声優アーティスト作品を月刊でレコメンドする本連載。
2021年1月は、メディアミックスコンテンツ「BanG Dream!(バンドリ!)」のファンこと“バンドリーマー”にとって、新年早々から熱狂的なひと月になったのではないだろうか。というのも、今月は4週にわたり、同作に登場する4組のリアルバンドのシングルCDが、リレー形式で連続リリースされたのだ。そんな「バンドリ!」の巻き起こすビッグウェーブを逃さぬよう、今月は全シングルを漏れなくレビューしていきたい。
Poppin’Party 16thシングル「Photograph」
特筆すべきは、小説家・中村航さんが綴る、聞く人の心をつかんで離さない言葉の力だ。冒頭から担当作家の話となり恐縮だが、今回の表題曲「Photograph」では、中村さんの歌詞が持つ情景描写力を改めて思い知らされた。ここでは同曲の歌い出しを以下に引用したい。
来週生まれる うさぎの赤ちゃん
教務棟の甘すぎ缶コーヒー
学食のメニュー カレー派? パスタ派?
この門で出会ったキミの吐息
「Photograph」は、Poppin’Party(以下、ポピパ)の日常にあふれる幸せを描いた楽曲だが、少し意地悪な角度から見れば、やや意表を突いた歌い出しだろう。ただ、楽曲を聴き進めていくうちに、言われずとも前述したようなテーマ性を理解し、飼育小屋、たわいもないおしゃべりを楽しんだ自動販売機や食堂、寒い冬の校門……と、何気ない学校生活の舞台となる場所が自然にビジュアライズされるはずだ(ここでは、校門で出会うのが“キミの吐息”という婉曲の交え方にも涙を誘うポイントがある)。そういった思い出の連続も、ノスタルジックで温かみのあるトラックや、メンバーが1人ひとりで歌唱する歌割りと重なることで、それぞれの言葉や音が持つ以上の情景を、まるで映画のように浮かび上がらせるのだろう。
また、サビでのテンポを速めたギターカッティングは、メンバーがひたむきに青春を駆け抜けるその足取りを想像させるほか、最後には“とびっきりの1枚”は未来に預けようという約束も。彼女たちがいつかカメラを置くとき、いったい何冊のアルバムができあがるのだろうか──。
いっぽう、カップリング曲「開けたらDream!」は、“オモチャ”をテーマにしたもの。“キラキラドキドキ”する心に年齢制限はない。“TEENAGE VIBE”を忘れない、ポピパの遊び心を感じる1曲だ。
Roselia 11thシングル「ZEAL of proud」
Roseliaについては、収録された2曲をまとめて紹介したい。両楽曲に共通し、他バンドと差別化されているポイントは、聴き手の存在を明確に意識しながら、彼らの背中を押すメッセージソングであることだ。
表題曲「ZEAL of proud」は、2020年秋にスマホリズムゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(以下、ガルパ)にて公開されたイベントストーリー「この胸満たすあたたかさは」を基にしたもの。彼女たちが目標としていたフェス出演を果たした後、目指すべき次のステージに向けた想いが高らかに歌い上げられる。また、カップリング曲「Blessing Chord」では、自分らしくありのままでいてもよいと“存在証明”をしてくれる内容に。どちらの歌詞にも〈大丈夫〉というフレーズが登場するのも、決して偶然ではないだろう。
また、前述した2曲には〈大丈夫〉のほか、〈光=Light〉という言葉も共通しているのだが、彼女たちが苦難を乗り越えて明るい場所を目指す姿は、荘厳でダークな印象のあるゴシックロック~メタルサウンドでこそ、そのコントラストがはっきりと伝わるもの。サウンド自体は激しいものの、むしろ温かな心を持って、他者をそっと迎え入れてこそRoseliaだというのは、ファンにとっては釈迦に説法だろう。今回のシングルは、そんなバンドの精神性がよく表れたシングルではないだろうか。
