PLUMの「1/80 中央線」は、昭和~平成の記憶を刺激するプラモデル【ホビー業界インサイド第53回】

今年、設立20周年を迎えた株式会社ピーエムオフィスエーのホビーブランド“PLUM(プラム)”をご存知だろうか? 同社が拠点にしている長野県諏訪市の宣伝キャラクター「諏訪姫」のフィギュアを何種類も販売。諏訪市に縁のあるお城や神社のプラモデル、美少女キャラの完成品フィギュアやオリジナルロボットのプラモデルを開発するなど、そのラインアップは多岐に渡り、なおかつ個性あふれる。
そしてこの2019年12月、PLUMから一般層に向けて“勝負作”とも言うべきプラモデルが発売される。「JR東日本201系直流電車 中央線」の1/80スケールキットだ。いま走っている中央線ではなく、1981年~2010年までの長きにわたり運行されてきた全身オレンジの車両をプラモデル化するのだという。なぜ今? 誰に向けて? 株式会社ピーエムオフィスエー・ホビー部・企画開発課の中野裕貴さんに、お話をうかがった。

スケールモデルではあるが、鉄道模型としても遊べる余地を

── ピーエムオフィスエーさんは、長野県諏訪市に自社工場があると聞きました。

中野 元をたどると、弊社にホビー事業部ができたのは10年前のことです。それまでは、車やカメラなどのプラスチック部品の設計から金型製作を行う事業が主でした。その頃、リーマン・ショックが起きたことを機に、社長が自社ブランド“PLUM”およびホビー事業部を立ち上げることを決めました。プラモデルはすべて長野県内の工場で生産していまして、金型の設計と製造からスタートしている点で、ほかのホビーメーカーさんとは出自が違うと思います。
今回の中央線のプラモデルは、車のパーツを作るための1ミクロンぐらいの精度を出す金型技術を、何かスケール物に応用しようという話からはじまりました。自動車・艦船・戦車などは他社さんから多く出ていますから、あまりプラモデル化されていない通勤電車にしたのです。また、普通ならエッチングパーツに置き換えるような細かな網目などもプラスチックで精度を出して、金型技術をフルに生かすためのチャレンジと研究も兼ねています。

── では、単に鉄道模型ファンをターゲットにしているわけではないんですね?

中野 もちろん、鉄道模型の世界にもアプローチしたいとは考えています。これまで、PLUMの製品は美少女フィギュアか、ゲームに登場するSF戦闘機のプラモデルで知られてきました。それらとは違うユーザー層へ訴求するための、大きく長く売れる市場が鉄道の世界にあるらしい、と気がついたんです。今までとは違うお客様に認識していただけるよう、ひとつの指標になり得るクオリティの高い製品をつくろうと努めています。

── すると、広く一般に向けた製品だと考えていいのでしょうか?

中野 そうですね、今までのPLUMのお客様だけでなく、AFV(装甲戦闘車両)などのスケールモデルを作ってらっしゃる方も視野に入れています。また、まったく動かないディスプレイモデルとして設計していますが、簡単な改造で他社さんの鉄道模型と並べて遊べるようにも配慮しています。鉄道模型として考えると、ファンは自分の持っている車両と並べたいと思うでしょうし、この電車を元にほかの車種への改造も考えると思います。規格を合わせていますから、他社さんのパーツを流用すれば、それほど手間をかけずに、光ったり走ったりはできるはずです。

── 電飾や動力のパーツは、キットに含まれないんですか?

中野 今のところ、その予定はありませんが、売れ行き次第では何か動きがあるかも知れません。このキットは1/80スケールどおりに縮小すると、台車の幅が13ミリになってしまいます。いっぽう、国際的なHOゲージの線路幅は、16.5ミリです。弊社の模型的解釈として、13ミリではなく16.5ミリの軌間にしてあります。その幅なら走らせないまでも、自分の持っているHOゲージのレイアウトの中に置いて楽しむことができます。スケール的な正確さより、ホビー製品としてのステイタスを優先して、遊びの幅を広げた部分もあるのです。