アニソンダンスバトル「A-POP」というものをご存じだろうか? DJがランダムにかけるアニメソングに合わせて、ダンサー同士が1対1のダンスバトルを繰り広げるという、日本独自のダンスバトルのことだ。その「A-POP」最強のダンサーを決定する全国大会「アキバ×ストリート6」JAPAN FINALが、2019年10月4日、東京・新宿BLAZEにて開催された。
ストリートダンスシーンでは、音楽に合わせてダンサー同士がおのおののスキルやパフォーマンスを披露しあい、頂点を目指すというダンスバトル文化がある。近年は、とりわけ「ニコニコ動画」をはじめとする動画投稿サイトの隆盛により、「踊ってみた」動画に代表されるように、オタクカルチャーとダンスカルチャーが急接近している例は数多くみられる。
そんな中、アニソンでダンスパフォーマンスをするパイオニア的存在「RAB(リアルアキバボーイズ)」がプロデュースするA-POP(アニソンダンスバトル)の全国大会「アキバ×ストリート」が誕生。2015年1月の初回を皮切りに、これまでに5回開催。そして2019年10月4日(金)に、第6回大会「アキバ×ストリート6」が開催された。
今回は、東京予選、名古屋予選、大阪予選、福岡予選、北海道予選、そして都内で開催された前日予選で勝ち登ってきた7人のダンサー(地方予選より各1名、前日予選より2名)に加え、前回「アキバ×ストリート5」優勝者のネスさんが参戦。
そのほか、ダンスチームによる集団戦・クルーバトル大会、ゲストアーティストによるライブ、ゲストダンスショーケースなど、RABメンバーのけいたんさん&DJ・ダンサーのざかるとさんの司会のもと、とにかくもりだくさんな内容となった。
多彩なチームカラーで楽しませるクルーバトル
まずはダンスチーム同士、思い思いのパフォーマンスを披露するクルーバトルからイベントはスタート。
ここではエントリーした10チームがフロアでパフォーマンスする予選が行われ、ここで勝ち残った4チームが、後に開催される決勝の時にステージに上がることができる。
アニソンにあわせてストリートダンスをバチっと決める王道スタイルなチームだけでなく、ジャグリングを取り入れたエンタメ重視なチーム、複数のダンサーによるミュージカルのように派手なパフォーマンスで魅せるチームなど、どこもオリジナルのカラーを打ち出し、演者も観客も心から楽しんでいる様子がうかがえる。
そのいっぽうで、バチバチと火花を散らすシーンもあったりして、一瞬ハラハラさせられたりもするが、演技が終わるとノーサイドで抱き合ったり握手したりと実にさわやか!
それにしても驚きなのが、ダンサーたちのアニソンに対する造詣の深さと理解度。そしてそれを瞬時にパフォーマンスに取り入れる現場対応力の高さ。ランダムにアニソンが流れる、ということで段取りの打ち合わせなどほぼできていないだろう。しかし、音楽が流れると即座にリズムに合わせて(言葉通り)躍り出て、時には歌詞やアニメをモチーフにしたパフォーマンスで会場を沸かせる。またそのアニソンを歌う声優の、ライブ時の振り付けを取り入れるダンサーもいたりして、その辺のオタクよりもずっとディープ。かと思えば、いろいろな現場で物議をかもす「イェッタイガー!」をぶちこんでフロアを盛り上げるダンサーもいたりして、言うなればオタク文化のるつぼだ。ありとあらゆるオタク文脈が、ダンスを軸にごった煮になっている感覚。このカオス感は初めて体験するものだが、正直に言って「楽しい」。
審査員としてステージからバトルの様子を観覧していたi☆Risのメンバー、澁谷梓希さんが、口をポカーンと開けて目を丸くしていたのが印象的だった。
個人的には「女子高生の無駄遣い」のOPテーマ「輪!Moon!dass!cry!」が持つ、ダンスとの親和性が発見だった。もともとヒップホップ的なノリのあるアニソンだったが、ダンスと融合することで、ここまで楽しくなるとは……。「A-POP」の楽しみ方が、少しだがわかってきたような気がする。
ガチンコダンス勝負が展開するソロバトル!
全10チームのバトルが終わり、ジャッジタイムに。その間はDJシーザーさんをはじめとするアニソンDJによるダンスタイムに。ここでは大会参加者も一般の観客も入り乱れて、ダンスに興じている。こういういい意味での、雑なノリは、これまたストリートカルチャーらしくて刺激的だ。
続いてソロバトルがスタート。(ここからは、当日のガチンコな雰囲気を再現するため、敬称略で出演者の名前を記載させていただく)
のびた(東京予選)VS. ネス(前回チャンピオン)、Nico the NATURAL(前日予選)VS. SALT(福岡予選)、HIDE(名古屋予選)VS. Mar’c(前日予選)、UK(北海道予選) VS. Ko-Key(大阪予選)の4バトルが繰り広げられる。
どこかお祭り感のあったクルーバトルから一転。こちらは1対1の真剣勝負。クルーバトルに参戦していたダンサーも少なくはないが、明らかに目つきや醸し出している雰囲気が違う。対戦相手をあおるように挑発的なダンスを踊る者、フロアを沸かせようとする者、自分の世界を黙々と作り上げようとする者、時間ギリギリまで使って己のスキルを存分にアピールする者……、それぞれのスタイルで「A-POP」が体現されていく。
ここで勝ち残ったのは、ネス、Nico the NATURAL、HIDE、UKの4名。引き続きこの顔ぶれで、優勝を競い合うことになる。
「SHiNNOSUKE(ROOKiEZ is PUNK’D)×GORI&SHU(Macaroni&Cheese_ex.BACK-ON) Special Band Set」「二人目のジャイアン」といったバンドのゲストライブや、ダンスチーム「はむつんサーブCREW」、「TOKYO FOOTWORKZ」、「筋肉定食」によるショーケースを挟んで行われた準決勝では、ネスVS. Nico the NATURAL、HIDE VS. UKの2バトルが行われる。(個人的には本当にマッチョな「筋肉定食」メンバーによる、「ダンベル何キロ持てる?」EDテーマ「マッチョアネーム?」でのダンスパフォーマンスが最高だった!)
