秘密結社アガスティアでヒーローを倒す怪人を生み出すべく日夜、研究に明け暮れるヒラ研究員・黒井津燈香を主人公に据えた話題の2022年冬アニメが「怪人開発部の黒井津さん」だ。
「怪人開発部の黒井津さん」は、「COMICメテオ」(フレックスコミックス)にて連載中の。水崎弘明さんによるマンガが原作のアニメ。
正義と悪がぶつかり合う世界で、幾度となく正義のヒーローに倒されていく悪の怪人たち。秘密結社アガスティアの研究室でヒラ研究員として働く黒井津燈香は、予算やスケジュールと戦いながら、数々の怪人を生み出していく。そんな黒井津さんの奮闘を描きつつ、企業あるある、さらに最高の上司である絶対零度参謀メギストスをはじめとした個性豊かな怪人たちの日々の戦いを描くギャグアニメだ。
いよいよクライマックスを迎える本作について、斎藤久監督に話をうかがった。
アニメオリジナル展開のローカルヒーロー&派遣社員が生まれた理由
──原作のどんなところに魅力を感じましたか?
斎藤 日曜朝の特撮番組の悪と正義が戦う世界観でありながら、主人公がいる悪の組織を会社組織的なものと捉えていて、そこで働いていたらどうなるんだろうという視点。そこが新しい……というわけではないのかもしれないですが、面白いなと思いました。
──監督をするにあたり、原作のどういうところが、アニメとして表現すると面白くなると思いましたか?
斎藤 企業あるあるネタ的な失敗談が、エピソードの中に必ずひとつ入っているので、そこを原作以上に膨らませて描くことも考えたのですが、作品の方向性としては、変にそこを膨らませるより、話のスピード感のほうが大事なのかなと思いました。
見ていただければわかると思うのですが、最初の頃は1話のAパートとBパートで、1エピソードずつ入れているんです。そこでどんどん話とキャラクターを見せていき、まずはこの世界観を知ってもらおうと思いました。
それが後半になると1話につき1エピソードのような感じになり、1話の中で話を作っていくような感じになっているんです。前半でキャラを温めていったことで、後半は、もう少しキャラクターを掘る方向にカメラを振っても大丈夫になると考えていました。
──確かに前半は展開も早く、話が詰め込まれている感じがしました。
斎藤 Aパートで「あれ? どうなったの?」って感じで終わっても、Bパートから別の話になってしまうので、置いていかれている感はあるかもしれないですが、それもすぐに回収されたりします。そのあたりのフォローやエピソードの組み換えなどは、シナリオを作っている段階で相談しながら作っていました。
この作品であれば、ずっしりとストーリーを見せていくというより、くるくると回していったほうが面白くなると思いましたので、こういう判断になりました。
──脚本についてもうかがいたいのですが、原作漫画そのままではない感じがしました。それはシリーズ構成の高山カツヒコさんと相談しながらだったのでしょうか?
斎藤 高山さんは自分以上に大ベテランなので、どんなものが来ても「よし任せろ!」という感じなんです(笑)。なのでこちらが「こういうふうにしたいけど、どうですか?」と聞くと「それならこういうコースと、こういうコースが考えられますね」みたいな感じで、1を言ったら5返ってくるので、アニメにするうえでよい処理をしながら進めていけたと思います。ただ、細かいところは調整していますけど基本的には原作通りではあるんですよね。
──台詞の言い回しも、そのままではなく微妙に調整されていて、そこでテンポ感がさらに出ているなと感じました。そのほか、アニメオリジナル要素もありますが、これは最初から入れようと?
斎藤 今回、派遣の女の子が2人出てきて(水木香恋と松山平気)、彼女たちは原作には登場しないのですが、こういうところで少し膨らませていくのも面白いかなと思ってセッティングしてみたんです。
──セッティングした理由はあるのですか?
