「狼少年ケン」から「ターンAターン」まで──アニメソングの基礎を築いた小林亜星のイマジネーション「小んなうた 亞んなうた~小林亜星 楽曲全集~ アニメ・特撮主題歌編」レビュー【不破了三の「アニメノオト」Vol.09】

6月半ば、作曲家の小林亜星さんが2021年5月30日に享年88歳で亡くなっていたことが報道されました。

アニメ・特撮音楽だけでなく、CM音楽、ドラマ音楽、歌謡曲など、昭和のテレビから流れるあらゆるジャンルの音楽を手がけ、シンプルでわかりやすく、それでいて印象深く心に残る作品を数多く世に送り出してきた、日本が誇る「稀代のメロディー・メーカー」が惜しまれつつ世を去りました。アニメの黎明期・発展期に生まれたアニメソングや劇伴音楽などについて、作詞家・作曲家・編曲家・歌手など、レジェンド世代の作り手たちのお話をディスクガイド形式でご紹介している「アニメノオト」。

第9回は、2019 年 8 月 7 日に日本コロムビアより発売された CD「小んなうた 亞んなうた~小林亜星 楽曲全集~ アニメ・特撮主題歌編」の収録作品を追いながら、アニメ・特撮音楽における小林亜星さんの足跡を振り返ってみたいと思います。

 

1963年、日本初の「1話30分形式」での連続TVアニメ番組「鉄腕アトム」の放送が始まりますが、その同じ年、小林さんはすでにテレビアニメ音楽の現場に立っていました。NET(現:テレビ朝日)で1963年11月25日に放送が始まった東映動画(現:東映アニメーション)製作のテレビアニメ「狼少年ケン」。その主題歌や劇伴音楽の作曲担当者に小林さんが選ばれたのです。

当時小林さんはまだ作曲家として駆け出しの時期。大ヒットCM「レナウン ワンサカ娘」の作曲者として一躍注目を集めるのは、この翌年のことです。(「ワンサカ娘」自体は1961年頃から使用されていましたが、ブレイクとなった弘田三枝子版は1964年の放送)「狼少年ケン」は、日本初の本格的アニメーション製作会社として劇場用長編アニメで実績のあった東映動画が、テレビ時代の到来に合わせ、初めてテレビアニメというフィールドに挑戦した番組であり、先行する「鉄腕アトム」「鉄人28号」「エイトマン」(すべて1963)のように原作を持たず、ストーリーもキャラクターもすべて新たに作り上げた、日本初のオリジナル連続テレビアニメ作品という意欲作でした。主題歌「DISC-1 1.狼少年ケン」は、当時まだ童謡風であったり行進曲風であったりしたほかのアニメソングに比べ、アフロなパーカッションによる強烈なリズムと「ボバンババンボン……」のスキャットによるグルーヴ感にあふれる初期の傑作アニソンです。また、本作で脚本を担当している飯島敬さんは、後にプロデューサーとして東映動画、東映(本社)を渡り歩き、小林さんとアニメ作品との縁を次々に結び付けていくキーパーソンとなっていきます。

 

1965年のテレビアニメ「ハッスルパンチ」には、主題歌「2.ハッスルパンチの歌」を提供。マーチやジャズのテイストが強かった当時のアニメソング界に対して、いち早くゴーゴー・サウンドを取り入れた(有名な「マッハGoGoGo」(1967)に2年も先駆けて)、日本初のロックスタイルのアニメソングを提案しました。挿入歌の「3.パンチ・タッチ・ブンの歌」とともに、パンチ役の大山のぶ代、タッチ役の水垣洋子、ブン役の久里千春が、それぞれのキャラクターを演じつつ「役」として歌っているスタイルでもあります。これはいわば最も初期の「キャラソン」の形であると言えるのではないでしょうか。

 

続く「4.魔法使いサリー」「5.魔法のマンボ」は、1966年の「魔法使いサリー」の主題歌。日本初の少女向けテレビアニメ作品であり、後に日本のアニメの一大ジャンルとなっていく「魔女っ子もの」の元祖となった作品です。誰も見たことのない史上初の魔女っ子アニメに対して小林さんは、薗田憲一とデキシーキングスの演奏による本格的なニューオーリンズ・スタイルのデキシーランドジャズというプランを提示。これが絶妙なマッチングを見せたことは皆さんご存じのとおりです。冒頭の「マハリクマハリタ……」の呪文に導かれるイントロは、この作品でプロデューサーを務めた飯島敬さんのアイデアによるものだということです。まるでフリージャズのようなアヴァンギャルドなイントロから始まってホッコリした癒しのラテンリズムへと至る、「5.魔法のマンボ」の斬新さも見逃してはなりません。