もちろん、そういった楽曲を完成させるには、ストレートに想いを突き刺してくる相羽あいなさん(Vo/湊友希那役)の歌声や、“実力派バンド”の肩書きに恥じず、もはや頼もしさすらあるバンド隊の演奏があってのこと。残念ながら開催中止となってしまったが、彼女たちの実力は、2020年末の「rockin’on presents COUNTDOWN JAPAN 20/21」にもブッキングされたことからもうかがえるだろう。
余談だが、キャストにとって“憧れのステージ”であろう「COUNTDOWN JAPAN」のステージに立つというのが、前述した「ガルパ」のストーリーとだぶる感覚を覚える点も、2次元と3次元をクロスオーバーするメディアミックスならではと言える。
RAISE A SUILEN 6thシングル「mind of Prominence」
表題曲「mind of Prominence」は、メタルコア調の激しいトラックを採用した1曲。「バンドリ!」らしいコーラスワークをはじめ、ボコーダーによるボイスエフェクトからダンスミュージック的なクラップまで、手数を尽くしたアレンジに圧倒されてしまう。極め付けとして、Raychellさん(Vo&Ba/レイヤ役)から放たれるサビ終盤でのロングトーンも、“力こそすべて”と言わんばかりに、他の追随を許さぬバンドの音楽性を強調するかのようだ。
そして、カップリング曲「JUST THE WAY I AM」は、試聴音源公開時からファンの間で大きな話題に。その理由は、紡木吏佐さん(DJ/チュチュ役)による挑発的なラップこそがこの曲のメインなのではと思えてしまうほど、彼女の歌唱パートが楽曲の大半を占めているためだ。高飛車なあおりにぴったりなハイトーンボイスを武器に、周囲の邪魔者をあざけりながらユーモアを交えてラップで蹴り飛ばせるのは、紡木さんの専売特許的な役柄だから成し得るものであり、キャラソンとしても極上の完成度といえる。
また、サウンドの観点でも、フィルターのかかったところに、一気に重圧なビートが押し寄せるという動きのあるイントロや、ディストーションをかけたシンセサイザーで、ノイジーに畳みかける間奏など、徹底して攻撃姿勢を崩さない様子。「バンドリ!」随一の“荒くれ者”ともいえるサウンドは、今回のシングルを通してますます磨き抜かれたようである。
Morfonica 2ndシングル「ブルームブルーム」
表題曲「ブルームブルーム」は、2020年春に「ガルパ」にて公開されたイベントストーリー「花明かりのシンフォニー」を基にしたもの。同ストーリーでは、Morfonicaのメンバーがポピパを含む先輩バンドらとお花見をすることに。
そもそもMorfonicaは、平凡な自分から“変わりたい”という倉田ましろ(Vo/CV:進藤あまねさん)の想いを原動力にスタートしたバンドだが、彼女は引っ込み事案な性格から、このお花見でも他バンドのメンバーに対して、今一歩、勇気をもって接することができずにいた。そんな彼女の悩みから他者に心を開くまでの成長をなぞった楽曲が「ブルームブルーム」である。肩を震わせて、第一歩を踏み出した1stシングル曲「Daylight -デイライト- 」の頃に比べると、同じ“勇気を振り絞る”という行為でも、また違った印象を覚えることだろう。
また、Morfonicaは、2020年春の結成から間もないこともあり、リアルバンドのメンバーを含めて、毎日が初々しい刺激に満ちあふれる感覚なのではないだろうか。持ち味のシンフォニックロックをベースにしながらも、軽やかなで開放的なサウンドと、進藤さんのポップな余韻を残す歌声が印象的な「ブルームブルーム」。そういった“何をするにも自身の世界が広がる感覚”も、楽曲の背景にはあるのかもしれない。前述したましろの葛藤と成長の過程を踏まえても、来たる暖かな春が今から待ち遠しくなってしまう、出会いの季節にぴったりな1曲といえる。
カップリング曲「flame of hope」も同じく、「ガルパ」でのストーリーになぞらえたもの。こちらは、燃え盛る炎の色がふさわしいフロアバンガーとして、同じ「ガルパ」由来でもまた違ったベクトルを楽しむことができる。本稿では割愛するが、同曲の生まれたバックストーリーも面白いため、ぜひ自身の目で確かめていただきたい。
(文/一条皓太)