【アニメコラム】アニメライターによる2017年冬アニメ中間レビュー

正月と旧正月を挟むため制作現場がもっともハードだと言われる冬アニメもついに後半戦。今回はその中から話題の5作品を中間レビュー!

動物がヒトの姿になった「けものフレンズ」、アイドル議員がニッポンを取り戻す「アイドル事変」、アキバを隅々まで描いた「AKIBA’S TRIP -THE ANIMATION-」、人気ライトノベル原作の2期「この素晴らしい世界に祝福を!2」、江戸川乱歩の人気小説をショートアニメ化した「超・少年探偵団NEO」の5作品をラインアップしました。

けものフレンズ

美少女キャラクターの動物たちがキュートではあるものの、どこか不穏な雰囲気を醸しだしている本作。物語の舞台である巨大総合動物園・ジャパリパークは廃墟同然で、文明崩壊後の世界を描いているかのようだ。エンディングでは放棄された遊園地が次々と映し出され、時折インサートされる黒コマは見る者の不安を煽り、サーバルキャットが意味もなくバスに轢かれるカットは強烈なインパクトを残す。アニメ放送開始前にソーシャルゲームのサービスが終了しているという状況も妄想を掻き立てるのには十分だ。
第1話はそんなジャパリパークに迷い込んだ主人公が、サーバルに襲われる場面から始まっている。狩りごっこと称して猛スピードで迫り来るサーバルの嬌声が恐ろしい。彼女の前髪に印された「M」の文字は、フリッツ・ラングのサイコスリラー映画を彷彿とさせ、もはやMurderer(殺人者)の符号としか思えない。主人公に「食べないでください!」と何度も絶叫させるほどのトラウマを植え付けたのも無理からぬ話だ。その誤解は「食べないよ!」と否定することで一端解かれるが、サーバルが主人公を「かばん」と名付けたことで、新たな不安が頭をよぎる。サーバルの美しい毛皮は「かばん」の素材にふさわしすぎるのではないだろうかと。今は仲よく旅をしている2人の関係はどうなってしまうのか。あらゆるものにタナトスを見出すアニメファンの本能を刺激する一作。

アイドル事変

閉塞したニッポンを変えるために国会議員となったアイドルたちが、国民の笑顔を取り戻すべく奮闘するメディアミックスプロジェクト。国会議事堂の外観が登場するアニメはしばしば見られるが、本作は内部もていねいに描かれているのがポイント。アイドル議員とは一体何なのか、被選挙権年齢はどうなっているのか、なぜ歌とダンスで社会問題が解決するのかといった当然生じる疑問も、国会議事堂で美少女たちが踊るOPアニメの説得力を前にすれば無力である。いつしか歌詞にあわせて「YEAH YEAH」と叫び出している自分を発見するだろう。
物語はコメディタッチながらスタジアム建設や保育園問題に斬り込み、パッケージ特典にはアメリカ大統領にちなんでトランプが付いてくるなど社会派な一面も。権力にくみすることなくマイノリティに手を差し伸べる主人公・星菜夏月からは、公職者に求められる確かな倫理観が伝わってくる。第6話では板垣退助、大隈重信、伊藤博文の銅像が動き出して、アイドル議員に向けてサムズアップ! 明治・大正を生きた三英傑が彼女たちに未来を託すのも当然の帰結と言えよう。OPテーマ「歌え!愛の公約」の作詞・作曲はつんく♂が担当。サビで「グルグル回る回る」という歌詞が繰り返されるのは、アニメファンが国会に聖地巡礼すれば革命も完遂できるというアピールなのだろうか。

AKIBA’S TRIP -THE ANIMATION-

アクションアドベンチャーゲーム「AKIBA’S TRIP」シリーズをTVアニメ化。「かつてないディープ“アキバ”な作品!」を掲げており、協力店舗に名を連ねた企業は50社以上。秋葉原の街並みを忠実に再現し、どこか見覚えのある景色を楽しめる。各エピソードで取り上げられるカルチャーも幅広く、アイドル、アマチュア無線、オーディオ、サバイバルゲーム、自作パソコン、トレーディングカードゲーム、フィギュア、ブラックバイト、プロレスなど、数え上げるとキリがない。
第5話ではゲーム「ストリートファイター」シリーズのゲーム画面をそのまま使用するサプライズも盛り込まれている。EDテーマは毎回異なるアーティストが歌声を披露し、最後まで飽きることのない作りが魅力。アキバは多様性の街であることが実感できる。

この素晴らしい世界に祝福を!2

「角川スニーカー文庫」にて刊行しているファンタジー小説の続編。アニメの無駄に長いタイトルは本編の内容と関係ないことも多いが、本作は「素晴らしい世界」を表現している点において希有な作品だ。新シリーズになっても旅立つ気配の見えない主人公たちにとって「世界」とは駆け出し冒険者の街・アクセルであり、その何が「素晴らしい」のかと言えば、そこで暮らす普通の人々にほかならない。
第1話で公開裁判にかけられた主人公の前には、証人として街の住民が呼び出される。そして第1期では単なるモブだったキャラまで再登場し、彼の悪事を何となしに暴いてしまう。だが主人公を死刑から救うのは不当判決に異議を唱える住民たちの声だった。いつしか主人公の名前がシュプレヒコールされ、裁判官は処分保留を余儀なくされる。第1期のラストで街を守った主人公が今度は皆から守られる名場面だ。

超・少年探偵団NEO

江戸川乱歩の小説「少年探偵」シリーズを原案とするテレビアニメ。乱歩が死後50年を迎えてパブリックドメインとなり、アレンジを加えた映像作品が次々に登場しているが、その中でも異彩を放つショートコメディに仕上がった。舞台は2117年の未来都市・東京で、怪人二十面相と明智小五郎の戦いが7代にわたって続いているという設定。7代目小林少年は明智探偵と力を合わせて街の平和を守っていく。
二十面相のしかける攻撃は、明智のアンドロイドを作ったり、アニメ制作会社を乗っ取ってメタな攻撃をしかけたりとヘンテコなものばかり。ポップなキャラデザと畳みかけるような展開であっという間に時間が過ぎていく。小林少年たちが原作の濃い挿し絵タッチに変身するのも郷愁を誘う。

(文/高橋克則)

(C) けものフレンズプロジェクト/KFPA
(C) MAGES. (C) アイドル事変製作委員会
(C) 2017 ACQUIRE Corp./AKIBA’S TRIP製作委員会
(C) 2017 暁なつめ・三嶋くろね/KADOKAWA/このすば2製作委員会
(C) 2016Poplar/DLE