そして「サリー」の後番組「ひみつのアッコちゃん」(1969)の主題歌「6.ひみつのアッコちゃん」では、「サリー」の小粋なデキシーから一転、美しいワルツで真正面からメルヘン感を表現。かと思うとエンディングの「7.すきすきソング」は、ゴーゴーリズムによる爆笑コミックソングに……というすさまじい振れ幅。しかし、そのいずれもが、作品の雰囲気からはみ出すことなく、しっかりとその魅力をサポートしていることにも注目です。

 

さらに「快傑ライオン丸」(1972)主題歌「8.風よ光よ」、「科学忍者隊ガッチャマン」(1972)主題歌「10.ガッチャマンの歌」、「ファイヤーマン」(1973)主題歌「14.ファイヤーマン」等では、スピード感あふれるアクションヒーローの主題歌を見事に描き切ります。ベース、ドラム、ギターのリズムセクションがしっかりと基礎を作り、その上にブラスやストリングスが乗り、合唱団ではなく「アニソン歌手」が高らかにヒーローの活躍を歌い上げる……という、現代にも通じる、いわゆる「ヒーローソング」の典型が、「仮面ライダー」(1971)主題歌「レッツゴー!!ライダーキック」(作曲:菊池俊輔)、「人造人間キカイダー」(1972)主題歌「ゴーゴー・キカイダー」(作曲:渡辺宙明)など、この時期に同時多発的に出現し、完成度を上げていきますが、小林さんもその一翼をしっかり担っていたということになります。

 

……と、ここまで見てくると、「黎明期・発展期のテレビアニメ」という新興メディアに対して、当時、小林さんがしかけたものが、「シンプルでわかりやすく、印象に残るメロディ」だけではないことがおわかりいただけるでしょうか? ゴーゴー・スタイルのロック、デキシーランドジャズ、アフロ、ラテン、ワルツなど、テンポ、リズム、楽器編成、アレンジによる脱童謡・脱マーチの試み、声優さんの歌手起用によるキャラソン、スピード感あふれるヒーローソング……等々、あらゆる角度からアニメソングを新しい音楽として創造しようという努力とアイデアに満ちており、そのいずれもが、後にアニメソングの常套手段として定着していきます。いわば、現在「アニメソング」として認知されている音楽スタイルは、小林さんのイマジネーションの上に基礎が築かれ、徐々に軌道に乗っていったものだと言っても、言い過ぎではないでしょう。アニメソングがもっともアニメソングらしかった時期とは、小林亜星アニソンの黄金期とピッタリ重なります。

 

70年代に入ってスタイルが安定し「軌道に乗った」アニメソングに、小林さんはさらに磨きをかけていきます。「科学忍者隊ガッチャマン」の流れから、タツノコプロ製作の「宇宙の騎士テッカマン」(1975)の「18.テッカマンの歌」「19.スペースナイツの歌」、「ゴワッパー5 ゴーダム」(1976)の「20.行くぞ!ゴーダム」「21.ゴワッパー5の歌」などの主題歌を相次いで担当。同様に、東映動画ではなく、東映(本社)テレビ事業部が直接手がけるロボットアニメシリーズとして始まった、「超電磁ロボ コン・バトラーV」(1976)の「23.コン・バトラーVのテーマ」「23.行け!コン・バトラーV」、「超電磁マシーン ボルテスV」(1977)の「28.ボルテスVの歌」「29.父をもとめて」などのシリーズ主題歌を継続的に小林さんが担当していきます。これらの東映作品でプロデューサーを務めたのも、やはり飯島敬さんでした。この流れは、「闘将ダイモス」(1978)を除き(作曲:菊池俊輔)、「未来ロボ ダルタニアス」(1979)、「宇宙大帝ゴッドシグマ」(1980)、「百獣王ゴライオン」(1981)まで続いていきます。上記のタツノコプロ、東映路線以外の「ブロッカー軍団IVマシーンブラスター」(1976)、「宇宙魔神ダイケンゴー」(1978)なども合わせ、本CDでは、「快傑ライオン丸」「科学忍者隊ガッチャマン」で提示された小林さんのSF/アクションヒーロー主題歌が、その後10年の月日をかけて完成していく過程をしっかり確認することができます。

 

