現在、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー中の劇場用アニメ「薄墨桜 -GARO-」(原作:雨宮慶太、監督:西村聡)。2015年10月~2016年4月に放送されたTVアニメ「牙狼 -紅蓮ノ月-」と同じ平安時代を舞台に、黄金騎士ガロの称号を受け継ぐ雷吼と魔戒法師・星明を中心とした新たな物語が描かれる。
本作には、ゲストキャラクターとして陰陽師の明羅(アキラ)が登場。その哀しくも儚い復讐劇が描かれる。彼女は一体何者なのか、何が目的なのか。そして桜の木に宿る火羅(ホラー)とは……!? ストーリーはもちろん、スクリーンいっぱいに描かれる大迫力のアクションシーンも魅力だ。
今回は脚本を手がけた小林靖子さんに制作秘話や作品の魅力、さらに脚本を書く際に意識していることも聞いた。
アクションシーンや陰陽師同士の戦いは見どころ
――映画「薄墨桜 -GARO-」はTVアニメ「牙狼 -紅蓮ノ月-」の続編という位置づけなのでしょうか?
小林靖子(以下、小林) 明確にTVアニメの続編とはせず、時系列的にどの位置なのか決めない作りにしました。なので、TVアニメの続編と思っていただいてもいいし、途中の物語だと思っていただいても大丈夫です。
――ストーリーは小林さんがゼロから作られたそうですが、最初に考えたイメージを教えて下さい。
小林 最初のイメージは“桜”しかありませんでした(笑)。“桜をモチーフにした平安の街が燃える話”というところから何となく作っていきました。
――火羅(ホラー)も小林さんが考えたのですか?
小林 火羅はみんなで考えました。桜火羅は最初からいたんですけど、“あの人物”の火羅を出すのは途中から出たアイディアです。
――その人物と明羅や時丸がどのような関わりなのかも気になります。
小林 そうですね。2人組というのは最初から考えていたんですけど、その関わりについても途中まで決まっていなかったんですよ(笑)。
――平安時代を舞台にした「牙狼<GARO>」ということで、特に気をつかったところはありますか?
小林 「雷吼たちのキャラを崩さないこと」と「平安らしさ」です。やはり、平安を舞台にした「牙狼<GARO>」でしかできないものじゃないと、やる意味がないですから。
――そういう意味で、小林さんが感じたTVアニメ「牙狼 -紅蓮ノ月-」の魅力を改めて教えて下さい。
小林 作品が持っている和風テイストを違和感なく入れ込めたところですね。雨宮さんが描く雰囲気に平安時代はすごく合っていると思います。雨宮さんは漢字をよく使われますけど、それもしっくり来ます。
――確かに、ビジュアルも設定も違和感がないです。
小林 組紐のような飾りなどもそうですよね。私が以前書いた「牙狼<GARO>-炎の刻印-」は和テイストが全くなかったので、それと比べると平安時代はすごく合っているなと思いました。
――では逆に、舞台やテイストが違っても変わらないと感じるものは?
小林 黄金騎士のメンタルは(シリーズを通して)変わらないと思います。ただ、「炎の刻印」ではまだ成長しきっていない黄金騎士が描かれたので、むしろ少し異なっていた感覚はありますね。そういう意味では、今回の雷吼はまさしく黄金騎士だなと。
――完成した映像を観た感想をお聞かせください。
小林 アクションシーンが本当にすごいです。やっぱりアクションが盛り上がる作品はいいですよね。それから、本作は女陰陽師同士の戦いなので、そこもぜひ見てほしいなと思いました。
――女陰陽師同士の戦いやアクションシーンのすごさはトレーラームービーでも感じていただけると思います。言える範囲で教えていただきたいのですが、明羅たちはどのようになっていくのでしょうか?
小林 平安時代だからこそ成り立つ因果があって、それが全て明羅に集約されています。彼女が何を背負って、どう関わっていくのか注目してください。
――「牙狼<GARO>」はもともと特撮作品ですが、アニメ版だからこその見どころは?
小林 実写でもCGを使ってすごいことをやっているんですけど、やっぱり平安の京の都を桜火羅が行く巨大さなどのロケーションはアニメじゃないとできないと思うんです。魔導馬を走らせるところもアニメならではですね。
――桜火羅はスクリーンで観たらすごい迫力ですよね。
小林 すごいです! しかも、モチーフは美しい桜だからピンク色。色は美しいけど禍々しいんですよ(笑)。
せめて自分が面白いと思えるものにしたい
――明羅たちを生み出す際に苦労した部分はありますか?
小林 明羅の設定として“陰陽師”“復讐のため”というのは決まっていたので、それを物語にどう絡めていくかで苦労しました。ドラマとして盛り上げるために展開を変更したところもありますし、キャラクターを立たせるにはどうしたらいいかはみんなで悩んだところです。
――キャラ立ちは重要ですからね。
小林 じっくり感じればいいキャラだとしてもキャッチーさがないとキャラ立ちしないんですよ。私が書くキャラはだいたいわかりづらいと言われるので(笑)、わかりやすさを付け加えるのが大変でした。
――わかりやすさとは?
