世界最大級のアニメソングの祭典「Animelo Summer Live 2019 -Story-」DAY1が、2019年8月30日、さいたまスーパーアリーナにて開催された。
9月に食いこむ若干変則的な日程となった3DAYSの初日には、i☆Ris、石原夏織さん、オーイシマサヨシさん、鈴木このみさん、スフィア、fhana、三森すずこさん、ReoNaさん、Roselia、伊藤美来さん、佐咲紗花さん、渕上 舞さん、逢田梨香子さん、中島 愛さん、アニメロサマープリンセス from 「プリンセスコネクト! Re:Dive」、鈴木雅之さん、けものフレンズ、氷川きよしさん、サプライズゲストとして「アイドルマスター」より765プロアイドル・如月千早さん(こと今井麻美さん)が出演した。
ライブオープニングはけものフレンズと、i☆RiSphereのフレンズ(i☆Ris&スフィア)が一緒になっての「ようこそジャパリパークへ」で絢爛豪華にスタート。ステージの各所で、様々な組み合わせの出演者たちがわちゃわちゃと盛り上がる中、スクリーンにオーイシマサヨシお兄さんが大写しになると大歓声が起こる。さらに「乗ってけ!ジャパリビート」ではトキのフレンズとして、金田朋子さんがフレンズ姿で乱入。テンションが上がって奇声を上げる金田さんをオーイシお兄さんが連れ去るなど、どったんばったん大騒ぎを繰り広げた。
初日の大きな目玉は氷川きよしさん、鈴木雅之さんという注目度満点の大物アーティストのアニサマ参戦だ。演歌の貴公子のイメージが強い氷川さんだが、今年はラメラメでシースルーのセクシー衣装で観客の度肝を抜くと「限界突破×サバイバー」を熱唱。「優しいね、みんな好き」とアニサマのファンのあたたかさに感謝を伝えた。さらにTVアニメ「北斗の拳2」オープニングテーマ「TOUGH BOY」のカバーに挑戦。時に妖艶に時にさわやかに、きよし流のオリジナルな表現に昇華させていた。
鈴木雅之さんは今年でデビュー39年! シンガーとして長い歴史を積み重ねてきたビッグネームだが、TVアニメの主題歌を担当するのは「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」オープニング主題歌「ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花」が初めて。いわば還暦を超えたアニソン界の大型新人というわけだ。鈴木さんは声優ユニット・スフィアをコーラスシンガーズのように従えてステージに登場すると、4人と一緒に「ラブ・ドラマティック」を披露。「今夜はアニソン界の先輩であるクイーンたちとコラボにきました」と宣言すると、今度はラブソングの帝王・鈴木雅之としてソロ名義の「違う、そうじゃない」、ラッツ&スター時代の代表曲「め組のひと」を熱唱したのだった。
もうひとつ、コラボで印象的だったのが「バンドリ!」発のガールズバンドRoseliaと鈴木このみさんによる「This game」。つい先日、バンド史上最大の野外ライブを成功させたRoseliaだが、この夏に向けて彼女たちが演奏を仕上げたカバー曲が鈴木さんの「This game」だった。スモークの中、志崎樺音さんが奏でるイントロの独奏が会場の期待感を高めると、ステージにオリジナルアーティスト・鈴木このみさんが登場。鈴木さん・相羽あいなさんのツインボーカルを響かせた。声優自身が演奏を務めるバンドユニットが腕を磨いたカバー曲で、オリジナルアーティストと並び立って共演する姿はフェスならではの楽しさだった。
その逆パターンがfhānaの「きみは帰る場所」だった。この曲は「けものフレンズ2」から生まれたユニットGothic×Luckに、fhānaの佐藤純一さんが提供(作曲)した楽曲。その曲をfhānaがカバーするという試みで、Gothic×Luckの2人も衣装姿でステージに参加。2人にとっても、アニサマという大舞台でtowanaさんと一緒に歌うのは得難い経験になったのではないだろうか。
