アニメーションプロデューサー・櫻井崇 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第2回)

アニメ・ゲーム業界の第一線で活躍するクリエイターたちにインタビューを行い、仕事の流儀や素顔に迫っていく本連載。第2回は、「School Days」で編集、「Persona4 the ANIMATION」、「PERSONA3 THE MOVIE」、「デジモンアドベンチャー tri.」で編集・アニメーションプロデューサーを務め、現在は映像制作会社・颱風グラフィックス(タイフーングラフィックス)代表でもある櫻井崇さんに直撃インタビューを行い、業界デビューからプロとしてのこだわり、今後のアニメ制作に関することまで、ほかでは聞けない貴重なお話をたっぷりとうかがった。

実写業界からアニメ業界へ

 

──櫻井さんのアニメ業界デビューは、「円盤皇女ワるきゅーレ SPECIAL」が発表された2003年でしょうか?
櫻井 アニメの編集は、日韓ワールドカップが行われた2002年からですね。当時、専門学校時代の同期の今井剛さんが、東京キッズという制作会社で実写とアニメの編集を行う部署を統括していたのですが、実写映画の編集が忙しくなりアニメにまで手が回らなくなったため、彼のサポートとして参加したのが最初です。その後、東京キッズでのアニメ編集全般を任されるようになり、その中でTNKの「ワるきゅーレ」の編集も行いました。(編集注:今井さんが編集として関わった実写映画には「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004)、「GANTZ」(2011)、「図書館戦争」(2013)、「るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編」(2014)などがある。)

──以前はどういったお仕事を?
櫻井 アニメとは全然関係のない仕事を10年ほどしていました。フューチャー・パイレーツという会社でCG制作を経験した後、テレビマンユニオンでTV番組、ミュージックビデオ、映画などの制作に関わり、是枝裕和監督の劇場映画デビュー作「幻の光」(1995)の制作主任も経験しました。その後はバスクに移籍して、TV番組「クイズ$ミリオネア」の編集を2年ほど経験しました。

編集という仕事から見る、アニメと実写の違い


──実写業界のご出身なのですね。初めてアニメの編集を行った時の感想は?

櫻井 「編集のやりようがなかった」というのが正直なところです。ドラマやバラエティといったTV番組には通常、3~4時間分の素材が用意されていて、それを編集して1時間の番組を作るのですが、アニメでは尺ギリギリの素材しか来ないのです。そのため最初のうちは監督や演出から、「頭数コマ切ってください」といったごく簡単な指示しか得られず、物足りなさを感じていました。

──お仕事に慣れてからはいかがですか?
櫻井 実写業界では、映像の構成や話の流れを考えることも編集の仕事なんですよ。アニメのやり方に慣れてからは、話の伝わりやすさや盛り上がりを考えて、絵コンテとは違う流れや構成の変更を監督に相談することもありましたね。たとえば、2つのシーンを交互に描くカットバックや、引き絵と寄り絵の効果的な使い分けといった手法を提案したりしました。

──会話の間の取り方についてはいかがでしょうか?
櫻井 実写・アニメを問わず、編集として非常に大切な仕事のひとつですね。たとえば、現在弊社で作業している「デジモンアドベンチャー tri.」(2015-)をはじめ、ここ数年関わったアニメのアフレコでは定尺で収録してないんです。アフレコ時に尺を多めに取っておいて、編集時に大事なセリフの前にはひと呼吸置かせたり、セリフを音楽の流れに合わせるなどして、タイミングの調整を行っています。

 

実写業界での経験をアニメ制作に生かす


──実写業界でのご経験が生かされていると思うことは?

櫻井 ロケ地の取材ですね。たとえば「Persona4 the ANIMATION」(2011-12)は、主人公の鳴上悠が古びた駅から降りるシーンで始まるのですが、アニメでは独自に群馬の下仁田駅を実際に取材して、作品に反映しました。また、ジュネスという作中に登場するショッピングモールは、ゲームで描かれていない外観などの部分について、実際のショッピングモールをロケハンして参考にしています。

 

──最近の作品でもロケ地の取材をしているのですか?
櫻井 そうですね。「デジモンアドベンチャー tri.」は、東京のお台場が舞台になっていますが、制作から絵コンテマンまで、スタッフ全員が現場に足繁く通い調査しました。また、本作のパッケージ制作でも、ロケで撮影した写真をキャラクターデザインの宇木敦哉さんに渡して描いてもらっています。

映像作品はアニメからアジア映画まで幅広く愛好


──影響を受けた作品はありますか?

