立華リツカは四皇學園に通う高校2年生。ある日、リツカは生徒会長からの呼び出しを受ける。実は生徒会長・鉤貫レム以下生徒会メンバーの正体はアクマ。彼らがリツカに接近するのは、手に入れたものが世界を支配するという魔導書「禁断のグリモワール」が目的だった。やがてアクマとヴァンパイア、エクソシストの思惑がうごめき始め、リツカはその渦中へと飲み込まれていく――。現在放送中の「Dance with Devils」は、女性向けゲームコンテンツを手がけるRejet、音楽制作ブランドElements Garden、映像製作のエイベックス・ピクチャーズの3社によるオリジナルミュージカルアニメ。制作は「夏目友人帳」のブレインズ・ベース、監督は「アオハライド」の吉村愛。音楽を題材にしたアニメは多いが、正面からミュージカルをうたった作品は珍しい。ミュージカルアニメを作る上で意識していることなどを、吉村監督にうかがった。
吉村監督が提案した「ミュージカル」
──「Dance with Devils」に参加することになった経緯を教えてください。
吉村 もともとRejetさん、エイベックス(ピクチャーズ)さん、それにブレインズ・ベースさんで企画を進めていたんですが、その中で、私にお声がかかりました。私が参加した時は、Rejetさんの作ったキャラクターとストーリーラインがすでにありまして、それを元にしながら、どうアニメーションに落とし込んでいったらいいかを相談するところからのスタートでした。女性ファンに見てもらうなら、少女マンガ的なテイストにもうちょっと寄せたほうがいいんじゃないかというのはこちらの提案ですね。シリーズ構成も金春智子さんにお願いする予定でしたので、そのほうが、金春さんの持ち味も発揮していただけますし。
──ミュージカルアニメというのはどの段階で決まったのでしょうか。
吉村 アニメを制作するにあたって、ゲームと連動したアニメというだけに留まらず、さまざまな展開ができる総合エンターテインメント企画にしていきたいというお話がありました。その中のひとつとして、音楽ものの要素も入れたいと。いっぽう、私は私でミュージカルが好きなもので、ミュージカルをTVアニメの形に落とし込めないかずっと考えてきていたんです。それで、これはいい機会と思って「ミュージカルにしましょう! ミュージカルでないとやりません!」(笑)ぐらいの勢いでプレゼンしたんです(笑)。
──(笑)。吉村監督の発案だったんですね。第一幕ではアヴァンタイトルで流れるアンサンブル「闇の花嫁」と立華リツカ(CV:茜屋日海夏)が最初に歌う「風の予感」が、本作の目指す「ミュージカルらしさ」を伝えていたように感じました。
吉村 ミュージカルをやるならアンサンブルをやりたかったんです。ミュージカルでは、各キャストが歌う歌も魅力的なんですが、アンサンブルが作品を底支えしているんです。だからこれは絶対にはずせないな、と。「風の予感」は、いろんな方から評判がよくて、とてもうれしいです(笑)。金春さんの歌詞も、日常の生活を歌いながら、乙女な気持ちも出ていて、すごくいいと思っています。
物語の中の歌だから作詞は脚本家が
──金春さんをはじめ、脚本家の方が歌詞を書かれています。
吉村 そうなんです。私なりにミュージカルの面白さってどこにあるかを考えると、やっぱり「お話の中で歌う」というところにあるだろうと。各キャラクターにはそれぞれキャラクターソングがあって、シングルは岩崎(大介)さんの凝った歌詞がついているんですが、本編で歌う時には、そこは物語に合わせて別の歌詞にしようと。その時はお話の中でのことなので脚本家のみなさんに詞をお願いしたほうがいいだろうと考えました。
──どこで歌うかは脚本の段階で決めるのでしょうか。
吉村 シリーズの前半でいうと、まず脚本で「ここでこんな歌を歌う」ということだけを決めます。それから曲の発注ですね。生徒会のメンバーの個性についてはアニメのほうで肉付けしている部分も多いので、「このキャラはフラメンコで」とか曲の方向性についてもこちらから提案します。そして曲が出来上がってきたところで、物語にあった歌詞を付けていきます。
──第三幕の楚神ウリエ(CV:近藤隆)が歌う「誘惑♡amor」、第五幕の南那城メィジ(CV:木村昴)「VANQUISH」はインパクトがありました。
吉村 作詞は岩崎さん作詞のキャラクターソングver.と並行しての作業でした。キャラソンと挿入歌では違いがはっきりしていたほうがいいだろうということで、かっこよくなりすぎない、ちょっと座りが悪くても耳に残る感じの歌詞を意識しました。それもまたミュージカルの歌のおもしろさだと思うので。そういえば、中瀬(理香)さんが最初に書いた歌詞が結構かっこいい普通の歌詞だたんですが、金春さんが「私といっしょに墜ちていきましょう」っておっしゃって、もっとセリフ調にしてもらったなんてこともありましたね(笑)。
──いっぽう、第四幕で立華リンド(CV:羽多野渉)が歌う「君だけの守護騎士(エクソシスト)」は、血の繋がらない妹への愛をストレートに歌っていました。
吉村 挿入歌を作る上で自然に決まったルールがいくつかあるんですが、「歌の中では素直に感情を出す」というのもそのひとつなんです。「Dance with Devils」がほかの乙女ゲームのアニメ化と違うのは、アニメがゲームに先行しているところ。ゲーム先行だと各キャラクターを満遍なく見せて欲しいというオーダーがありますが、今回はそうではない。そこでキャラクターの個性を印象づけつつ、ドラマとしてはリツカとレムとリンドの三角関係に物語を絞ることにしました。それで第四幕でリンドに歌ってもらったのですが、あそこまで歌うとは思ってもみなかったです(笑)。