そのほか、2019年の初日は女性アーティストがズラリと並んだ。様々なユニット活動を経てソロとしてアニサマ初参戦を果たした石原夏織さん、個人名義デビュー10年を迎えた中島愛さん、8年ぶりにアニサマのステージへと帰ってきて、自身の原点のひとつである「ガルパン」沼に一人でも多くのファンを連れて帰ると宣言した佐咲紗花さん、そんな彼女の元に、同じ作品にルーツを持つ声優として駆けつけた渕上舞さん……と、それぞれの“STORY”を感じさせるアーティストが多かったように思う。
そんなアーティスト陣の要となったのが、前半のトリを担当した三森すずこさんと、全体のトリを飾ったスフィアだ。三森さんはユニット活動も含めれば、アニサマに10回連続、10回目の出演となる。三森さんはオーイシマサヨシさん、石原夏織さん、芹澤優さんと大坪由佳さん、渕上 舞さんといったアーティスト陣とコラボしながら自身の歴代楽曲を披露。様々なカラーのアーティストたちを自分の世界に巻きこんでいくエンターテイメントとしての強度、最後をソロの「会いたいよ…会いたいよ!」で締めくくる存在感と安定感は、三森さんならではだった。
そして、スフィアもまた、今年で10周年。オープニングをけものフレンズと共に飾り、鈴木雅之さんのステージをダンスとコーラスで彩り、フィナーレはスーパー声優ユニットとして締めくくるという八面六臂の活躍を見せた。スフィアはMCで結成10周年を迎えたことや、高垣さんが結婚したことを報告。本人たちのパフォーマンスでは今のスフィアの最新のすごさを見せつけるものだったが、スクリーンではスフィア歴代のアニサマ出演映像を映し出したり、ステージの転換時のBGMにさらっと彼女たちのデビュー曲の旋律を織りこんだりと、彼女たちの“物語”を感じさせる演出があった。
セットリストの流れに物語が見える、濃密なアニサマ初日だった。
765プロダクション・如月千早さんの一曲限りのサプライズステージについては別項で詳述する。
如月千早の“STORY”
今年のアニサマDAY1サプライズゲストは、アイドル・如月千早さん(演じるのは、もちろん今井麻美さん)とピアニート公爵だった。“如月千早”は「アイドルマスター」シリーズに登場するアイドルであり、歌を歌うことを愛するストイックな少女だ。そんな彼女を形作るピースとして欠かせない半身と言ってもいいほどの、最初のスペシャルワンたる楽曲が「蒼い鳥」だ。口数が多いわけではない少女が、歌と、あなたへの焦がれる想いを歌声に乗せる。歌いたい。届けたい。表現者としての“如月千早”の存在のすべてを込めた慟哭の歌。
「蒼い鳥」の正式な初出は2005年にさかのぼる。ゲームセンター、という文化がまだ華やかだった時代のことだ。AC版「アイドルマスター」(通称、アケマス)は、ナムコ(現、バンダイナムコエンターテインメント)が2005年にリリースしたアーケード専用ゲームだ。企画立案はさらに早く、全盛期のモーニング娘。が着想のヒントだと言えば時代感が少し、伝わるだろうか。
プレイヤーはゲームセンターでアイドルをプロデュースして、オーディションでは全国のゲームセンターのプレイヤー=プロデューサーとリアルタイムで(!!)通信対戦を行なう。育てたアイドルのデータはリライタブルカードに記録され、メインスクリーンでは全国のプレイヤーがプロデュースするアイドルのライブが上映される。プロデュースをサボっていると(サボっていなくても)、担当アイドルからケータイにメールが飛んできてゲームセンターに呼び出される。文章にするとゾッとするほどの先進性だが、時代の中にいる人間には案外、そのことがわからないものだ。
今や数々のタイトルがリリースされ、拡散し、細分化された「アイマス」音楽の世界だが、2005年、彼女たちが生を受けたその頃はもう少しシンプルだった。プロデューサーたちの元にやってきたのは「765プロダクション」に所属する9人(10人)のアイドルと、両手で数えられる楽曲たち。ゲームサウンドにかけてはプロフェッショナルであるコンポーザーたちが、アイドルソングとは一体何か、を手探りしながら作り上げた、変で、やみつきになる歌の数々だ。後に、動画サイト「ニコニコ動画」の世界からアイマスを新しい光で照らし出すことになる「エージェント夜を往く」や、時代を超えるアンセム「THE IDOLM@STER」もまた、そのオリジナル曲に含まれる。初期「アイドルマスター」の曲は、なんだかヘンで、とっても魅力的な曲が多いのである。
