アニメ業界ウォッチング第30回:「監督」と「演出」は、職業的にどう違うのか? 鈴木利正インタビュー!

アニメ作品のクレジットを観察していると、「監督」と「演出」が、別々の人物であることに気がつく。実写映画であれば、演出をする人が「監督」のはず。アニメ作品の現場では「監督」と「演出」は、どのように分業しているのだろう?
「蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH」や「輪廻のラグランジェ」で監督を務めつつ、「傷物語」では「演出」とクレジットされている鈴木利正さんに、アニメ業界独特の“監督と演出の違い”について、質問してみた。

演出が働いている間、監督は何をしている?

── 劇場アニメ「傷物語」は、総監督が新房昭之さん、監督が尾石達也さんでしたね。全3本のうち、「鉄血篇」と「冷血篇」は、鈴木さんが宮本幸裕さんと連名で、「演出」とクレジットされています。

鈴木 そうですね。2作目の「熱血篇」は、宮本くんがひとりで演出をしています。

── 監督と演出の仕事は、どう違うのでしょう?

鈴木 基本的に、劇場アニメは「演出が見た素材を、あらためて監督がチェックする」流れがあるので、まったく別のことをしているわけではありません。「傷物語」の場合、尾石さんは全体をコントロールしたいタイプの監督さんなので、各セクションに深く関わって、自分のイメージを浸透させていました。
アニメでも実写でも、作品は監督のものだと思うんです。そして演出は、監督の伝えたいイメージを、具体的な作業に落とし込む仕事ですね。監督は企画の段階、プリプロダクション(準備作業)から関わっていますが、演出がプリプロから関わることは、まずないでしょう。プリプロ段階での設定や脚本は、監督が中心になって進めます。

── アニメ制作は、作画、背景美術や仕上げ、撮影などのセクションに分かれていますよね。そうしたセクションとの打ち合わせは、演出が行うのですか?

鈴木 テレビアニメの場合は、そうですね。テレビアニメでは、絵コンテだけやる場合、コンテとは別に演出だけやる場合、コンテと演出の両方やる場合があります。最初の打ち合わせで、どんな世界観の作品なのか、この話数では何を伝えたいのか、キャラクターの心情はどうなっているのか、演出さんのほうから疑問が出ますので、監督が説明します。最近は、絵コンテを切らずに演出処理のみ請けるパターンも多いので、処理打ち(処理打ち合わせ)でカットやシーンに対する演技のつけ方、ビジュアルの表現について、より具体的に監督から説明を受けます。どれぐらい細かく説明するかは、監督によりますね。
処理打ちを経て、演出は各セクションと打ち合わせて、上がってきた素材のチェック、指示、修正をしながら、どんどん絵をつくっていく。同時進行で、カッティング、アフレコやダビングなどにも立ち会って、V編(ビデオ編集)をして、完パケる(放送できる状態にする)。ですから、演出は“現場の責任者”と言えるでしょうね。

── その間、監督は何をしているんですか?

鈴木 当然、ボーッとしてはいません(笑)。各話で演出に入って、実際に作業してみると、「なんだか辻褄があわないな」「こういう処理にしたほうがいいんじゃない?」といった疑問点が出てくるわけです。その最終判断は、やはり監督が下すんです。それと、話数が進むと、新しい設定などが必要になってきます。そうした設定関係は、各話演出ではなく、監督が打ち合わせして決めないといけません。設定だけでなく、制作上の重大な決定を下すのが監督の役割なのですが、どちらに正解があるのか見えないことがあるんです。監督には、相当なプレッシャーがかかっていますよ。