数多くのアニメーション作品を製作してきたサンライズの作品を、映画館で連日上映する毎年恒例のイベント「サンライズフェスティバル2019風月」が、2019年9月13日から2019年9月27日にかけて開催された。
最終日となる9月27日に東京・テアトル新宿にて開催されたのは、「魔動王グランゾート」上映イベントだ。本作は1989年に放送されたTVアニメ。「魔神英雄伝ワタル」の後番組であり、少年たちとロボと冒険といったモチーフや、参加スタッフにも共通点が多い作品だ。
今回はTVシリーズ放送から30周年を記念して、オールナイトでの上映&トークが行なわれた。上映前に開催された第一部のアニメータートークには神志那浩志さん、松下浩美さん、吉松孝博さん、第二部の脚本家トークには三井秀樹さん、山口亮太さんが出演。さらにサプライズの主題歌ライブには鈴木けんじさんが登場し、同作オープニングテーマ「光の戦士たち」を披露した。
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第一部アニメータートーク
第一部には神志那浩志さん、松下浩美さん、吉松孝博さんが出演。神志那さんは30周年に向けて描き下ろした「グランゾート」のイラストについて「久々に描くと似ないなと思いました。私の師匠の芦田豊雄さん(「ワタル」や「グランゾート」のキャラクターデザインを担当した伝説的アニメーター。2011年逝去)の頃から、設定資料と違う絵を描くのがスタジオライブの伝統なんです。どう設定表を壊そうか、どう芝居をさせるかばかり考えていました」と語ると、吉松さんも「芦田さんは常々、設定はあくまで設計図だから、育っていくものだと言っていました。自分もキャラクターが成長すると顔も変わると言い訳しながら、好きに描いてます」と返していた。
「魔動王グランゾート」当時、神志那さんと、松下さんはそれぞれ作画チームを持っていた。当時の制作体制について、松下さんは「当時は3~4人で原画を回していたので、誰のどこを直せばいいかもわかっていました」と語った。神志那さん、松下さんによれば、芦田さんは1話だけ絵を見て、それを基本線に好きなように描かせるスタイルだったとのこと。
そして、当時神志那班に所属していたのが吉松さんだ。後に「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」「スレイヤーズ」キャラクターデザインや、サムシング吉松名義での活動などでブレイクする吉松さんが、初めて作画監督を担当したのが「グランゾート」最終話だった。初作画監督が最終話だったことについて吉松さんは「ずっと『グランゾート』の現場でやり続けてたので、あまり最終話とかは意識せず、はい、やりますって感じでした」と語っていた。
描きやすいキャラ、難しいキャラという話題では、「大地の髪型は難しい」と3人が声を揃えた。一方描きやすいキャラについては「描いてて楽しいのはラビ。デザインが優れてるんだと思います(吉松さん)」「ラビはライバルとしてきちんと記号化されてるんです(神志那さん)」「描いてて面白いのはガスです、性格がいいので。敵のアグラマントが描きやすかったです(松下さん)」。
「魔動王グランゾート」から受けた影響について、神志那さんが「ゲストキャラクターデザインを各話でさせてもらったんですが、ゲストキャラのデザインは芦田さんがチェックしてくれるので、後の基礎になりました」と語ると、吉松さんは「芦田豊雄キャラクターデザイン塾のような感じで、たとえばデザインに困ったらまず顔を伸ばしたり縮めたりしてみなさいとか、いろいろなノウハウを学びました。自分がキャラクターデザインをする時、芦田さんならどうするかということは折にふれて考えます」と語っていた。
作画に関してはクリエイターに任せる方針だった芦田さんだが、キャラクターデザインについてはこだわりを持ってチェックしていたとのこと。松下さんはシャマンをデザインする時、「かっこいい敵を描いてと言われてなよっとした美形を持っていったんですが、かっこいいのイメージが違ったようで全ボツをくらいました」とエピソードを紹介していた。
まとめのトークで松下さんが「グランゾートはとにかくメカが大変で、ワタルの方が描きやすかった」と話すと、吉松さんは「ワタル(のロボが)描きやすかったんですか!?」と驚いた様子。そんな吉松さんは「当時スタッフを和ませようと、(遊びの)漫画を毎日描いてたんですよ。それを覚えていてくれたアニメージュが『サイバーフォーミュラ』で漫画を描ける人を探している時に紹介してくれたんです。僕のサムシング吉松人生はそこから始まったので、とても思い入れが深い作品です」とエピソードを明かした。神志那さんは「僕は少年が3人で旅するグランゾートが好きなんです。1話は今見ても時間を忘れるぐらい詰まった作品だと思います」と語っていた。
サプライズライブ「光の戦士たち」
