「アイドル」としてスポットライトを浴びていた者が、何も知らない「声優」の現場に飛び込んだとき、何を感じるのか? 「アイドルからの声優道」第3回には、「仮面女子:アーマーガールズ」で3代目センターとして活躍する月野もあさんが登場。「幼稚園から9年間ピアノを習い、中学校ではフルート、高校からはずっとベースをやっていて、私にとっては音楽って原点なんですね」と語る彼女。日本語教師の有資格者であり、空手の有段者でもあるという彼女が最大の挫折を味わったのが声優への道だった。しかし、回り道を経ながらも「TO BE HERO」「TO BE HEROINE」での2度の主演を含め、少しずつ前進を始めた声優の道について月野もあさんが語ります。
アイドルはあくまで期間限定のバイト感覚で
──まずはアイドルになったきっかけから教えてください。
月野 私はもともとアイドルを目指していたわけではなく、アイドルのことも全然知らなかったんです。むしろ、声優になりたいと思っていたんですが、オーディションを受けてもダメだったので諦めていたところ、大学2年生のとき、生協で「Deview」(2015年2月までオリコン・エンタテインメントより発行されていた雑誌。ウェブ版「Deview」の前身)というオーディション雑誌をパラパラと開いたら、今の事務所が期間限定のイメージガールみたいなのを募集していたんです。卒業してから日本語教師になると決めていましたし、就活前の残りわずかな自由な期間でできることと思って親に黙って応募したんです。それがきっかけですね。
――では記念受験みたいな?
月野 そうなんです。当時、大学の軽音楽部に所属していて、ベースに専念していたので歌うことはなかったんですが、歌って踊って、ということもしてみたくて。
──歌は好きだったんですか?
月野 アニソンが大好きでした! でも、私のやりたい音楽は部活ではできなくて。それもあっての応募でした。
――バイトのような感覚ですね。
月野 ところが、いざ応募して話を聞いてみたらバイトとは違って、きちんと事務所に所属しないと活動できないことがわかったんです。でも、所属したら簡単にやめることはできないのでどうしようかと思ったんですが、仮面女子のライブを見学させてもらったら「すげーっ!」って思って(笑)。初めてアイドルライブを見たんですが、バンドをやっていたのでヘビーなサウンドとアイドルという組み合わせもすごく面白かったんですね。で、この事務所は学業との両立が可能ということだったので、お父さんと一緒にもう一度事務所に話をしに来て、「両立できるなら授業優先でもいい」と事務所に言ってもらえたので入ることに決めました。それなら教育実習しながらでもできますし。
──その段階ではいずれ教師に、という意識だったんですか?
月野 いえ、契約期間内はしっかりやろうという考えでした。辞める前提で入ったわけではないです。資格を取るのは「先生になる」ためではなく、親からも「ちゃんと卒業して資格をとってね」と言われていたので。アイドルをがんばるという心境になっていました。
──教師をまた目指そうかと思ったことは?
月野 全然なかったです。アイドルが忙しかったので。むしろ「実習が終わらないと寝れなくて死んじゃう」みたいな(笑)。
──では、アイドル活動が嫌になったこともなく?
月野 なかったです。やっぱりライブが好きだったんです。現場やお客さんが楽しそうで気持ちよくなるんですよ。
──「幸せ空間」みたいな?
月野 ですかね。バンドでも表現したいものをきちんと受け止めてくれたら嬉しいですが、ライブで涙を流してくれる人がごくたまにいたり、握手会で「本当に、今日がんばって来てよかった」みたいに言われたりすると、「ああ、この人の生きるパワーになってるんだ」と思えて嬉しくなります。「ライブしてよかったな」って。
アニソンを歌ったら盛り上がってくれたのが嬉しくて
──もともとは声優になりたかったということですが、目指した理由は?
月野 意外とつまらない理由なんですが、中学校の頃、カラオケへ行ってもモヤモヤしていたんですね。私は声が結構高いので歌える曲が限られているし、そんなにうまいわけでもないし。それでも歌うのは好きなんですが、中学生だとほかの子が歌っているときって曲を選んでいるじゃないですか。
――好きな曲を歌うのに一生懸命ですよね。
月野 そうなんです。でも、ニコニコ動画がはやっていた時期にみんなが知らないようなアニソンを歌ったら、キーが高いので私も歌いやすいし、友達にもすごくウケがよかったんですよ。それが嬉しくて。それまでアニメを見てはいなかったんですが、それからアニソンを調べるようになって、声優さんって職業を知って、声優さんが歌っている曲があることも知ったんですね。なのでアニソンが原点ですね。「ニコニコ動画流星群」や「組曲」といった曲から「アイマス」の曲や「ガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト」も知りました。
──では、「声優=演じる人」というよりも、歌もやる人みたいなイメージで?
月野 そうですね。幼稚園からずっと音楽をやってきて、私にとって音楽は「原点」なんです。それもあって最初は、アニソンというジャンルを歌う人、というイメージでした。
──最初に好きになったアニソンや声優は覚えていますか?
