2019年のブシロードは「鶴翼の陣」で勝負! 「バンドリ!」「スタァライト」から宣伝戦略まで──ブシロードの仕掛け人・木谷高明スペシャルインタビュー

声優自身がバンドを組む 「バンドリ!」、舞台とアニメで同じキャストが演じる「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」といったオリジナルコンテンツの着想を次々と形にし、ビッグプロジェクトに育て上げてきたのが株式会社ブシロードであり、同社の創業者である木谷高明氏だ。木谷氏は現在のトレーディングカードゲーム業界、そしてコンテンツの街としての秋葉原を作り出すうえで重要な役割を果たした立志伝中の人物だ。

2007年5月の創業当時はトレーディングカードゲームカンパニーの色が強かったブシロードだが、2012年には新日本プロレスリングをグループ会社化して世間を驚かせた。その後、新日本プロレスが再生し、今世紀最高の繁栄をしていることは説明するまでもないだろう。

 

そして2017年10月、木谷氏は株式会社ブシロードの社長職を退任して、いち取締役として現場で陣頭指揮を取る宣言をした。現在の肩書はブシロード取締役デジタルコンテンツ部本部長、広報宣伝部部長、そしてブシロードミュージック代表取締役社長となる。

 

トップから最前線に出た木谷氏がコンテンツ業界を今どう見ているのか、そしてみずからベースアイデアを出した「バンドリ!」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」といったコンテンツのこれまでとこれからについて、年の終わりにたっぷりと語ってもらった。

 

──木谷さんがブシロードの社長職を退任して、現場で陣頭指揮を取る宣言をされた時は驚きました。「木谷社長」のイメージが強いファンが多いと思いますが、今はなんとお呼びするのが正解なんでしょうか。

 

木谷 社内では会長と呼ぶ人間が多いですが、商法上の意味はまったくありません(笑)。対外的な取引先だとブシロードミュージックの社長として、社長と呼ぶ人もいますね。一般的には、木谷さん、木谷Pで構わないかなと思います。その人の好きに呼んでください。

 

──わかりました、では今日は木谷さんでお願いします。現場に出ることを宣言されて1年強、2018年の春にはシンガポールから日本に拠点を移されています。一連の流れの意図と、実際に現場で感じたことを伺えるでしょうか。

 

木谷 実は、その前からやっていることはあまり変わっていないんですよ。変わったのが何かといえば、関わる作品と現場の数が増えました。社長業から離れて、会社を管理する作業が手から離れて、日本に帰ってきてからは海外展開も直接担当していませんので、より多くの現場に関わるようになったというのが現状です。

 

──「現場を見る」の具体的な内容ですが、どんなことをされてるんでしょうか。

 

木谷 それはコンテンツによって違いますね。これから展開していくコンテンツに関しては、コンセプトを出し、どういったパートナーと組んでいくかから考えます。企画原案から、コンテンツを本格的に作りこむ手前ぐらいまでに関わることが多いです。動き始めたコンテンツに関しては、常にチェックはしますが、結構現場に任せてしまいますね。もうひとつ重点的に関わるのは、コンテンツのリリースタイミングの時です。アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の放送中の3か月は、毎日のように宣伝会議をやっていました。週1の宣伝会議とは別に、毎朝「スタァライト」チームの人間を集めて話すんです。プレスリリース流そう、一挙配信をやろう、リツイートキャンペーンやろうといったレベルの話からしています。

 

──公開できる中で、現在注力しているタイトルはどのあたりですか?

 

木谷 今はスマホアプリの「少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-(スタリラ)」も無事リリースされましたので、2019年1月に始まるアニメ「バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~」と、来年リリース予定のスマホアプリ「カードファイト!! ヴァンガードZERO」の準備に力を入れています。「ヴァンガードZERO」に関してはお待たせしているのですが、それだけ成功させたい気持ちが強いです。

 

──基本プレイ無料という文化が根強いスマホアプリの世界で、従来のTCGのやり方との間でどう落としどころを見つけるか、デジタルカードゲームはなかなかハンドリングが難しい印象です。

 

木谷 非常に難しいですね。あとは難易度設定にしても、真ん中あたりに設定すると「難しすぎる」という声と「物足りない」という声が両方来るんですね。オンラインTCGの場合はよりライトユーザーが入りやすいので、二分化しやすいんです。今アナログTCGには、まったくカードゲームの知識がない新規ユーザーというのはあまり多くないので、これはデジタル特有の悩みですね。だからターゲットを広く取るためには、キャラクターコンテンツとしての魅力をどれだけ高めていけるのかが重要だと今は考えています。カードが「強いから欲しい」だけでなく「好きだから欲しい」に持っていければと思うのですが。

 

いい企画に企画書はいらない

──新しい企画はどういう形で出すんですか?

