オススメは“月花雪風”! Switch「ファイアーエムブレム風花雪月」を徹底レビュー(後編)

196時間53分というプレー時間は、これからもゲームと生きる私にとって杵柄になるに違いない。

クリアするのに100時間近く、あるいはそれ以上かかったタイトルにいくつか心当たりはあるが、200時間ともなると、さすがにない。やり込みを含まず本編をただ遊ぶだけであればなおさらである。

8月6日に本レビューの前半記事を投稿した後、黒鷲・金鹿の学級編をクリア。今回はそれを踏まえたうえで、前半で書ききれなかった第2部のレビューをしたい。なお、前半を執筆した時点で青獅子の学級編はクリア済みだ。本作の購入を迷っている人は、記事の前後編を合わせて、ぜひ参考にしてほしい。

戦争と、大人になった教え子たち

プレイヤーがどの学級を選んだかで、第2部は、蒼月の章(青獅子の学級編)、紅花の章と銀雪の章(どちらも黒鷲の学級編。展開次第で物語が分岐する)、翠風の章(金鹿の学級編)に分かれていく。第2部の舞台は第1部の5年後。そうなれば当然──。

みんな大人になっているのだ。十代の成長は、タイムラプス動画で再生される植物の生長過程のようなもので、あっという間だ。第1部で自分が育てた少年少女たちが立派になり、だが5年前と同じく「先生」と言われた時は、不覚にもほろりときた。シャミアやカトリーヌなど、セイロス教団関係者がまったく変わらぬ姿のまま出てきたのは少し残念だったが、まったく変わらぬ彼らと比較することで生徒の成長をより実感できた一面もあったので、今思えば結果オーライである。

Aランク以上の支援会話は、多くが第2部以降に解禁される。Bランク以下で出てきた話題に対する生徒たちの答えが随所に盛り込まれており、戦乱の世で生きる彼らの新たな一面を見ることができた。支援会話のテキストはキャラクターの性格や信条、過去といった内面が色濃く反映されており、非常に読みごたえがある。第2部の戦争は正義同士の衝突であり、その中で語られるエピソードの多くにも絶対的な答えはなく、私も主人公として、教師として、生徒たちの言葉に考えさせられることも多々あった。

”ジェイガン枠”のいない良質なバランスと、偏重が目立つ最上級職

”ジェイガン枠”というのは俗語で、「ファイアーエムブレム」シリーズに登場した同名のキャラクターにちなみ、シリーズ作品における師匠的立場の人物を指す。ゲーム開始時点から上級職であり、序盤こそ圧倒的な力を振るうが、成長率が悪く、徐々にほかの仲間に性能面で追いつかれてしまう。中盤や終盤にもなれば、主力メンバーから落ちてしまいがちだ。

本作には、そのジェイガン枠がいないのである。主人公の父・ジェラルトがやや近いが、性能的に見ても申し分ない(友軍扱いなのでこちらからは操作不可。参戦するタイミングも限られるが、難易度ハードでも活躍してくれる)。仲間として加入するシャミアやカトリーヌ、アロイスなども初期から上級職だが、パラメーターは低めに設定されており、その分成長率は高めだ。中級職の状態で加入するハンネマンやマヌエラといった教師陣も同様で、スカウトできる面々はみな最後まで戦力になってくれる。

とくにカトリーヌは、自分から仕掛けた際に必ず2回攻撃が可能な武器・雷霆(らいてい)を持っているほか、速さに優れるソードマスターであることも相まって、敵によっては4連続攻撃を行うことも。回避率も高いので味方の盾としても活躍でき、主人公の立場を脅かしかねない強さだった。

一兵卒も侮れない。一部のマップでは増援として兵士が出てくるが、彼らも非常に強力。第2部で発生する戦闘、“ガルグ=マク籠城戦”に出てきた味方はいずれも上級職で、放っておくとプレイヤーより先に敵を倒しかねない勢いだった。主人公たちを目立たせるため味方の兵士を弱くするという表現はゲーム以外の作品でもよく見られるが、本作では教団が抱える精鋭や正規軍の強さがしっかり描かれている。

