荒唐無稽な絵で事実を伝える「ルパン三世 ルパンVS複製人間」の演出力【懐かしアニメ回顧録第41回】

この4月からテレビアニメ「ルパン三世 PART5」が放送中だ。「ルパン」シリーズの記念すべき劇場アニメ第1作は1978年12月公開の「ルパン三世 ルパンVS複製人間」。この年は「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」などのSF大作が日本国内で大ヒットした。「ルパンVS複製人間」も、1万年前からみずからを複製して世界を支配してきたクローン人間といったSF要素、宇宙に向かってロケットで打ち上げられる巨大な脳髄など、スケールの大きなビジュアルが盛りこまれた作品だった。

真実は強く短く、ウソは饒舌に

「ルパン三世 ルパンVS複製人間」では、冒頭のルパン三世の処刑シーンをはじめ、ショッキングな描写が続く。
ではまず、ルパンの処刑シーンを見てみよう。黒い画面に、白いラインが横に3~4本並んでいる。コツ、コツ、という足音に合わせて、ラインは下にスライドする。つまり、このラインは階段なのだとわかる。足音が止まると同時に、画面は真っ暗になる。と、ギィーッという不気味な音と同時に木の扉が開いて、男の足がブラリと下りてくる。次のカットは、首に縄をくくられた男の後ろ姿だ。さらに次のカットは、木製の死刑台から吊るされた男の全身である。しかし背景は白く飛んでおり、男も死刑台もモノクロで塗られている。絵づくりがシンプルすぎて、リアリティがない。

同様に、警官の包囲網をかいくぐってオートバイで脱出しようとするルパンと相棒の次元大介、自分たちのアジトが跡形もなく消え去っているのを見て愕然とするルパンたち。いずれもサーチライトの中、夕陽の中というシチュエーションを効果的に使って、色のない線画やシルエットで、シンプルに描かれている。リアリティをなくした分、シーンの迫力や衝撃はかえって強く伝わってくる。
後半になると、こってりと描きこまれた絵も出てくる。ルパンがバットマンやワンダーウーマンに囲まれてにっこり笑っているカラーのイラストが、画面に大映しになる。それは、米国大統領特別補佐官の見ている雑誌の1ページなのだと、次のカットで明かされる(実際のルパンは、敵の起こした地震によってボロボロになっている)。

すなわち、本当のことはシンプルに。(雑誌のイラストのような)ウソは饒舌に。「ルパン三世 ルパンVS複製人間」は、そのような演出スタイルで貫かれているかに見える。

五ェ門の剣が、「映画そのもの」を切り裂く

映画の中盤、複製人間・マモーのもとから脱出しようとするルパンたちの前に、マモーの部下の大男・フリンチが立ちはだかる。剣の達人・石川五ェ門は、合金チョッキで身を固めたフリンチをすれ違いざまに切る。
ところが、五ェ門の剣の先端はポッキリと折れてしまう。フリンチは余裕の笑みで振り返る。さて、次のカットで奇妙なことが起きる。岩の上で、がっくりと肩を落とす五ェ門。彼はフリンチに破れたのだろうか? 心配した次元が、五ェ門に駆け寄る。その瞬間だ。「ギッ、ギッ」と音がして、画面全体が三分割されて、左右にズレるのである! 次元の体も背景の岩も一緒に、映画の画面そのものがバッサリと切断されている!
さて、カットが切り替わると、フリンチのアップである。彼の顔は、直前のカットと同じように三分割されている。顔の真ん中が切れて、右にズレている。「あれ?」という表情のフリンチは、あわてて両手で顔を元に戻そうとする。しかし、次のカットでフリンチの足はグラリと揺らいで、彼は海へと落ちる。フリンチは、五ェ門に顔面を切断されていたわけだ。

このシーンも、やはりリアリティはかけらもないのだが、五ェ門が勝った、フリンチが斬られたという事実を、画面そのものを切ることで「強く短く」伝えている。
アニメーション映画は、1秒24コマでできている。映画のフレームは四角い。この制約の中で、観客をアッと言わせるような表現を試みなければならない。3D化したりシーンに合わせて椅子を揺すったり、水や匂いを観客に吹きかければ、映画の中の事実はリアルに伝わるのだろうか? どんなにシュールな絵でも、強くて短ければ真実として伝わる。そして、冗長であればあるほどウソはウソに見えることを「ルパンVS複製人間」は教えてくれる。

(文/廣田恵介)

原作:モンキー・パンチ (C) TMS