタビューでは、そんな彼らの物語を紹介している。第20回は作曲家の藤澤慶昌さん。今では劇伴作曲家として令名をはせる藤澤さんだが、プロになるまではどんな葛藤や道のりがあったのだろうか。「ラブライブ!」、「有頂天家族」、「RAIL WARS!」、「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」、「ゆるゆり さん☆ハイ!」、「プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ」、「バチカン奇跡調査官」、「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」、「宝石の国」など、数々の名曲作りの秘訣とは。そして、これからの藤澤音楽はどこへ向かうのか。アニメ・ゲームファンの皆さんは、永久保存版の当記事をぜひご一読いただきたい。

 

劇伴は大変、でもストレスがない

─アニメの劇伴作曲のどのようなところにやりがいを感じますか?

藤澤慶昌(以下、藤澤) 歌やほかの音楽が嫌いということではないんですけど、アニメ……というか、劇伴をやっていると、不自然な感じがなく、いろいろと腑に落ちる感じがするんです。劇伴は、音楽を作ることに対する変な負荷がないんですよ。

─テレビシリーズの場合、スケジュールは非常にタイトだと聞きます。

藤澤 今は振り切って大変なんですが(苦笑)、大変であっても心が折れないといいますか、やりたいこととのバランスが取れていて、ストレスはないんです。最初はメニューを見て、「またこんなにやるのか……」と思うんですけど、自分の頭の中の設計図を元に作る曲が、ひとつひとつ積み上がっていくのを見るのがおもしろいんです。

─影響を受けた作品は?

藤澤 映画に関しては、大人になってからもいろいろ観ていますが、子供の時に観たジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」と「インディ・ジョーンズ」、あとはスティーブン・スピルバーグ監督の映画が、頭のどこかにこびりついていて、表現にあたっての自分のフィルターのひとつになっていると思います。

家庭が若干厳しめだったので、小学校の時はアニメや漫画をあまり観ていません。高校時代に観て僕の転機になったのが、「カウボーイビバップ」(1998)です。たまたまテレビをつけたら、あの菅野よう子さん作曲のオープニング「Tank!」が流れてきたんです。本当に、つけた瞬間に流れたんですよ(笑)。ジャズはもちろん知っていたんですけど、ああいうふうにアニメと一体になって飛び込んでくることはなかったので、すごく衝撃的でした。それまでは兄の影響でメタルなんかを聴いていたんですが、「カウボーイビバップ」と出会って、音楽の志向性が変わりました。

─「カウボーイビバップ」をきっかけに、アニメ作曲の道に?

藤澤 いえ、そこまでは行かなくて、当時は音楽の仕事ができるとは考えていなかったんです。今でこそネットがあって身近な感じがしますが、当時はブラウン管の向こうのことで、距離を感じていました。大学時代はスリーピースバンドを組んで、バーでロカビリーやオールディーズを演奏したりもしていましたけど、音楽で生きていくことを考えたことはありませんでした。

 

 

作曲後は、音楽でクールダウン

─ひと月にどのくらい音楽を聴きますか?

藤澤 僕が作曲をするのは、1日12~13時間が限界なんです。その中でできる限りのことをやって、仕事場から家に帰り、食事なんかをした後で、1時間くらい音楽を聴くようにしています。CDであったり、iTunesに入れている曲であったり、何でもいいので音を1回聴いています。僕は昔からクラフト関係の動画が好きなので、そんな動画のBGMでもいいんです。作業している時は、ある意味クールダウンみたいな感じで聴くんです。じゃないと、脳みそが止まらないんですよ(苦笑)。

何もない時は、車で聴くことが多いです。買った音源を流したりとか、InterFMのラジオなんかを聴いたりしています。運転しながらだと、そんなに音楽に集中しきらないじゃないですか。音楽だけを聴いていると聴き逃してしまうことが、運転しながらだと、結構飛び込んでくるんですよ。そうして飛び込んできたものを、覚えておくようにしています。

─今注目しているアーティストは?

