全国1千万人のアニメソングファンの皆様こんにちは。流浪のベーシスト、およびアニメソング・特撮楽曲をたくさんかけるDJ出口博之です。今期放送のアニメから独断と偏見でアニメソング10曲選ぶコラムこと「いいから黙ってアニソン聴け!」の時間がやってまいりました。
私事で大変恐縮なのですが、アニメソング関連のお仕事をしたので宣伝させていただきます。
2022年3月9日リリースになる森口博子「GUNDAM SONG COVERS 3」に収録される3曲のベースを弾きました。演奏を担当した楽曲は、
・Meteor/『機動戦士ガンダムSEED』挿入歌
・ターンAターン / with 神永大輔 (和楽器バンド) / 『∀ガンダム』オープニングテーマ
・「機動戦士Ζガンダム」メドレー
Ζ・刻をこえて~水の星へ愛をこめて/ with 鮎川麻弥(BONUS TRACK)/『機動戦士Ζガンダム』オープニングテーマ
こちら3トラック(4曲)になります。普段のレコーディングは曲を覚える作業から始まるのですが、今回はどれも知っている曲というか、知りすぎてるというか、聴きなじみのある楽曲なので作業がとても楽しかったです。これまでアニメソングを聴いてきたことがこういった形でつながって、いろんな意味で自分を助けてくれるとは思ってもみませんでした。ある意味、アニメソングに人生変えてもらった瞬間でもあります。アニメソング好きでよかった!
ガンダムの音楽史に残る大傑作カバーアルバムですので、ぜひお手にとっていただいて「とてもよかった!」とSNSで拡散してください!
いきなりの宣伝、大変失礼しました。
それでは本題に入ります。今期放送のアニメ作品から、アニメソング10曲を選出します!
・ヴァニタスの手記(第2クール)
ED「salvation/モノンクル」
・最遊記RELOAD -ZEROIN-
OP「カミモホトケモ/GRANRODEO」
・スローループ
ED「シュワシュワ/Three ∞ Loop」
・その着せ替え人形は恋をする
ED「恋ノ行方/あかせあかり」
・トライブナイン
ED「Infocus/Void_Chords feat. LIO」
・ニンジャラ
OP「メイビーベイビー/きゃりーぱみゅぱみゅ」
・ハコヅメ~交番女子の逆襲~
OP「知らなきゃ/安月名莉子」
・異世界美少女受肉おじさんと
OP「暁のサラリーマン/福山芳樹」
・平家物語
OP「光るとき/羊文学」
ED「unified perspective/agraph feat.ANI」
今期10曲、と言いながらひとつの作品からOP、ED両方選んでいるものがありますが、それについてはおいおい説明するとして、選出については非常に悩んだ! 今回も悩みました、本当に。
ここ最近の傾向として、全体的に曲のテンポが下がっていると思うのですが、今回もそのトレンドが感じられました。速いテンポで押し切るタイプの曲ではなく、しっかりしたグルーヴ、メロディのよさや強さなど、音楽そのものの強度を高めた楽曲が多くあったので、そりゃ10曲じゃ収まらないよね! 悩むよね! ということです。
といったわけで、今回の選出テーマはシンプルに「よい曲」です。
何をもってよい曲なのか? よい曲の定義とは?
説明不足な部分もありますが、その辺りを解説で触れておりますので、さっそくご一読ください!
・ハコヅメ~交番女子の逆襲~
OP「知らなきゃ/安月名莉子」
先行してドラマ化されているので、そちらから入った方も多いのではないでしょうか。
昨今の職業、あるいは社会人をテーマとする作品の中では、とりわけ地に足のついたリアリティを感じます。あくまで仕事の物語なので、明るい雰囲気の中にもシリアスで重い現実感が横たわっているのがこの作品の特徴です。
が、楽曲はそういった作品自体の空気感とはいい意味で乖離した、アニメソングらしい爽やかで明るいポップミュージックなのが面白いです。90年代後半のアニメソングを彷彿とさせる、少し懐かしい感じのメロディが全体にキラキラした雰囲気をもたらしていて、若い世代には新鮮に、おじさんおばさん世代には聴きなじみのあるメロディと、世代によって聴いた印象が変わるところに、この曲の面白さがあります。
主人公の心情をストレートに表した歌詞も、素晴らしくてよいですね。
・トライブナイン
ED「Infocus/Void_Chords feat. LIO」
エンディング映像も含めて、クールなセンスのよさは今期トップクラス。
硬質なエレクトロビートに、情感豊かなボーカルが絶妙なバランスで表情を付けるVoid_Chordsらしい楽曲アレンジは、今回も素晴らしすぎます。ジャズからオルタナ、ブレイクビーツ、ファンクと、楽曲によってジャンルを縦横無尽に、ある意味で無節操に飲み込んで唯一無二のオリジナリティにしてしまうのがVoid_Chordsの面白さです。