 

木谷 それも作品によりますが、まずはベースになるお題、テーマを自分から出すことが多いですね。お題や企画はシンプルです。いい企画って、企画書がいらないんですよ。口頭で、こういうコンセプトでこういうことがやりたいんですよ、と説明して相手が「いいですね!」と食いついてくれる企画じゃないと成功しません。

 

──直近の「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の出発点の企画はどんな感じだったのでしょうか。

 

木谷 「スタァライト」の企画立ち上げが2015年だったので、まだ「バンドリ!」が成功する前でした。バンドの次は舞台だよということで、ネルケプランニングの松田誠さんと話しました。コンセプトとしては、ネルケさんがよくやっている2.5次元舞台とは逆のことをやりましょうということですね。原作のアニメやゲームを舞台化する場合、どうしても原作コンテンツによる縛りがいろいろとできますよね。だから最初に舞台をやる形なら、監督もシナリオライターも演者ものびのびと表現ができるんじゃないかと思ったんです。やりたかったことのひとつとしては、男性ファン向けの舞台を成功させたいということです。舞台を見に行くという文化が女性ファンの間に根付いているいっぽう、男性ファン向けの2.5次元舞台というのはなかなかヒットしにくかったので。ただ逆に言えば、今まであまり舞台を見る習慣がなかった男性ファンの心をつかんで突破することができれば、大きなマーケットがあるのではないか、大きな作品が作れるんじゃないかと思ったんです。

 

──男性ファンをターゲットにする、ということで攻め方の違いはあったんでしょうか。

 

木谷 舞台版キャストとアニメ版キャストを完全に一致させるということですね。メインの9人は必ず一致させる。「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」が、男性ファンが舞台を見るきっかけになってくれればと思います。

 

──そういう意味では、舞台「少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-#2 Transition」で行なった男性限定公演、女性限定公演は画期的でした。

 

木谷 僕も当然見に行けないわけですが、女性限定公演の黄色い歓声は本当にすごかったようです。実験の意味もあったのですが、舞台物の場合、全公演を通しで見ることを目的にされる方が結構いて、ユニークユーザーが思ったよりも伸びないんです。なので申し訳ないんですが女性も男性も見られない日を作ることで、少しでも広い層の数多くのお客さんに見てもらう機会が作れればなと思いました。結果としては女性限定公演の需要が圧倒的でしたね。だから男性向けを意識して立ち上げたコンテンツなんですが、女性が演じて女性が黄色い歓声を送る舞台というものを2.5次元の世界で作り出せたのは、嬉しい副産物でした。

 

──アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のスタッフワークや作品の方向性的に、企画協力におっどあいくりえいてぃぶの古里尚丈プロデューサーがいる影響が結構あるのかなと思うのですが、木谷さんから声をかけた感じでしょうか。

 

木谷 そうですね、私が声をかけて、作品のかなり初期から関わってもらっています。彼は宝塚歌劇団がすごく好きなので、それもあってですね。

 

──舞台少女たちがセンターポジションを賭けて戦う特異な世界観はアイデアにあったのでしょうか。

 

木谷 それは原作チームから出てきたものですね。「スタァライト」は結構企画内容が変遷してるんですよ。変わらない軸としてあるのは舞台が先にあってキャストが共通であること、舞台をテーマにした作品であること、ですね。脚本会議には軽く挨拶するぐらいでした。

 

──「バンドリ!」や「スタァライト」の制作過程を取材していると、企画を立ち上げてコアメンバーを揃えるところまでを木谷さんが先頭に立ってぐいぐい牽引して、走り始めたあとは制作チームを信頼して自由に動いてもらっている印象がすごくあります。そのあたりどのように考えているでしょうか。

 

木谷 それは、僕は原案作るのが好きだけど原作を作るのは得意じゃないという、気質の部分が大きいと思います。めんどくさがりやなんですよ。あとは営業と宣伝が好きなんですね。

 

街中を埋め尽くすブシロードコンテンツの宣伝戦略

──宣伝では、今は当たり前の風景になった山手線のラッピング広告など、常に新しいことをしかけ続けている印象です。

 