そして、それら最初期楽曲の中でも極めつけの個性のひとつが、“如月千早”の持ち歌という属性を与えられたスローで壮大なバラード「蒼い鳥」だった。作曲は、若き日の椎名豪さんが手がけた。アイドルゲームで、壮大なバラードって、ありなのだろうか。さらにゆったりした「9:02pm」も存在しているのに。ものすごく歌唱力が必要なこの曲を、新人声優たちは歌えるのだろうか。アイドルゲームの曲って、こんなにふんだんに生の楽器を使ってゴージャスにレコーディングするものなのだろうか。作詞は、森由里子さんが手掛けた。アイドルゲームって、中森明菜さんをはじめとする伝説のアイドルたちにも詞を提供しているレジェンド作詞家を、起用するものなのだろうか。誰も知らなかったし、止めなかった。
そしてその自由さがこそが、「アイドルマスター」という作品の音楽の可能性を拡張し、“如月千早”という個性を形作っていったのである。それは、アニサマという場が生まれ落ちるよりもさらに前からあった、歴史の中の物語だ。
だからこそ、アニサマという舞台を目指す彼女の旅路は困難な挑戦となった。アニサマの観客はあたたかい。世界一かもしれない。だが、初日のステージに“如月千早”が立つことは、公には事前公表されていないサプライズだった。何より、14年の歴史を持つアイマス最古の楽曲である。会場にはきっと、彼女のことも、「蒼い鳥」のことも知らない観客もまた、たくさんいたはずだ。積み重ねた“story”を共有しない若いアニソンファンたちに、その歌声がどう響くのか。そこに、“如月千早”は宿るのか。
ピアノの旋律が流れる。個人的に「蒼い鳥」には、ライブで、特にフェスで歌うにはあまり向かないトラップが存在すると考えている。そのひとつはBPMの罠だ。アーケード版「アイドルマスター」のオリジナル「蒼い鳥」をはじめて聴くと、テンポが早く感じる人がとても多いと思う。実際に少し、早い。今となっては想像するしかないが、イントロも長大で壮大なバラードを尺が限られた「ゲームサイズ」に落としこむという作業と、そのテンポは無縁ではないように思う。あまたの作品とステージの中で作りあげられた2019年の“如月千早”のイメージなら、もう少し、ゆっくり歌う姿をイメージする人がほとんどなはずだ。
そして、ただがむしゃらに歌にくらいつけば良かったあの頃と、今、彼女が歌に込めたいと願うはずの想いと表現は、情報量の桁が違う。だから、生演奏は絶対の条件だったのではないかと思う。単なるテンポ調整に留まらない、歌い手の表現に寄り添う生きた演奏は、2019年の成熟した、芳醇なアニソンの世界だからこそ用意できる冴えた処方箋だ。ピアニート公爵はニコニコ動画で、ピアノ独奏で素晴らしい技巧の「蒼い鳥」を演奏する動画を投稿し、100万アクセスを記録している。この大舞台に申し分ないパートナーと言えるだろう。
ステージに、今井麻美さん……いや“如月千早”があらわれる。会場に灯った青の光がさざ波のように広がり、あっという間に空間そのものを蒼に染め上げていく。きっと試されているのは演者の側だけではない。アーティストへのリスペクトを積み重ねてきたアニサマという巨大な生き物もまた、想いを込めた真摯な表現と歴史にどう向き合うのかを問われていたのではないだろうか。
ゆったりした旋律に合わせて、左右の青の海を見渡すよう眺める彼女の心をよぎったものはなんだったのか。ステージには白いスモークがあふれ、雲海のような幻想的な空間を演出する。かすかに張りつめた、心地よい緊張が漂う会場に、歌姫の歌声がこだましていく。ピアノと歌声というふたつの楽器以外の音が存在しない空間に、心地よい音楽が響く。M@STER VERSION、フルサイズの二番に突入すると、スクリーンにはTVアニメ「アイドルマスター」より、彼女が765プロの仲間たち、信頼する人と過ごしている姿が映し出された。
