BANDAI SPIRITS ホビー事業部が2019年6月から展開しているオリジナルデザインのロボットプラモデル「30 MINUTES MISSIONS」シリーズが人気だ。敵味方、両軍のロボットそれぞれに複数のカラーがあり、交互にパーツを取り替えたり、別売りのオプションパーツを取り付けることで、手軽にカスタマイズが楽しめるシリーズで、この2020年4月には新しい機体“ラビオット”が加わる。
かつて、カスタマイズを前提としたロボットプラモデルのシリーズがまったくなかったわけではない。しかし、「30 MINUTES MISSIONS」の売れ行きは絶好調だと聞く。その人気の秘密は、本当はどこにあるのだろう? BANDAI SPIRITS ホビー事業部・ガンダムチームの齊田直希さんに聞いてみた。
ガンプラのラインアップが、ユーザーの嗜好を汲み上げた?
── このシリーズは“無限のカスタマイズで自分だけの量産機を作り出せ!”というキャッチコピーでスタートしましたね。
齊田 2017年に、「機動戦士Zガンダム」のモビルスーツ、バーザムをHGUCブランドで発売しました。それまではガンダムを中心にした主人公機のラインアップが主流で、主役機や劇中で活躍したモビルスーツ以外はあまり発売していなかったのですが、“量産機”のバーザムが売れたことで、お客様のニーズがつかめました。つまり、主人公機の“対”になるメカとして、量産機は人気があるのです。
翌年、「新機動戦記ガンダムW」に登場する量産型モビルスーツのリーオーの開発を私が担当しました。その際、“GUNPLA EVOLUTION PROJECT”と銘打って、ランナー上のパーツ配置など、従来のガンプラより簡単に組み立てられるよう工夫しました。その結果、発売直後に何が起きたかというと、お客様が買ってすぐに組み立てて、素組みや塗装した完成写真をTwitterにアップするまでが、とても早くなったのです。凝った構造のMG(マスターグレード)やRG(リアルグレード)は組み立てに時間がかかるため、完成写真をアップできるのは早くても翌日でした。しかし、リーオーは即日、組み立てレビューをアップしてもらえました。お客様の間で、発売直後から非常に盛り上がったんです。
それならば組み立てる時間がなかなか取れないお客様に向けて、簡単組み立てを前提にしたオリジナルのプラモデルシリーズを新たに始めてもいいのではないか、と思ったことが「30 MINUTES MISSIONS」(以下、30MM)を企画するキッカケになりました。
── その簡単組み立てシリーズを、従来のガンプラの範疇で実現しようとは思いませんでしたか?
齊田 簡単な組み立て方法のことを“FINE BUILD”と呼んでいるのですが、ガンプラのどの製品にもFINE BUILDの考え方は、継承されています。ただ、どうしてもモビルスーツの機体デザインによって、FINE BUILDを実現しやすかったり、しづらかったりします。それならば、最初からパーツ数を絞って、FINE BUILDの構造を前提にしてオリジナルデザインを起こしたほうがいいのではないかと思いました。
── 「機動戦士ガンダム」にたとえると、最初にGMとザクだけで展開して、ヒーローであるガンダムが存在しない状態でシリーズを始めたわけですよね。そこに不安はありませんでしたか?
齊田 主人公機をつくってしまうと、その主人公機1個だけ購入して満足してしまう懸念がありました。量産機なら複数揃えることに意味がある、という部分に着目しました。主人公機は、完成されたデザインですよね。それよりは、量産機というプレーンな素体の状態から、どれだけ自分の味を出せるのかを楽しめるシリーズにしたかったんです。お客様のセンス次第でカスタマイズの振れ幅を持たせるには、プレーンな素体としての量産機だけで展開するのが一番ではないか、と考えました。
── 同じデザインで、複数の成形色が発売されていますね。塗装しないことが前提なのでしょうか?
齊田 30MMでは、カラーコーディネートという遊び方を提案しています。最近のプラモ事情を分析してみると、塗装ユーザーは意外と少ないと感じています。僕自身もプラモデルに色を塗りませんし、ホビー事業部に配属されるまで、ガンプラを組んだことさえありませんでした。塗装のうまい人や、塗装できる環境のある人は多くないと感じています。また、塗装できる場所や時間の問題もあります。ですから、少し装甲を取り替えるだけで、色の組み合わせでキャラクター性を楽しんでもらう遊びを推奨しています。決して塗装してもらいたくないわけではなく、30MMをきっかけに塗装を始めてもいいように価格帯を低めに設定しました。
── ランナーは3枚とポリキャップのみで、ランナーのうち1枚は多色成形になっていますね。
齊田 パーツの配置を工夫して、一度組んでしまえば2体目以降は説明書がなくても組み立てられるよう考えています。時間のないお客様にアプローチできる要素を随所に入れたおかげで、組み上げる喜びを感じていただけたのではないかと思います。30MMという名称から「30分で組み立てられる」ことがコンセプトと思われがちなのですが、それでは早く組めなかった人が置いてきぼりになってしまいます。名称コンセプトとしては「30分間、夢中になれる」ことを最初に考えていました。ちょっと塗装やスミ入れしたり、ディスプレイしたり、カスタマイズしたり、もう1体組んでみたり……それぞれの30分があっていい。組み立てて終わりではなく、次のステップに進んでもらうための30分――という考え方をしています。“積みプラ”という言葉がありますが、30MMは積ませないプラモデルなんです。