【インタビュー】気心の知れた仲間と新たな挑戦へ。TVアニメ初監督を務めた碇谷敦が語る「錆喰いビスコ」への思い

「このライトノベルがすごい!2019」で、文庫部門の“総合”“新作”2冠を初めて達成した、瘤久保慎司(こぶくぼしんじ)さんの人気作(イラスト:赤岸K/世界観イラスト:mocha)をTVアニメ化し、2022年1月から3月に地上波放送された「錆喰いビスコ」。3月末からはいよいよBlu-ray/DVDのリリースがスタートする。スピード感あふれるアクションと、主人公・ビスコと相棒・ミロによるバディの痛快な活躍、そして大切な人を守って戦う熱い気持ちを、見事に映像化したのが、これがTVアニメ初監督となる碇谷敦(いかりやあつし)さんだ。
そして、作品の充実ぶりには、監督と長く仕事をしてきたさまざまなスタッフと、魅力あふれる声優陣の力も。今回は本作のソフト化にあたって、碇谷監督に「錆喰いビスコ」制作の裏側と完走した思いを、たっぷり語ってもらった!

「錆喰いビスコ」は、ご飯が何杯でもいける作品だと感じました(笑)

── まず、どのような経緯で「錆喰いビスコ」の監督を引き受けられたのでしょうか?

碇谷 TVアニメ「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」(2020年1月~3月放送)でキャラクターデザイン・総作画監督を担当したつながりで、制作プロデューサーの須田(泰雄)さんから誘われたのが最初です。僕は作画をずっとやってきたんですけど、最近演出もやるようになって、これはチャンスだなと思い、「ぜひ、やらせてください」と答えました。

── 最初に原作小説を読まれたと思いますが、印象はいかがでしたか?

碇谷 ビスコが関所破りをする冒頭のシーンを読んだだけで面白かったですし、子どものころからSFが好きだったので、ディストピアを舞台にしたサイバーパンクということで、ご飯が何杯でもいける作品でした(笑)。この作品を監督できることがうれしくなって、「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」のスタッフのみんなにも読んでもらい、「一緒にやろうぜ」と声をかけたんです。結果的に、メインスタッフはほぼそのままスライドすることになりました。

── 気心の知れた仲間が、新作のために再集結したということですね。

碇谷 そうですね。たとえば、副監督の又賀(大介)くんは20年以上の付き合いで、同じ作品を何度もやって来ましたし、キャラクターデザイン・総作画監督の浅利(歩惟)さんは、「アニメミライ」という若手アニメーター育成プロジェクトで作った「アルモニ」という作品を作ってからの付き合いです。「アルモニ」では僕がキャラクターデザイン・作画監督を担当して、若手原画マンの彼女を教えるという立場でした。そんな彼女が今回、キャラデ・総作監を務めるのは感慨深いですね。

── 歴史ありですね。もうおひとりの総作画監督・井川典恵さんとは、どのようなつながりがあったんですか?

碇谷 井川さんは、僕が以前に所属していたWHITE FOXという制作会社に新人で入ってきて、いくつかの作品を一緒にやって。ちょうど彼女がフリーになったタイミングで、「ID:INVADED」に誘ったという経緯です。

── 続いて、キャスティングについておうかがいします。まず、原作を読んで「錆喰いビスコ」のメインキャラクターにどのような印象を持ちましたか?

碇谷 ビスコは、最近のアニメの主人公には珍しいワイルドさがあって、やさしいミロといいコンビになっているなと思いました。彼らの周りにジャビやパウーがいて、敵役として黒革がいて。そういうメインキャラの少なさも、僕には美点に映りました。1クールでも、それぞれのキャラクターを掘り下げられると思ったんです。

── キャスティングは具体的に、どのような形で決めていったのでしょうか?