また同様に、小林亜星さんらしさ満点の明るく楽しく、コミカルな傑作アニメソングも数多く収録されています。人気作「がんばれ!!ロボコン」(1974)の後番組として登場したテレビ朝日東映ロボットホームコメディ第2作「ロボット110番」(1977)の主題歌「26.ロボットガンちゃん110番」「27.バッテンパンチの唄」や、その路線を受け継ぎ、フジテレビで東映不思議コメディーシリーズ第1作として復活した「ロボット8ちゃん」(1981)主題歌「DISC-2 13.ロボット8ちゃん」「14.赤い夕陽のバラバラマン」などは、これまで特撮番組主題歌のコンピレーションCDなどにも収録される機会が少なかったレア曲。特に俳優の斎藤晴彦さんの怪演が光る宿敵:バラバラマンのテーマである「赤い夕陽のバラバラマン」を忘れがたいという人も多いのではないでしょうか。ほかにも「怪物くん」(1980)の「10.おれたちゃ怪物三人組よ」(歌:神山卓三、肝付兼太、相模太郎)、「The・かぼちゃワイン」(1982)の「17.青葉春助 ザ・根性」(歌:古川登志夫)、「フクちゃん」(1982)の「19.ぼく、フクちゃんだい!」(歌:坂本千夏)などは、「ハッスルパンチ」で提案された「声優さんが歌うキャラソン」のまさしく発展形。80年代キャラソンの中でも屈指の傑作ばかりです。

 

お気づきの方もいると思いますが、小林亜星さんのアニメソングは、実は1970年頃を境にして、ご自身は作曲に専念し、アレンジは別の編曲家に任せていく制作スタイルに移行していきます。このシステムが、いわば「亜星塾」とでも言うべき若手アレンジャーの修練の場──登龍門として機能していくことになるのです。そこから育っていった才能は、「ガッチャマンの歌」「テッカマンの歌」編曲のボブ佐久間、「花の子ルンルン」(1979)「3.花の子ルンルン」編曲の青木望、「ベムベムハンターこてんぐテン丸」(1983)「21.おいらテン丸」編曲の高田弘、「プロゴルファー猿」(1985)「24.夢を勝ちとろう」編曲の筒井広志、「百獣王ゴライオン」(1981)「斗え!ゴライオン」編曲の武市昌久(いちひさし)、「まんが日本昔ばなし」(1976)「にんげんっていいな」編曲の久石譲(本曲はCD「小んなうた 亞んなうた~小林亜星 楽曲全集~ こどものうた編」に収録)など、枚挙にいとまがありません。80年代後半以降、小林さん作曲のアニメソングの数自体は徐々に減っていきますが、そのスピリッツである「亜星イズム」のようなものは、これら次世代の作編曲家がしっかりと受け継いでいってくれています。

 

そして本CDの最後には、富野由悠季監督作品「∀ガンダム」(1999)の主題歌にして西城秀樹さんの歌う「26.ターンAターン」が収録されています。筆者は以前、小林亜星さんを取材した際、「ターンAターン」に西城秀樹さんを起用した理由をお尋ねしたことがあります。

小林さんいわく、新橋演舞場での「寺内貫太郎一家」舞台公演(1999)の際、西城さんと久しぶりに楽屋で談笑していた際にフと思い付き、直接その場で「今度のアニメの主題歌やらない?」と持ちかけた……とのことでした。俳優やタレントとしての小林さんの幅広い活動がなければ、1974年のドラマ「寺内貫太郎一家」での西城さんとのキャスティングがなければ、さらには、その舞台化公演の奇跡的なタイミングがなければ、この「ターンAターン」は生まれなかったわけです。ものごとにはどんなものにも、「縁」と「めぐりあわせ」があるものだな……と、小林さんのそのお話しにしみじみと感じ入った思い出があります。西城秀樹さんは2018年にすでに鬼籍に入られていますが、今頃、お2人は再会を果たしているだろうか……などと考えてしまいますね。

 

日本のテレビアニメが誕生した1963年から、1999年の「∀ガンダム」まで、36年間にわたる小林亜星さんのアニメソングの軌跡を辿ることのできる本CD。発売から2年を経てのご紹介になっていまいましたが、小林さんが世を去られた今だからこそ、あらためて聴いていただきたい、そしていつまでも聴き続けていただきたいアルバムです。私たちが忘れない限り、歌い続ける限り、小林亜星さんのアニメソングがすたれることはないでしょう。

 

なお、CD「小んなうた 亞んなうた~小林亜星 楽曲全集~」は、この「アニメ・特撮主題歌編」のほかにも、「歌謡曲編」「コマーシャルソング編」「こどものうた編」が同時発売されています。小林亜星さんの音楽をさらに広く深く振り返ってみたい方は、ぜひ手に取っていただきたいシリーズです。

 

(文/不破了三)

 

【商品情報】

■CD「小んなうた 亞んなうた~小林亜星 楽曲全集~ アニメ・特撮主題歌編」

・発売日:2019年8月7日

・価格: 3,300円 (税別価格 3,000円)