月野 アニソンは「ふわふわ時間」です。セリフも入っていて好きでした。そこから豊崎愛生さんが私の中で最初の理想! かわいい声を出す人!って感じでした。
──高校、大学と進むときに声優を目指そうとはしなかったんですか?
月野 親には真剣になりたいと思われていなかったので言い出せなかったんです。なので、好きなアニソンを練習したり、ネットで検索したら出てくるセリフ集を言ってみたり。あと、カラオケでアテレコでき機能があったのでひとりでやっていました。今思うと子供のお遊びみたいな感じですが、当時はそれくらいしか思いつかなかったんです。学校に行きながら……というのはよくないことだと思っていたので。オーディションに応募するのも親に半分隠れて出すくらいでした。
――受かったら嬉しいけど……みたいな?
月野 受かったらできる、みたいな。母親は、芸能界に入る人はスカウトされるという考えで、大手にスカウトされたらやってもいいよ、という感じだったんですよ。学校に行っても成功しないと思っているので、私がオーディションを受け始めたのも大学に入ってからでした。でも、オーディションに行くと周りは声優学校に行っている人ばかりで。劇団に入っているとか。実は、「Wake Up, Girls!」のオーディションでは一応最終候補までいったんです。集団面接にも臨みました。でも、素人は私しかいなくて、みんなは台本をもらったらすぐに壁に向かって発声練習を始めるんですね。そうしたらやっぱり落ちてしまって。ただ、「もう少しがんばればいけるかも」と思ったんです。そうしたら後日、エイベックスから新しい声優オーディションの誘いのメールが来たんです。そちらもファイナリストの7人までいったんですが、やっぱり落ちてしまって。2回ダメだったということで諦めてしまいました。で、さっきの話につながって、日本語教師になる前に何かやりたくてうちの事務所と出会ったんです。
――では「Wake Up, Girls!」を見ると……。
月野 「わー」ってなります(笑)。作品は見てますし好きなんですが。
アフレコの前と後に私だけの時間を作っていただいて
──声優デビューのきっかけというのは?
月野 ご縁からうちの事務所に「TO BE HERO」のお話が来たんです。以前から社長に「もあは何がやりたいの?」と聞かれるたび、「私は声優がやりたいです」としつこく言っていて。うちの事務所には声優の仕事をしている人はひとりもいないことをわかったうえで。それで社長から「やってみる?」と言われたとき、「もちろんやります!」と答えたのが声優人生の始まりですね。
──アイドルとして活動しているとき、声優に挑戦できるかもという考えはあったんですか?
月野 なかったです。みんながほかにやりたいこととして、モデルや女優やバラエティと答える中、私は「声優」と答える、という感じでした。
──あまり現実味はなく?
月野 そうですね。でも、嘘を言ってもしかたがないので。少しでもチャンスがあれば、という気持ちはありました。
──では「TO BE HERO」のヒロイン役に決まったときは?
月野 いやもう、びっくりですよ。だって地上波アニメの主演ですよ? だから本当に嬉しかったですし、絶対成功させようと思って必死でした。喉だけは潰さないよう練習を続けました。
──ただ、不安が大きかったんじゃないかと思うんですが。
月野 不安はありましたが、ここで成功しないと次はないと思ったので。
──演技の経験は?
月野 女優に向けてのレッスンは立派な先生に教えてもらっていましたが、声優のレッスンはなかったです。初めてレッスンを受けたのは「TO BE HERO」が決まってからでした。
──女優のレッスンを受けていたのは声優の活動も見越して?
月野 いえ、マルチに活躍したいという意識があったんです。何事も経験と思って、モデルやダンスのレッスンも受けていました。でも、アリスプロジェクトが「アリスフィルムコレクション」というショートフィルムの製作を開始する中で、何本か出演しましたが、「やっぱり女優と声優は別物だな」とすごく感じましたね。
──では「TO BE HERO」で最初にアフレコ現場に出たときの感想は?
月野 マネージャーを通じて声優業界はすっごく厳しいと聞いてたんです。現場にショートパンツで来る子はいないとか、清楚な格好をするもんだとか。あとドア係があると聞いていました。新人はドアの一番近くに座って開け閉めをするって。それから、一度悪いイメージがついたらすぐに広まって仕事ができなくなるって。だから、「誰よりも早い入り時間で絶対ドアの近くの席を取らなきゃ」って思っていました。
──(笑)。「ヤ」がつく世界みたいですね。
月野 でも第1話収録時に、ツダケン(津田健次郎)さんや青山(穣)さんや杉田(智和)さんにそれぞれ挨拶に行ったらみなさんやさしいし、アットホームだったので、夢みたいな現場でした。
──ドアの開け閉めはしたんですか?
月野 したかったんですが、「主役だから真ん中座りな」って言われてできませんでした(笑)。
──初アフレコについてはいかがでしたか?
