【中国オタクのアニメ事情】中国の1月新作アニメ及び中国国産アニメの日本進出の動向

中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

今回は中国の動画サイトで配信されている日本の1月新作アニメの動向やその反応などを紹介させていただきます。

中国では春節(旧正月)のほうを祝うので、1月は日本で言えば年末年始、長期休暇前といった状況になります。そのため、アニメの主な視聴者となる中国の学生も学期末とその後の帰郷などで忙しくなり、同年代の人間との接触や交流も減少していきます。

 

そういった中国社会の事情もあってか、中国のオタク界隈では毎年1月の新作アニメの放映開始前~開始直後の話題に関してはあまり活発にはならないという傾向がありますし、休みの間にまとめて視聴することのできる既存の「大作」「話数が多くて高評価になっている作品」が強くなるといった話もあります。

 

ですが中国の動画サイトで配信される作品を見ていくと、今期も新たな動きや心配になるような動きが出ているのが見て取れます。

ブラックリスト入り作品など、心配になる作品の配信も

最近は日本のアニメ配信に関するプチバブル状態は消えたという話も聞こえてきますが、それにくわえて中国のほうでは青年層をターゲットにした国産アニメ制作が活発になり、日本のアニメを配信している中国の動画サイトも日本のスタッフやスタジオを起用しての中国国産アニメの制作に手を広げていることから、一時期に比べて日本のアニメを買って配信するという動きは落ち着いてきている模様です。

 

とは言え、1月も中国の各動画サイトで配信される日本の新作アニメは三十数作品に上り、さまざまな作品が配信されています。ただそれらの作品の中には少々心配になってしまう作品も混じっています。

 

今期の新作の「心配」に関してまず目に付くのは

「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」

が複数の動画サイトで配信されていることです。

この作品は自衛隊がファンタジー系の異世界に行って大活躍するわけですが、ここしばらくの間の日中情勢を考えると、中国の社会的に非常に「危ない」作品なのは間違いありません。

 

「GATE」の配信に関してはこれまで中国のオタク界隈で使われていた「自衛隊」の文字が入っている「GATE 奇幻自衛隊」ではなく、「GATE奇幻異世界」という中国語タイトルでの配信となっていたり、第1クールの部分は配信せずに第2クールの第13話からの配信開始となっていたりするなど、一定の配慮はされているようですが題材や内容の過激さなど不安要素はいくつもあります。

また現地のオタク系コミュニティでもこの作品に関する話題は非常に荒れやすく、動画サイト以外の方向からの炎上も考えられるのが怖いところですね。

 

それからもうひとつ気になるのが、昨年3月末の取締りの際にブラックリスト入りして配信中止となっていた「暗殺教室」が中国語タイトルを「極速教師」と変えて配信されていることでしょうか。

 

10月の新作アニメにおいても、ブラックリスト入りしていた「進撃の巨人」の関連作品である「進撃!巨人中学校」が中国の動画サイトで配信されていましたが、あちらはスピンオフ作品でした。「暗殺教室」に関してはまったく同じ作品ですし、いくら第2期になったとは言ってもタイトルを変えるだけで配信していいものなのかと気になるところです。

 

このあたりに関してはおそらく

「シーズンが変わったので過去の通知やブラックリストで指定された範囲ではない」

「でもタイトルは無難なものに変更して様子を見る」

といった判断によるものではないかと思われます。

 

しかし昨年の3月末の取締りの際に中国側の判断もあまりあてにはならないというのが証明されていますし、配信しても問題ないのかということに関して現時点では何とも言えません。

 

その後の中国の景気の後退や業界構造の変化の影響も大きいとは言え、中国における日本のアニメの配信が冷え込む直接的な引き金となったのは間違いなく昨年3月末の取締りですし、中国で配信されている1月新作アニメのラインアップを見るとイロイロと心配になってしまうのは確かですね。

拡大する有料会員限定配信

中国の動画サイト「tudou」では、昨年7月に「うしおととら」、10月に「ワンパンマン」と話題作を有料会員限定の配信にしましたが、1月は

「この素晴らしい世界に祝福を!」

「僕だけがいない街」

「無彩限のファントム・ワールド」

「ラクエンロジック」

の4作品が有料会員限定で配信されているようです。

 

これまで有料会員限定の配信となった場合、限定配信される作品の話題の拡散が鈍くなり、有料配信を行うサイトを叩く動きが目立っていました。ですが中国のオタク界隈も慣れてきたのか、それとも作品の傾向によるものなのか現時点ではわかりませんが、今期はそれなりに活発なファンの動きが出ている模様です。

 

中国においてもインターネットの広告によるビジネスモデルは難しくなっており、

「再生数を稼ぐだけではどうにもならない」

といった状況になっているという話が聞こえてきます。

アニメの配信に関してもソーシャルゲームとの連動や有料サービスなどの道を模索、整備する動きが活発になってきていますし、この有料会員限定配信の拡大は、中国の動画サイトにおけるアニメビジネスがどういった形になるのかという点でも興味深い動きですね。

中国国産原作、日本のアニメ制作会社の作品が配信開始

厳密に言えば日本の新作アニメ枠ではないかもしれませんが、中国のテンセントと日本のスタジオディーン制作による、中国のネット小説を原作にした新作アニメ

「霊剣山 星屑たちの宴」

の配信が開始されたのも、1月の中国の動画サイトにおける大きな事件でしょうか。

 

中国国内では「霊剣山」に関して昨年から大々的な宣伝が行われていましたし、中国語版と日本語版が制作され、日本のテレビでも放映されるといったことから期待を集める作品となっていました。もっとも、実際に放映された第1話に関しては中国の視聴者の期待通りではなかったという話ですし、さまざまな問題が浮き彫りになったりもしている模様です。

 

しかし第1話こそガッカリ感が漂ったものの、その後は持ち直しているといった声もありますし、中国の動画サイトにおける再生数自体は良好です。

中国の人気ネット小説を原作にした中国語のアニメということから日本のアニメファンだけでなく一般のネットユーザーも取り込めているようで、中国人視聴者、特に現在の中国のネットユーザー向けの作品として考えればそれほど悪くはないという見方も可能なのかもしれません。

 

昨年の後半あたりから、「霊剣山」以外にも日本のスタッフやスタジオを起用した中国国産アニメの制作が発表されていますし、「日本が関わる中国国産アニメ」も今後増えてくるのではないかと思われます。

  

以上のように、春節直前であってもさまざまな新しい動きが出ています。2016年もまた中国のオタク界隈、アニメ事情はイロイロな変化を見せてくれそうですね。

  

(文/百元籠羊)