【2012年夏アニメ】「SAO」「ラグりん」「人類は衰退しました」──2010年代のアニメに影響大! アニメ史のターニングポイントとなった3作品を振り返ろう【アニメ10年ひとむかし!】

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品が既に放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。

今回はそんな10年前──2012年の夏クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

 

ソードアート・オンライン

川原 礫氏のライトノベルを原作としたアニメ「ソードアート・オンライン」。当時の期待も大きく夏+秋の2クールで放映されました。

ゲーム世界で現実のような体験ができるVRMMORPG「ソードアート・オンライン」で、プレイヤーたちがゲームからログアウトできなくなる事件が起きました。犯人はゲームの開発者自身。クリアしないとゲーム世界から脱出できないうえ、ゲーム内で死ぬと、現実の身体も死ぬ。稀代のゲーマーである主人公・キリトは、この危機に立ち向かうのでした。

監督は、「時をかける少女」「サマーウォーズ」で助監督を務め、前々年に「世紀末オカルト学院」で監督デビューした伊藤智彦氏。2クールが決まっている期待の作品としては大抜擢ですが、その後も第2期や「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」でも監督を務め、シリーズの歴史を語るうえで欠かせない人物となっています。

本作は、現在大ブームである「ゲーム系異世界もの」のハシリとも言える作品。「VRMMORPGもの」というサブジャンルまで存在しているのですから、本作が及ぼした影響の大きさがうかがえるでしょう。

ゲーム世界は現実のように感じられるリアリティあふれる場所でありつつも、キャラクターたちはゲームであることを自覚し、システムからサービスを受け、システムの穴を突いたりして攻略を試みます。そこにはネットゲームプレイヤーの人間群像があり、ゲーム世代の視聴者たちは、そのリアルさに共感を覚えるのです。

これまでゲームを扱った作品では、ゲームの世界を仮想や逃避と断じることもありましたが、本作にそうした後ろ暗さは存在しません。主人公のキリトは人間的魅力とゲームの強さで尊敬を集め、さまざまな出会いと別れを経て人として成長していきます。

つまりは、ゲームにまつわる偏見が消えつつある世代だからこそのヒーローというわけです。異世界もののファンタジーであり、VRという先進技術を扱ったSFであり、ネトゲあるある的なオタク群像である……ということで、本作は以降のオタクシーンにおける創作の一原型となったのです。

 

輪廻のラグランジェ

鴨川を愛し、人助け活動「ジャージ部」に邁進する主人公・まどかは、宇宙から来た少女・ランの導きでロボット「ウォクス・アウラ」に搭乗。謎の敵を撃退します。まどかとラン、そして2人目の宇宙人であるムギナミはジャージ部として活動しつつ、鴨川を守るために戦うのです。

本作はオリジナルロボットものにして、西暦2032年の千葉県・鴨川市を舞台としたご当地もの、そして美少女学園ものとしての側面も持っています。この時期の流行をまんべんなく取り入れた、ユニークな企画といえるでしょう。

まどか、ラン、ムギナミが搭乗する3機のロボットは、ほかのロボットものと一線を画するスポーツカー的なデザインが目を惹きますが、それもそのはず、この3機は日産自動車がデザインしたもの。社内コンペには60人以上のデザイナーが参加し、「人型形態から飛行形態に変形し、女性主人公が搭乗するこれまでにないシルエットを持つロボット」という難題に挑戦。「いつも以上にカーデザイナーであることを強く意識した」大須田貴士氏のデザインが採用されました。本作を制作するProduction I.Gの公式サイト( https://www.production-ig.co.jp/works/lag-rin/special/01 )によると、大須田氏はリアルロボットアニメの直撃世代だといいます。アニメファンが成長して世の中を動かす側に回ったというわけで、アニメブームがさまざまな分野に影響を及ぼした一例ともいえるでしょう。

鴨川を舞台とした、ご当地アニメとしてのディテールも見逃せないところ。美しい鴨川松島、シャチやアシカのパフォーマンスを堪能できる「鴨川シーワールド」といった名所に加え、ご当地グルメの「おらが丼」や、棚田を光が彩る「棚田の夜祭り」といった風物も登場するも、「聖地巡礼」ブームのただ中だけに「鴨川側かが経済効果を目当てに絵に目に介入した」との誤解もあったようです。OVAとゲームが同梱された「輪廻のラグランジェ -鴨川デイズ- GAME&OVA Hybrid Disc」も当時ならではの取り組みで、配信全盛の今では見られなくなった形態です。

  

人類は衰退しました

人類が衰退を始めてしばらく経った遠い未来。地球は、人類よりも高度な文明を持つ「妖精さん」のものになっています。主人公である「わたし」は妖精さんと人類の間に立つ「調停官」となり、さまざまな事件に巻き込まれていくのです。

すでに人類が滅びかけており、高度な能力を持つ種族も登場している……といった設定はハードSFですが、童話のような世界で展開する物語はゆるやかかつシュールでブラック。妖精さんは童話の妖精のような姿とふるまいですが、楽しいことを見つけるととんでもない事件を引き起こすのです。童話のようでいてSF的。SFのようでありつつも童話的。2つの領域を行き来するなんとも不思議な話であり、「わたし」の現実主義によるダークなツッコミと合わさって、オンリーワンの雰囲気を醸し出しています。

監督は「天体戦士サンレッド」「あそびあそばせ」のようなギャグから、「Persona4 the ANIMATION」「暗殺教室」といったジュブナイル的作品まで、さまざまな原作モノで知られる岸誠二氏。癒し系でブラックという独特の作品を巧みに映像化しています。

注目すべきは、原作の田中ロミオ氏の経歴です。田中氏はもともと18禁ゲーム(エロゲー)のシナリオライター。自分たち以外の人類が消え去った世界で8人の少年少女たちが触れあう「CROSS†CHANNEL」、心に傷を持つ者たちが疑似家族を演じる「家族計画」などなど、文学的な作品で高い評価を得ていた人物。18禁ゲームのフィールドからは、田中氏の他にも「Fate」の奈須きのこ氏や「CLANNAD」「AIR」の麻枝 准氏らが巣立っています。

つまり、18禁ゲームの現場は新たな才能を育てるゆりかごのような働きをしていたわけで、本作のアニメ化はそうしたムーブメントを象徴するできごととも言えるでしょう。

(文/箭本進一)