全国1千万人のアニメソングファンの皆様こんにちは。流浪のベーシスト、アニメソング・特撮楽曲DJの出口博之です。四半期に一度やってくる、主観がすぎるアニメソングコラムこと「いいから黙ってアニソン聴け!」、2021年秋アニメ編開幕でございます。
このコラムは四半期に一度、新たに放送されるアニメ作品の主題歌(オープニング、エンディングすべて)を聴き、私、出口の大いなる主観と超個人的な好みで10曲を選び、聴きどころなどを勝手にプレゼンしまくる、もしかすると、もしかしなくても少々偏りのあるコラムとなっております。「この作品の曲が入っていない!」「あの曲を入れないなんて、どうかしてるぜ!」というご意見あると思いますが、完全に私の好みで選出しておりますので、その点ご容赦いただければ幸いです。
では早速まいりましょう!
いいから黙ってアニソン聴け!2021年秋編、選出の10曲はこちら!
・ぐんまちゃん
OP「SWITCH!」ぐんまちゃん(CV.高橋花林)/あおま(CV.内田彩)/みーみ(CV.小倉唯)
・サクガン
OP「恍惚ラビリンス」遠藤正明
・古見さんは、コミュ症です。
OP「シンデレラ」サイダーガール
・範馬刃牙
OP「Treasure Pleasure」GRANRODEO
・ブルーピリオド
ED「Replica」mol-74
・カードファイト!! ヴァンガード overDress Season2
ED「Fateful…」Morfonica
・86―エイティシックス―(第2期)
ED「アルケミラ」リーガルリリー
・MUTEKING THE Dancing HERO
OP「ラビリンス」ORANGE RANGE
・真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました
OP「息を吸う ここで吸う 生きてく」ゆいにしお
・テスラノート
ED「散文的LIFE」ニノミヤユイ
今期も良曲ばかりで、ここから10曲はさすがに無理だろ!となかば憤慨しながら断腸の思いで選出したのはここだけの秘密。個人的にバチっとハマった楽曲のほとんどがBPM140以下だったのは、このコラムでは初めてのことかもしれません。140前後のテンポは駆け抜けるような疾走感こそないけれども、弾むような軽快なグルーヴが生まれやすいテンポ。早すぎない、それでいて遅すぎない、各パートもバランスよく聴こえるちょうどいいノリ。
今回選出の10曲はこの「ちょうどいいノリ」が抜群によかった10曲ということになります。極端にテンポの速い楽曲は年齢的に聴き疲れしてしまうからちょうどいいテンポの曲を選んだ、というわけではなく、全体的にBPMは下がってきている傾向にあるのでこのあたりのテンポの曲を選んだのは必然というわけです。
今回はグルーヴや楽曲のノリを中心に解説していこうと思います。
■「ぐんまちゃん」OP「Switch!」
’80年代後半から’90年代初頭のダンスミュージックを彷彿とさせるグルーヴが、最高にクール。
’90年代前後のダンスミュージックといえば、ニュージャック・スウィング。マイケル・ジャクソン、あるいはジャネット・ジャクソンの楽曲を想像していただければほぼ正解です。ニュージャック・スウィングの特徴は、ノリを支配するリズムセクションはそれほどファンキーにハネていません。ギターや細かい打楽器、あるいは主となるメロディといった各種ウワモノのパートによって、うねるような超絶ファンキーなグルーヴが曲にもたらされています。