碇谷 メインスタッフで会議を開いて、どのキャラクターをどの声優さんにやってほしいか候補をリストアップして、オーディションさせていただきました。ただ、ジャビの斎藤志郎さんと黒革の津田健次郎さんは例外で、最初からこのお2人と決めていました。斎藤さんは「アドベンチャー・タイム」というアメリカのアニメで、ジェイクという犬を演じていて、僕はこの作品が大好きなんです。自分が監督になったら斎藤さんと一緒に仕事をしたいなとかねがね思っていたんですけど、ジャビというぴったりのキャラクターがいて、第1作で夢がかないました。

── ジャビは飄々とした人物ですが、ときおり、年齢相応の深みや戦士としてのすごみを感じさせるんですよね。人間的な奥行きのあるキャラクターで、斎藤さんの声がハマっていたと思います。

碇谷 原作者の瘤久保(慎司)先生によれば、昔はけっこう荒々しい性格だったんだそうです。それが少年時代のビスコと出会って、彼を育てていくうちに角が取れて、今のジャビになったということでした。そのギャップが斎藤さんのお芝居からも感じられて、さすがだなと。

── 黒革の津田さんはいかがですか?

碇谷 津田さんは「ID:INVADED」で主人公の酒井戸を演じていただいたご縁があり、黒革のビジュアルを見たときに津田さんしかいないと思いました。そこはかとなく似ているんですよね(笑)。それに黒革はボスキャラなんですけど小者感があって、そういう悪役を津田さんに演じていただいたら、悪さが極まるんじゃないかなと思いました。

── 実際に、非の打ちどころがない悪役という感じでかっこよかったです。

碇谷 悪の色気があるんですよね。特に第8話、第9話は黒革が大活躍をして、津田さん祭りという感じでした。スタジオで演技される姿を見て、ニヤニヤが止まりませんでしたね。

── では主人公側ですが、ビスコを演じるのは鈴木崚汰さんです。

碇谷 鈴木さんは若くて、筋トレが好きという、声優さんには珍しいタイプで、最初からビスコっぽい雰囲気を感じていたんですけど、第1話の冒頭を演じていただいて、ビスコそのものだと思いました。第一声からすごくハマってましたね。

── 鈴木さんの演技によって、原作よりもワイルドさが増したビスコになったと、公式YouTubeチャンネルの「びすこ部」でおっしゃっていましたね。

碇谷 そうなんです。第2話でべらんめぇ口調でしゃべったシーンがあって、それがすごくよくて。瘤久保先生か、音響監督の小泉(紀介)さんが指示を出したのかなと思ったら、鈴木さんご自身が考えて作ってきたビスコだったんですね。

── 瘤久保先生も、毎回アフレコに同席されていたんですか?

碇谷 先生はリモートでの参加でした。毎回、アフレコに立ち会ってくださって、非常に助かりました。鈴木さんのべらんめぇ口調も、先生にその場で確認を取ってOKをいただいたんです。

── ミロ役の花江夏樹さんは、どのようにして決まっていったのでしょう?

碇谷 ミロは中性的なキャラクターなので、女性声優さんもアリなのかなと思ったんですが、後半でビスコが乗り移ったように男らしくなる話数があるんです。それを両立できる役者さんということで、花江さんになりました。オーディションの時点で、両方のミロを演じていただいたんですが、とにかく素晴らしかったですね。

── 女性のメインキャラクターは2人います。まずはミロの姉のパウー。キャストは近藤玲奈さんです。

碇谷 パウーは凛とした女性なので、そういう声質の持ち主がいいなと。マジメで一本気なところも含めて、近藤さんがかっこよく演じてくださいました。

── それからチロル。キャストは富田美憂さんです。チロルは言ってみればお騒がせキャラで、彼女が出てくると物語が明るくなりました。

碇谷 視聴者からの人気も高いキャラクターです。チロルのシーンはだいたい井川さんが描いていて、どのカットもかわいいんですよね。その絵と富田さんの声がすごくマッチしていました。2話でサササッと逃げるシーンがあったんですけど、富田さんがアドリブで「サササッ」と声に出して言ってくれたんです。それがすごくチロルらしかったですね(笑)。