木谷 アニメの「BanG Dream! 2nd Season」が2019年1月3日の23時にスタートするんですが、前日2日の23時半から24時間TOKYO MXをジャックするんですよ。アニメの第1期やライブ映像を見せたりも含めて、オールバンドリ!です。YouTube Liveでもリアルタイム配信予定です。1話の本放送のあとはTOKYO MXで毎日1話を再放送予定です。

 

──大攻勢ですね。アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の時は、YouTube広告でほかの動画を見ようとすると、「スタァライト」の第1話が(CM動画として)丸々スタートするしかけはかなり驚きました。

 

木谷 あれは初めてのやり方だったかもしれませんね。結構そのまま最後まで見てくれる人がいるんですよ。アニメを見てもらうことも大変な時代なので、こちらからいろいろとしかけていく必要があると思っています。

 

──山手線のラッピング広告も今は日常の光景になってきて、最初の頃ほどSNSで大きくバズる効果は望めないのでは。

 

木谷 そうですね、ただまだ効き目はあるというか、費用対効果はいいと感じています。宣伝の具体的な効果は測定できるものではないので、感覚的なことになってしまいますが。

 

──山手線のラッピングトレイン、秋葉原駅の広告ジャックなど、ブシロードのしかける広告は非常に大規模で、宣伝広告費もかなりすごいのでは。

 

木谷 かなり使っているのは間違いないです。うちは大きな会社ではないので、そういうところでも勝負していかないと戦えないので。あとは、コンテンツの数が多いことの副産物なんですが、たとえば大きな新規タイトルを出すからこの期間ここに広告を出したい、と決め打ちで宣伝しようとするとかなりのコストがかかるんですね。ですが近々のこのタイミングであれば価格を抑えられる、というような枠があった場合、とりあえず押さえれば何かしら有効に使えるコンテンツがあるんです。常に広告を打ち続けているからこそ抑えられるコストもあるので、外から見た印象ほどは使っていないと思います。そのあたりは、宣伝などを作品ごとの縦割りでやっている会社だとできないことですね。

 

──今、スマホアプリは大規模化が進んでいて、特にリズムゲームの世界は「アイドルマスター」系と「ラブライブ!」系があまりにも強すぎて、新規タイトルは苦戦しがちです。そんな中、「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(以下、ガルパ)は唯一、2強の間に割って入った印象なのですが、何故それが実現できたのだと思いますか?

 

木谷 まずはゲームの出来のよさ、キャラクターのよさです。もうひとつ大きかったのはやはりキャストによるリアルバンドとしての活動で差別化できたことだと思います。それがほかにはない要素だった。宣伝広告的なことでいえば、アニメ「バンドリ!」第1期の時もいろいろな施策をやったので、第1話放送の時点でかなりの知名度はあったんですよ。それで世間やファンの皆さんの反応を見ながら、放送中の早い時点でプロモーションのメインを全てゲームに振ったんですね。いかに「ガルパ」のCMの効果を最大化するかということで、細かなところまで全て自分で指示しました。そして、「ガルパ」の知名度を上げながら(2017年)2月5日を待ったんです。

 

──TOKYO DOME CITY HALLで行なわれた「BanG Dream! 3rd☆LIVE Sparklin’ PARTY 2017!」ですね。

 

木谷 作品の注目度が高まっているタイミングでPoppin’Partyがライブを見せて、日本武道館ライブをぶち上げて、そしてRoseliaがステージに登場する。あそこで潮目が変わったと思いますね。大きく盛り上がってくれた。あと実は、アニメ「バンドリ!」が放送された2017年1月~3月よりも、4月~6月の再放送のほうが放送量が多いんです。スマホアプリはサービスインして2か月ぐらいの時期に勢いを落とさないことが大事なので、そこにアニメ再放送を重ねたのは大きかったと思います。もちろん、リツイートキャンペーンなどもその時期に集中してやりました。バンド、舞台と続けてやって感じたのは、舞台は実際に見てもらわないと伝わらないことですね。1時間以上の尺の舞台を通してみてもらって初めてよさがわかる。ライブは1曲5分間の映像でもしっかり見せられるので、同じような施策でも「バンドリ!」は反応がいい。YouTube時代とバンドが相性が良かったんだと思います。

 

Roseliaのキャスト交代の内幕で考えたことと経緯

──木谷さんが「ドラマを求めている」と発言され物議を醸していましたが、これってプロレスファンならしっくり来る話だと思うんです。望む望まざるに関わらず、リングの上と下での全ての出来事を流れに取りこんで、ダイナミズムに変えていく。

