TVアニメ「BEM」の音楽を担当するのは、最先端のジャズを奏で、ワールドワイドな活動を展開する、SOIL & “PIMP” SESSIONS。そんな彼らが奏でるグルーヴ感たっぷりのクラブジャズから、ムードあふれる正統派のジャズまで、多彩な曲が詰まったサウンドトラックアルバム「OUTSIDE」が、2019年8月28日にリリースされた。
彼らは、「BEM」の世界にどうやってアプローチしていったのか? 社長(Agitator)とタブゾンビ(Trumpet)の2人に、バンドを代表して語ってもらった!
「妖怪」アニメの音楽は、ずっとやりたいと思っていました
── SOIL & “PIMP” SESSIONSは、以前もアニメのお仕事をされているんですね。
タブゾンビ 「ミチコとハッチン」のオープニングテーマで「Paraiso」という曲を作りました。山本(沙代)監督が僕らを指名してくださったんです。基本的に僕らはアニメが好きですから、うれしかったですね。
── 「ミチコとハッチン」は、2008年から翌年にかけて放送されたTVアニメです。
社長 「ミチコとハッチン」は海外でも人気のアニメみたいで、いろいろな国のファンの人からのリアクションが今でもあるんですよ。だから、最近のような気がしていたんですけど、もう、ひと昔前なんですね。
タブゾンビ アニメとはずっと関わりたいと思っていて、「ゲゲゲの鬼太郎」のオープニングを狙っていたんです(笑)。そうしたら、別の妖怪モノの仕事をいただけました。妖怪モノができてよかったです。
── 「BEM」の音楽を担当することになったのは、どういう経緯だったんですか?
タブゾンビ 今回もありがたいことにご指名でした。SOILに音楽をやってほしいと。
社長 聞くところによると、「BEM」の企画書を見たFlyingDogのディレクターが、「この作品の音楽は、SOILしかない」と感じて、アニメ制作側に話を持っていってくれたらしいです。
タブゾンビ ありがたい(笑)。
── 映像作品のサウンドトラックを手掛けるのも、今回が初ではないですよね。
社長 サウンドトラックの仕事は、いくつかやってますね。アニメだとFROGMANの「菅井君と家族石」の映画版とか、WOWOWの時代劇「ふたがしら」、地上波の「ハロー張りネズミ」とドラマもやりました。
タブゾンビ だから、サウンドトラックは、ちょちょいのちょいです(笑)。
社長 いや、難しいよ、サウンドトラックは(笑)。何作もやってきて、我々にも少しずつノウハウが蓄積されてきたという感じです。
── 「BEM」のサウンドトラックには、どのようにして手をつけていったんですか?
社長 まずは作品の説明があったんですけど、往年の「妖怪人間ベム」のリメイクで、物語の舞台のイメージは、ニューヨークです、と。驚きましたね。でも、その設定で音楽を作るなら、面白いものになるんじゃないかと思いました。
タブゾンビ しかも現代のニューヨークではなく、80年代の頃をイメージしていると言われて。つまり、今よりもちょっと危険な香りが漂っていた頃なんです。
社長 ヒップホップのルーツを感じさせるビートが入っている曲もあるんですが、それは作品の雰囲気からインスピレーションを得てのことでした。
タブゾンビ でも、サウンド的には80年代の雰囲気だけじゃなく、今のジャズの感じや、さらに未来のイメージも入っています。
社長 音楽的には、むしろ今っぽいサウンドトラックになったと思います。イメージソースが80年代のニューヨークということで、そこからは我々の解釈で曲を作っていきました。
── 具体的には、音響監督が作った音楽メニューに沿って、楽曲を作っていくわけですよね?
社長 そうですね。こういうシーンにつける、こんな曲が欲しいという文章のオーダーをいただいて。それから、SOILの過去のこの曲みたいな感じとか、ほかのアーティストのこの曲みたいな感じとか、サンプルを提示されたものもありました。そういったオーダーを我々なりに解釈して、「こんな曲はどうですか?」と提出したのが、今回のサウンドトラックです。
── CDには12曲収録されていますが、ほとんどの曲が3~4分あって、シーンのための短い曲ではなく、楽曲として成立しているものばかりでした。
タブゾンビ そういうオーダーだったんです。起承転結をつけて、ちゃんと曲として完結させてほしいと。
社長 1曲の中でいろいろな展開を見せていくことが、シーンに合わせるにあたっても重要な要素だったんじゃないかなと思います。結果的に、いわゆるジャズのアルバムとして聴けるサウンドトラックCDになりました。
── 作曲は、どなたが担当しているんですか?
社長 ウチはメンバー全員、作曲ができるんです。それで、メニューの中から、これ作りたいと思ったものをそれぞれのメンバーが選んで作ってくるという形になりました。場合によっては、2人が同じメニューの曲を作ってくることもあったんですけど、そういうときは、どちらか1曲を選んで、もう1曲はほかの類似したメニューに振り分けたりしました。
タブゾンビ たとえば、社長がトラックを作ってきて、こんなイメージでトランペットを吹いてほしいと言われて、僕がそこに音を重ねていくとか、そういう作り方です。ビアノ以外は全部作っておいて、あえてピアニストには事前に聴かせず、スタジオのブースで初めて聴く曲にアドリブを入れてもらったり。
社長 ウチには、天才ピアニストがいるので。
── たとえば、タブゾンビさんがトランペットやフルートを吹くとき、楽譜が用意されて、その通りに吹いたということではなく?
タブゾンビ 楽譜はないですね。社長なら社長が作ってきたトラックを聴いて、「あ、思いついた」と思ったら、とっさにブースに入って演奏するんです。思いついた瞬間を捕らえないと、別のフレーズになっちゃうので。
社長 それで「後はよろしく」と言われて、こっちで曲をブラッシュアップしていくという(笑)。
タブゾンビ ドラムとベースは事前に決めておいて、トランペット、ピアノ、サックスという上もの(メロディ)が自分の想像力で、即興的に曲を発展させて作っていくというパターンが多かったですね。基本的には、曲を作ってきた人の指示に従って、ほかのメンバーが演奏していきました。
── 楽器は、今あげていただいたものがすべてですか?
タブゾンビ あとはフルートですね。僕が吹きました。
社長 サックスはサポートメンバーの栗さん(栗原健)が吹いてくれました。生音だけでなく、打ち込みのビートを使っている曲もあります。