老舗模型メーカーの童友社が、「接着剤不要」「塗装済み」のプラモデルに積極的だ。彩色済みキットとしては「東京スカイツリー」「東京タワー」を発売していたが、それらの製品よりパーツ数を抑え、1,980円という低価格で買いやすくした「かんたんプラモデル」シリーズをリリース。
そして、6月に発売となった「かんたんプラモデル 大阪城」は、このシリーズのために金型を新規に起こした、意欲的な製品だ。童友社といえば、何十年も前からお城のプラモデルで知られている。いわば、得意ジャンルで「接着剤不要」「塗装済み」プラモデルを開発したわけだが、その裏にはどんな経緯があったのだろう? 童友社・代表取締役社長の内田宗宏さんに、お話をうかがった。
お城のプラモデルは、結局、誰が買っているのか!?
── 童友社さんは昔から、お城のプラモデル(日本の名城シリーズ)をたくさん発売していますよね。
内田 弊社のプラモデルは、漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」で何度か取り上げられています。「プラモ屋の隅っこに何故か訳のわからんプラモがある」「どういう客を狙っているか理解しがたい!」と書かれているコマ(第86巻より)を見ると、他社さんの農家のプラモデルもあるけど、東京ドームや扇風機、幌馬車など、ほとんど弊社の製品ではないか……? とわかって、ガクッときましたけど笑ってしまいました 。
── お城のプラモデルは一体、どういうお客さんが買っているのでしょう?
内田 普通の人です。戦車や戦闘機のマニアではない、濃くない人ですね。常連でない普通の人が模型売り場に行くと、「飛行機などは難しそうだな……」と隅っこの棚へ目が向く。すると、そこには箱庭やお城のプラモデルが置いてあるわけです。ようするに、万人受けするアイテムということでしょう。
今回、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の中で、プラモデルの売り上げは全体的に伸びたんですけど、お城はよく売れました。「ずっと家で過ごさないといけないから、退屈しのぎにプラモデルでも作ってみるか」という人にとっては、お城は初めて買うプラモデル、という立ち位置なんでしょうね。
── 童友社さんのお城は、価格帯もいろいろですよね。まんべんなく、どのシリーズも売れたんですか?
内田 はい、どれも売れました。弊社のお城は、4,500円のデラックス版、2,000円のスタンダード版、1,200円のJOYJOYコレクションの3種類に分かれています。大・中・小みたいな感じですね。今回は、いちばん安いJOYJOYコレクションが非常によく売れたので、お子さんが自分のお小遣いで買っているんじゃないかと思います。
── 特に売れるお城はあるんですか?
内田 全国的にダントツで売れるのは、姫路城です。
── 姫路城? なぜですか?
内田 カッコいいからじゃないでしょうか。それと、時代劇によく出てくるのが姫路城なんです。ドラマでは江戸城という設定なのに、画面に映るのは姫路城だったりするので、それで人気があるんでしょうね。たとえるなら、野球でいう王・長島、プロレスの馬場・猪木みたいな立場が姫路城です。野球に詳しい人が「ほかに、すごい盗塁王がいるんだよ」と説明したところで、あまり興味のない人は王・長島、今ならイチローがすごいと思うわけじゃないですか。
── 確かに、いずれのシリーズにも必ず姫路城はラインアップされていますね。
内田 2015年に、完全新金型で「プレミアム姫路城」を発売しました。従来よりも組み立てやすくしたのですが、爆発的に売れたかというと、そんなことはありません。途切れずに、少しずつ少しずつ売れていく感じですね。
── 姫路城が一番人気なら、姫路城だけ売るわけにはいかないんですか?
内田 安土城や彦根城もある中から、姫路城を選ぶのが、お客さんはうれしいんでしょうね。スーパーマーケットの売り上げがデータ化されたとき、回転の悪いプラモデルは、下から順番にオモチャ売り場から下げられてしまったことがありました。すると、人気のある上位3種類ぐらいのお城だけが売り場に残る。さらに絞り込むと、姫路城が1個だけ置いてある売り場になってしまいますよね。戦艦ならば大和だけ、戦闘機ならば零戦だけ……では、売り場の活気がなくなってしまう。最終的に買うものは決まっていても、ズラリと並べてある中から自分で選ぶ。プラモデルって、そういう商品だと思うんです。