外出自粛期間が続き、アニメやゲームの世界でも音声収録などにさまざまな制約が生まれはじめた頃。界隈のライターや編集の間でささやかれていたのが「これは、小岩井ことりさんの時代が来るのでは?」ということだった。
小岩井さんといえば「のんのんびより」宮内れんげ役、「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」天空橋朋花役、「じょしらく」波浪浮亭木胡桃役などで知られる人気声優であると同時に、MIDIやDTMに造詣が深く、作詞・作曲・編曲をみずからこなし、イヤホンやヘッドホンの収集家でもある……という音の専門家としても知られているマルチな存在だ。自宅にプロクオリティのマイスタジオを備えているというのだから驚くしかない。
そんな小岩井さんだが、2020年4月には撮影などのほぼすべての制作を自分自身で手がけた1st写真集 「イヤホン・ヘッドフォンことり図鑑」(一迅社)を発売。また、彼女がオウルテックとともに開発&プロデュースするイヤホン「KPro01」のクラウドファンディングが1億6000万円を超える支援を記録するなど、今もっとも注目を集める声優のひとりであることは間違いないだろう。
今回はこんな時期だからこそ、現役人気声優が今どのように過ごしているのか、そして「小岩井ことり」という、特異で魅力的な人物のものづくりのスタンスついて、たっぷりと語ってもらった。
最近の声優事情
──今回はリモートでインタビューをさせていただきます。リモートでの取材は増えていますか?
小岩井 そうですね、外出自粛期間に入ってからは雑誌やテレビの取材もリモートが増えています。CMを作らせていただく仕事もしていますが、それらもだいたい家でやっていますね。
──初の自著である写真集「イヤホン・ヘッドフォンことり図鑑」の発売や、オリジナルイヤホン「KPro01」のクラウドファンディングの大成功など、小岩井さんの話題を聞く機会が増えましたし、声優としても「のんのんびより のんすとっぷ(TVアニメ3期)」の放送決定など嬉しい知らせが続いていますね。
小岩井 そうですね。今世の中に出ているお話というのは、ほぼそれ以前から仕込みが始まっているものなんです。今は大変な時期で、早くこの状況が収まってほしいところなのですが、そういった中でもいろいろなことをやらせていただけているのは本当にありがたいことだと思っています。
──アニメの制作、特にアフレコや収録にも大きな影響が出ていると聞きますが、声優さんの立場から見てどうですか?
小岩井 (5月末時点で)通常のアニメ収録ができない状態で、長いお休みの時期といったところです。今クール放送作品で私が出演しているアニメ「プリンセスコネクト!Re:Dive」などは、アフレコに直接の影響はありませんでした。影響が大きいのはやっぱり7月期以降の作品だと思いますが、自粛期間が解除されたあとにいろいろ工夫しながら取り戻していくんじゃないかなと思います。
──ゲームの収録なども止まっているんですか?
小岩井 私の場合はリモートで収録して送ったりもしています。
──ゲームの音声なども自前で収録しているのは驚きました。
小岩井 ゲームの音声やナレーションのような、ひとりでできる作業は自分でやっているのもありますね。
──そういう取り組みというものは、現在は多くの声優さんも行っているのでしょうか?
小岩井 私はそういうお話をいただいてますとしか言えないです(笑)。ただ、いろんな声優さんからマイクや自宅収録の相談に乗ってほしいとは相談はいただいているので、何かしら、個別に活動はされているんじゃないでしょうか。自分としては、できる範囲で、その人の環境に合わせて「こういうのがいいんじゃない?」という提案をさせていただいてます。
──リモート配信の番組も増えました。「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」の「MILLIONSTARS特別生配信~手作りのThank You!~」では20人近い声優さんがチャットで番組に参加するといったように、新しい試みもありましたね。
小岩井 すごく楽しかったです! 番組にチャットで参加するって、なかなかない経験ですよね。普通、誰かが話す時は周りの人はじっと聞くことが多いじゃないですか。だから、みんなが好きなタイミングで一斉に話せるというのはすごく面白かったです。
──番組内で、出演キャストのみなさんが卓録で「Thank You!」を歌う「手作りのThank You!」という企画がありました。その中で、小岩井さんはパイオニアのデジタルミュージックプレーヤー「XDP-20」と、「ミリオンライブ!」のコラボモデルをマイク代わりに使っているように見えました。
小岩井 よくお気づきで(笑)。愛あるコラボアイテムだし、このDAP(デジタルオーディオプレーヤー)は本当にいいなと思っていたので、せっかく自宅で「Thank You!」を歌うならと思いまして。
──通常の「XDP-20」だと録音機能はないですよね?