櫻井 子どものころ「無敵超人ザンボット3」(1977-78)、「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)、「うる星やつら」(1981-86)といったアニメをよく観ていました。「うる星やつら」は押井守監督と脚本家の伊藤和典さんがタッグを組んだ回が特に好きで、伊藤さんの面白いストーリーに押井監督のキレた演出が乗っているのが最高なんですよ。富野由悠季監督の作品にはグチャグチャの人間ドラマがあるのがよくて、「ザンボット3」はもちろん、「伝説巨神イデオン」(1980-81)なども大好きです。宮崎駿監督の作品に関しては、誰もが楽しめる、非の打ちどころがない面白さといえるでしょう。

──実写作品ではいかがでしょうか?
櫻井 洋画ではリドリー・スコット、テリー・ギリアム、デヴィッド・リンチ、邦画では大林宣彦、相米慎二、岩井俊二、アジア映画では侯孝賢(ホウ・シャオシェン)といった監督たちの作品が好きですね。実写作品から見せ方や話のつなげ方を学ぶこともあります。最近、岩井監督の「リップヴァンウィンクルの花嫁」(2016)を観に行ったのですが、とても映画的で無駄な説明が一切なくて、映像作りの参考になりました。

 

アニメーションプロデューサーへの挑戦


──「祝福のカンパネラ」(2010)以降、編集とアニメーションプロデューサーを兼任される場合もありますが、どういった経緯があったのでしょうか?

櫻井 編集はアニメ制作における最後の方の工程ですが、素材がなかなか集まらず、作業が思うようにできないことが多々ありました。私は、作品のクオリティを高めるには構成を左右するシナリオと編集、そして音楽がとても大切だと思っています。この3点をきっちりさせるためには適切なスケジュール管理が必要で、その仕事を行っているのがプロデューサー。なので、自分も始めたというわけです。

──「カンパネラ」はアダルトゲームですがご抵抗は?
櫻井 ストーリー自体はしっとりした素敵な作品だったので、抵抗は特になかったですね。監督をお願いしたウシロシンジさんも、彼が演出デビューしたころからの付き合いですので、意思疎通もしっかりできていました。ラストのほうでガチのバトルを入れたりしていますし、本作でお互いに何をやりたいのかよくわかったうえでお願いしました。(編集注:ウシロさんは「妖怪ウォッチ」(2014-)の監督でもある)

──兼務するうえで苦労されていることは?
櫻井 私よりスタッフに苦労をかけていますね。「その発言はプロデューサーとしてですか、編集マンとしてですか」とよく聞かれます(笑)。

──お付き合いの長い業界関係者は?
櫻井 岸誠二監督や元永慶太郎監督とは昔からよく一緒に仕事をしています。(編集注:元永監督と櫻井さんは「School Days」(2007)、「デート・ア・ライブ」(2013)、「PERSONA3 THE MOVIE #3 Falling Down」(2015)、「デジモンアドベンチャー tri.」でタッグを組んでいる)

──岸監督とは10年来のお付き合いになるのですね。
櫻井 岸監督とは、東京キッズの「マジカノ」(2006)でご一緒したのが最初で、その後私がAICに移ってからは、「瀬戸の花嫁」(2007)という作品でご一緒しました。この作品がうまくいったおかげで、その後は「天体戦士サンレッド」(2008-10)や「Persona4 the ANIMATION」でもご一緒しました。「人類は衰退しました」(2012)では、岸監督と脚本家の上江洲誠さんのコンビが適任だと思い、私からオファーしました。(編集注:岸監督と上江洲さんは「瀬戸の花嫁」でもタッグを組んでいる)

 

──「Persona4 the ANIMATION」は原作愛にあふれてますね。
櫻井 岸監督が原作ゲームのファンということもあって、「普通のアニメ制作なら避けたくなるような大変なことを、あえてやろう」というのがスタートラインになっていました。たとえば、戦いの中で敵の弱点を見極めペルソナチェンジをするという描写は、もっとも大変な作業だったんです。このほか、ゲームにあった登場キャラの交流エピソードも、全てアニメ本編に入れるよう指示を出しました。(編集注:櫻井さん以外のスタッフのインタビューについては、公式サイトを参照)