小林 簡単に言うと“記号”がついていないんですよね。口調とか好きな食べものとか。それがないので、パッと見ではわかりづらいキャラクターなんです。
――では、明羅はどのようにキャラ立ちさせたのですか?
小林 ビジュアル頼みのところがありました。桂正和さんのデザインに西村監督の演出でキャラ立ちさせています。私はキャッチーさをいまひとつ付けられないので(苦笑)。せいぜい“陰陽師”というぐらいです。
あとはキャストさんのお芝居に助けられました。丁々発止のお芝居がすごくて、それによってキャラの深みが増していますのでぜひ聞いてほしいです。
――皆さん素晴らしい演技だと思うのですが、特に驚いた方はいますか?
小林 敢えて言うなら、時丸ですね。時丸を演じた東啓介さんは声優初挑戦らしいですけど、とてもしんどい役なのに素晴らしかったです。
――脚本を書いていく中で、面白かったキャラクターはいますか?
小林 面白かったのは検非違使ですね。脇役ではありますが、西村監督も気に入ってくださいました。彼は要所要所に出てきて、実直なところが逆に面白いんですよね。そういう脇のキャラクターまで西村監督がしっかり描いてくださっているので、平安の雰囲気が成り立っていると感じます。
――「牙狼<GARO>」シリーズ全体としての魅力についてもお聞かせください。
小林 もちろん雨宮さんの独特の世界観は魅力ですが、雨宮さんが「アニメは各監督たちの個性で、ご自由にどうぞ」と言うぐらい余裕のあるシリーズなのがすごいと思います。アニメだと西村監督や林祐一郎監督(劇場版「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」)、朴性厚監督(TVアニメ「牙狼〈GARO〉-VANISHING LINE-」)それぞれの世界観が成り立っているのが面白いところですね。
――西村監督の世界観は小林さんから見てどうですか?
小林 西村さんとは以前「トライガン」でご一緒していたので、「あの西村さんが牙狼?」と思いました(笑)。他の作品ではオドロオドロしいものもやっているんですが、私は「トライガン」のイメージが強かったので。正統派のいい部分は出しつつ平安の暗い部分も表現しているのは、さすがだなと思いました。
――小林さんはやっぱりダークな作品がお好きなのですか?
小林 いや、別にそういうわけではないですよ。明るい作品も好きですし、宮崎駿監督の作品も好きです(笑)。ただ、自分が書くとそうなっちゃうというか、たまたまピンチのシーンを書くとそうなっちゃうだけで……。
――本作もキャラクターがどうなってしまうか心配している人もいるのでは?
小林 いや~、おかしいですね(笑)。
――ところで小林さんは時代劇が大好きとのことですが、今回平安時代を舞台にするうえで苦労はされませんでしたか?
小林 平安時代は、ちょっと守備範囲外でしたね(笑)。平安の物語を時代劇とは言わないので。きちんとやろうとすると京の公家言葉にしないといけないし、街の人々も京の方言にしないといけないんですけど、「紅蓮ノ月」や本作は擬似平安のような感じなので助かりました(笑)。
――アクション作品を数多く書かれていますが、脚本の段階でアクションはどのぐらいイメージされているのですか?
小林 ライターが頭の中で作れるアクションってすごく狭くて、小さいものになっちゃうんですよ。セリフや展開の段取りなどはお伝えするように書きますが、そこからは監督さんなどが演出しています。例えば殺陣や手の動きひとつひとつを書くわけではないですから。ただ、その分の尺は取っておくようにします。
――本作に関わらず、脚本を書く上で大切にしていることを教えて下さい。
小林 あまりないんですよ。「いい加減なことをしないように」かな(笑)。でも、せめて自分が面白いと思えるものにしたい、自分がつまらないと思うものを出してはいけないとは考えています。いつも提出した瞬間に「あ~やっちゃった」と後悔ばかりしていますけどね(苦笑)。面白い面白くないは、目に見えるモノサシで測れないので難しいです。
――ということは、本作も書いていて面白かった?
小林 どうですかね。「このセリフができて良かった」と思うところはありますけど、やっぱり10年ぐらい経たないと素直には見られないです(笑)。その脚本を監督や出演者、現場の皆さんが素晴らしいものにしてくださったと思っています。
――最後に、TVアニメ「牙狼 -紅蓮ノ月-」を見ていなかった人でも、今回の劇場版は楽しめますよね?
小林 いけると思います。何しろ私も監督も初めて(平安時代の「牙狼<GARO>」に)参加しているぐらいですから(笑)。全然大丈夫だと思いますので、ぜひ何回も観て楽しんで欲しいです。
(取材・文/千葉研一)