「ファイアーエムブレム」シリーズは代々、国家間の戦争を描いてきた。しかし、主要人物たちを重点的に描写することが大半で、どうしても“英雄たちによる無双”という印象が強かった。そこで本作では、“騎士団”システムを導入。マップ上での戦闘でも大軍同士の戦いが細かく表現され、先述の味方の強さもあいまって、戦記物としての厚みがこれ以上ないほどに増している。

一方で、最上級職には、少し思うところもある。最上級職の資格試験は、レベルが30を超え、かつ最上級試験パスを消費すると受けられるようになる。最上級試験パスは第1部では手に入らないため、たどり着けるのは第2部以降になる。

最上級職の兵種は全部で9種あり、そのうち近接武器と魔法を兼ねる兵種は、エピタフ、ダークナイト、ホーリーナイト。ボウナイトは騎馬と弓を、グレートナイトは騎馬と重装を兼ねている。要は、使い勝手のよさを重視したタイプが多いのだ。ひとつの性能に特化しているのは、ウォーマスター(力重視)とグレモリィ(魔法重視)くらいで、ソードマスターやフォートレスといった一部上級職には対応する最上級職が存在せず、頭打ちになってしまう。最上級職は、上級職の上位版というよりも “上級職その2”といった印象が強い。本作では、個人が一度就いた兵種は後々いつでも付け替えられるため、就かせておくことに損はない。ないが、メンバーのあいだで役割分担をする以上、一芸に秀でた兵種のほうが、長短所がはっきりしている分動かしやすい。私の場合、主力メンバーのうち最上級職に就かせたのは半分ほどだった。

第2部を踏まえてどう物語を進めていくべきか


各章で明らかになる情報は断片的で、すべてを知ろうとすれば、自ずと学級を3つとも担当することになる。ではどういった順番で進めるのがいいか。196時間53分で私が出した答えは、蒼の章→紅の章→銀の章→翠の章だ。”風花雪月”ではなく、”月花雪風”。つまり、青獅子の学級→黒鷲の学級→金鹿の学級の順になる。

本作の第2部のストーリーは、大まかにふたつの流れを持っている。ひとつは国家間による戦争の過程。もうひとつが、フォドラやセイロス教に関する謎の解明である。蒼月の章と紅花の章は前者で、銀雪の章と翠風の章は後者が軸になってくる。ネタバレになるので詳細は書けないが、とりわけ翠風の章の最終節における戦いの盛り上がりは、戦闘自体のシチュエーションも、物語の展開的にも、最高だ。本作の4つの物語のうちどれか一つを正史とするならば、私は翠風の章を選ぶ。もちろん自分の好きなように遊んでいただくのがベストだが、もし特にこだわりがないのであれば、私のオススメ通りに進めてみてほしい。きっと、本作の世界観をより堪能できるはずだ。

ちなみに青獅子の学級は、本作から初めて「ファイアーエムブレム」に触れるという人にうってつけと言える。というのも、前衛向けのユニットが多いことから防御面に優れ、後方にいる仲間を守りやすい。安定して戦えるのだ。難易度ノーマルであれば、自由行動の”出撃”でフリーマップの戦闘に好きなだけ挑めるので、レベル上げをしつつプレーすれば、スムーズに物語を進められるはず。

教師として生徒たちを教え導き、かつての級友たちと戦争で刃を交える。学校生活を中心に描く第1部と戦争を軸に展開する第2部が、演出・システム面で巧みに噛み合い、「ファイアーエムブレム 風花雪月」という作品の完成度を体現している。ひとまず物語をすべてクリアした私だが、伏線を踏まえたうえで、もう一度各学級をやり直し中だ。生徒のスカウトや、彼らに就かせる兵種の吟味、他学級の生徒同士による支援会話の確認など、やりたいこともまだまだ残っている。196時間53分では足りない。手に取る人を惹き込む“魅力の紋章”が、この傑作には宿っているのだ。

(文・夏無内好)