 

木谷 これは相当叩かれました。ファンの皆さんのお気持ちは理解できます。ご気分を害された方には本当に申し訳なく思っています。リアルとファンタジーがごちゃまぜになって、全部を物語に取り込んで進行するというのはプロレス的な感覚ですね。遠藤ゆりかさんが5月に引退することが決まって、それは「バンドリ!」プロジェクトとしては本当に残念でしたが、こちらとしては最後まで全力で、最大に盛り上げる以外にできることはないので。それでやったのが5月の「BanG Dream! 5th☆LIVE. Day2:Roselia -Ewigkeit-」でした。

 

──最後まで笑顔でかっこよくあり続けた遠藤さんの姿も含めて、本当に素晴らしいライブだったと思います。そのステージ上で今井リサ役を引き継いだのが中島由貴さんでした。中島さんはどのようにリサ役に決まったのでしょうか。

 

木谷 中島さんは本当に偶然見つかったんですよ。ある方の偲ぶ会があった時に、中島さんのマネージャーさんが参加していたんです。雑談でうちにこういう子もいるのでよろしくお願いします、みたいな話をしている中でベースも弾けるという話があって、え、ベース弾けるんですか?と。遠藤さんの後任って、本当に大変だと思うんですよ。あれだけの美人でリサというキャラクターのイメージにぴったりで、声優としての技術もないといけない。だから実際にスタジオで中島由貴さんに会わせていただいたのですが、あれだけかわいらしくてベースの経験もあって、という方に出会えた巡り合わせには本当に胸をなでおろしました。

 

──その意味では続いてキャスト交代になった白金燐子役の明坂聡美さんも、本当に代わりがきかない人材だったと思います。こちらはオーディションが行なわれました。

 

木谷 これも本当に残念で、かつ代わりがきく人がいるのだろうか? という感じでした。そこで今回は広くオーディションを行うことにしました。Roseliaはビジュアルイメージを大事にしたバンドなので、声優としてバンドをやるうえに、Roseliaと燐子に合う人を探すのは本当に難題でした。選考にあたってまず重視したのは、演奏です。演技に関しては、本人のがんばりであとから伸ばすことができる。9月にカルッツかわさきでやった「Roselia Fan Meeting 2018」で新メンバーを発表すると思っていた方が多いと思うんですが、あの日は明坂さんを送り出す日だったのと、Roseliaの相羽あいなさんたちから4人でもステージに立ちたい、ライブをやりたいという強い要望があったので、急遽11月の平日に「Roselia Live Vier」を開催して志崎樺音さんのお披露目を、そして12月の両国国技館にRoseliaがオープニングアクトとして参加して志崎さんが本格的にライブ参加という流れにしました。いきなり単独ライブをやるより、曲数の限られた場から経験していくのが負担も少ないと思ったんです。

 

──相羽さんが客席のRaychellさんを呼びこんでの両国国技館参戦表明は、本当にプロレスのマイクアピールっぽかったです。

 

木谷 彼女はそういうのが似合うじゃないですか。相羽さんとRaychellさんが「魂のルフラン」を一緒に歌う演出を聞いて素晴らしいと思ったんですが、Raychellさんはスタッフが誘導するという話だったので、それじゃ駄目だと。KNOCK OUT(キックボクシング興行)の控室前にいる強面の黒人を引き連れていこうと提案しました。本番はいい感じになったと思いますが、黒人の2人にはサングラスかけさせないと駄目じゃないかと、後で言いました(笑)。そして12月の国技館2DAYSを経て、2月の日本武道館3DAYSへとつなげていく流れです。

 

──年明け1月28日には、日本武道館でミルキィホームズのファイナルライブも予定されています。

 

木谷 ミルキィホームズという作品とユニットで得たものが、いろいろなところに広がっていって今のブシロードがあると思っているので、ブシロードにいろいろなものをもたらしてくれた大切な存在ですね。惜しいのは、スマホ時代であれば「ミルキィホームズ」の作品性や展開は変わっていたと思うんです。後に二度スマホゲーム化をして、それはうまくいかなかったんですが、最初からプロジェクトにスマホゲームを織りこむことができていたら違ったやり方ができたと思います。ミルキィ始動後に本格的なスマホの時代が来た、そういうタイミングは運の部分も大きいのですが。キャラクターを前面に出したライブを継続的に行なう声優ユニットというのはミルキィホームズが初めてだったと思いますし、そこで経験したことが「バンドリ!」、そして「スタァライト」といった作品のすべてに生きていると思います。

