「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」など、漫画原作のミステリー作品は長年我々を楽しませてくれている。小さなヒントの数々を組み合わせ、登場キャラクターと一緒にひとつの答えにたどり着く面白さは、ミステリーの醍醐味だが、それをより親しみやすい形で表現しているのが、漫画のミステリー作品だ。
そこで本稿では、少女漫画のミステリー作品に焦点を当て10作品をピックアップ。謎解きが好きな方はぜひ新たな作品と出会っていただきたい。
ミステリー・サスペンス少女漫画
ギフテッド著:天樹征丸、雨宮理真
事件現場の捜査に訪れた警視庁のホープ・天草那月(あまくさなつき)は、飛び降り自殺だと推察された死体に違和感を感じていた。野次馬から目撃証言を聞いたところ、男子高校生・四鬼夕也(しきゆうや)が突如犯人を言い当てる。
後日夕也のクラスメイトが殺された事件が、事故と処理されそうになり那月へ連絡をとった。これをきっかけに、秘密の多いクールな高校生と明るい性格の天才刑事がコンビを組んだ、本格ミステリーが始まる!
「金田一少年の事件簿」を手がけた天樹征丸氏による、アリバイ工作や巧妙なトリックの数々は、ミステリー漫画の王道とも言えるもの。犯人がわかっている状態から2人がトリックを暴いていく。
少女漫画らしい整った顔立ちの輝くビジュアルと、BL的な要素を思わせるキャラクターたちの関係性も読み手を楽しませてくれるだろう。
薬屋のひとりごと著:日向夏、ねこクラゲ
薬屋の父の元で働いていた猫猫(マオマオ)は、人さらいに襲われた後、帝の妃が住まう後宮へと売られ、そこで働いていた。ある日、帝の世継ぎとなるべく産まれた赤子が次々亡くなる事件が発生。周囲は呪いだと噂しているが、毒や薬の知識を持ち、達観した正確の猫猫は、妃の症状と顔色からひと目で原因を突き止めていて……。
実在する植物や原料に含まれる毒を扱うことで、事件がリアルに感じられる本作。同名小説のコミカライズ作品ながら、原作同様に楽しめると、海外からの人気も高い。クールで頭脳明晰だけど、ちょっと世間知らずで甘味やお酒好きという猫猫の愛らしさにも注目ポイントだ。また、「月刊サンデーGX」版もあるのでぜひ読み比べてほしい。
鳴かぬ蛍の眠る場所著:清水奏良/全1巻
体が弱く、病室でほとんどの時間を過ごし、高校生になれず亡くなった姉の分まで、高校生活を満喫しようと決めた照(てる)は、入学早々、写真部のイケメン・岸名先輩と運命の出会いを果たす。岸名には人を殺したことがあるという噂があったが、会話を重ねたり一緒に写真を撮りに行ったりしているうちに2人の距離は徐々に縮まっていった。しかし、照が姉の名前を出したことで、きらびやかな高校生活が一変する事態へと発展していく。
照の姉・蛍と岸名はいったいどのような関係があったのか。突如訪れたシリアスな状況に照がとった行動とは? 複雑にからみ合う関係性の中で生まれる恋は、切なくも愛にあふれている。徐々に明らかになっていく情報を頼りに、真相を考察していく過程がたまらない逸品だ。1巻完結の物語ながら、キャラクターの心情がリアルに描かれており、読み手の心に強く残る余韻を与えてくれるだろう。ストーリー展開も早く、キレイにまとまった本作は、忙しい人にもぜひ読んでほしい1冊だ。
彼に依頼してはいけません著:雪広、うたこ
正規の依頼を受けられずモグリの探偵として活動している鏡キズナと相棒の御堂眞矢。鏡は人の感受性を強く受け取ることができる「エンパス」という能力を使って自在に自身を操り、破天荒な御堂と探偵業務を遂行していた。
エンパスという力には、使い続けていくと心がむしばまれていくという反動があると知るが、目的のため光と闇の間を行き来しながらも、2人は難解な謎解きに挑む。 キャラクターの動きが多く、臨場感を感じながら考察していけるので、本格ミステリーが苦手な人でも楽しめる。ハイクオリティなビジュアルが織りなす迫力満点のアクションは、まるでドラマや映画を見ているかのような体験を味わわせてくれるだろう。
BL作品ではないが、タイプが違うイケメン2人がイチャイチャしている様は、ついにやけてしまう。あつい友情模様も必見だ。
花はどっちだ?著:小田原みづえ/全7巻
深夜の公園でたそがれ、現在の状況に絶望し、うつむいていた来生花(きすぎはな)(28歳)は、階段を踏み外して転落したことをきっかけに、生田荘に下宿する17歳女子高校生・山田花の姿になっていた。 なす術がない花が状況を理解できないまま、やむなく生田荘の住人に囲まれた女子高生生活が始まる。これまで無縁だった男子へのときめきや恋に葛藤しながらも、元の自分に戻る方法を探っていく。
来生花の体の状態や、山田花の精神の行方など、混乱してしまいそうなほど複雑な状況で巻き起こるラブミステリーの行方に思わず一気読みしてしまう。
これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~著:青木祐子、森こさち
過不足なく、スケジュールどおりのきっちりとした生活を送りたい、経理部のエース・森若さんにはたくさんの領収書がもってこられる。締め日の最後の最後に営業部のエース・太陽がもってきた領収書は「たこ焼き代」と「テーマパーク代」!? 不信感を募らせながらも、リフレッシュにとスーパー銭湯に行くと、そこには太陽と彼女らしき女性が喧嘩していて……?