斎藤 この作品のもうひとつのオリジナル要素として、原作には出てこないローカルヒーローを出そうということがまず決まったんです。なので、ローカルヒーローとオリジナルキャラクターと原作で、3つの要素がうまく混ざってくれればいいのかなと思ったんです。ローカルヒーローだけポンと出しても、原作と引っ付けるのが難しいなと思ったので。
──ローカルヒーローが登場することで、原作とアニメの両方を楽しめるような仕掛けになっていますよね。
斎藤 これに関しては拒否されるか楽しんでくれるかどうなるかなと思ったのですが、ふたを開けてみたら特撮ファンも見てくれたし、アニメファンの視聴者も「ローカルヒーローがいるんだけど!」って、好意的に見てくださっている感じがしたのでよかったです。
──個人的には、派遣の女の子の物語を毎週期待するようになっていました。最初は「何なんだろう?」と思っていたんですけど、本線と並行して物語が進んでいくのが面白くて。
斎藤 結果的に、彼女たちがうまくローカルヒーローと原作を引っ付けてくれる感じになりましたからね(笑)。この2人が、いつ、どうやって黒井津さんたちと絡むのか、というところも見どころにもなっていると思います。
──ローカルヒーローを登場させることは、どのように決まったのでしょうか?
斎藤 プロデューサー含めていろいろなスタッフの意見を拾っていったら、こういう感じに収まったというか。
──特撮はファンが多いジャンルで、特撮を題材にしたアニメだからこそ出てきたアイデアなのかなと思ったのですが、監督はそれをまとめるような役回りだったのですか?
斎藤 そうですね。もちろんプロデューサー陣との相談にはなりますが、そのアイデアを拾うのであれば、こういう感じですかねっていうのは提案したりしていました。うまい具合にアニメに溶け込んでくれたので、とりあえず一安心です。
──ローカルヒーローを出すことで、監督的に苦労されたことや面白かったことはありますか?
斎藤 それに関しては、「仮面ライダークウガ」など、東映で多くの特撮作品の監督をされていた鈴村展弘さんが間に入ってくれていて、ローカルヒーローを紹介してくれているんです。毎週のナレーションも、こちらが「昭和のヒーローをやっていた方をナレーションで呼んでみたいんです」と話を振ったら、鈴村さんの伝手で呼んでくださって。こんなにすごい方たちがやってくれるの!と驚きました(笑)。
──監督がお会いして驚いた方は?
斎藤 毎回すごい方が声を入れに来てくださるので、いつもワクワクしていますよ。特に第1話の渡洋史さんは「宇宙刑事シャリバン」(1983年)ですし、第5話では「超人機メタルダー」(1987年)をやっていた妹尾青洸さん。1980年代は自分も特撮をよく見ていたので、アフレコ現場で本人を見たときには感動しました!(笑)この歳になって、子供の頃のヒーローとお会いできるとは思わなかったので。
──ナレーションの反応もすごいですね。
斎藤 ネットでの評判もいいみたいなので、受け入れてくれてよかったです。
──その他に、アニメならではの変更点などはありましたか?
斎藤 第1話で言えば、Bパートの頭で会社の近所のお弁当屋さんでお弁当を買って、偽装ビルの地下深くにあるオフィスに戻るまでの動きを追って紹介したところですね。そういうところは漫画ではないところですし、この建物がこういう風になっているんだと最初に見せることで、映像作品として世界観の広がりを持たせられたと思います。
──第1話でいうと、ウルフ(CV.天野聡美)が全裸だった点も原作と違いましたね。
斎藤 確かに漫画だと、出てきたときにちゃんと服を着ていましたよね。でも、培養液から出てくる時って裸だよねと思って(笑)。会議では、裸がいいか原作通りのほうがいいのかの話はしました。
──毎回、ギャグの切れ味がすごいと思っているのですが、笑いについて意識したことはありますか?
斎藤 基本的なセリフの流れとかは原作と変わっていないのですが、セリフの調整は高山さんのほうでしてもらっています。あとはギャグとして見せるときのコンテの落とし所ですかね。どういうふうにギャグで見せるのか、どう振って、どうツッコむのかというところは自分なりの、こうすれば面白いかな?という感覚でやらせてもらっていました。
──監督的に面白いキャラクターと言うと?
斎藤 絶対零度参謀のメギストス(CV.稲田徹)はわかりやすく面白いのかなと思うんですけど、視聴者の反応を見ていると、ウルフとかの受けがよかったりしますね。こっちが想定していたところではなく、そこで笑うんだ!というところもよくあるので、ギャグ作品はなかなか難しいなと思います。
──お笑いライブのように客の反応を見て変えるなんてことはできないですから、そこがアニメの笑いの難しいところなのかなと思います。
斎藤 そうですね(笑)。そういう想定外の話といえば、チョコレート型怪人のメルティのエピソード(第6話)は、バレンタインデイ直前に放送される予定で作っていたんですけど、放送がずれて、番組の内容と現実が重なるということが起きてしまいました(笑)。
アニメオリジナルのストーリーで見せる! 特撮モノらしい最終回は必見!