 

新たなるチャレンジ「DJ」と、2019年のコンテンツ業界での戦い方

──そして本記事公開の前日、2018年12月30日には、「ブシロード DJ LIVE」という新しい試みがスタートします。声優・アーティストによるDJというコンセプトや着想について聞かせてください。

 

木谷 アニソンクラブ、DJ文化というものがバンドよりさらに裾野が広く、可能性があるジャンルだと思いました。思いついたのは、2017年のF1 シンガポールGPでザ・チェインスモーカーズのライブを見た時です。その時肩に、次はDJだという着想が降りてきました。

 

──「バンドリ!」や「スタァライト」の例を見ると、アニメやゲームコンテンツとの連動もあるのかな、と思うのですが。

 

木谷 そういったこともできたらいいなと思っていますが、まずは今回のライブは実験ですね。実際にやってみないとどんなイベントになるのかわからない部分もあるので。発想としては、DJってひとりでやるイメージが強いけど、DJやっている人、あおる人、歌う人のように、いろいろなことをやるユニットがあってもいいじゃないということです。そういうゆるやかなユニット構成であれば、今回は全員揃いました、次は2人参加です、でもステージが成立するし違った見せ方もできる。そういうユニットが複数同じイベントに集えば面白いことができるんじゃないかという、アイデアのテストケースが12月30日のライブなんです。

 

──楽しみにしています。最後に、2019年のコンテンツ業界の展望と、その中でブシロードがどう世の中を面白くしていくか、を教えてください。

 

木谷 2019年のコンテンツ業界は、中国・韓国のアプリケーションゲームがさらに押し寄せる年になると思います。その中で、国内勢の新規コンテンツはあまり元気がない。その違いが何かと言えば、やはり中韓のコンテンツメーカーは今、必死ですよ。決死の覚悟で来る。

 

──それは中国本国でのコンテンツ規制が厳しくなっているから、ということでしょうか。

 

木谷 そうです。自国での展開が難しくなった企業が、その分の予算もかけて日本市場を奪りに来る。韓国は経済状況が悪い中、国によるバックアップを受けていますから。とにかく必死です。対する日本企業は斬新な企画が通らなくなって、何かの焼き直しばかりになっている。このままではもう一発中韓にやられる年になってしまうと思います。

 

──現場から遠い上層部や、出資者といったコンテンツに詳しくない決裁者に通りやすい企画と、世の中に新しい波を起こす可能性がある企画とが乖離してしまっている気がします。

 

木谷 そうなんです、コンテンツを知らない人に話を通そうとすると、前例がある企画に、著名なスタッフを集めるしかできないんですね。

 

──その世の中で、一番のアイデアマンである木谷さんが決裁者でもあり、フットワーク軽く動けるのがブシロードの最大の武器だし、海外からのコンテンツの波に対抗できるのはまさにそういう会社なんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

 

木谷 そこに関しては、Cygamesさんであったり、キャッシュをふんだんに持っているアニプレックスさんやガンホーさん、mixiさんといった企業もいくらでもやれる部分だと思います。その中ではやはり「FGO」や「マギアレコード」を持っているアニプレックスさんが強いと思っていて、魅力的なコンテンツ、アニメを柱に物量で勝負できるアニプレさんは、同業として怖い存在です。

 

──その中でのブシロードの戦略はどんなものになりますか。

 

木谷 コアな原作を作りながらいろんな会社さんと組むことで、翼を広げることですね。音楽もやれば、カードやガチャやプライズといったグッズも作る。出版も軌道に乗りつつあります。キャストの事務所も内に抱える。そうやってできることを増やして翼を広げる、いわば鶴翼の陣がうちの戦略になります。ゲームやアニメといったコンテンツを真ん中に置いて、イベント、ライブ、音楽、ガチャやプライズ、声優事務所、出版、そしてカードゲーム全てを包み込んで展開します。きっと他社にも自社内で完結する形をやりたい会社はたくさんあると思うのですが、それはすごく時間と手間がかかることでもあるので。うちもここ3年ぐらいは準備をしてきましたが、それがようやく実を結んで、間に合ったなという感じがあります。2019年のブシロードは、鶴翼の陣で勝負します。応援、よろしくお願いします。

 

 

(取材・文/中里キリ)