一部と二部の間には、主題歌アーティストの鈴木けんじさんによるサプライズライブが行なわれた。軽やかな足取りでステージに登った鈴木さんはオープニングテーマ「光の戦士たち」を熱唱。会場の熱い反応に「全員がグランゾートを知ってる空間、いいですね!」と笑顔を見せた。鈴木さんは30年前、「光の戦士たち」でデビュー。歌い終えた鈴木さんは「30年たって歌うと思わなかったけど、今聴いてもかっこいいですね。僕は作曲したタケカワユキヒデさんの大ファンだったんですが、コロムビアの人にアニソンオーディションを勧められて受かったら、歌うのがタケカワさんの曲で驚きました。タケカワさんの家で歌唱指導してもらったりもしたんです」と思い出を振り返った。さらに鈴木さんは、「タケカワさんが仮歌をいれたデモテープはまったく違う詞で、ラブソングだったんです」とエピソードを披露。鈴木さんはなんとこの場で「光の戦士たち」の没バージョン、タケカワユキヒデさんが作詞を手掛けたラブソングバージョンをアカペラの甘い歌声で披露してくれた。原曲では「グランゾート!」とかっこよく締める最後のフレーズが「love you…」だったのには驚かされた。鈴木さんは「グランゾートは僕の人生を変えてくれた魔動力です」と力強くライブを締めくくった。
第二部脚本家トーク
第二部の脚本家トークには三井秀樹さん、山口亮太さんが出演して、脚本に関するトークを繰り広げた。今回サプライズで三井さんが連れて来た山口亮太さんは、「ドキドキ!プリキュア」や「美少女戦士セーラームーンセーラースターズ」シリーズ構成などで知られる脚本家だが、「魔動王グランゾート」に名前はクレジットされていない。しかし実は山口さんがサンライズで制作進行をしていた頃、脚本家として「比賀静夢」名義でデビューしたのが「魔動王グランゾート」第33話「この花はオレンダ」だった。サンライズの社員の仮名だから比賀静夢=ひがしずむ、というわけだ。
山口さんは「当時、私は『グランゾート』の制作進行をしていたんです。私の机がたまたまサンライズの会議室の前にあって、そこから漏れ聞こえる脚本会議の話がとても面白かったので、試しに書いてみたら採用されたのが第33話の「この花はオレンダ」でした。そんなことをしてくる人間はいなかったから、井内さん(井内秀治。本作の監督で、2016年逝去)が面白がってくれたんじゃないかと思っています」と明かす。三井さんは「当時初号試写の時、撮影所に行く車の運転手をしていたのが山口さんでした。それがいつのまにかそんなことになっていた」と当時の驚きを話していた。それが山口亮太さん20歳の頃のエピソードで、「魔神英雄伝ワタル2」までは制作進行として働き続けていたというから驚きだ。
山口さんから「グランゾートの必殺技の名前を考えたのは三井さん」というエピソードが紹介されると、三井さんは「最初、グランゾートは“アゾート”という名前で、“グランゾート”は剣の名前だったんです。グランゾートがロボの名前になって技名に使えなくなったので、一刀両断エルディカイザーを書いたらそのまま採用されたんです」と必殺技誕生の裏話を語っていた。
当時書いたエピソードで印象に残っている話数というテーマでは、三井さんは第11話「肝試しってコワイ!」をあげ、「ラビが単に嫌なやつじゃないことが描けたのがよかった」と振り返った。山口さんも「話が書きやすかったのはラビで、話が勝手に転がるんです」。三井さんは「難しかったのは大地とグランゾートの関係性で、ワタルと龍神丸の時のやりとりとどう差別化するかで悩みました。主人公は優等生になるので、やりにくいことが多いんですよ」と語っていた。
締めのトークでは「グランゾート」について、三井さんが「感謝しかないですね。脚本家になりたくてがんばってきて、はじめてのレギュラー作品でした。嬉しくて必死で書いたものをこうやっていまだに喜んで見に来てくれる、本当に感謝しかないです。7スタ(サンライズ第7スタジオ)に通った日々が昨日のことのようです。今日は比賀静夢さんの正体をお伝えしましたが、話したいことはたくさんあります。これからもいろいろなことを楽しんでいきましょう!」、山口さんが「30年たってもいまだに作品を愛してくださって、皆さんの心に残っているのが魔動力だと思います。今日集まってもらって、監督の井内も喜んでいると思います。今日は上映を楽しんでください」と語っていた。
その後上映は午前5時頃まで続き、「サンライズフェスティバル2019風月」の最後を締めくくるにふさわしい盛り上がりを見せたのだった。現在、YouTubeのサンライズ公式チャンネルではアニメ「魔動王グランゾート」全話配信を期間限定で順次無料配信しているので、ぜひチェックしてみてほしい。また、放送開始30周年スペシャル企画として、「魔神英雄伝ワタル&魔動王グランゾート展」が11月22日~12月15日、西武渋谷店モヴィーダ館7階スペースJにて開催予定だ。
(取材・文/中里キリ)
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