──キャスト陣のお芝居についてお聞きしたいと思います。黒井津さんを演じる前田佳織里さんの演技はいかがですか?
斎藤 前田さんに関しては、僕よりもむしろ周りが「前田さんしかいない!」と盛り上がっていたんです。そこは周りのほうがきっと正しいんだろうなと思いました。実際に始まってからは、黒井津さんの声は前田さんしかいないと思いました。彼女のハツラツとした声がスグになじみました。演技も毎週「こうやってきたか!」と、前田さんのトライ&エラーを見させていただいていましたし、すごくいいキャラクターになったと思います。
──幹部のキャストは豪華な顔ぶれでした。
斎藤 音響にかけられる予算というのは決まっているんですけど、幹部たちって1クールの中で、そんなに出てこないんですよ。1~2回しか出てこないのであれば、豪華なキャストにしようという話になりました(笑)。
──それが第1話に勢揃いしていたのですね(笑)。
斎藤 第1話でインパクトを与えておけば、その後出番が少なくても印象には残るのかなと(笑)。メギストスの稲田徹さんは一番登場頻度が高いんですけど、ご本人もノリノリでやってくださっていますね。
──不滅のカミュラ(CV.竹達彩奈)もいいキャラでしたね。
斎藤 そこは幹部なので、前田さんよりはちょっとキャリアのある方ということで考えていました。幹部の風格がある感じでやっていただける方ということで、音響監督の飯田里樹さんに選んでいただきました。
──特に好きなエピソードはありますか?
斎藤 自分的な好みでいうと、1、2話や5話は好きなんですけど、意外と3、4話あたりが評判がよかったんですよね。
──第2話はものすごく面白かったです。トップダウンで、上の一言ですべてがひっくり返る感じが、企業あるあるだなぁと思って、笑えました。そういうことは実際によくあるんですよね。
斎藤 楽しんでいただけてよかったです(笑)。第1話だけでは、視聴者もいいか悪いか判断できなかったと思うんですけど、第2話はいい意味で、この作品らしいスタンダードなスタイルをうまく出せたのかなと思っています。
──監督のお気に入りの怪人はいるのでしょうか?
斎藤 まさに、第2話で生まれたカノン・サンダーバード(CV.土岐隼一)とかは好みですね。実写で爆破されたり、海に行くエピソード(第9話)では、先輩のウルフに対してどんどん生意気になったりしていくので、いいヤツだな~って思いながら見てしまいました(笑)。
──そんな本作の、最終話の見どころを教えてください。
斎藤 第12話の話は、ほかのエピソードから独立したものになっています。第11話まではクライマックスに向かっている、という空気がまったくないのですが(笑)、それも昔のアニメではよくあったと思うんですよね。最終回だけは別!みたいな。
──かなりお祭り感があるようですが、物語はアニメオリジナルになるのですか?
斎藤 最終回は、当初は半分オリジナルで、半分は原作の水崎弘明先生に大筋を作ってもらおうと思っていたんです。でもふたを開けてみたら先生がまるまる一本分の大筋を書いてくれたので、じゃあこれを使おうとなりました。なので最終回は先生が考えた内容になります。いくつかのアイデアは、こちらで出したと思いますが。
これまで出てきたキャラクターがたくさん再登場するのも、特撮モノでよくありますし、その雰囲気が出ていればと思っています。
──ちなみに水崎先生は、アニメ制作にも積極的に参加されていたのですか?
斎藤 そうですね、シナリオ段階で原作では描かれてなくて、どう判断した方がよいのか解らないときは水埼先生に聞いたりしました。他の部分でも「アニメではこういう感じになるんですけど、原作的にはどうでしょうか?」など、いろいろと連絡を取り合って確認させていただきました。
──今はアニメ本編の制作も一段落ついたタイミングかと思いますが、ひと足先に制作を振り返ってみていかがですか?
斎藤 仕込み期間が終わり、放送が始まる半年切ったあたりから本格的に動き出したんですけど、いざ始まったらあっという間でした。
スタッフ一同全力でやっていたので、そういう意味ではいいチームだったと思います。実際原作コミックスは第4巻まで出ているんですけど、アニメを作っている時は、まだ第2巻が発売されていただけで、第3巻の内容を聞きながら作っていたんです。
原作は今、第4巻まで出て、「こう来たか!面白い!」と感じるところが多いので、アニメでも続きが作れたらと思っています。
(取材・文/塚越淳一)