それは、孤独な歌姫の心象の変化の象徴だったのかもしれない。仲間と共に歩むことを知った彼女の歌声に、客席のサイリウムの動きさえも静まっていく。高く伸びる歌声がすっと収束すると、一瞬の心地よい沈黙を経て、公爵が奏でる美しく情熱的なカデンツァへと音が連なっていく。落ちサビの歌唱に入らんとする彼女が決意と共に鋭く吸い込んだ微かな息の音が、期待と静寂で満ちたアリーナいっぱいに響いた時、彼女の全霊の表現が、アニサマという場所と人の心に確かに届いたことを確信した。
歌い終えた歌姫は深々と、本当に深々と頭を下げた。
それは、きっと10分にも満たないはずの、永くて短いうたかたの時間だった。
夢と現の境界のふしぎな世界で。
如月千早が、「蒼い鳥」を歌った。
(取材・文/中里キリ)
●Animelo Summer Live 2019 -STORY- DAY01
2019.08.30.さいたまスーパーアリーナ セットリスト
M01:ようこそジャパリパークへ(けものフレンズ×i☆RiSphere)
M02:乗ってけ!ジャパリビート~け・も・の・だ・も・の(けものフレンズ with オーイシマサヨシ)
M03:Shocking Blue(伊藤美来)
M04:閃きハートビート(伊藤美来 feat. 佐藤純一(fhana))
M05:Ray Rule(石原夏織)
M06:TEMPEST(石原夏織)
M07:Grand symphony(佐咲紗花)
M08:あんこう音頭~High-Flying Future!!(佐咲紗花)
M09:Enter Enter MISSION!(佐咲紗花×渕上 舞)
M10:BLACK CAT(渕上 舞)
M11:Lost Princess(アニメロサマープリンセス from 「プリンセスコネクト! Re:Dive」)
M12:Connecting Happy!!(アニメロサマープリンセス from 「プリンセスコネクト! Re:Dive」)
M13:限界突破×サバイバー(氷川きよし)
M14:TOUGH BOY(氷川きよし)
M15:TRY UNITE!(中島 愛×石原夏織)
M16:ORDINARY LOVE(逢田梨香子)
M17:蒼い鳥(M@STER VERSION)(如月千早 feat. ピアニート公爵)
M18:グローリー!(三森すずこ×オーイシマサヨシ)
M19:ファッとして桃源郷(三森すずこ×石原夏織)
M20:ドキドキトキドキトキメキス▽(芹澤優▽→三森すずこ←▽大坪由佳)
M21:ユニバーページ(三森すずこ×渕上 舞)
M22:会いたいよ…会いたいよ!(三森すずこ)
-休憩-
M23:楽園都市(オーイシマサヨシ)
M24:オトモダチフィルム(オーイシマサヨシ×オーハシアヤカ)
M25:forget-me-not(ReoNa)
M26:虹の彼方に(ReoNa)
M27:幻想曲WONDERLAND(i☆Ris)
M28:Endless Notes(i☆Ris)
M29:アルティメット☆MAGIC(i☆Ris)
M30:ワタシノセカイ(中島 愛)
M31:Bitter Sweet Harmony(中島 愛)
M32:ラブ・ドラマティック(鈴木雅之 feat. スフィア)
M33:違う、そうじゃない~め組のひと(鈴木雅之 feat. スフィア)
M34:LOUDER~BLACK SHOUT(Roselia)
M35:BRAVE JEWEL(Roselia)
M36:This game(Roselia feat. KONOMI SUZUKI)
M37:真理の鏡、剣乃ように(鈴木このみ)
M38:蒼の彼方(鈴木このみ)
M39:DAYS of DASH(鈴木このみ)
M40:divine intervention(fhana)
M41:青空のラプソディ(fhana with あにさまフレンズ)
M42:きみは帰る場所(fhana feat. Gothic×Luck)
M43:僕を見つけて(fhana)
M44:MOON SIGNAL(スフィア)
M45:Music Power→!!!!(スフィア)
M46:Now loading…SKY!!(スフィア)
M47:LET・ME・DO!!(スフィア)
M48:CROSSING STORIES(アニサマ2019出演アーティスト)