月野 めちゃくちゃ苦労しました。下手くそなんですよ。そりゃそうですよね。しかも、周りは私以外ベテランという特殊なキャスティングでしたし。だから、演技を引っ張ってはいただけるんですが、演技力や声の響き、厚みでの落差を痛感していました。ただ、とにかく成長できる場だとは感じていました。それから、ナベシン(ワタナベシンイチ)監督が本当にやさしくて。実は監督みずから、アフレコが始まる30分とか1時間前に音響スタッフさんと来て、個人練習の場を作ってくれたんです。「じゃあ、練習してきたのを見せて?」って言われてやって、そのあとに「こういうセリフだからこう言って」とか「尺がないからこうしよう」って教えてくれました。それから「じゃあ本番がんばろう」という感じで、本当に大事に育てていただいたと感謝しています。うまく録れなかった分は居残りして、(共演者のいない)オンリーですが納得いくまでできるようにとか……。今思い出しただけでも泣きそうになります。
――贅沢な時間でしたね。
月野 本当に恵まれていたと思います。監督のために絶対に結果を残したいし、最後には「上手になったね」と言われたいと思っていました。
──終わったときになにか言われましたか?
月野 「よくがんばったね」とは言っていただけました。あと、「また次にどこかの作品で絶対会おうね」って。なので今の目標は、ナベシン監督や「TO BE HERO」のキャストさんと別の作品で出会うことなんです。ほかのキャストさんたちもやさしかったですし、杉田さんもめちゃくちゃ面白かったです。
──杉田さんは「面白かった」なんですね(笑)。
月野 杉田さんは面白かったです(笑)。だから、そのためにももっともっと声優をがんばりたいと思っています。
──監督や音響監督から教わったことで特に感銘を受けたことは?
月野 なんだろう。全部が勉強になったからなあ。でも「横を感じなさい」と言われたのはよく覚えています。マイクが並んでいて前にスクリーンがあるので、(両手を顔の横に立てて)こうなりがちなんですが。
──共演者を感じなさい、と。
月野 そうです。相手役やほかのキャストさんのセリフを聞くというのは基本ですが、横を感じるというのは「なるほど」と思いました。
──声優のアフレコ現場に入ってみて、もっとも想像と違っていたことはなんですか?
月野 アドリブが多いことですね。でも、それは私に知識がなくて、キャラクターが登場したら台本にセリフがなくても音を入れるという概念が全くなかったからなんですが。ドアノブを握るだけのシーンでも何気ない息の音を入れるとか。それは現場に入って初めて知ったことでした。キャラクターは生きているんだ、って。
私が命を吹き込むから安心してと言えるように
──憧れていた声優の活動を開始した今の率直の気持ちは?
月野 楽しいんですよ、とにかく。自分の演技に納得はできていないし、やるたびに「自分は下手くそだな」って凹むんですが、やっているときはめちゃくちゃ楽しいです。求める理想は遥か上ですが、もしも自分が納得のいくレベルに行けたとしたらどれほど楽しいだろう、と思います。でもそれはやっぱり、声優さんという仕事が好きだからでしょうね。早く技術も経験も積みかさねて、自信を持って人に届けられるようになりたいです。やっぱり今は、「私がこの子をあてるよりもベテランの方が演じたほうが幸せなのに」って思っちゃうんですよ。「私じゃなかったら人気が出てグッズ化されるかもしれない」とか(笑)。キャラクターに命を吹き込むと言いますか、「私が声を入れてあげるから安心して」と言えるようになりたいです。
──今、ご自身の気持ちとしてはいかがですか? 「声優>アイドル」とは言いづらいかもしれませんが。
月野 いや、声優で売れたいです。
──それはアーマーガールズを卒業するという将来を考えているのでしょうか?
月野 いえ、そうではなく、ただ、「声優/月野もあ」として多くのアニメファンの人に知ってもらいたいんです。私が出た作品、演じたキャラクターをみんなに愛してもらいたいですね。それこそ、大きなホールでライブをしたとき、たくさんの人に来てもらえる存在になるのが夢であり目標です。戸松遥さんの「Q&A リサイタル!」のライブ映像が大好きで、本当に尊敬していて。今でもライブの参考にするのはアイドルではなく、声優さんの表情やパフォーマンス力、あおりなんです。
──アイドルではなく声優のライブを参考にしている一番の理由はどこだと感じますか?
月野 アイドルライブはかわいいを全面に推している気がしますが、声優さんのライブは声を推している気がします。なんとなくですけど。
──じゃあ声優として早くライブがしたいですね。
月野 したいです。キャラソンも歌いたいです。ハードルは高いですが私の原点なので。
──最後に声優としての目標、演じたいキャラクターなどがあれば教えていただけますか?
月野 「アリスフィルムコレクション」の映画「サマータイムエンジェル」で宍戸留美さんと共演させていただいたことがあるんです。そのとき「まだ声優のお仕事は何もしてないんですけど、私、声優になりたいんです」という話をさせていただいたら、「あなたの声はハスキーだから、少年役をやったらきっと売れるよ」って言ってくださったんです。自分の声が高いことやスカスカなことはコンプレックスだったんですが、留美さんの言葉をきっかけに、自分のコンプレックスを活かそうと思うようになりました。今「パレットアイランド」というキッズアニメでえんのすけという男の子をやらせてもらっていて、一応夢はかなったんですが、もっと少年キャラを極めたいですね。
(取材・文/清水耕司)
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