アニメ業界ウォッチング第33回:吉田健一が語る「キャラクターデザイン」に求められる能力

「交響詩篇エウレカセブン」(2005年)、「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014年)などのキャラクターデザインを手がけ、その親しみのある絵柄が人気の吉田健一氏。かつてはスタジオジブリで原画マンとして活躍、ジブリ以外の作品でも作画監督をこなしてきたことから、作画技術にも定評がある。
しかし、そもそもキャラクターデザインという仕事には、どのような能力が要求されるのだろう? 単に、かわいいキャラクターをうまく描ければいいのだろうか? 「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」の制作に追われる吉田さんに、キャラクターデザインという職業の本質について、お話をうかがった。

キャラデは物語に参加するときの「武器」となる

── 現在は、「交響詩篇エウレカセブン」の新作劇場アニメ「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」の作業中だと思うのですが?

吉田 新作シーンも多いですし、そのために新キャラクターも描き起こしています。発表されているキービジュアルで京田知己監督は、ちょっと微妙な表情を狙いたかったそうなんです。そのため、かなり苦労して描きました。絵として攻めたぶん、12年前の最初の絵と比べると、やっぱり違うものに見えますね。

── キャラ表は、12年前のテレビシリーズのものを使っているのですか?

吉田 新作パート以外は、12年前と同じキャラ表を使っています。

── 当時のキャラ表を使いながら、「12年経過した今のほうが描きやすい」「今のほうが描きづらい」と感じることはありますか?

吉田 当時は慣れていなかったせいもあり、キャラ表を起こすだけでも大変だったんです。今なら、キャラクターによっては、表情をコントロールしやすくなっているかもしれません。当時の絵を見ると、わりとソリッドに描いているんです。最近は、意識してソフトな絵を描いていますから、その分、「昔と絵が違うな」と受けとられるかもしれませんね。

── 絵というものは、時間とともに変わってしまうものなのでしょうか?

吉田 ええ、自然に変わります。テレビの「エウレカセブン」も、前半と後半ではまったく違いますよ。また、僕の判断で、意図的に絵を変えた部分もあります。重要な出来事があって、物語が次のフェーズに入るとき、キャラクターの外見が変わらないと、物語が進んだようには見えないんじゃないかと思ったからです。それで、途中からエウレカの髪が短くなったりしているんです。

── 監督のオーダーではなく、吉田さんの判断で変えたのですか?

吉田 はい。アニメーターという立場から物語づくりに参加するとき、キャラクターデザインは有効な武器になります。作画監督をすることも大事ですけど、キャラクターをデザインすることにより、絵そのもののイニシアチブを握らせてもらうことができます。監督が要求するベストな絵ではないかもしれないけど、僕からもアイデアを提案させてもらって、変な言い方だけど「飲んでもらう」というか、「うまく使ってもらう」わけです。

── 作品を充実させるために、絵を描く立場から提案するわけですね。

吉田 ええ。監督から「こういう感じのキャラですよ」と説明があったとき、「だったら、こういう見せ方はどうでしょう?」と具体的に提案します。たとえば、エウレカが髪留めをしているのは僕のアイデアですが、なぜ彼女が髪留めをしているのか、ちゃんと意図を伝えます。「エウレカは最初に発見した軍から受けとった価値観を、自分から壊せない状態である」といった具合に、キャラクターの感情や精神状態を表現するには、絵としてこういう表わし方がある。そのうえで、もしエウレカの髪留めを外すなら外すで、演出的にいちばんいいタイミングで外してくれるとうれしいな……という提示の仕方ですね。

── それは、吉田さんがスタジオジブリに在籍していたことと関連はありますか?

吉田 あるといえば、あります。エウレカの外見を変えようと思ったのは、「ハウルの動く城」(2004年)を映画館で見たからなんです。ジブリ作品は、辞めてからのほうが面白い(笑)。「ハウル」では老婆にされてしまったヒロインがたびたび若返りますが、あれはアニメーターが自分で描いてコントロールする前提でないと、できない演出だと思ったんです。しかも、イコライザーみたいに、ワンシーンの中で自在に変化するでしょ? 「ハウル」に衝撃を受けたおかげで、50本もあるテレビシリーズなら、ヒロインの外見を変えていいはずだと確信を持てました。