今回はエレクトロファンクのグルーヴが強く出ていて、ノリのよい曲になっています。が、単純なファンクビートではなく、極端すぎるほどの緩急を付けてサビでのビートの解放感を強めているアレンジは必聴です。
・スローループ
ED「シュワシュワ/Three ∞ Loop」
メインキャストを演じる3人の声優によるユニット「Three∞Loop」の楽曲です。
登場キャラクターがそのまま楽曲を担当すると、アニメ作品の世界観と楽曲が強固に結びつき、エンディングも(もちろんオープニングの場合も)楽曲単体の役割ではなくアニメ本編の一部になります。これこそがメインキャストを演じる声優ユニットのアニメソングの醍醐味です。アニメソングでもあり本編、本編でもありアニメソング。
過剰な派手さがなく騒ぎすぎないのでメロディのよさが際立ち、それぞれのキャラクターの歌い分けや歌の個性がとても聴きやすく、透明感の中にもしっかりとした芯の強さが感じられます。
サビのボレロ調のスネアパターンと、アナログシンセの裏メロが爽やかなのにめちゃくちゃ切ない。シンプルなアンサンブルで作品世界の情景を描ききっています。
・その着せ替え人形は恋をする
ED「恋ノ行方/あかせあかり」
ちょっとびっくりするくらいかわいい曲です。コケティッシュな歌、歌詞、メロディには、世の男性はもとより、女性も一撃で惹きつける破壊力があると思います。
圧倒的なスキルで歌いあげる歌ではないので、「私もカラオケで歌えそう!」と思われるかもしれませんが、声のキャラクターが楽曲を支配しているので、むしろ歌いあげるタイプよりも難しい部類になります。歌唱スキルは練習で上達しますが、声のキャラクターは練習しようがない。音楽において才能とは楽器が上手に弾けることではなく、身体的特徴が音楽表現に転換されることでもあります。この曲の素晴らしいところは、あかせあかりの圧倒的なかわいさが、音楽的な方向に爆発して楽曲の中心になっていること。
まあ、それっぽい理屈は置いといて、我々はとにかくこの圧倒的なかわいさの前にひれ伏すのみです。
・ヴァニタスの手記(第2クール)
ED「salvation/モノンクル」
R&B、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロ、聴く人によって受ける印象が変わる楽曲だと思います。じゃあ正解のジャンルは何か、と言われれば、全部正解です。
R&Bでもあってヒップホップでもあってジャズでもあってエレクトロでもある。おそらく他にも異なるジャンルが複合的に合わさっています。そのどれもが軽い引用ではなく、恐ろしいほど真芯をとらえています。つまり、音楽的なルーツや背景が幅広く、すべてが異常なまでに深いところにあるのです。
楽曲のアレンジ、サウンドは昨今の洋楽のトレンドを感じますが、メロディには独特のオリエンタルな雰囲気があり、それが不思議と90年代JPOPぽさにつながっていて強烈なオリジナリティを発揮しているのが素晴らしくも恐ろしい。
・ニンジャラ
OP「メイビーベイビー/きゃりーぱみゅぱみゅ」
Nintendo SwitchのアクションゲームからはじまりWebアニメを経て今回、ついにTVアニメ化された「ニンジャラ」。ゲームのTVCFでは、きゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」が使用され、ポップなカートゥーン調のキャラクターがにぎやかに大暴れするゲームの世界観と楽曲のポップさが抜群にマッチしていました。それを受ける形で直後に展開したWebアニメでも同曲が使用されていたので、「ニンジャラ=にんじゃりばんばん」のイメージが強く残る中で書き下された新曲ですが、すごいです。
わかりやすい和風のモチーフも一切排除し、複雑な楽曲展開も入れず、ひたすらにポップさを突き詰めて世界のどこでも通じる最強のダンスミュージックが完成しています。
作品やキャラクターの世界観を見れば和風モチーフは当然ハマりますが、それは「にんじゃりばんばん」ですでに通過しているので、アップデートを図るなら作品の世界観ではなくカジュアルでポップな作品自体の面白さや本質を楽曲で表現した──そう考えると、和風モチーフ一切なしでポップに振り切った「メイビーベイビー」が、「ニンジャラ」にマッチするのも当然なのです。すごいです。
・最遊記RELOAD -ZEROIN-
OP「カミモホトケモ/GRANRODEO」
まさか令和4年、2022年になって「最遊記」の新作アニメが見られるとは! そう思われた方、多いのではないでしょうか。直撃世代の私もそのひとりです。
ダンサブルな16分のリズムに大陸的な音階を主体としたサウンドが絡んだ結果、異様なまでに東洋的で、過剰なまでにオリエンタルな世界観が完成しています。ある種のやりすぎ感が「最遊記」の世界観にマッチしているのが素晴らしい。前のめり気味に突っ込む軽快なビートに、間をていねいに使った上モノ楽器が絶妙なバランスで互いを引き立てあっています。
