「ゼーガペインADP」、下田正美監督インタビュー【復習編】

テレビ・シリーズの放送から、実に10年目にして制作された「ゼーガペインADP」が、全8館の映画館でイベント上映されている。上映前から「ただの総集編ではない」と言われてきた「ADP」だが、ご覧になった方たちは、どのような感想をもたれただろうか? 前回の【予習編】に続く今回は、「ゼーガペインADP」を見て、「どういう意味なんだ?」「どう解釈すればいいんだ?」ととまどっている方たちに向けた【復習編】インタビューをお届けする。当然、「ADP」の内容に踏み込んでいるので、未見の方はネタバレにご注意を!

最新技術が、ループのたびに劣化していく理由

──「ゼーガペインADP」は、まるでお祭のような作品でしたね。

下田 何年か前のイベントで、「ちょっと大き目の花火を打ち上げたい」と言ったのですが、その言葉が嘘にならなくてよかったです。劇場上映と同時にBlu-rayも発売されていますし、ネット配信もされていますが、できれば映画館で見てください。たとえば、キョウの使う未来の端末機などは、カミナギのセリフに合わせて変化しているんです。そうしたディテールは、大画面でないとわからない気がします。

──電話機の機能など、ループのたびに少しずつ表現の変わっていく部分がありますね。

下田 テレビシリーズの第16話でシマが語っているように、「量子サーバーは魔法の箱ではない」ことの現れです。何かを生かすために別の何かを削らないと、膨大なデータが集積された仮想世界を維持することはできないと思うわけです。

──ゼーガペイン用のシミュレーターも、テレビシリーズと違って、現在のVRっぽく刷新されていますが?

下田 今年は“VR元年”と言われるぐらいですから、10年前のゲーム機的な見せ方ではなく、最新のVR機器をいくつか取材して、「ADP」ならではの描き方にしました。しかし、ループのたびにサーバー内の技術が劣化していくので、最終的にはテレビシリーズに出てきた、古いゲーム機に戻るわけですが。

──もしかすると、シミュレーターや電話機だけでなく、いろいろなことがループのたびに変化しているのではありませんか? いろいろなバージョンの世界が存在するというか……。

下田 おっ、いいところに気がつきましたね(笑)。実に、量子物理学的な考え方です。例えば「カミナギが未来のビジョンを見る」シーンは、原作の伊東岳彦さんから、ある事象の提案をされて、最初は「総集編ではそんなの、無理だ」と返しました。だけど、何とか入れられてしまったのは、そういう視点を見つけられたからです。

──しかし、テレビシリーズを知っていれば知っているほど、混乱する構成でしたね。

下田 何しろ、最終回にしか出てこないキョウの妹のシーンから始まるので、最終回の続きか?と思ってしまいますよね。バンダイビジュアルの宣伝担当の廣岡祐次さんか誰かが、最終回まで見てほしいばかりに「『ゼーガペイン』は妹が出てきてからが本番だ!」とおっしゃったんです。だったら、妹のシーンから始めてやろうじゃないか、とかね(笑)。 ほかにも、いろいろな方からヒントをいただいています。最近、キョウ役の浅沼晋太郎さんから聞いた話ですが、ラーメンズの小林賢太郎さんは切り出したフィルムを吊るすように、細かなアイデアを並べかえてコントをつくるんだそうです。僕もまったく同じで、ポストイットに必要なアイデアとテレビ版「ゼーガ」のカット内容をメモして、何度も並べかえながらストーリーを構成しました。これが「ADP」の脚本、第一稿だと聞いたら驚きますよね? いま見返すと、上映中の「ADP」とは、かなり違う構成になっているんですよ。