領収書問題という日常的な出来事を漫画へと昇華させた逸品だ。 社内の経費を巡る、一風変わった大人のミステリーは、殺人や複雑なトリックもなく、かろやかに読み進められる。仕事などで経理に携わる者なら、より共感して楽しめるだろう。
心霊探偵八雲著:小田 すずか、神永 学/全14巻
友達が心霊スポットに行き体調を崩したことを聞いた女子大生・小沢晴香(おざわはるか)は、心霊に強いと噂される同じ大学の学生・斉藤八雲(さいとうやくも)を訪ねた。 死者の魂が見えるという赤い左目を持つ八雲は、特異体質とその生い立ちから、他人に固く心を閉ざしていた。しかし、赤い瞳を初めて「キレイ」だと口にした晴香に、徐々に心を許していく。
スピリチュアルが題材ではあるものの、理にかなった謎解きは、本格ミステリー好きでも楽しめるだろう。オカルトの難事件を解決していきながら、八雲の成長が感じられるヒューマンドラマもあり、肝は冷えるが心が温まる作品だ。 繊細なビジュアルは、よりホラー感を際立たせるとともに、ストーリーに没入しやすくなり、何度読み返しても面白さが尽きることはないだろう。
かげひなたの恋著:明生チナミ
高校卒業前に事故に遭い、自分の記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまった浪人生・日向は、脳に異常はないものの、19時ぴったりに眠りに落ち8時に目覚めるという体質に変化していた。 自分の状況に不安と恐怖を感じてつつも明るく過ごす日向だったが、ある日記とスマホに入っていた動画を目にする。そこには、自分が眠りに落ちている間に起きている「日向」が映っていて? 昼と夜で性格が真逆な日向に困惑する登場人物達。俯瞰して見られる読み手としては、どうにか真実を教えてあげたくなるだろう。
ストーリーが進むごとに謎は深まり、昼と夜に別々の恋が動き出す複雑で繊細なコンセプトをぜひ味わってほしい。
容疑者Aの花嫁著:遠山えま
夫を亡くし実家に帰った羽菜(はな)は、義弟からのセクハラや妹からのモラハラにより息苦しさを感じながら生活を送っていた。そんなある日、世界的に有名になった画家・蒼井重瑠(あおいしげる)との見合い話が持ち上がる。 家を抜け出したいと願っていた羽菜は、蒼井の条件付きの結婚を承諾。大豪邸での共同生活が始まろうとするも、蒼井は前妻3人を殺害した容疑者で、絶対に開けてはいけない部屋があり……?
作品を通して明らかになっていく蒼井の秘密と、羽菜の再婚を聞いて不敵な笑みを浮かべる義弟など、序盤から情報が盛りだくさん。 登場人物の心情や背景も鮮明に描かれておりヒューマンドラマも感じやすい。セクシーな場面も登場するエロティックミステリーサスペンスだ。
魔法使いの犯罪捜査著:たもつ葉子
ハートマン家の次男のユージーンは、一家惨殺の容疑で逮捕され服役していた。いっぽう、ユージーンを逮捕した、当時パトロール警官だったケヴィン・如月・Jrは、3年の間に刑事へと昇進し、次々と犯人逮捕の功績をあげる。 そんなある日、ユージーンから如月に面会希望が出され、如月はサラエラ刑務所へ向かう。そこにはおよそ囚人とは思えない生活を送っているユージーンがいて……? みずからの無罪を証明するため、自身を魔法使いと自称するユージーンと、肉体派刑事・如月との異色コンビによる、ユージーンの無罪を証明する捜査が始まる! 魔法使いとはいえ、地道な捜査をしていく様が、ファンタジーとミステリーの調和を生み出している。ユージーンの個性的な思考や人柄にも注目してほしい。