──印象に残ったお仕事は?
櫻井 関わった作品、すべてに全力投球しています。絵作りや演出面は口を出さず、監督にお任せしていますが、シナリオをきっちり仕上げるのはプロデューサーの仕事のひうとつだと思っていますので、時間をかけて納得いくまでチェックします。面白い例をひとつあげるとすれば、岸監督とご一緒した劇場アニメ「AURA~魔竜院光牙最後の闘い~」(2013)ですね。この作品ではより実写に近いアプローチをして、あえてアニメファンが見たくない現実を突き付ける、というチャレンジをやりました(笑)。
 

颱風グラフィックス(タイフーングラフィックス)は単なるアニメ制作会社ではない


──御社はアニメだけでなく、実写も手がけているのがユニークですね。

櫻井 私たちは映像作品を作ることが大好きなんです。表現方法のひとつとしてアニメがあるという考えですので、作品によっては実写でやったほうがいい作品、フル3DCGでやったほうがいい作品というのもあると思います。

 

デジモンといえば「Butter-Fly」


──新作のデジモンは、前作とは作品のテイストがちょっと違いますね。

櫻井 「デジモンアドベンチャー tri.」は前作が完全に子ども向けだったこともあり、今回は少し対象年齢を上げて作っています。そのため、セリフで過度な説明をしないよう心がけ、語らなくてもシーンごとの絵、音楽、空気感などで伝わるよう工夫しています。第2章「決意」で城戸丈が雨の中を歩くシーンなどは、そういったところを意識しながら作った例ですね。

──新作でも和田光司さんの「Butter-Fly」を主題歌に起用されています。その理由は?
櫻井 東映アニメーションさんとうちで最初から意見が一致していたのは、「デジモンといえばButter-Fly。これは絶対に外せない」ということでした。和田さんの「Butter-Fly」といえば、デジモンを知らない世代の人ですらカラオケで歌うくらいの歴史的な名曲になっており、しかも本作は初代デジモンアドベンチャーの続編ですので、どうしても変えるわけにはいきませんでした。

──和田さんは2011年に上咽頭がん治療のため活動を休止され、2013年に復帰されたばかりでしたね。
櫻井 私自身は2014年8月にお台場シネマメディアージュで開催された「デジモンアドベンチャー15th Anniversary Event」の打ち上げでお見かけして以来、お会いできませんでした。

──2016年4月26日の「和田光司 お別れの会」にはご出席されましたか?
櫻井 参列させていただきました。直接御礼を申し上げることができず、とても残念です。

──ズバリお聞きします。第3章「告白」(2016年9月24日公開予定)以降の主題歌も「Butter-Fly」ですか?
櫻井 東映アニメーションさんも変える意思はないと思うので、第6章まで「Butter-Fly」で行くつもりです。


──アニメーションプロデューサー・編集として、今後挑戦してみたいことは?

櫻井 岸監督がフル3DCGの「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013)を発表した時、「やられた!CGでここまでできるのか」と、悔しい思いをしたので、うちもフルCGでクオリティの高いアニメを作ってみたいです。また、アニメ業界以外の映像クリエイターと一緒にアニメを作ってみたいですね。

──アニメファンにメッセージをお願いします!
櫻井 颱風グラフィックスはできて間もない会社ですが、今は「デジモンアドベンチャー tri.」をファンの方によろこんでもらえるよう、全力で取り組んでいます。それ以降も他のアニメ会社ができないことに積極的に挑戦し続け、アニメだけにとらわれない、楽しい映像作品作りを続けて参りますので、ご期待いただければと思います。


株式会社 颱風グラフィックス (タイフーン グラフィックス) プロフィール

櫻井崇さんが2014年5月1日に立ち上げた映像制作会社。アニメーション制作だけでなく、ドラマ、CM、ミュージックビデオなどの実写作品も手がけている。主な作品は「デジモンアドベンチャー tri.」シリーズ(制作協力)、「PERSONA3 THE MOVIE #4 Winter of Rebirth」(仕上げ・撮影・グレーディング)、実写では、TVドラマ「マジすか学園5」(編集)、「HIGH & LOW season2」(編集)、CM「イッツ・コミュニケーションズ 家内マモル登場編」(編集)、ミュージックビデオ「NMB48 4th Anniversary Live@グランキューブ大阪メインホール」(編集)など多数。
※くわしくは颱風グラフィックスの公式HPまで。

(取材・文/crepuscular)