前クールにGRANRODEOが歌った「範馬刃牙」のオープニング「Treasure Pleasure」では、リズムも上モノも全員が前に突進する16ビートを繰り出すという超攻撃期的なインファイタースタイルの楽曲でした。同じようなアプローチの楽曲でもそれぞれの楽曲に合わせたアレンジの引き出しの多さ、表情の付け方の豊富さに、GRANRODEOの圧倒的な個性があるように思います。
・異世界美少女受肉おじさんと
OP「暁のサラリーマン/福山芳樹」
一聴して福山芳樹のメロディ、福山芳樹のサウンド、福山芳樹楽曲の歌詞だとすぐにわかる信頼と実績のアツいアニメソング。昨今流行している音楽の傾向に迎合せず、どこを切り取っても福山サウンドにあふれています。
その福山サウンドとは一体何なのか。それはバンドであることへの強烈なこだわりと、ブリティッシュロックへのリスペクトです。
打ち込みや同期演奏などプログラムされた演奏データをほぼ使用していないので、最近のアニメソングと比べるとパッと聴いたときの派手さは少ないかもしれません。しかし、人間の呼吸が合わさったときに生まれる、ロックのダイナミズムはあらかじめ整理されたデータでは再現できないグルーヴが渦巻いていて、そのうねりのアンサンブルが福山サウンドの要となっています。
ブリティッシュロックへのリスペクトとは、端的に言えばビートルズへのリスペクトであり、この曲でも端々にビートルズ・マナーと思しき部分があります。たとえばAメロの進行(主にギターのあり方)は「I’ve Just Seen A Face」を彷彿とさせます。
ビートルズ好きなロック少年の作る音楽に、ビートルズを思わせるフレーズが入る。これは創作活動の原点、あるいは本質です。
福山芳樹が手がけるアニメソングには、クリエイティブとバンドの初期衝動が10代の頃のような瑞々しさを保っているので、私たちはいつの時代でも10代の頃に戻り胸が燃えるように熱くなるのです。
・平家物語
OP「光るとき/羊文学」
ED「unified perspective/agraph feat.ANI」
最後は「今期アニメソング、一番を決めるならこれだね!」ということで、「平家物語」からエントリーです!
コラム当初より「ひとつのアニメ作品から1曲」のつもりで連載を続けてきましたが、この作品はOP、EDの両方が素晴らしすぎて困った! 1曲だけなんて無理だ! 1作品から1曲だけ選ぶとか誰が決めたんだ? そんなの無視だ! という心の声に従い、両方を選出しました。
退廃的なサウンドと抑揚のない展開、淡々と紡がれるラップが強烈に残るED「unified perspective」。歴史ものアニメの楽曲であれば和風のメロディ、もしくは和楽器を主体としたサウンドが合いそうなところ、そういった安易なアプローチとは真逆のサウンドとなっています。
しかし、歴史ものアニメ作品にはおおよそ似つかわしくない方向の楽曲にも関わらず、恐ろしいほど作品にマッチしていて、これまでの歴史もの作品のアニメソングをすべて過去のものにしてしまった感があります。
登場人物が生き生きと描かれる「平家物語」が終わったあと、唐突に流れる突き放すような寂寥感は、栄華を極めた平家が滅亡し誰もいなくなったあと、琵琶法師が「この世は変化し栄えたものはいずれ滅びる」と語るときの寂寥感とまったく同質のもの。
これが現代の琵琶法師の歌、とするのは飛躍し過ぎかもしれませんが、平家物語の本質をそのまま音楽にすると「unified perspective」になるのは間違いありません。
そして、OP「光るとき」。
曲自体が「平家物語」そのもの。現代語訳の「平家物語」。
「沙羅双樹の花の色」の一節の置き換えでもありますが、歴史の因果を花や種にたとえて平家物語を「滅びゆくもの」ではなく「生きるもの」に転換しているから、「最終回のストーリーは~」の一節で胸が締めつけられるくらい切なくなる。
聴くたびに、見るたびに涙がでてくる。
もう今期一番とかそんな次元ではなく、生涯ベストに入る曲。
学校の授業で習った「平家物語」では、「家族のために生きる普通の人々の姿」を感じ取ることができませんでした。学生時代それに気づいていたら、歴史がもっと好きになっていたのになー、と思います。
以上、今期アニメソング10曲の選出となります!
ご静聴ありがとうございました!
長々と書き連ねておりますが、音楽の感じ方は人それぞれなので、「この曲が入っていない」、「俺はそう思わない」等のご意見はごもっともだと思います。あくまで聴き方の一例ですので、このコラムをきっかけにご自身の10曲を選出していただけますと幸いです。
なお、今後アキバ総研では、2022年冬アニメのアニソン人気投票を行いますので、そちらにもご投票よろしくお願いいたします!
それでは、次回は「春のアニソン聴け!」でお会いしましょう。
(文/出口博之)