藤澤 最近、またジャズ系のものを聴くようになってきていて、ミニマルとジャズとか、ドラムンベースとジャズとか、おもしろい組み合わせをする人たちの音楽に注目しています。GoGo Penguin(ゴーゴー・ペンギン)とか、Snarky Puppy(スナーキー・パピー)とか、Robert Glasper(ロバート・グラスパー)とか。わかりやすいところで言うと、カマシ・ワシントンとかが好きですね。

─藤澤さんのツイッターによると、レッド・ツェッペリンも聴かれているそうですね。

藤澤 きっかけがありまして、今年11月に制作していた、ある劇伴のある1節をやっている時に、旧知のギタリストの方から「ツェッペリンみたいだね」と言われたんです。「ギターフレットが7」だと言ったつもりだったんですが、僕の伝え方が悪くて、その人は「コードが7」、つまり「セブンスコード」のことだと思ったみたいで。セブンスコードから入ると、本当にツェッペリンぽくて(笑)。かっこよかったのでそのままOKにしましたが、そのことをふっと思い出したので、「そういえば、どうだったかな」と、久しぶりに聴いてみたんです。

何かのきっかけで、自分の中のアーカイブが聴きたくなることはよくあります。10代の頃に聴いた音楽が僕の根っこにはあるみたいで、別作品でも「T-SQUARE(ティー・スクェア)とか好きですか?」とか、「このフレーズが……」とか指摘されて、「ああ、そうですね!」と気づかされたことがありました。

─T-SQUAREも聴かれていたのですね。

藤澤 中学までエレクトーンをやっていたんですが、テクニック練習用に売られていた楽譜にT-SQUAREとか、Jフュージョンの曲が多かったんですよ。あと、父もJフュージョンが好きで、T-SQUARE、CASIOPEA(カシオペア)、高中正義さんなんかをよく聴いていて、それも頭のどこかに残っているんだと思います。

─音楽環境もあるのですね。ちなみに藤澤さんご自身も、お子様の音楽環境には気を遣われているのでしょうか?

藤澤 長男はトランペットをやっていますが、強制したことはありません。最初、太めのストローでブーブー音階を取っていたのを見て、びっくりしましたよ(笑)。「じゃあ、トランペットやってみる?」と言ったら、自然と吹くようになりました。僕もエレクトーンはそんなスタンスで始めたので、自由にやったらいいんじゃないかなと思っています。楽器ができると、人生が豊かになるんじゃないかと。最近は「Hulu」や「Netflix」のアニメを観て、「主題歌吹きたい!」とか言って、練習しているみたいです。

 

 

日本のジョン・ウィリアムズを目指して

─目標とする方は?

藤澤 ルーカス作品やスピルバーグ作品で楽曲を提供している、ジョン・ウィリアムズです。すごくシンプルで洗練されているんですよ、テーマメロディが。「スーパーマン」も「スター・ウォーズ」も、聴こえは壮大に、荘厳に音が鳴っていて複雑ですけど、楽譜を見ると、すごくシンプルに整頓されているんです。

エンターテインメントとしての劇伴の立ち位置を確立したひとりだと思うので、目標というとおこがましいですけど、「こういう音楽でありたいな」と思っています。彼のように「音符を整頓したい、引き算したい」んです。

─そのほかに尊敬する作曲家はいらっしゃいますか?

藤澤 劇伴作曲家というよりも、音楽をやる人間として、久石譲さん、ハンス・ジマー、ヘンリー・マンシーニ、エンニオ・モリコーネを尊敬しています。

久石譲さんが作曲された「となりのトトロ」(1988)は、ビデオテープが擦り切れるまで何度も観ました。「ライオン・キング」(1994)のハンス・ジマーは音楽の革命家で、「ティファニーで朝食を」のヘンリー・マンシーニは、あのシャレた感じが素敵で憧れます。エンニオ・モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」のメロディも、「どうやったらあんなふうに書けるんだろう?」と気になってしかたないんですよね。