ホビー業界インサイド第20回:ジオラマ作家・WildRiver荒川直人に聞く、「シチュエーション」と「スケジューリング」の重要性

ジオラマ情景模型というと、かぎりなく精密で「本物と見分けがつかない」ような作品を思い浮かべるかも知れない。だが、各模型誌で活躍中の荒川直人さんの作るジオラマは、「丘にひそんだモビルスーツの背後を通過する羊の群れ」「ヤシの木をワイヤーで引っ張り、カモフラージュする飛行艇」など、誰も見たことのない、だけど実際にありそうなドラマ性が特徴だ。まるで、映画のワンシーンのような雰囲気なのだ。
作りこむところは作りこむが、シーンの面白さのためなら、細部は大胆にディフォルメ。その荒っぽさがジオラマの躍動感につながっているのだが、果たしてどんな人が作っているのだろう? 横浜市にあるご自宅にうかがい、作品を前にお話をうかがった。

シチュエーションを考えるのに、もっとも時間をかける

── 小さいときから、模型好きだったんですか?

荒川 3歳のころ、紙粘土や油粘土で恐竜を作っていました。自分で作った恐竜を使って、ジオラマのような物を作っていましたね。小学校に上がると、恐竜だけではなく戦車、お城、帆船や軍艦の模型に手を広げて、マルチジャンルで何でも作るようになりました。

── それらの模型も、やはりジオラマとして作っていたのですか?

荒川 そうですね。小学校だと、夏休みで工作の宿題があるじゃないですか。毎年、必ずジオラマを作っていたのですが、うちの家族にとっては、一大イベントでした。小学3年生の夏休みは大阪万博があったので、太陽の塔を紙粘土で作り、ジオラマにしました。トラス構造をマッチ棒で再現して、50×60センチぐらいの大きさになりました。

── いろいろな材料を使っていたわけですね。

荒川 いまのジオラマの基礎は、小学校時代に確立されていたように思います。砂場に島を作って、プラモデルの戦車や本物のゼニゴケを配置して、そこに捕まえてきたカナヘビを這わせて、リアル「ジュラシック・パーク」みたいな遊びをしていました。

── すると、プラモデル単体よりも、一貫してジオラマ志向だったわけですね?

荒川 多分、“シチュエーション”が好きなんでしょうね。単体のメカニックよりも、そのメカニックがどう使われるのか、周囲の状況を考えるのが好きです。「機動戦士ガンダム」のジオラマ作品集(WildRiver’s G-WORLD 「円形劇場」演出師 Wild River荒川直人 ガンダム情景作品集)も出しましたけれど、普通は、アニメ劇中の名場面を再現しますよね?  僕は名場面の再現って、あんまり好きじゃなくて(笑)、「一年戦争では、こんな作戦もあったのではないか」と、オリジナルのシチュエーションを考えるのが好きなんです。
どこへ行っても「このジオラマを作るのに、どれぐらい時間がかかったんですか?」と、必ず聞かれます。だいたい1か月~1か月半ぐらいで作るんですが、そこへいたるまでの脳内設計に、もっとも時間をかけています。頭の中で妄想したシチュエーションを、目の前に作り上げていくわけです。

── ここに「スター・ウォーズ フォースの覚醒」のジオラマがありますが、映画をそのまま再現したわけではないようですね。

荒川 映画のシーン自体も好きなんですけど、実は、いちばん作りたかったのはミレニアム・ファルコンの隣にあるテントハウスなんです(笑)。「月刊ホビージャパン」の連載なので、バンダイのキットを使用しますが、そのうえで、テントハウスも作れる構成を考えました。建物の内部まで作りこんで、ファルコンより、こっちのテントハウスの方に時間をかけています。

── 作品集(WildRiver’s S-WORLD: WildRiver荒川直人スケールモデル円形劇場作品集)を拝見すると、戦車や船舶のジオラマも得意ですよね。兵器の考証は大事にしますか?

荒川 いえ、考証はあまり好きじゃないです(笑)。逆をいうと、小学生のころって、考証なんて考えないで好き勝手に作っていたじゃないですか。ある程度は必要な部分もありますが、考証にとらわれすぎず、自由に作ったほうが自分的には楽しいです。考証も、時代によって、いろいろ変わってきていますから。