・レーベル:日本コロムビア株式会社 COCX-40917-8(CD2枚組) 

・収録曲

<DISC-1>

    1.狼少年ケン / 西六郷少年合唱団

    2.ハッスルパンチの歌 / 大山のぶ代、水垣洋子、久里千春、西六郷少年合唱団

    3.パンチ・タッチ・ブンの歌 / 大山のぶ代、水垣洋子、久里千春

    4.魔法使いサリー / スリー・グレイセス

    5.魔法のマンボ / 前川陽子

    6.ひみつのアッコちゃん / 岡田恭子

    7.すきすきソング / 水森亜土

    8.風よ光よ / 秀夕木 コーラス:ヤング・フレッシュ

    9.ライオン丸がやってくる / ヤング・フレッシュ

    10.ガッチャマンの歌 / 子門真人 コーラス:コロムビアゆりかご会

    11.倒せ!ギャラクター / コロムビアゆりかご会

    12.ぼくはハゼドン / 水森亜土

    13.ハゼドン音頭 / 和泉常寛 コーラス:コロムビアゆりかご会

    14.ファイヤーマン / 子門真人

    15.哀しみのベラドンナ / 橘まゆみ

    16.ドロロンえん魔くん / 中山千夏

    17.妖怪にご用心 / 中山千夏

    18.テッカマンの歌 / 水木一郎

    19.スペースナイツの歌 / 水木一郎 コーラス:コロムビアゆりかご会

    20.行くぞ!ゴーダム / 水木一郎 コーラス:ヤング・フレッシュ

    21.ゴワッパー5の歌 / 水木一郎 コーラス:ヤング・フレッシュ

    22.コン・バトラーVのテーマ / 水木一郎 コーラス:ザ・ブレッスンフォー

    23.行け!コン・バトラーV / 水木一郎 コーラス:コロムビアゆりかご会

    24.ブロッカー軍団マシーンブラスター / ヒデ夕樹 コーラス:東映児童合唱団

    25.男・天平の唄 / 北原浩一

    26.ロボットガンちゃん110番 / 藤本房子 コーラス:ヤング・フレッシュ

    27.バッテンパンチの唄 / 藤本房子 コーラス:ヤング・フレッシュ

    28.ボルテスVの歌 / 堀江美都子 コーラス:こおろぎ’73、コロムビアゆりかご会

    29.父をもとめて / 水木一郎 コーラス:こおろぎ’73

 

<DISC-2>

    1.宇宙魔神ダイケンゴーの歌 / 堀江美都子 コーラス:こおろぎ’73、ザ・チャープス

    2.宇宙の男ライガー / MoJo コーラス:ザ・チャープス

    3.花の子ルンルン / 堀江美都子 コーラス:ザ・チャープス

    4.女の子って / 猪俣裕子、小林亜星

    5.ダルタニアスの歌 / 堀江美都子 コーラス:こおろぎ’73、コロムビアゆりかご会

    6.剣人・男意気 / こおろぎ’73

    7.がんばれ!宇宙の戦士 / ささきいさお コーラス:こおろぎ’73、コロムビアゆりかご会

    8.レッド・ブルー・イエロー / かおりくみこ コーラス:こおろぎ’73、コロムビアゆりかご会

    9.ユカイツーカイ怪物くん / 野沢雅子

    10.おれたちゃ怪物三人組よ / オオカミ男、ドラキュラ、フランケン(神山卓三、肝付兼太、相模太郎)

    11.斗え!ゴライオン / 水木一郎 コーラス:こおろぎ’73、コロムビアゆりかご会

    12.五人でひとつ / 水木一郎 コーラス:こおろぎ’73、フィーリング・フリー

    13.ロボット8ちゃん / 猪俣裕子 コーラス:ヤング・フレッシュ、こおろぎ’73

    14.赤い夕陽のバラバラマン / 斉藤晴彦 コーラス:こおろぎ’73

    15.あの子はあさりちゃん / 前川陽子 コーラス:こおろぎ’73

    16.私は女の子 / 前川陽子 コーラス:こおろぎ’73

    17.青葉春助 ザ・根性 / 古川登志夫 コーラス:コロムビアゆりかご会

    18.Pumpkin Night / 古川登志夫、横沢啓子

    19.ぼく、フクちゃんだい! / 坂本千夏

    20.フクちゃん~明日天気になあれ~ / こおろぎ’73

    21.おいらテン丸 / 藤田淑子

    22.うちの親分 / 松島みのり、藤田淑子

    23.優しい友達 / 山野さと子

    24.夢を勝ちとろう / 水木一郎

    25.マイウェイ猿丸 / 水木一郎

    26.ターンAターン / 西城秀樹