当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。2021年3月は、冒頭に紹介するharmoeを筆頭として、“声優楽曲×ダンスミュージック”の切り口より全4作品を紹介したい。
◆harmoe デビューシングル「きまぐれチクタック」
岩田陽葵さんと小泉萌香さんによる新ユニット「harmoe(ハルモエ)」。今年で3年目を迎える冠番組「岩田陽葵・小泉萌香 気の向くままに思うがままにっ!」をはじめ、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」や「D4DJ」でも共演する息ぴったりな2人によるユニットだ。
そんなharmoeの音楽コンセプトは、「まるで舞台やアニメを見ているような『おとぎ話』の世界を、心地よいダンスポップミュージックにのせて、全世界に発信する」こと。3月10日発売のデビューシングル「きまぐれチクタック」では、「不思議の国のアリス」をテーマに、トラックメイカー・Tomggg氏をサウンドプロデューサーとして迎えた1枚となっている。
Tomggg氏といえば、過去にアニメ「少女終末旅行」関連楽曲「Endless Journey」や、中島愛さん「はぐれた小鳥と夜明けの空」などを手がけた人物。ベッドルームミュージックにも通ずる、角のやわらかいふわりとしたシンセや心地よさを運ぶドラムマシンのキックなど、おおまかに“Kawaii”と総称される枠組みのサウンドを得意としている。今作の表題曲「きまぐれチクタック」もまた、そんな彼らしさが詰まった1曲だ(作詞はボンジュール鈴木氏)。岩田さんと小泉さんは同楽曲で歌声に空気を含ませる“囁き声の度合い”こと“ささ度”を特に意識したという(参考:リスアニ!Vol.43インタビューより)。
また、これは曲中でも場面によって程度はあるのだが、ドリーミーな雰囲気があるTomggg氏のビートに浸透するように、岩田さんは発声時のアタックに丸みを与え、対して小泉さんが凛とした質感の歌声でアクセントを与える部分などは、ぜひ意識して聴いてみてほしいところ。そのほか、2人が倍速で言葉をのせていくフックでは、展開が進むにつれてハイハットのスピードが目まぐるしいほどに加速する部分などにも、これまでの声優楽曲×ダンスミュージックでもまれに見る熱量を感じてもらえるのではないか。
あわせて、カップリング曲には、メルヘンな色調のアップチューン「キュリオシティ・パレット」(作詞はボンジュール鈴木氏)や、ゴシックテイストの「Wonder girl」(作詞・作編曲に音楽ユニット・KiWiも参加)も収録。これらの楽曲でも、マリンバやグロッケンの生音が弾むサウンドに、目の前の景色が回転して次々と違う表情が見えてくるような感覚にさせられる。
そもそも、特定のトラックメイカーがこれほど密な形で、声優アーティスト作品に関わること自体がレアケース。同時に、Tomggg氏のオリジナル性にあふれたサウンドアレンジが、まさかこれほど上質な化学反応を生み出すとは。声優楽曲×ダンスミュージックの領域で、同ジャンルのレベルを底上げするだけのポテンシャルをすでに隠しきれていない。Tomggg氏の今後の立ち回りについてはまだ明かされていないが、harmoeは間違いなく、今、最も注目すべきユニットと言える。
◆Happy Around! 2ndシングル「SHUFFLE HEART BEAT」
DJをテーマにしたメディアミックスプロジェクト「D4DJ」からは、Happy Around!が3月17日に2ndシングル「SHUFFLE HEART BEAT」を発売。表題曲は、サビに至るまで目まぐるしくトラックが切り替わる1曲。その全体像は、EDMやロック、さらには歌謡的なアプローチまで、異なる柄を縫い合わせたパッチワーク的な作りにも思える。ただ、その展開こそ変則的ながらも、サビでは王道のポップス路線に入ることで、歌モノとして成立させるバランス感が素晴らしい。
カップリング曲「はぁ~い☆FORTUNE!」は、EDMやハードコアテクノをベースに、和テイストのサウンドで“雅さ”も感じさせる1曲。と言いながらも、歌詞で描かれる新年を迎えた浮かれようには、そんな雅(みやび)さをやや忘れそうになる瞬間も。けたたましいレイブホーンやリワインドなど、Happy Around!らしくいい意味で楽しいせわしなさだ。
余談だが、彼女たちの作品の後にソウルやファンクを流すと、やたらとスローに聞こえてしまうのだが、「D4DJ」楽曲よ、どれほどBPMが速いんだ……。
◆Tokyo 7th シスターズ 4thアルバム「IT’S A PERFECT BLUE」
メディアミックスコンテンツ「Tokyo 7th シスターズ」(以下、ナナシス)より、3月17日に発売された4thアルバム「IT’S A PERFECT BLUE」。
今年2月に長編アニメーション作品が劇場公開された「ナナシス」。だが、意外にも今回のような長編アニメが制作されたのは、シリーズ7年目にして初めてのことだ。
今や、2010年代後半の声優楽曲×ダンスミュージックの話題では欠かすことのできない人気作品となった本作だが、それもシンプルに楽曲の強さと、スマホリズムゲームのシナリオのクオリティをもって叩き上げられてきたものである。
ちなみに最近では、前述したHappy Around!がワンマンライブにて「ナナシス」楽曲をカバーしたことも話題となっていた。
今回のアルバムには、2018年以降の発表楽曲をまとめて収録。2018年頃といえば、多くの作品内ユニットが誕生しており、本作は新旧さまざまな顔ぶれが織りなす、重厚感ある1枚となっている。ダンスミュージックからの観点では、メインキャラクターによる劇中ユニット「777☆SISTERS」の黎明期に近しいサウンド感の「リボン」をはじめ、The Chainsmokersのようにドロップで音のわずかなズレを生かす、空間系エフェクトシンセを多用したライバルユニット「KARAKURI」の「アイノシズク」などがあげられるだろうか。
さらに、レジェンドユニット「セブンスシスターズ」の新曲「Shooting Sky」や、エネミーユニット「AXiS」の「HEAVEN’S RAVE」などは、これまでに「ナナシス」のターニングポイントを彩ってきたkz氏(livetune)がプロデュースしたもの。「Shooting Sky」は、「ナナシス」原点の楽曲「Star☆Glitter」にも通ずる“星の輝き”を歌うデジタルポップに。対して「HEAVEN’S RAVE」はセブンスシスターズの代表曲となった「SEVENTH HAVEN」を超越すべく、トラップ~トランス~レイブといった狂騒的なサウンドで構成され、サイレンが唸るような超攻撃型な1曲となっている。
◆小倉唯 13thシングル「Clear Morning」
小倉唯さんが3月31日に発売する13thシングル「Clear Morning」。表題曲は、自身がシロコ役を演じるスマホアプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」テーマソングだ。
トラックは、フューチャーベースを軸に、内省的なイメージを紡ぐピアノの旋律がしっとりとした印象を与える。
意識したいのは、前述したharmoeで言うところの“ささ度”。小倉さんの歌声も、途中までは主張をしすぎないウィスパーボイスで、トラックの上にほわっと浮かぶようなものに。
その後、ドロップに突入して音圧が一気に増幅されると、歌詞のメッセージにあわせて、その歌声も徐々に存在感を発揮していく。
さらにその途中には、彼女の経験に裏打ちされた、かわいらしいキャラクターボイスを生かして、モノローグ的なかけ合いのコーラスを重ねるなど、フューチャーベースのサウンドをさらに幻想的に仕立て上げるアレンジもまた巧みである。
(文/一条皓太)