小岩井 はい、あの企画は「みんな、リモートで録りましょう」というものだったので、録音は普通にipadでやってます(笑)。XDP-20からは音だけ流してました。普段ライブではマイクを持って歌っているので、フリーハンドだと落ち着かないんです。なので、マイク代わりに持っていた感じです。
──なるほど! あの番組はお仕事でしたが、プライベートでほかの役者さんや友達とオンラインでやりとりしたりはするんですか?
小岩井 オンライン飲み会とかはやったことがないんですよね。ゲームをプレイしながらボイスチャットでやりとりをすることはあるんですけど、それはこういう状況になる前から普通にやっていたので。
──「声優さんの音声はボイスチャットなどでもクリアに聞き取れる」という話を聞くこともあります。
小岩井 この前「ことりの音」というラジオ番組に桐谷蝶々さんがリモートで出演してくれたんですが、やっぱり声優さんは活舌がいいので、音の抜けがいいなというのはすごく感じました。
子どもの頃はまつぼっくりを集めていました。
──小岩井さんは音響関係を中心にマルチなスキルで知られていますが、そのルーツについてうかがってみたいと思います。入口として小岩井さんは、どんな子どもだったんでしょうか?
小岩井 子ども時代か。うーん、いつもまつぼっくりを拾っていました!
──それはコレクション的な?
小岩井 ええ。まつぼっくりにもいろんな種類や形があるんだと思ってから、集めたいなと思ったんです。でもある日、「あ、これは集めきれんな」と思ってやめました(笑)。今になって思うと自分らしい趣味だったかもしれません。
──エピソードとして「のんのんびより」感が強いですね。
小岩井 たしかにれんちょん(小岩井さんが演じる「宮内れんげ」のこと)っぽいかもしれません(笑)。今もヘッドホンとか集めるのが好きなので、コレクション癖のルーツはまつぼっくりかもですね。
──成長した小岩井さんの興味の対象は「音」にまつわるものが多い気がします。きっかけなどを教えてください。
小岩井 学生時代は吹奏楽部に入っていたんです。メインはユーフォニウムだったんですが、友達に借りていろんな楽器をさわってみるのが好きでした。いろいろな興味のきっかけになったのはアニメの「ポケットモンスター」です。これは声優になったきっかけでもあるんですが、「ポケットモンスター」のピカチュウは人間の言葉を話さないんですが、それでも何を言っているのか、意味や感情が伝わるのがすごいなと思ったんです。それで声優になりたいなとまず思って、そこから音にも興味を持つようになったんだと思います。
──DTMに興味を持ったきっかけはありますか?
小岩井 最初は、声優になるためにスタジオに近い機材で練習したかったんです。そのためにマイクやパソコン、「Cubase」という音楽制作ソフトウェアなんかを揃えたんです。その後、せっかく制作環境があるなら作曲とかもやってみようかな?と思ったのがスタートです。
──音周り以外でも、MENSA(全人口の内上位2%のIQの持ち主が入れる国際グループ)の会員になったとか、ダイビングのライセンスを取ったとか、いろいろと面白いチャレンジをされていますね。
小岩井 いろんなことに興味を持つほうではあると思います。短い人生、せっかくならいろんなことをできたらいいなと思ってます。でも私としてはMENSAの話とかも、「ご飯食べたよ。しゅうまい食べたよ」という話をアップするのと同じ感覚でしたので、皆さんにびっくりされたことに私もびっくりした感じです。