【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第8回「WXIII 機動警察パトレイバー」ほか

アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かが一言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。

「シン・ゴジラ」がヒットということで、今回の「見るべきアニメ100」のキーワードは「怪獣」。とはいえ「怪獣」とアニメは決して相性がよくはない。怪獣は特撮映画・特撮番組に出自を持ち、その巨大感や生物感はアニメでは表現しづらいせいか、アニメでは“主流”にはならなかったのだ。

 

だが怪獣ブームの余波は大きく、怪獣は“メカ”のフィルターを経て、ロボットアニメなどのやられ役へと変奏されアニメの中に取り込まれた。「科学忍者隊ガッチャマン」の鉄獣メカ、「マジンガーZ」の機械獣などがその初期の代表例といえる。ちなみに、こうしたやられメカは制作現場では“怪獣”と呼ばれていたという。

 

そんなアニメの中にあって、ストレートに怪獣を取り上げた作品を探すとするなら、映画WXIII 機動警察パトレイバーが筆頭にあがる。

同作はマンガ版「機動警察パトレイバー」のエピソード「廃棄物13号」を下敷きにした劇場アニメ。事件を追う刑事コンビを主役に据えたスピンオフ的なポジションの作品だ。

東京湾で発生した輸送機の墜落事故。その後、湾岸地域でレイバーが何者かによって襲われる事件が発生する。城南署のベテラン刑事・久住と若手刑事・秦の2人がこの事件を追い始め、やがてそれが大きな事件に結びついていく。

 

誰も気がつかないほどの小さな異変の発見から始まり、怪獣の登場へと至るプロセスや、怪獣の習性に気づくことがプロットの重要なポイントになっている点など、「WXIII」話の運びは非常にオーソドックスな“怪獣もの”にそっている。ロボットアニメの「パトレイバー」だが、内容に関していえば怪獣映画と呼んだほうがふさわしい。

本作の怪獣の特徴は、バイオテクノロジーが背景にあること。テクノロジーが介在するということは、つまり、これは人間の仕業ということでもある。というわけで本作のストーリーは怪獣映画でありつつ、同時に犯罪映画であるという方向へ進んでゆき、悲劇的なラストシーンに至るのである。

 

 

さて、ロボットアニメのやられメカは“怪獣の亜種”と記したが、この“亜種”もやがて衰退期を迎えることになる。ロボットを兵器に見立てる、いわゆる“リアル系ロボットアニメ”の台頭だ。

だがやがてこの“怪獣の亜種”を見事再生したアニメが現れる。それが新世紀エヴァンゲリオンだ。

 

「新世紀エヴァンゲリオン」は、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンが、さまざまな姿をした使徒を迎え撃つ、という設定が作品の根幹に用意されている。

使徒は、生物ともロボットともつかない非常に個性的な形状をしているところが特徴。先に怪獣の巨大感、生物感はアニメに向いていないと書いた。実は使徒のデザインはこの「アニメは怪獣が苦手」ということへのアンサーになっているのだ。ディテールがなく、形状も幾何学的な使徒は、「実線で縁取られ、色面で塗り分けられる」アニメの表現特性と非常にマッチしているのだ。このあたり、特撮を追いかける感のあったザ・ウルトラマンなどとは異なり、アニメならではの表現として洗練されているのがポイントだ。

 

この「アニメ的表現に特化した怪獣」は「エヴァンゲリオン」の後も、地球防衛企業ダイ・ガードのヘテロダイン、ストライクウィッチーズのネウロイという“後継者”を生み出している。

 

怪獣というキーワードでいうなら、映画わんぱく王子の大蛇退治も忘れてはいけない1本だ。同作はスサノオを主人公にした、日本神話を題材にした映画で、クライマックスではヤマタノオロチとの大決戦が描かれる。

本作は平面的でデザイン的な画面作りが特徴なのだが、ヤマタノオロチとの空中戦(スサノオは天馬アメノハヤコマに乗って空を駆ける)は、画面構成が立体的になる時があって、それがかえってこのバトルの鮮烈な印象を深めている。しかも本作の音楽を手がけたのは、「ゴジラ」を筆頭に数多くの怪獣映画を手がけた伊福部昭。これだけ書けば「わんぱく王子の大蛇退治」が“実質怪獣映画”であると納得してもらえるのではないだろうか、

 

そして「わんぱく王子」の東映動画(現・東映アニメーション)がその36年後、1999年に送り出したのが、映画デジモンアドベンチャーだ。

TVシリーズの4年前を舞台にした本作は、まだ幼い八神太一と八神ヒカリの兄弟が初めてデジモンと出会った時を描くエピソード。わずか20分間の作品だが、夜の団地で、巨大なグレイモンとパロットモンが本格的な怪獣バトルを披露するのが見どころだ。夜間シーンということで、照明の使い方がデジモンの大きさを際立てているのが“怪獣もの”としての魅力につながっている。

 

怪獣とアニメは、近いようでいて案外遠い距離にある。果たしてこの関係にまた新たな一歩が記されることはあるのだろうか? その時はどんなアプローチになるのだろうか?

 

 

(文/藤津亮太)