シンプルなビートでボトムを支えるリズムセクションに絡む小気味いいアタックのファンキーなカウベル、極端に言えばこの組み合わせにニュージャック・スウィングの本質がある、といっても間違いはないと思います。
作品の世界観に寄り添った愛らしさがあるボーカルとソリッドなスタイルのダンスミュージック。今までありそうで実はなかった組み合わせの、新鮮な聴き味のアニメソングだと思います。
■「サクガン」OP「恍惚ラビリンス」
これもまたナイスグルーヴの素晴らしい曲。全体的にレイドバックした重めのノリで、特にAメロでのドラム、ベースのリズムセクションによる、重心の下がった後ノリグルーヴのスリリングさが最高。シンプルなアンサンブルだからこそリズムの強さが際立っています。
小技の効いた職人気質のギターはリズムにほどよいアクセントを与えていて、セクションによってホーンセクションと立ち位置が自在に入れ替わるのが、細かい部分ですが面白いところです。
そして、なにより一番の聴きどころ、というか、この曲の中心は「遠藤正明の歌」、これに尽きます。アップテンポの激しい曲調も素晴らしく似合うしカッコイイけれども、実はこれくらいのテンポのファンキーなグルーヴの曲のほうが遠藤正明の声に合っているように個人的には思います。まっすぐ突き抜けるエネルギーの塊のようなボーカルが楽曲全体をとんでもないパワーで牽引している。バンドが生み出すグルーヴを強烈な存在感のボーカルが二倍にも三倍にも強いものに変貌させているのがわかります。
■「範馬刃牙」OP「Treasure Pleasure」
「恍惚ラビリンス」と楽曲の楽器構成がほぼ同一ながら、前に転がり続ける軽やかなグルーヴが最高にカッコイイ!
それぞれのパートが自身の役割を突き詰めた結果、まったくスキのないストイックな楽曲になっています。とにかく全パート、全楽器がいちいちカッコイイ。楽器経験者の方ならおわかりいただけると思うのですが、弾きたくなるフレーズや、バンドで合わせると最高に気持ちいいキメが多いこと。ギターならギター、ベースならベース、全パートとも奇をてらったことはせず、己の肉体を極限まで高めて、ど直球どストレートに勝負を挑んでいるような肉体的な強さを感じます。
これはもう間違いなくライブ映えする曲です。
玄人好みするオールドスクールなアレンジなので、ともすればこういった楽曲は古くさく感じてしまうこともあります。しかし、この曲においてはドラムが現代の音楽らしい手数の細かさで楽曲のノリを支配しているため、古くささは微塵も感じられません。
■「古見さんは、コミュ症です。」OP「シンデレラ」
歌詞の世界観がアニメの世界観と完全にマッチしていて、アニメソングのあり方としてはパーフェクトではないでしょうか。作品世界の日常をそのまま切り取ったようなエヴァーグリーンなサウンドも完璧だと思います。
この曲に限らずサイダーガールの楽曲は、どこまでもポップで爽やかな四つ打ちビートに、少し影のあるメロディやサウンドをのせるのが抜群にうまいという特徴があります。ノリのいい明るく楽しいポップな曲なのに、どこかアンニュイな部分というか、一歩踏みとどまるような明るくなりすぎない部分が曲のピークあたりに必ずあります。
少し専門的な言葉でいえば半音階の進行(サイダーガールの場合、下降パターンが絶妙にうまい)による効果なんですが、そんな難しいことはどうでもよくて、もうとにかく曲がいい!