いずれもさすがのハイレベルな戦いとなったが、特に印象に残ったのがHIDEとUKのバトルだ。力強いパフォーマンスのHIDEと、ともすれば女性的なしなやかさを感じさせるUK。それぞれ異なる持ち味の2人が、バチバチとぶつかりあうステージにフロアも熱狂。
勝利の栄冠はUKの頭上に輝いたが、HIDEの熱いマイクパフォーマンスにも盛大な拍手が巻き起こった。
決勝戦では、ネスVS. UKのバトルとなる。
またイベントも後半に突入、というところでクルーバトルの決勝戦が行われた。10チームのうち、ステージに進出できたのは4チーム。第1試合はあしくび~ずVS. APOPLOCKERS、第2試合はたかまり戦隊ハイランダー VS. 戦闘民族となった。
ここで決勝進出を決めたのは、APOPLOCKERSと戦闘民族。
両頂上決戦は、LINE LIVEでも配信されることになる。
熱いドラマに誰もが泣いた! ソロバトル決勝戦
開演から実に6時間ほどが経過した夜19時30分。1万3000人もの視聴者が見守る中、LINE LIVE配信がスタート。MAD KID、Machicoさんによるライブパフォーマンスが会場を温めたところで、ついに決勝戦がスタートした。
まずはクルーバトルから。正直言って、あまりにもハイレベルすぎるチームプレーに感動するやら爆笑するやら。突き詰めたスキルが生み出すエンターテインメント空間に、観客も審査員も、そしてダンスを披露する本人たちも心から楽しそう。
のびた所属するAPOPLOCKERSの一糸乱れぬチームワークも見ごたえあったが、HIDEが所属する戦闘民族による圧倒的なフィジカルを生かした豪快なステージングのほうが一枚上手だったということか。戦闘民族が優勝を獲得した。
そしてこの日最後のプログラムは、ソロバトル決勝戦。クルーバトルとは打って変わって、一触即発のムードの中でネスとUKが激突する。
この両者は、実は「アキバ×ストリート5」の前日予選で一度対戦している。その際はネスが勝利。また「アキバ×ストリート4」にてUKはファイナリストに残りながらも、惜しくも準優勝に終わっている。今回の戦いは、UKにとっては2つの大会に対するリベンジマッチとなる。受けて立つネスも、UKをライバルと認めたうえで勝負に臨む。因縁の2人のバトルに、おのずと会場の熱も急上昇。この日一番の盛り上がりの中で、「ようこそ実力至上主義の教室へ」OPテーマ「カーストルーム」からバトルが幕を開けた。(この曲冒頭は、ダンスシーンに親和性の高いアシッドジャズテイストなサウンドなのがポイント!)
まるで機械のように正確かつ緻密な動きで圧倒するネスに対し、全身を大きく使ったダイナミックなダンスで食らいつくUK。まさにA-POPに参加するダンサーの両極に位置するお互いのパフォーマンスは、決勝にふさわしいクオリティ!
司会のざかるとも、いつしか言葉を発することを止めていたのが印象的だ。何物も介入できないレベルのバトルは、どちらが勝ってもおかしくはない内容だったように思う。しかし結果は、ネスの優勝。今後、RABメンバー加入も決定しているということで、その肩書きに恥じぬ結果となったのではないだろうか。
優勝コメントを求められたネスは、「今回ファイナリストとして上がってくる8人、みんなリスペクトしている」と語るいっぽう、RABメンバーに対しては「皆さん、……かかってこいよ!」と挑発するひと幕も。そんな鼻っ柱の強いニューフェイスの言葉を受けて、RABメンバーの涼宮あつきさんは「(RABの夢である)武道館ワンマンライブをネスとできたら、俺らも絶対A-POPバトルに出るよ! 僕らも夢をかなえたら、もう一度みんなとゼロから挑戦します」と宣言。
さまざまなドラマと感動と興奮をもたらした「アキバ×ストリート6」は、次のドラマを予感させつつフィナーレを迎えた。
近年、ますます増えてきているA-POPシーン。かつては本流のHip-hopダンサーたちからは白眼視されていたそうだが、「アキバ×ストリート6」は今や多くの若い世代が参加する一大ムーブメントへと成長しつつあることを実感させられるイベントだった。
少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度イベントに参加し、現場の熱量を体験していただきたい!