■「ブルーピリオド」ED「Replica」
よくある四つ打ちビートの曲と思いきや、バンドのサウンドがほかのバンドと比べてあきらかに音場が広く楽曲に壮大なスケール感を与えています。
二拍三連を絡めた土着的なリズムパターンによる強靭な推進力は、一般的な四つ打ちの楽曲とはまったく異なるグルーヴを生み出しています。このリズムアプローチは洋楽のダンスミュージックに共通するもの。洋楽的なリズムアプローチに邦楽のオリエンタルなメロディが融合し、なんとも不思議な浮遊感のあるサウンドにまとまっているのが素晴らしくカッコイイ。大きく打ち鳴らすピアノもシンプルながら力強い生命力にあふれていてカッコイイ。全部カッコイイ。
■「カードファイト!! ヴァンガード overDress Season2 」ED「Fateful…」
「BanG Dream!」に登場するバンド「Morfonica」が、自作品を飛び出して他作品の楽曲を担当。こういったケースは今後もっと増えていきそうな予感がします。聴き心地のいいオーソドックスなアニメソングではありますが、バイオリンが歌いまくっているのが最大の聴きどころでしょう。基本的にはメロディを引き立てつつも、場面によっては主となるメロディを追い越し、主役として楽曲を支配する自由度の高いアレンジは、型にはまらない痛快さがあります。
何の変哲もないやさしい曲と思わせておきながら、その実、バンドのアイデンティティを強烈に示す気概が内包されているのが最高です。
■「86―エイティシックス―(第2期)」ED「アルケミラ」
ボーカル、ギター、ベース、ドラム。バンドサウンドの必要最小限の楽器しか鳴っていないのに、恐ろしいくらい巨大な音像に世界が飲み込まれていく感覚。底が見えないとてつもない曲です。
ダイナミクスのつけ方が圧倒的にうまく、特に音数を極限まで抜いた静かなセクションの緊張感は、練習で習得できるようなレベルのものではない天性の間合い、みたいなものを感じます。バンド演奏の巧さというのは難しいフレーズを難なく弾きこなすことだけではなく、音を抜いて生まれた隙間をどれだけ音楽に昇華できるか、ということ。そういった点で、リーガルリリーは同世代のバンドよりも頭ひとつ抜けた演奏スキルを持っていると言っても間違いないと思います。
■「MUTEKING THE Dancing HERO」 OP「ラビリンス」
2021年にムテキングが復活するとは誰が予想できたでしょうか。
復活に際して懐かしさと同時に「今の時代に大丈夫か?」と心配が頭をよぎった方もいらっしゃると思います。私もそのひとりでした。
が、完全に無駄な心配でした。驚くほどお洒落でかっこよくて思わず笑ってしまいました。ORANGE RANGEらしい遊び心のあるダンスミュージックが、ムテキングの世界観とここまでマッチするとは。ムテキングの魅力を余すところなく表現しているポップアートのような映像は、日本はもとより海外でも大いに受け入れられそうな印象だし、今の時代にムテキングは復活するべくして復活した、とするのは言い過ぎかもしれませんが、あながち間違いでもないと思うのですがいかがでしょうか。
■「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」OP「息を吸う ここで吸う 生きてく」
ミドルテンポの落ち着いた雰囲気が素晴らしくいいです。
ここ最近注目されて久しいシティポップに分類される曲ですが、個人的にはこの曲はシティポップではなくニューミュージックの方が近いような気が。どことなくフォークソングの匂いというか、朴訥とした野暮ったさみたいなものがあるように思います。
洗練されすぎていないところが魅力であり、シティポップを標榜する他の楽曲群と一線を画すところでもあります。派手さはないけれども楽曲、特にメロディのよさは今期随一かもしれません。
■「テスラノート」ED「散文的LIFE」
最後に、今期の私的1位を選ぶとするならばこの曲。
もうめちゃくちゃカッコイイ。’90年代ブレイクビーツを下敷きにしていると思しき部分は、深堀りしようと思えばどこまでも掘れるマニアックな深度を匂わせつつも、マニアックになりすぎないバランスですべてがポップに着地しているのは超絶クール。一時期ブレイクビーツ、アシッドハウスあたりにハマった私としましてはど真ん中の曲です。
本来であればこのコラムでは順位を決めないのが通例ですが、聴いた瞬間「あ、1位ですね」と思った次第であります。
以上、今期選出の10曲をお送りしました!
好きな作品、あるいは好きな楽曲は入っていましたか?
言葉が足りていない部分が多々あるので、そのあたりは実際に曲を聴きながら思いを汲んでいただけると幸いです。
次回は2022年冬アニメの時期に登場を予定しております。
それでは、また来年お会いしましょう!
(文/出口博之)